僕たちにはロマンスが足りないらしい

波湖 真

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ロマンスは要らない

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わたくしはこの禍々しい空間からシャルル様が落胆して去っていくのを見ておりました。そう、きっと今わたくしの顔には満面の笑みが浮かんでいる事でしょう!

「やりましたわ!ジョン!」

わたくしは思わず執事のジョンに向かって声をかけました。

「はい。イレーヌ様。ようございました。」

ジョンはにっこり笑うと周りの使用人にも微笑みかけた。皆からそれぞれにようございました。イレーヌ様と声をかけてもらってわたくしもやっと肩の荷がおりました。

わたくしがこんな馬鹿げた事をしなければならなくなったのは丁度一ヶ月前の事でした。
来年婚姻を迎えるにあたりシャルル様のお母様、現伯爵夫人に色々と教えて頂いている時にお話がありました。

「そう言えばイレーヌさんにこの家に嫁ぐに当たってやっていただきたいことがあるんですわ。」

「はい。なんでございましょう。おかあさま。」

「実はね。この伯爵家には婚姻前に試練があるのです。」

「試練でございますか?」

「そうです。もちろん、わたくしもやりましたわ。それはそれは大変厳しいものでしたの。」

そう言って教えてくださったのは大変な物でした。

ムナモール伯爵家は代々大変優秀な後継ぎがお生まれになるという事で、この後継ぎと結婚する前にこの優秀な後継者が出来ない、無理だと思うような事を仕掛けなければならないということでした。
何故なら後継者達は優秀過ぎる為、生まれてから今まで出来なかった事がないのです。勉強も武術も交友関係も完璧で然程努力しなくても軽々と課題がクリア出来てしまいます。
もし、そのまま婚姻を結ぶと大体の後継者が伴侶を同等と認めずに自分の保護下に入れてしまうそうです。そうなると伴侶は少しずつ不満を持つようになり夫婦仲が上手くいかなくなるというジンクスがあるというとでした。
結婚前にその後継者にぎゃふんと言わせる事で同等の立場、意見さえも求められる立場となるのが目的とのことでした。

「おかあさまは、どのように伯爵様にぎゃふんと言わせたのですか?」

わたくしは興味本位で尋ねたがおかあさまはにっこり笑ってはぐらかしてしまいました。

「それは秘密ですのよ。」

「はぁ、、わかりましたわ。頑張ってみます。」

おかあさまにこの伯爵家の使用人に協力してもらう許可を取り、わたくしはその日からシャルル様をぎゃふんと言わせる計画を立て始めました。
シャルル様がぎゃふんというという事は何かでシャルル様を負かさなければならないという事に他ならずそれは本当に難しいことでした。
シャルル様は幼い時から神童と有名で何でも直ぐにトップの成績となってしまうのです。そのようなシャルル様にこのわたくしが勝たねばならないなんて絶対に無理だと半ばあきらめておりました。

おかあさまが言われたようにシャルル様の保護下に入り全てをお任せすればとも考えたのですが、やはり長い人生において常に保護されてばかりではきっと不満になると思い直しました。
それからはこの伯爵家の使用人との情報戦でした。
まずシャルル様の苦手な事を探したのですが、全く見つからず、いえあったのですが苦手のレベルがあまりに高度なレベルでの苦手でしたのでとてもわたくしが勝てるものではなかったのです。多分この国でもそれぞれの分野の第一人者の方にした勝つことは出来ないと思います。

そして次に目をつけたのが苦手ではなくご興味のない事でした。
散策にかこつけて園芸や詩や歌などについても、確認しましたがそちらも今は興味がなくとも知識は膨大でとても敵う相手ではありませんでした。そんな中本当に他愛のない雑談の最中にシャルル様が仰ったのです。

「何故市井ではあのような恋愛小説が流行るのだろうね。全く理解できないよ。」

シャルル様はそうおっしゃると一目惚れなど不可能だともいってらしたのです。

そう言えば生まれる前からの婚約者であるわたくしに対しても過度な接触もありませんでしたし、贈り物は頂いてもメッセージやラブレターなどは皆無でござました。わたくし自身もあまり気にしていなかったので気づかなかったのですがシャルル様は恋愛事が苦手なのではないかと思い至りました。

そうしてシャルル様を恋愛面でぎゃふんと言わせる為の計画を練り先程成功となりました。

弟のポールや執事のジョン始め使用人の方達に協力してもらい試練をやり遂げた事にわたくし感動しておりました。
でも、流石にわたくしもこの趣味の悪いピンクだらけの空間に目も痛くなって来たので皆には早く片付けるように指示を出しました。

「イレーヌ様、そろそろシャルル様のご様子を確認して頂きたいのですが、、。」

「そうね。そうするわ。ジョンはおかあさまに成功したと報告して頂戴ね。」

「はい。かしこまりました。」

そうしてわたくしは今シャルル様が下がられた私室の前に立っていました。

トントン

「シャルル様、、大丈夫でございますか?ご気分でも優れませんか?」

「、、、いや、大丈夫だよ。イレーヌ。」

そう言ってドアを開けたシャルル様はとてもやつれた様に見えました。
チクリと罪悪感も芽生えましたが、これからの将来のため心を鬼にしておかあさまから授かった成功したらいう言葉をシャルル様に伝えました。

「シャルル様、わたくしは、シャルル様がそのままでいてくださるのがやはり一番嬉しいですわ。ご無理なさらないでね。」

そういうとシャルル様は見るからにホッとした表情となり突然目の前に跪きました。

「ああ、イレーヌ!君は君の願いを叶えられない情けない僕を許してくれるのかい?何て優しく美しい婚約者なんだ。僕は一生を君に捧げるよ。情けない僕だが一緒になってくれるかい?」

その目には今まで見たこた事がなかった感情が溢れていました。
わたくしもまさか今更プロポーズなどをしてもらえると思っていなかったので感動で胸が一杯になりました。

「もちろんですわ!わたくしもシャルル様と一緒にこの伯爵家を支えていきたいですわ。」

「君はなんて慈悲深いんだ。君が求めるロマンスは僕にはあげられないのに、、、本当にありがとう。」

そう言われて立ち上がったシャルル様に抱きしめられました。初めてのことでした。

そうしてわたくし達は今まで以上に婚約者らしい関係となり、幸せな結婚をいたしました。

でも、わたくし偶に思いますの。
これって婚約者に負い目を感じさせる儀式なのではないかと。

まぁ、今幸せですので、もうロマンスは要りませんわ。
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