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第二章 生まれながらの悪役令嬢

14、王子が我が家にやって来る……なの?

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わたくしたちは国王夫妻にご挨拶をして、帰路に着きました。
帰りの馬車はレオポルト様も一緒です。
「ところで、コーデリアのビンタは見ものだったな!」
突然堪えきれないという風に笑い声を立てながらレオポルト様が隣に座っていたコーデリアを膝の上に抱き上げました。
「貴方……」
「アルバートも痛快だったのだろう?」
レオポルト様がコーデリアをいい子いい子と撫でながらアルバートに声をかけます。
「……はい。あの王子はぼくの妹に対する態度がなっていませんでした」
アルバートが渋々ながらも自分の気持ちを伝えてきたのです。
「あら? アルバートはいい気味とは思わなかったの? 行きの馬車の中ではあんなに揶揄っていたじゃないの?」
「それは、そうなんですが……。いくらコーデリアが意地悪そうに見えても、初対面で更には自分の婚約者に言うのは、あの、その、許せません」
「そうなのね? お母様は安心しました。アルバートならコーデリアを守ってくれるのね? 嬉しいわ」
わたくしは隣のアルバートの頭を愛しくて撫でました。
そして、レオポルト様に抱かれてこちらを見ているコーデリアに顔を向けると少し怒って言いました。
「コーデリア? 貴女も反省しなくてはいけませんよ? いくら失礼な事を言われたからとはいえ、初対面でビンタはいけませんよ?」
コーデリアは不満そうにしながらもはーいと返事を返しました。
「ああ、アリアドネ、王子の件だが大丈夫だろうか?」
「はい、そちらはお任せくださいませ。アルバートの学友が来るという事で対応致しますわ。わたくし、そろそろ必要かしら?と考えておりましたのよ」
「ああ、そうだな。王子とはいえ、将来は同じ公爵だ。失礼はない様にせねばならないが、特別扱いは無用だよ。」
「はい。承知いたしました」
わたくしは神妙に頷きました。
「アルバートも五歳も年上なのだ。今日の事は水に流して良き友、良きライバル、そして、良き義兄弟という心積りで学ぶのだよ」
「……はい」
アルバートは渋々と頷きましたわ。
「コーデリア、コーデリアは……そうだな。好きにしなさい」
「え?」
思わずわたくしが声を出してしまいました。
「シモン王子の態度が改まらない内は仲良くする必要はないよ。あれだけの失態だ。きちんと反省していただかないとな」
「はい! お父様」
元気の良いコーデリアの返事を聞きながら、レオポルト様は意外にもかなりお怒りだったのだとわかりました。
やはり、婚約破棄となれば大変なことになりそうですわ。
わたくしは早々にシモン王子の再教育を行おうと心に決めました。
そうして、わたくし達は帰路についたのでした。

対面の日から一週間が経ちました。
あの場では明日からと王様は言っておられましたが、やはり色々と準備や手配もあり、一週間後となったのでございます。
更にシモン王子が行きたくない、やりたくないとヘソを曲げてしまい中々難しくなりましたの。
物語の事がなければ、確かに五歳くらいまでは待って差し上げても良かったのですが、三つ子の魂百までもと言いますものね。
三歳の今しか性格矯正は難しいかなと思いましたの。
わたくしは、まず、騎士道精神を学んで頂こうと先生を手配いたしました。
そして、あまり物事をご存知ない様子でしたので、基礎知識を深める為の先生、後は体を鍛える剣の稽古、それにこの世界では重要な魔法の授業を行う事にいたしました。
もちろん授業内容や教師の来歴は全て国王夫妻から許可も頂いております。
わたくしはこれから一週間の予定表を見て確認しているとシモン王子を乗せた馬車が車寄せに着いたのが見えました。
「お母様、王子がきたようです」
「そうね。お迎えいたしましょう」
レオポルト様はお仕事、コーデリアは会いたくないといことで、お迎えはわたくしとアルバートで行うことになりましたの。
わたくしは予定表の紙をドレスの隠しポケットにしまうと笑顔をつくりました。
「シモン王子殿下がいらっしゃいました!」
執事の声と共にドアが開かれて、小さなシモン王子が顔を背けたまま、エントランスに入ってきました。
横を向いて歩くと危ないわ!
わたくしがそう思った瞬間、シモン王子は何もないところで突っかかり転んでしまいました。
わたくしとアルバートは、目が点になりましたわ。
「あ、あの、シモン王子、大丈夫でございめすか?」
慌てて駆け寄って、まだ、小さな王子様の体を助け起こしました。
膝をパンパンと叩いて埃を払うと、その顔を覗き込んでもう一度大丈夫ですか?と尋ねてみました。
「だ、大丈夫だ!」
目に一杯の涙を溜めて答えた王子様は小さな頃のアルバートを彷彿といたします。
「ふふふ」
思わず漏らした笑い声に王子様は肩を怒らせてキッと睨みつけてきました。
「な、何がおかしい!!」
「申し訳ございません。シモン王子が大変可愛らしくて……」
「僕は王子だぞ!! 可愛いとか言うな!!」
「ちょっ!! お母様になんて口の聞き方なんだ!!」
「アルバート、いいのですよ。シモン王子はまだ三歳ですもの。これから貴方が一緒に学んで教えて差し上げなさい」
不満そうなアルバートが小さく返事を返してきました。
「は、はい」
すると流石のシモン王子もアルバートの存在に興味を持ったように言いました。
「おい、お前! 名は何という?」
「僕ですか? 僕の名前はアルバートです。シモン王子」
「ふん、わかった。少しくらいなら仲良くしてやる!」
二人の様子に何とかなりそうだわと頷くと早速控えていた教師陣の紹介を始めました。
「シモン王子、こちらの方々がこれからシモン王子とアルバートの家庭教師をしてくださる方々ですわ。お名前は右から……」
「名前なんていいし、紹介なんて必要ない!!」
「え?」
「どうせコイツらはすぐ辞めていなくなるからな!!」
わたくしが、聞き返すとシモン王子が不満そうに、諦めたように、少し寂しそうに言いました。
「どうしてですの?」
「今までいた奴らは、みーんな直ぐにいなくなったぞ!! 僕がちょっと間違えるといなくなるんだ!!」
「まぁ!」
国王夫妻の過保護はかなりのものだったようでございます。
きっと王子が嫌だ、つまらないと気分次第で言った事を真に受けてしまったのですわ。
だから、シモン王子が物を知らないのではなくて、教わる間もなく教師が入れ替わり立ち替わりしていたと考えた方が良さそうですわ。
あの物語のあの王子はこうして出来上がったのです。
わたくしはシモン王子の目線まで屈むとしっかりとその瞳を見つめました。
「シモン王子、この者達は辞めたり致しませんわ。これからはゆっくりでも、しっかりと学びましょう。」
そう言って、わたくしはにっこりと笑ったのでした。
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