悪役令嬢のお母様……でしたの

波湖 真

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第三章 王子改造計画

19、コーデリアからの手紙(シモン視点)

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シモンは用意されていたミルクを一口飲んでから、コーデリアの手紙をピリピリと開けると便箋を広げて読み始めた。
暫く集中して読んでいたが、一読して顔をあげると首を捻った。
「ん? これは‥‥何の手紙だ?」
シモンの予想では、この手紙はシモンの演技を見破ったから黙ってて欲しければ何かを要求すると書かれていると思っていた。
それが実際の手紙にはそのような脅し文句は一言もなかったのだ。
更に内容は謝罪と後悔、そして、仲直りだ。
二年も経って今更だ。
でも、普通の子供はそんな物なのかもしれない。
シモンは王宮という常に危険にさらされている状況が自分から子供らしさを無くしてしまったことも自覚しているのだ。
コーデリアはまだ五歳だし、公爵家の面々は、あの先の王位継承のゴタゴタの前にタイムスリップしたかの様なのんびりさだ。
その家の令嬢ならばこんな物なのかもしれない。
シモンは自分が少し心配しすぎていた事を自嘲して、子供っぽい手紙をくれたコーデリアに更に子供っぽい返事を書いたのだった。
「……うん。よし!」
いつもより、字体を崩して、難しい表現はなくし、僕は僕はと主語を多用してみた。
以前母の日にアルバートが書いた手紙を真似てみたがどうだろうか? と再度読み返した。
「まあ、こんなもんだな」
はっきり言ってこの二年、姿も見たことがないコーデリアには興味もないが、コーデリアとの婚約がなくなるとバルターク公爵家に行けなくなるし、前王派からの叱責も面倒なので当たり障りなく仲良くしなければならないのだ。
何度か確認してうなずくとシモンはベッドに入ったのだった。
机の上に無造作に置かれた手紙はこう書かれていた。

『コーデリアからの手紙』
シモン王子様、お久しぶりでございます。
覚えていらっしゃいますか?
コーデリアです。
三歳の頃にお会いした時は突然頬を叩いてしまって本当にごめんなさい。
まだ、幼すぎたの……。
その後はお会いするのが恥ずかしくて、この手紙を書くのに二年もかかってしまったわ。
許してね。
シモン様が毎日一生懸命勉強されているとお母様、お兄様から聞いているの。
今度一緒に遊べたら嬉しいわ。
コーデリア

それに対してシモンからの返事はこうだった。

『シモンからの返事』
コーデリア嬢、シモンです。
お手紙、とても嬉しいです。
僕は三歳の時とても悪い子でした。
女の子にとても失礼だと今ではとても反省しています。
僕の方こそ、許してほしいです。
僕もコーデリア嬢と仲良くしたいです。
僕はこれからも頑張ります。
シモン

コーデリアは転生故、シモンは環境故、二人の思考は既に大人にも関わらず、お互いがそれぞれの思惑で子供っぽい手紙を書いている。
そのことに気づくのはまだまだ先の話なのだった。

そうして、その後、更に二年の間、コーデリアとシモンは子供っぽい文通を続けた。
そして、明日、お互いが八歳を迎える前に再度公爵家において顔合わせを行う事になったのだ。
手紙では遊びたいと書いてあったのに、何故かコーデリアが会うことは頑なに拒み続けていたからだった。
そして、シモンも面倒だったのだ。
だが、さすがに王宮でも、婚約者同士の二人は不仲だと噂も流れ、更には十歳で行われる婚約発表の舞踏会の為にもそろそろ本気で仲良くする必要がある。
シモンは今日も受け取ったコーデリアからの手紙一読するとサラサラと返事を書いてソファに腰を下ろした。
七歳のシモンは更に大人びて、既に公務もこなしていた。
それでも、未だに毎日公爵家には通っていたし、毎日コーデリアと手紙を交換してした。
しかしながら最近は、十三歳になったばかりのアルバートにはシモンの本性が分かり始めたらしく、あれ? という顔をされることが多くなって来た。
シモンは気にしていなかったが、未だに公爵や公爵夫人には可愛い王子として可愛がってもらっているので、最短でも十歳のお披露目まではそのままでいいやと思っていた。

日々交わされるコーデリアの手紙は、はっきりいって最近は日記のようになっている。
それはそうだ。一日置きに手紙を書いているのだから自然と今日あったことを書き記すしかないのだ。
「全くくだらない手紙ばかりだな。コーデリアももうすぐ八歳だろ? 大丈夫か?」
あまりの成長のない手紙にシモンは半分辟易しながらも、コーデリアに手紙に合わせた返事を書いているのだ。
「まあ、これも明日で終わりだ。会ってしまえば、手紙もなくなって、今度はお茶会攻撃になるのか?」
実際に王宮ではシモンは女性達からのお茶会によく呼ばれる。
コーデリアとは婚約しているが、それはあくまでも政略で、前王派が大人しくなったら解消されると噂になっているのだ。
更にはシモンの容姿の問題だ。
シモンは自分で言うのも何なのだが非常に整った顔立ちをしているのだ。
輝く金髪に澄んだ空色の瞳、薔薇色の頬にキッと凛々しさを感じる視線。
将来はさぞ美丈夫となると言われている。
そうなると現王派で、シモンと釣り合う年の娘を持つ貴族が黙っていないのだ。
更にシモンは将来公爵なる事が決まっている。
こんなにいい嫁ぎ先はないのだ。
王宮では、未だに危険があるが公爵に下るのなら都合がいいと考える輩も多く、シモンは前王派だけでなく、現王派の一部からも注目されている。
そんな状況でのコーデリアとの対面を考えるとため息しかでないのだった。
両親からもいくつか注意点を言われている。
一つ、今はまだ公爵家とは、仲良くしなければならない。
一つ、絶対にコーデリアから嫌われてはならない。
一つ、婚約は解消しても、されてもいけない。

シモンは注意点を胸に、いつもよりも少しお洒落な服を身につけて公爵家に向かう馬車に乗り込んだのだった。
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