74 / 82
第八章 不穏な繋がり
73、コーデリアの行方(シモン視点)
しおりを挟む
シモンはミアの家の前に立っていた。
本当は王子として来た方が話も早かったかもしれないが、今コーデリアが行方不明だと騒ぎが大きくならないようにしなくてはならない。コーデリアの名誉のためにも。
平民が切るようなシャツとスラックスという軽装で護衛も目立たないように配置した。目的はコーデリアの居場所。ミアには口を軽くしてもらわなくては。
その時通りの向こうからミアの声が聞こえてきた。思わずシモンは隠れてしまった。隠れる必要はなかったのに。
「えぇー。そんなぁ。私はそんな大それたことは、考えていませんよー」
ミアは見知らぬ男と手を組んで歩いている。見たことはないが服装と立ち振る舞いから貴族であることはうかがえる。
「誰だ?」
シモンは更に物陰に隠れると二人の会話に聞き耳を立てた。
「いえ、ミアさんは本当にお優しいです。ミアさんのような方が王室に入られたら私達も安心して過ごせます」
「確かにぃ、コーデリア様はぁ、厳し方ですよねぇ。怖い思いしましたものぉ」
気持ち悪い話し方にシモンは身震いするのを我慢する。
「ミアさんは当然の権利を行使されただけですから今日はゆっくりと休んでくださいね。あの方は明日スキャンダルと共に丁重にお返ししますから」
「はい! 絶対に怪我とかはやめてくださいね。私、悪者にはなりたくないんです!」
シモンは手を握りしめる。あの方とはコーデリアのことだ。あいつ、なんてことを!
「もちろんです。快適な部屋で一晩お預かりするだけです。安心なさってください」
「はい! あのぉ、それでシモン様は本当に来てくれます?」
「ええ、あの方が相応しくないとなったらミアさんしかいないじゃないですか?」
その男はニコリと微笑むとミアの手の甲にキスを落とした。
「それでは、今日はありがとうございました」
「こちらこそ!」
挨拶をしてミアは家の中に入って行った。シモンは目配せして護衛のうちの二人を男に付けると深呼吸を繰り返す。
ミアからの証言が必要だ。
笑顔だ。笑顔になれ! シモン!!
シモンは無理矢理笑顔を作る。あの男がコーデリアの行方は知っているはずだ。それは直ぐにわかるだろう。護衛は騎士団の精鋭だ。それならば自分は証拠固めをするべきなのだ。
直ぐにでもあの男の後を追いかけて殴り倒したいと言う衝動をなんとか抑える。
「よし! 行くぞ」
「シモン様!!!」
ミアを呼び出すと早速やってきた。シモンは、全力の笑顔で彼女を迎える。
「やぁ、ミア。元気だったかい?」
「はい! でも、一体どうして? もうお怒りではないんですか?」
シュンとしたミアは少し俯いて見せた。シモンはわざとらしさに顔がひきつる。
「いや、少し感情的になってしまったと反省しているんだ。コーデリアの我儘に疲れてしまったようだ」
「まあ! シモン様、お可哀想に。やっぱりコーデリア様との婚約は簡単には破棄できないですよね」
「ああ、そうだね」
「私に任せてください! 来週には婚約破棄できますよ」
「…………」
意気揚々とかたるミアにシモンは何も言えなくなる。
勝手に僕の気持ちを理解して、勝手に動く。一番嫌いな人種だ。
でも、今ミアの怒りを買うとコーデリアに危険が迫るかもしれない。きっとあの男とはなんらかの連絡を取り合っているはずだ。
シモンは貼り付けた笑顔のまま頷いた。
「それに! 私凄い方と知り合いになったんです。これからはその方が後見人になってくれるので、学校にも明日から復帰できるんです。シモン様とも仲直りできたし、これで安心して学校に行けます!」
「その人は誰なんだい?」
「えっと、確か南の方の伯爵でした。お名前はクラーシンス様です」
「クラーシンス……」
シモンは背筋が凍る。クラーシンス伯爵家といえば辺境伯とも言われる国境を守る要の家だ。それ故中々王都には来ることは出来ずシモンも隠居した前伯爵としか会ったことはない。
「今この時期に伯爵が?」
「えっと、何か? ああ、シモン様との約束は破ってしまったのは本当なので、もう援助はいりませんよ。ご安心を」
ミアは知らないだろうが、クラーシンス伯爵家の騎士団は王宮の騎士団に匹敵するという。もし本当にクラーシンスが前王原理主義者だとすると行き着く先は内戦しかない。
ゾクリ
シモンの背に冷たいものが流れる。
コーデリアや婚約、魔法などと言っていられない。
シモンはこれからどうすべきかを考える。やはり父上とバルターク公爵に意見を仰ぐしかない。
「ミア、申し訳ないが今日は失礼する」
シモンはミアと別れて歩きながら今の話を反芻した。
まずはコーデリアとアルバートの安全確保だ。そして、クラーシンス家の動向、今後の考えられる問題の洗い出し。内戦は避けたいがクラーシンスが本気ならこちらも用意しないとやられる。
ドンドン足速になったシモンは知らずにバルターク公爵家を目指していた。
本当は王子として来た方が話も早かったかもしれないが、今コーデリアが行方不明だと騒ぎが大きくならないようにしなくてはならない。コーデリアの名誉のためにも。
平民が切るようなシャツとスラックスという軽装で護衛も目立たないように配置した。目的はコーデリアの居場所。ミアには口を軽くしてもらわなくては。
その時通りの向こうからミアの声が聞こえてきた。思わずシモンは隠れてしまった。隠れる必要はなかったのに。
「えぇー。そんなぁ。私はそんな大それたことは、考えていませんよー」
ミアは見知らぬ男と手を組んで歩いている。見たことはないが服装と立ち振る舞いから貴族であることはうかがえる。
「誰だ?」
シモンは更に物陰に隠れると二人の会話に聞き耳を立てた。
「いえ、ミアさんは本当にお優しいです。ミアさんのような方が王室に入られたら私達も安心して過ごせます」
「確かにぃ、コーデリア様はぁ、厳し方ですよねぇ。怖い思いしましたものぉ」
気持ち悪い話し方にシモンは身震いするのを我慢する。
「ミアさんは当然の権利を行使されただけですから今日はゆっくりと休んでくださいね。あの方は明日スキャンダルと共に丁重にお返ししますから」
「はい! 絶対に怪我とかはやめてくださいね。私、悪者にはなりたくないんです!」
シモンは手を握りしめる。あの方とはコーデリアのことだ。あいつ、なんてことを!
「もちろんです。快適な部屋で一晩お預かりするだけです。安心なさってください」
「はい! あのぉ、それでシモン様は本当に来てくれます?」
「ええ、あの方が相応しくないとなったらミアさんしかいないじゃないですか?」
その男はニコリと微笑むとミアの手の甲にキスを落とした。
「それでは、今日はありがとうございました」
「こちらこそ!」
挨拶をしてミアは家の中に入って行った。シモンは目配せして護衛のうちの二人を男に付けると深呼吸を繰り返す。
ミアからの証言が必要だ。
笑顔だ。笑顔になれ! シモン!!
シモンは無理矢理笑顔を作る。あの男がコーデリアの行方は知っているはずだ。それは直ぐにわかるだろう。護衛は騎士団の精鋭だ。それならば自分は証拠固めをするべきなのだ。
直ぐにでもあの男の後を追いかけて殴り倒したいと言う衝動をなんとか抑える。
「よし! 行くぞ」
「シモン様!!!」
ミアを呼び出すと早速やってきた。シモンは、全力の笑顔で彼女を迎える。
「やぁ、ミア。元気だったかい?」
「はい! でも、一体どうして? もうお怒りではないんですか?」
シュンとしたミアは少し俯いて見せた。シモンはわざとらしさに顔がひきつる。
「いや、少し感情的になってしまったと反省しているんだ。コーデリアの我儘に疲れてしまったようだ」
「まあ! シモン様、お可哀想に。やっぱりコーデリア様との婚約は簡単には破棄できないですよね」
「ああ、そうだね」
「私に任せてください! 来週には婚約破棄できますよ」
「…………」
意気揚々とかたるミアにシモンは何も言えなくなる。
勝手に僕の気持ちを理解して、勝手に動く。一番嫌いな人種だ。
でも、今ミアの怒りを買うとコーデリアに危険が迫るかもしれない。きっとあの男とはなんらかの連絡を取り合っているはずだ。
シモンは貼り付けた笑顔のまま頷いた。
「それに! 私凄い方と知り合いになったんです。これからはその方が後見人になってくれるので、学校にも明日から復帰できるんです。シモン様とも仲直りできたし、これで安心して学校に行けます!」
「その人は誰なんだい?」
「えっと、確か南の方の伯爵でした。お名前はクラーシンス様です」
「クラーシンス……」
シモンは背筋が凍る。クラーシンス伯爵家といえば辺境伯とも言われる国境を守る要の家だ。それ故中々王都には来ることは出来ずシモンも隠居した前伯爵としか会ったことはない。
「今この時期に伯爵が?」
「えっと、何か? ああ、シモン様との約束は破ってしまったのは本当なので、もう援助はいりませんよ。ご安心を」
ミアは知らないだろうが、クラーシンス伯爵家の騎士団は王宮の騎士団に匹敵するという。もし本当にクラーシンスが前王原理主義者だとすると行き着く先は内戦しかない。
ゾクリ
シモンの背に冷たいものが流れる。
コーデリアや婚約、魔法などと言っていられない。
シモンはこれからどうすべきかを考える。やはり父上とバルターク公爵に意見を仰ぐしかない。
「ミア、申し訳ないが今日は失礼する」
シモンはミアと別れて歩きながら今の話を反芻した。
まずはコーデリアとアルバートの安全確保だ。そして、クラーシンス家の動向、今後の考えられる問題の洗い出し。内戦は避けたいがクラーシンスが本気ならこちらも用意しないとやられる。
ドンドン足速になったシモンは知らずにバルターク公爵家を目指していた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる