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2巻
2-2
しおりを挟む「もちろんよ!」
「お嬢様の魔法には、魔法を使いたいという意思しか感じられないのでございます。生活魔法も防御魔法もやりたいことや願いが重要です。例えば防御魔法では自分の身を守るという気持ちが大切なのです」
「気持ち?」
「はい。私は自分に防御魔法をかける時よりも、お嬢様に防御魔法をかける時の方が、遥かに気合が入り願いも強くなります。ですので、私自身の防御魔法よりも、お嬢様にかけている防御魔法の方が効力が強いはずです」
「そんな! ケイトも自分自身にきちんと防御魔法をかけてほしいわ」
「わかっておりますが、防御魔法の基本は、守りたいという願いでございます。私は、どうしてもお嬢様をお守りしたい気持ちの方が強くなってしまいます」
ケイトの気持ちが嬉しくて、私は彼女の方に手を伸ばした。
「お嬢様が安全に過ごせますように」
ケイトが私の手を取って、祈るように願いを口にした。
その途端、私の体に温かいものが流れてきて、ケイトの願いが、防御魔法を発現させたのだと理解する。
私も心の底から、幼い時からずっと一緒にいて、サポートしてくれている彼女の安全を祈った。
「ケイトが危ない目に遭いませんように!」
すると、今までうんともすんとも言わなかった私の魔力が、ケイトを包むようにふわりと発現した。
「「アリシア(嬢)‼」」
「お嬢様!」
カイル、マクスター先生、ケイトがほぼ同時に驚きの声をあげる。
「一体どうしたんだい? 今のはアリシアの魔法かい? 一体なぜ?」
「なにをしたんですか、アリシア嬢⁉ これは大変な発見なんです! 詳しく状況を教えてください!」
バタバタと近くに来て、ワーワーと言ってくるカイルと先生をスルーして、私はもう一度ケイトの手を握った。
「わかったわ、ケイト。魔法を使いたいとばかり考えていたから、駄目だったのね。誰かを守りたいという気持ちが大切なのね。私に足りなかったのは、魔法の先にある願いだったんだわ」
そう言って、私はケイトに向かって満面の笑みを浮かべる。
「お嬢様……」
ケイトが感極まったという風に声を震わせる。そんな彼女の手を更にきゅっと握りしめてから、私はカイルの方を振り向いた。
「カイル! 私やったわ!」
カイルが私の肩を掴み、勢いよく抱き寄せた。
「アリシア! おめでとう! でも、僕にもわかるように詳しく説明して貰えるかい?」
「わかったわ。ちょっと待ってね」
私は自分の中のイメージをなんとか言葉にする。
「えっと、今までは魔法を使いたい、発現させたいと思って練習していたの。なんのための魔法なのかについて全く考えていなかったのね。魔法を使うこと自体が私の目的だったの。でも、違うのよ。魔法に必要なのは願いなの!」
「そ、それは一体どういうことですか‼」
マクスター先生の興奮した声が、思いの外、近くから聞こえた。
「私のように魔法の発現さえできないと、『魔法を使いたい、なんでできないの?』としか考えられなくなってしまうのです。だって、みんなは普通に使えるんですもの。でも、それでは魔法は使えないのです」
「なんと! それではなにが必要なのですか⁉」
マクスター先生の興奮した声が響く。私は一旦息を吐き出し、落ち着いて話し始める。
「大きな違いは『願い』なのです。例えば防御魔法をかけようとしていた時、私は自分の身を守るということが具体的に想像できていませんでした。それよりも魔法や魔力に気持ちが偏っていました。魔力を出そう! 魔法を発現しよう! としか考えていなかったんです。スタンプの時も同じです。あれも私はできる限りの魔力を押し付けていただけなのです」
「なるほど。じゃあ、どうして今はできたんだい?」
私はカイルの方に顔を向ける。
「ケイトの安全を祈ったの」
「「え?」」
「私は、心からケイトが危険な目に遭ってほしくないなと思ったの。別に魔法なんて発現しなくてもよかったのよ。純粋に、ケイトの安全を祈ったら魔法が発現したみたいなの」
すると、マクスター先生がポンと手を鳴らす。
「そうか! 魔法を使おうとか、魔力を出そうとかは考えなかったんですね! アリシア嬢が侍女を純粋に心配することで防御魔法が発現したと。これは興味深い‼」
先生はそれからブツブツと独り言を繰り返して、ノートになにかを書く音が響く。
「それじゃあ、アリシアは魔法を使おうと思わなかったら使えたということか」
「そうね。もちろん昔からいろいろな『願い』は抱いていたけれど、魔法の概念と仕組みを理解した上で実行したことが良かったのかもしれないわ。魔力が発現する感覚もわかったの。今なら他の魔法も使えそうよ」
「本当かい? じゃあ、少し試してみようか?」
「ええ!」
私とカイルは、未だにメモに夢中なマクスター先生を置いて立ち上がり、教室の中央に向かった。
「どんな魔法にする?」
「そうね。前にカイルがやってくれたように体を浮かべてみようかしら?」
私はそう言うとすぐに自分の体を両手で抱きしめた。
結果を想像して、願うのよ!
前世の時だって病院のベッドの上でいつも考えていたじゃない! 空を飛びたいって!
「体を浮かべるって……あれは難しいんだよ。え? アリシア‼」
困惑するカイルの横で、魔法が溢れ、自分の体がふわりと浮き上がるのを感じる。
……いえ、感じすぎる‼ 浮き上がる体が止まらない!
魔力が出ていくのを止められない!
「キ、キャアアアアアア!」
「アリシアーーーー!」
バチンという音と共に、痺れるような感覚が全身を覆った。そして、一気に体から力が抜けて、ストンと宙を落ちていく。
「カイル! 助けてっ」
どうすることもできず、床に叩きつけられるのを覚悟して、体を強張らせる。その時、グイッと強く抱きしめられて落下が止まった。
「アリシア‼ 大丈夫かい! 怪我はない?」
カイルの切羽詰まった声が耳に届き、私は彼の首に腕を回して抱きついた。
怖かった……
「カイル……。私、一体……」
「大丈夫ですか! 今のはアリシア嬢ですか? 私の結界にぶつかりましたね!」
「結界?」
「ええ、たまに魔法を暴走させる生徒がいるんです。この教室には四方に私の結界を張っているんですよ」
「では、アリシアは天井の結界にぶつかったということですか?」
「そうみたいですね。でも一体どうしてあんな高さまで上がれたんですか? 上まで五メートルはありますし、もしかしてカイル殿下がアリシア嬢を浮かばせたんですか?」
「え? 難しいんですか?」
私はマクスター先生の言葉に首を傾げた。
「もちろんです。人を持ち上げる程の魔力があるのは王族くらいです。それに、持ち上げられる側の魔力も引き出して使わないと、単独で浮かび上がることは不可能に近いのですよ」
「でも、馬はもっと大きいですわ」
馬とは、前世でいうところのオートバイのような魔道具だ。前世で使われていた名前でも、この世界ではまったく違う道具や生き物であることがままある。
「魔道具は別です。あれは魔力を増幅して宙に浮かべているので、乗る本人の負担は少ないように作られているんです」
「でも、私は……」
私が話そうとすると、カイルがそれを遮るように私をギュッと抱きしめた。
「アリシア! そうなんです。僕がアリシアを浮かばせるのを失敗してしまいました。申し訳ありません」
「やっぱり。カイル殿下、気をつけてくださいよ。でも、大丈夫ですか? あんな高さまで浮かべたら流石に魔力が尽きかけてしまいますよ」
「はい。以後気をつけます。アリシア、君も疲れただろう? 今日はこれで失礼しよう」
「え、ええ」
「そうですね。わかりました。私もアリシア嬢のことをレポートにまとめたいので、今日はこれで終わりにしましょう」
「はい。ありがとうございました」
カイルはそう言って、私を横抱きにして教室から出た。
「あの、カイル。私は大丈夫よ?」
「ごめん。アリシア、少し話をさせて欲しい。いつものガゼボに向かうよ」
私の重さなど感じないかのように、カイルはスタスタと歩き出す。
私は彼のただならぬ様子に黙っていることしかできなかった。
「着いたよ」
カイルの声と共に、私は、ガゼボの中にあるいつものベンチにゆっくりと座らされた。
「カイル、さっきはどうしたの?」
私は待ちきれずにカイルを問いただす。
「アリシア、僕もまだ混乱しているけど、状況を確認させてもらうよ」
「ええ」
「君は君自身の魔法で自分の体を浮かべた。合ってる?」
「ええ」
「途中で制御不能となってそのまま浮かぶことを止められなかった。で、マクスター先生の結界にぶつかって落ちた。そうだね?」
「そうね。そうなるわ」
カイルが隣で黙り込んでしまう。
「カイル? どうしたの? なにか問題があるの?」
私はまた常識外のことをしてしまったのかと、ドキドキしながらカイルの返事を待つ。
「アリシア……。さっき先生も言っていたけれど、普通は飛べないんだ」
「先生もそう言っていたわね。でも、どうして?」
「自分を持ち上げる程の魔力を持っている人間なんて、聞いたことがない」
「けど、カイルは私を浮かばせてくれたわ」
「あれだって凄く難しいんだよ。アリシアが望んだから、僕は自分ができる精一杯の魔法を使ったんだ。だって、君に初披露する魔法なんだよ。それだって、自分の魔力じゃなくてアリシアの魔力も使わせてもらっているよ」
「そんな……」
「いくら魔法が暴走したとしても、自分だけの魔力であんなに飛べるなんて……。凄いんだけど、まずい……」
「どうして?」
「今回、マクスター先生は見ていなかったから、僕の魔力が暴走したことにしたけれど……王族でもない君が僕以上の魔力を持っているとわかったら、良くて研究材料、悪くて魔法研究所に連れて行かれて実験対象だよ」
「そんな……」
カイルから知らされる衝撃の事実に、絶句する。
「それくらい珍しいことなんだ。もしアリシアが自分の意思で魔法を制御できないとしたら、これからも今まで通り魔法は使えない、もしくは君が侍女にかけた程度のことしかできないということにした方がいい」
カイルの真剣な声に頷きながら、私もよく考えてみる。
確かに簡単に人が飛べるなら、みんな飛んで移動するわよね。でも、誰も飛ばないし、馬車や馬で移動している。それは飛べる程の魔力は誰も持っていないから?
私は、今になってようやく、自分がとんでもない存在なのだと理解した。
「わかったわ……。もう、むやみに魔法は使わないようにするわ」
「ああ、そうして欲しい。君の侍女にも伝えておいて。これは僕たちだけの秘密だよ」
「ええ、いつもありがとう。カイル」
「いいんだ。でも、君といると本当にいつもハラハラしている気がするよ。大人しくしているんだよ。僕のお転婆姫」
苦笑をこぼしたカイルは、私の額にそっとキスを落とす。そのキスからカイルの心配する気持ちが伝わって、なんとも言えない気持ちになる。
「カイル、心配ばかりかけてごめんね」
私が少し俯いて呟くと、カイルがしっかりと私を抱きしめた。
「前にも言ったけど、君がどんな存在でも僕は今のアリシアが好きなんだ。絶対に守るよ」
カイルの気持ちに胸が熱くなる。私は彼の背に腕を回して、不安な気持ちを吹き飛ばすように抱きついた。
~・~♣ カイルの気持ち ♣~・~
カイルは腕の中に収まるアリシアの不安を感じ取って、内心の動揺をなんとか覆い隠す。
カイルは混乱していた。
先日、今まで自分はエミリアにうまく丸め込まれていたんだと自覚した時よりも、アリシアが転生者だと告白してくれた時よりも、今、動揺していた。
それでも、アリシアが転生の話をしてくれた時、どんなに突拍子がなくとも、彼女のことを信じると決めたのだ。
そう伝えた時のアリシアの笑顔は、今まで見た中で一番嬉しそうだった。
しかし、神様はいつもアリシアに意地悪をしているように感じる。
転生者であることはまだいいが、この世界で盲目とはあまりにかわいそうだ。
前世で、目が見えていたことを覚えていて、それを赤ん坊の頃から抱えていたなんて……自分なら絶対に耐えられない。
あの時、カイルの方が泣きそうな顔をしていたはずだ。
それなのに今度は、信じられないくらいの魔力量だ。アリシアにもその危険性は伝えたが、これは本当にまずい。
アリシアが浮かび上がった時に、マクスター先生がメモに夢中で本当によかった。もし見られていたらと思うと体が震える。それくらい危険なものなのだ。
当面は今まで通り魔法は使えないとしておいて、その間に制御できるように練習するしかない。制御の効かない膨大な魔力は、人を不安にさせるし、恐怖を与える。
けれど、カイルはこれからアリシアと不仲になる予定なのだ。
不安しかない。万が一にも誰かに魔力暴走を見られたら、それだけで本当に人から恐れられ、嫌われる要因になってしまう。
「カイル?」
腕の中でアリシアの瞳が不安そうに揺れる。
この美しく、優しく、強い婚約者を心から愛しているのだ。
カイルは、彼女の頬に小さくキスを落とし、必ず彼女を守ると決意を新たにしたのだった。
第二章 魔力暴走
~・~♦ アリシアと襲撃事件 ♦~・~
私の魔力についてはパパさんにも秘密にすることとなり、私は今まで通り魔法が使えない令嬢として行動していた。マクスター先生にも魔法はあの一回しか使えなかったと報告し、先生がレポートを書き上げるまで、私の補習は一旦保留となった。
但し、誰にも見つからないようにカイルと魔力を制御する練習を新たに始めることにした。
そんな忙しい毎日の中、まだエミリアさんと話すこともできずにいる。
「お嬢様、もうお休みのお時間です」
「ありがとう、ケイト。あの、明日なんだけど、エミリアさんと二人で話す時間は取れるかしら?」
「お二人で……ですか?」
「ええ、どうしても話したいことがあるの」
「わかりました。エミリア様のご予定を確認して参ります」
「よろしくね」
すると、ケイトがさっと手を取って、ベッドまで連れて行ってくれた。
私は横になりながら、これからのことに思いを巡らせる。まずは、明日エミリアさんと話して転生者なのかを確認しよう。
でも、どう話したら良いのかしら?
突然前世の話なんてしたら、また変な噂が立ってしまうわよね。
「うーーん」
それに、カイルの婚約破棄計画が実行されたら、もっと難しくなる。王子が婚約破棄を考えている者など、誰も相手にする筈がない。その前になんとかしてエミリアさんと話したい。
カイルに相談できる内に、なんとかしてエミリアさんが転生者であるという確証を得たい。
もし、お互いに転生者だとハッキリしたら、エミリアさんはなにもしてこなくなるかも。
私は発明には興味ないし、彼女の手柄を横取りするような真似もしないと約束したら安心してくれるだろう。逆に前世のことを話せたら、また仲良くなれるかもしれないわ。
それでも、エミリアさんがなにかしてきたらどうしよう。
転生者ではなかったら? ただ単に私が嫌いなだけだったら?
「はぁ、考えることがいっぱいね」
まだ、いつ、どんなきっかけでカイルと不仲になるのかは決まっていないが、それはきっと近いうちに実行されてしまう。
不安を覚えて、ベッドのカバーを握りしめたその時、寝室のドアが叩かれた。
「ケイト?」
「お嬢様、急ぎのご連絡でございます」
「え? 誰から?」
ドアの向こうでケイトの声が響く。
「カイル殿下から通信が入っております。急用ということですが、いかがいたしましょう?」
私は上半身を起き上がらせ、ケイトに通信機を持ってくるよう伝えた。
「カイル?」
通信機に向かって話しかけると、向こうからカイルの焦った声が聞こえてきた。
「アリシア! 夜遅くにすまない。少し話してもいいだろうか?」
「ええ、大丈夫よ。なにかあったの?」
「ああ、今ここにカーライルが来ているんだ」
「カーライル様?」
カーライルさんは、アラカニール公爵の嫡男で、私の従兄でもある。彼はカイルの友人で、一緒に王太子様を支えていく同志でもあるが、こんな夜更けに人を訪ねるような人には思えない。
不思議に思って、私は首を傾げた。
「こんばんは、従妹姫。夜遅くにごめん」
「いえ、でも、いったいどうしたのですか?」
「コホン、まずこんな遅くに訪ねたことを詫びさせてほしい。実は二人がエリック達に色々依頼しているのは聞いていて、私もできる範囲で周りを観察していたんだ。カイルやエリックは最近忙しそうにしていたから、私は執行部でのエミリアをそれとなく観察していたんだよ」
「そうだったのですね。ありがとうございます、カーライル様」
「それで、最近ちょっと気になることがあってね」
「まあ、なにか?」
「エミリアとアラミックなんだが、二人でいることが増えたんだよ。まぁ、アラミックは女生徒とも気安く話すタイプではあるけど、誰か特定の女性と一緒にいることはあまりなかったんだ。だから余計に気になってね」
「エミリアさんとアラミック様……ですの……」
ふと、先日、アラミックさんと話した時のことを思い出した。確かにあの時、彼の様子はおかしかった。
「あの、実は先日アラミック様に偶然お会いして少しお話ししたの。お友達が怪我をしたと言っていたから、お慰めしたわ。ただ、その時少し気になることを言っていたの」
「どんな?」
「カイルはなぜ王位を目指さないのかとか、能力があるのにもったいないとか……」
「なんだってそんなことを?」
カイルが驚きの声をあげた。その後、カーライルさんが神妙に呟く。
「なるほど、アリシア嬢にもそんなことを……。実は私にも同じようなことを尋ねてきたんだ。ただ、言い方はもっと嫌な感じだったけどね」
「嫌な感じ?」
「言いにくいけど、カイルが王位を目指さないのはアリシア嬢がいるからなのかと……」
「なっ! どうしてそんなことに!」
カイルが声を荒らげる。そんな彼を宥めるように、カーライルさんが続けた。
「勿論きちんと否定したよ。カイルは第五王子だし、王太子様は優秀な方だから、私とカイルは臣下として支えることを楽しみにしていると。ただ、納得してはなさそうだった」
三人とも黙り込んでしまった。
アラミックさんの意図はなんだろう? エミリアさんとの関係は?
グルグル考え込んでいると、カーライルさんが口を開いた。
「それで、さっき談話室の前を通りかかったら、二人の会話が聞こえたんだ。明日は大丈夫なのか? もう止められないとかなんとか……」
「「明日?」」
私とカイルは同時に呟いた。
「だから明日は二人とも大人しくしていてほしい。あと、エリックにも話して護衛を強化してもらった方がいいね。ちょっとエリックを呼んでくるよ」
そう言って、カーライルさんはエリックさんのところに協力を頼みに行った。
「アリシア、大丈夫かい?」
私がボーッとしていると、カイルが心配そうに話しかけてきた。
「ええ、大丈夫よ。ねぇ、カイル。アラミック様は本当にただの貴族なのかしら? 普通は自国の王様や王太子様には敬意を払うものでしょう? この前アラミック様がお二人を非難するようなことを仰っていたの……」
「……そうか。彼が側近候補になった時に父上に確認したが、問題はなかったよ。でも、もう一度確認してみよう」
「ありがとう」
「いや、君の勘は侮れないからね」
すると、通信の向こうからカーライルさんとエリックさんの話し声が聞こえてきた。二人一緒に戻ってきたらしい。
「エリック、カーライルから聞いてくれたか?」
「ああ、それは聞いたが俺はお前の護衛も兼ねてこの学校にいるんだ。あまり勝手に動くなよ!」
カイルの声に続いて、エリックさんのちょっと怒った声が聞こえた。
「ああ、わかってる」
「とにかく警備体制も見直したいから、明日は俺のそばを離れないようにしてくれ。部屋に閉じこもるのもいいと思う」
エリックさんの言葉に私は思わず声をかける。
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