50 / 65
番外編
アンネマリーの運命11
しおりを挟む
「ご機嫌よう」
アンネマリーが寮から出ると本当にスティーブンが立っていた。
半分は冗談だと思っていたアンネマリーは目を見開いた。
「スティーブン様! 本当にいらしたのですか?」
「え? それはそうだよ。僕は約束は守る。では、約束通り手を貸してもらえるかい?」
「は、はい」
アンネマリーが手を差し出すとスティーブンはその手を取って額に当てた。
するとアンネマリーの体にスティーブンの力強い魔力が流れ込んできた。
「……はぁ」
スティーブンは少し顔色が悪くなったアンネマリーを見て手を止めた。
「す、すまない。なるべく体の表面を覆うようにしたつもりなんだが……。やはり体内にも影響がでてしまったか?」
「あ、いえ、大丈夫ですわ」
アンネマリーは少し呼吸を整えてからにっこりと笑う。
「でも、凄いですわ。スティーブン様が防御魔法を掛けたところから纏う魔力が違いますのね。わたくし、魔法は得意なんですが防御魔法はあまり上手くいかなくて……。教えていただけませんか? そうすればスティーブン様の手を煩わせずに自分で出来ますし」
アンネマリーがスティーブンにお願いすると一瞬沈黙が訪れた。
「……いや、ダメだ。これは自分以外の人に上掛けする方法なので自分自身の防御魔法を強化するものではない」
少し早口で答えたスティーブンにアンネマリーは「そうなのね」と頷いた。
「では、また、明日」
魔法を掛けるとスティーブンは直ぐにその場を去った。
早足で歩く後ろ姿を見てアンネマリーはため息を吐いた。
「それでも、毎朝来てもらうのは気が引けるし、少し気が重いのよね……」
だから、防御魔法が足りないのなら自分で出来る様にしたかったのだ。
スティーブンが思っていたよりも笑うし、今回のことで優しいところもあるとわかったが、やはり少し苦手なのだ。
「アンネマリーお嬢様、エレオノーラ様よりお手紙が届きました」
スティーブンを見送っていたアンネマリーに侍女が手紙を手渡す。
エレオノーラは王太子の婚約者となる予定の隣国の姫だ。
「まぁ、エレオノーラ様から?」
アンネマリーは手紙を受け取ると足早に寮の部屋に戻った。
「エレオノーラ様がサーナインにいらっしゃるようよ」
手紙を読み終わったアンネマリーは侍女に説明する。
「それではお屋敷に戻られますか?」
「そうね。エレオノーラ様がいらっしゃるのにわたくしがいない訳にはいかないわ。学校に家庭の事情ということでお休みの連絡をしておいてちょうだい」
「王太子殿下にはいかがいたしますか?」
「んー、そうねぇ。きっとエレオノーラ様からご連絡されているでしょう。大丈夫よ」
「ホースタイン様にはいかがいたしましょう?」
「そうね。スティーブン様には侯爵家に帰ると連絡して頂戴。明日も来てくださった時にいなかったら失礼だもの」
「かしこまりました」
侍女が頭を下げて部屋を退出したのを確認してからアンネマリーはもう一度手紙を確認する。
「それにしてもエレオノーラ様は大丈夫かしら? ストーカーだなんて……」
そこにはエレオノーラがとあるパーティで挨拶したウオレイクの王子に付き纏われて困っているという内容が書いてあった。
その王子はエレオノーラが出席する所に現れてしつこく求婚してくるらしい。
いくら婚約が内定していると説明しても信じてもらえず、とうとうサーナインにお忍びで避難してくるという内容だった。
相手が王子であることで中々注意もできず困り果てていると訴えていた。
エレオノーラが避難している間にサーナインと協議の上婚約を早急に発表する予定とのことだ。
「ウオレイクの王子というとアレクサン王子よね。確かに気が荒い方と聞いたことがあるわ」
アンネマリーは繊細で可愛らしいエレオノーラを思い浮かべため息を吐いたのだった。
「アンネマリー!!」
アンネマリーが実家である侯爵家に戻ると待ち構えていたようにエレオノーラが抱きついて来た。
「エレオノーラ様、ご到着に間に合わず申し訳ございませんでした。道中何事ありませんでしたか?」
「大丈夫よ。アンネマリーに会えて、とても嬉しいわ!! あの男の顔を見なくていいなんて本当に快適よ!」
エレオノーラにしては珍しく怒った顔で腕を腰に当てた。
「ふふふ、エレオノーラ様がそのように仰るなんて、アレクサン王子はお嫌いになられたんですか?」
「本当にしつこいのよ! わたくしが何度もジョナス様と婚約すると言っても聞いてくださらないのよ!」
興奮するエレオノーラの手を取ってアンネマリーはテラスに向かった。視線でお茶の支度を侍女に命じると侍女が頷いて動き出す。
「少しお茶をいただきませんか? わたくしエレオノーラ様とゆっくりお話ししたいですわ」
「え、ええ、そうね。わたくしったら、ごめんなさいね。アンネマリー、貴女はお元気だったの? 学校に行っていると聞いたわ。どんな所? わたくし、学校に行ったことなくて……ジョナス様もいらっしゃるのよね」
少し恥ずかしそうに聞いてきたエレオノーラはいつもの可愛らしい様子に戻って王太子の現状を聞きたがった。
「ゆっくりお話しいたしましょう」
アンネマリーはにっこりと微笑んでエレオノーラと共にテラスに向かったのだった。
アンネマリーが寮から出ると本当にスティーブンが立っていた。
半分は冗談だと思っていたアンネマリーは目を見開いた。
「スティーブン様! 本当にいらしたのですか?」
「え? それはそうだよ。僕は約束は守る。では、約束通り手を貸してもらえるかい?」
「は、はい」
アンネマリーが手を差し出すとスティーブンはその手を取って額に当てた。
するとアンネマリーの体にスティーブンの力強い魔力が流れ込んできた。
「……はぁ」
スティーブンは少し顔色が悪くなったアンネマリーを見て手を止めた。
「す、すまない。なるべく体の表面を覆うようにしたつもりなんだが……。やはり体内にも影響がでてしまったか?」
「あ、いえ、大丈夫ですわ」
アンネマリーは少し呼吸を整えてからにっこりと笑う。
「でも、凄いですわ。スティーブン様が防御魔法を掛けたところから纏う魔力が違いますのね。わたくし、魔法は得意なんですが防御魔法はあまり上手くいかなくて……。教えていただけませんか? そうすればスティーブン様の手を煩わせずに自分で出来ますし」
アンネマリーがスティーブンにお願いすると一瞬沈黙が訪れた。
「……いや、ダメだ。これは自分以外の人に上掛けする方法なので自分自身の防御魔法を強化するものではない」
少し早口で答えたスティーブンにアンネマリーは「そうなのね」と頷いた。
「では、また、明日」
魔法を掛けるとスティーブンは直ぐにその場を去った。
早足で歩く後ろ姿を見てアンネマリーはため息を吐いた。
「それでも、毎朝来てもらうのは気が引けるし、少し気が重いのよね……」
だから、防御魔法が足りないのなら自分で出来る様にしたかったのだ。
スティーブンが思っていたよりも笑うし、今回のことで優しいところもあるとわかったが、やはり少し苦手なのだ。
「アンネマリーお嬢様、エレオノーラ様よりお手紙が届きました」
スティーブンを見送っていたアンネマリーに侍女が手紙を手渡す。
エレオノーラは王太子の婚約者となる予定の隣国の姫だ。
「まぁ、エレオノーラ様から?」
アンネマリーは手紙を受け取ると足早に寮の部屋に戻った。
「エレオノーラ様がサーナインにいらっしゃるようよ」
手紙を読み終わったアンネマリーは侍女に説明する。
「それではお屋敷に戻られますか?」
「そうね。エレオノーラ様がいらっしゃるのにわたくしがいない訳にはいかないわ。学校に家庭の事情ということでお休みの連絡をしておいてちょうだい」
「王太子殿下にはいかがいたしますか?」
「んー、そうねぇ。きっとエレオノーラ様からご連絡されているでしょう。大丈夫よ」
「ホースタイン様にはいかがいたしましょう?」
「そうね。スティーブン様には侯爵家に帰ると連絡して頂戴。明日も来てくださった時にいなかったら失礼だもの」
「かしこまりました」
侍女が頭を下げて部屋を退出したのを確認してからアンネマリーはもう一度手紙を確認する。
「それにしてもエレオノーラ様は大丈夫かしら? ストーカーだなんて……」
そこにはエレオノーラがとあるパーティで挨拶したウオレイクの王子に付き纏われて困っているという内容が書いてあった。
その王子はエレオノーラが出席する所に現れてしつこく求婚してくるらしい。
いくら婚約が内定していると説明しても信じてもらえず、とうとうサーナインにお忍びで避難してくるという内容だった。
相手が王子であることで中々注意もできず困り果てていると訴えていた。
エレオノーラが避難している間にサーナインと協議の上婚約を早急に発表する予定とのことだ。
「ウオレイクの王子というとアレクサン王子よね。確かに気が荒い方と聞いたことがあるわ」
アンネマリーは繊細で可愛らしいエレオノーラを思い浮かべため息を吐いたのだった。
「アンネマリー!!」
アンネマリーが実家である侯爵家に戻ると待ち構えていたようにエレオノーラが抱きついて来た。
「エレオノーラ様、ご到着に間に合わず申し訳ございませんでした。道中何事ありませんでしたか?」
「大丈夫よ。アンネマリーに会えて、とても嬉しいわ!! あの男の顔を見なくていいなんて本当に快適よ!」
エレオノーラにしては珍しく怒った顔で腕を腰に当てた。
「ふふふ、エレオノーラ様がそのように仰るなんて、アレクサン王子はお嫌いになられたんですか?」
「本当にしつこいのよ! わたくしが何度もジョナス様と婚約すると言っても聞いてくださらないのよ!」
興奮するエレオノーラの手を取ってアンネマリーはテラスに向かった。視線でお茶の支度を侍女に命じると侍女が頷いて動き出す。
「少しお茶をいただきませんか? わたくしエレオノーラ様とゆっくりお話ししたいですわ」
「え、ええ、そうね。わたくしったら、ごめんなさいね。アンネマリー、貴女はお元気だったの? 学校に行っていると聞いたわ。どんな所? わたくし、学校に行ったことなくて……ジョナス様もいらっしゃるのよね」
少し恥ずかしそうに聞いてきたエレオノーラはいつもの可愛らしい様子に戻って王太子の現状を聞きたがった。
「ゆっくりお話しいたしましょう」
アンネマリーはにっこりと微笑んでエレオノーラと共にテラスに向かったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。