盲目の公爵令嬢に転生しました

波湖 真

文字の大きさ
54 / 65
番外編

アンネマリーの運命15

しおりを挟む
「ん……」
アンネマリーはまだ少しクラクラする頭を手で押さえると目が覚めた。
「目覚めたかい?」
目を開けると目の前にはスティーブンの顔がある。
「え? ス、スティーブン様!!」
「おはよう。アンネマリー」
それでやっとアンネマリーは今までのことを思い出した。
そして、ゆっくりと起き上がる。
そんなアンネマリーの背に手を添えてスティーブンが心配気に話しかける。
「どうだい? 気分は良くなったかい?」
「はい、申し訳ありません」
「いや、いいんだ。君に無理をさせたのは僕の方だ」
「そんなことはございませんわ」
「君が魔力の制御が難しいことは知っていたのに馬の操作を任せてしまった。それで君の魔力が枯渇して倒れたのだろう? 僕の責任だ」
「そんなことは……。あっそういえばマクスター様はどちらに?」
「ああ、ハロルドは馬を調整しているよ」
アンネマリーそう言われて馬の方を確認すると確かにハロルドが何かをガチャガチャいじっているのが見えた。
「追手は、マクスター様は大丈夫なのですか?」
「ああ、何とかなりそうだ。それよりも君だよ」
するとスティーブンが眉を上げてアンネマリーを見つめる。その顔は久しぶりに見る不機嫌なスティーブンだった。
「わたくし……ですか?」
「ああ、そうだ。いくらエレオノーラ様を助けるためとはいえ、一人で暴漢に立ち向かうのはどうかと思う。もう少し僕達の到着が遅かったら君は暴漢に襲われていた」
「で、でも、スティーブン様は来てくれたじゃありませんか」
「たまたまだ。ハロルドが馬を作ってなかったら場所がわかっても間に合わなかった。君は無謀すぎる」
「でも、エレオノーラ様は次期王妃様です!!」
「それでも、君は自分の身も大切にすべきだ」
スティーブンに冷たく反論されるとアンネマリーは自らの拳を握りしめる。
「それでも、わたくしができることはこれくらいなのです!!」
「そんなことは、ないだろう?」
「いいえ! 貴方はご存知なのでしょう? わたくしは体が弱いのです。王太子殿下が望むような王妃様の側近にはなれません。子も望めないかもしれません。嫁ぐことさえ難しいのです。そんなわたくしがエレオノーラ様をお守り出来るのなら本望ですわ」
バシッ
「イタ」
アンネマリーは叩かれた頬に、手を添えた。
「君は君自身の価値がわかっていない。叩いたことは謝罪しない」
スティーブンはそれだけいうとその場から離れてハロルドに何か言ってからその場から立ち去ってしまった。
アンネマリーは立ち去るスティーブンの背中を見つめていた。

「あの、アンネマリー様」
ハロルドが遠慮がちに聞いて来た。
「……はい」
「馬が動くようになりました。学校までお送りします」
「スティーブン様は……」
「ああ、大丈夫です。もう結構学校に近いんです。一時間も歩けば着くはずですから」
「では、わたくしも歩きます」
「そ、それはいけません。先輩にも頼まれましたし。お送りします」
ハロルドはそう言ってアンネマリーを馬まで案内すると座らせた。
「ゆっくり行きますね」
「ありがとうございます」
ゆっくりと浮き上がる馬に乗りながらアンネマリーは、スティーブンのことを考えていた。

わたくしの価値。

アンネマリーは自分が嫌いだった。いつ倒れるかドキドキしながら生活している。
両親には秘密にしているが、嫁ぐつもりはなかった。先程口走ってしまった通り子供は出来ないだろう。そんなアンネマリーを妻に欲しがる貴族など居るはずがない。
仕事をしたくてもそれも無理だ。
そんな自分に価値など見出せない。
「あのーーアンネマリー様」
馬を操作しながらハロルドが話しかけてきた。
「はい。なんでしょう。マクスター様」
「僕もさっきのはダメだと思います」
「さっきの?」
「自分なんか……です」
「でも、わたくしは本当に……」
「僕も自分なんかだったんです」
「え?」
「ほら? 僕は天才なんです」
「そうですわね」
「だから、自分なんかが自由を求めちゃダメだと思ってました。どんなに逃げてもいつか捕まると」
「魔法研究所にですか?」
「はい」
「でも、先輩は、僕のために真剣に考えてくれました。僕なんかのために」
「でも、それはマクスター様が大切な方だからですわ」
「それなら! それなら、アンネマリー様だってです!」
「え?」
驚くアンネマリーにハロルドはスティーブンのことを話した。アンネマリーのために防御魔法を完璧にする目的を持ってハロルドの元に通ったこと。二人で有効な設定を模索したこと。効果的に上書きする方法を練習したこと。
「先輩はアンネマリー様を守るために必死でしたよ。そんな必死に守ろうとしていた人が自分を大切にしていなかったら……僕も怒りますから」
アンネマリーは、馬に揺られながらまだ少し痛む頬を押さえた。
「そんなことが……」
「だから、僕達は僕もアンネマリー様も先輩が大切にしてくれる自分を大切にすべきなんじゃないかと思うんです」
そう言ったハロルドの顔は希望に満ちていた。
アンネマリーはその顔を、羨望の眼差しで見つめていたのだった。
しおりを挟む
感想 320

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。