盲目の公爵令嬢に転生しました

波湖 真

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記念SS

文庫版2巻発売記念

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文庫版2巻記念SS
皆様のおかげで、文庫版2巻の発売日を迎えることができました。
本当にありがとうございます!
婚約前の悩めるアリシアです。お楽しみください。
****************
私には最近悩みがある。カイルとの婚約式を明日に控えて衣装合わせをしている最中もそのことが頭をよぎって思わずため息を吐いた。
「はぁぁ」
「お嬢様、何かございますか? もし着心地が良くないようでしたら遠慮なく仰ってください」
ケイトがウエストの生地を摘みながら優しく囁いた。そうなのだ。最近この悩みのせいで少し痩せてしまったのだ。ケイトの心配そうな声にもそのことがよく分かる。
「そうね。そうよね。これはちゃんと聞かないとどうにもできないのよね」
私はひとり言をつぶやくとうんと頷いた。
「ケイト、私に嘘偽りなく答えて欲しいことがあるの」
「なんでしょうか?」
ケイトが手を止めて私の質問を聞いてくれるようだ。
私はふぅと息を吐き出すと一気に確認する。
「カイルはとっても格好いいのよね?」
「……はい。元々王族の方は容姿が整っていらっしゃいます」
「カイルも……よね?」
「まだ十歳ですので格好いいというよりは可愛らしいという感じではございますが、容姿端麗といわれていらっしゃる国王様によく似ておいでです」
やっぱりカイルは格好がいいのね。もしくは格好良くなる? という感じかしら?
それでも、やっぱり侍女たちの噂は本当なのね。実は私は最近侍女たちの立ち話を聞いてしまったのだ。
それはカイルのことについてだった。カイルは絶対格好良くなるし、十歳の男子とはいえ信じられないくらい整った顔立ちをしているということだ。
そこで私はふと今まで気にもとめていなかった自分の見た目が気になって仕方がない。
今までは私は見るということが出来ないので気にしたことがないが、流石に明日の婚約式には少なからず招待客が来る予定なのだ。
「私とカイルが並んだら釣り合わないんじゃ…」
それが私の悩みになっている。
私とカイルが並ぶと絶対に釣り合わない。
そんなに格好いいカイルと私が並んだらきっと見劣りしちゃうわ。
もちろんみんなにも聞いてみたのだ。でもパパさん、ママさんは可愛い可愛いといって私の悩みのことなど全く意に介さない。
「じゃあケイト、私はカイルの隣を歩いていても大丈夫だと思う?」
「は?」
「だから、私の顔は皆さんにどう思われるのかしら?」
モジモジと確認する私にケイトは少し怒ったように答える。
「何を仰っているんですか! お嬢様は同じ年代の方の中でも絶対に可愛らしいと断言できます」
「だから! どんなところが?? 具体的に教えてほしいの!」
私は可愛いという言葉はもう聞きたくない。客観的な容姿が知りたい。
「お嬢様の髪は美しいプラチナブロンドで、瞳はアメジストのような美しい瞳で誰もが目を離せない輝きを放っております。お嬢様は私の自慢のお嬢様です!」
私はケイトの言葉を聞いて考える。
触った感じではスタイルはいいとは思う。
因みに今の姿は見たことがないので、前世の自分の姿をプラチナブロンドと紫の瞳に変えて想像してみる。
「ハハハ、コスプレイヤー……」
私はガックリと肩を落とした。カイルの容姿は前世の好きだったアイドルを赤い瞳にして考えてみる。そしてコスプレの私と並べる……
更に私は目が見えない。迷惑をかける未来しかない。この婚約は……
「やっぱり無理だわ」
一人ブツブツとひとり言を言っている私をケイトは心配そうに見ていたことに全く気が付かなかった。

衣装合わせも終わり、一人でお茶を飲んでいるとママさんの声が聞こえた。
「アリシアちゃん、ちょっといいかしら?」
「お母様!! もちろんですわ」
私は声の方を向いて頷いた。
するとお母様はすっと私の隣に腰を下ろして抱きしめてくる。
「お母様?」
「ケイトから聞いたわ。婚約を前にして不安なんですって?」
ケイトはしっかりとママさんに報告していたようだ。私は少し考えてから頷いた。
「はい。お母様もご存知の通り私は目が見えません。だから今まで自分の容姿やましてやカイルの容姿など全く気にしていなかったんです。でも、婚約式が近づいてくるとカイルの隣に立ってもいいのか。釣り合うのかが気になってしまったんです。だってカイルはとてもその……格好いいと聞いてしまったので」
私がうつ向いて答えるとママさんははぁと大きなため息を吐いた。
「全くわたくしの娘は一体何を悩んでいるのかしら!!」
「おかあさま?」
「アリシアちゃん、貴女はわたくしの娘なのよ」
「……はい?」
「社交界の華と言われたわたくしの!!」
ママさんの口調がだんだんと強くなる。私は体を反らして返事をする。
「は……い」
「アリシアちゃんが不安に思うのはわかるわ。わたくしもお父様と婚約するときは自分が相応しいかどうか悩んだもの」
「お母様もですか?」
「もちろんよ。それにアリシアちゃんは見えないんだもの。もっと気になるわよね」
ママさんの言葉に皆が通る気持ちなのだと心が軽くなる。
「兎に角、容姿のことは気にしないのよ。貴女は美しいわ。わたくしにそっくりなのよ。そこは自身をもって頂戴」
私はママさんの言葉に頷いた。
「それに本当は容姿ではなくてカイル殿下に望まれているのかが気になるのでしょう?」
ママさんの言葉にはっとする。確かに容姿のことばかり気にしていたが本当にそれだけだったのか気になってきた。
「わたくしはスティーブンにどう思われているかが気になったわ」
「カイルはいつも私のことが好きだと言ってくれます。でも、確かにそれが本当のことなのか……」
「ふふふふ。それはお母様が保証してよ。カイル殿下が貴女との婚約を申込みにいらしたときにわたくしは感動したもの」
「え?」
「カイル殿下がアリシアちゃんのどこが好きなのかを永遠と話し続けたのよ。その中にはわたくし達の知らないアリシアちゃんも沢山いたの。足が速いんですって? 知らなかったわ。カイル殿下はのびのびと走るアリシアちゃんが好きなんですって」
「カイルがそんなことを?」
「他にも沢山貴女の好きなところを教えてくれたの。それを聞いてわたくし達は婚約を了承したといっても過言ではないの。アリシアちゃんには幸せになって欲しいもの」
そう言ってママさんはもう一度私を抱きしめた。
「容姿に事も望まれていることも問題ないと分かってくれたかしら?」
私はカイルが一生懸命パパさんとママさんに私のことを話している姿を想像すると笑みが溢れる。その想像の姿が私とは釣り合わないくらい格好いいアイドルだとしてももう気にするのはやめよう。それでも私を心から望んでくれている。それを信じて明日は胸を張ってカイルの隣に立とう。ただ……
「それでも、私は盲目です。いっぱい迷惑をかけてしまうと思うの」
私が不安な気持ちを伝えるとママさんは私の方に顎を載せてもう一度抱きしめてくれた。
「そうね。それは明日自分でカイル殿下に確認してごらんなさい」
耳元で囁かれた言葉にはからかうようなニュアンスが含まれていたが私は至って真面目に頷いたのだった。

無事婚約式が終わって部屋でゆったりと休んでいると誰かが入ってくる音がした。
「アリシアちゃん、今いいかしら?」
「お母様」
「今日はびっくりしたでしょう。大丈夫だった?」
「はい。あまりにお客様がいて驚きましたが、とても楽しかったですわ」
私が満面の笑みで返すと、お母様が私の頭をゆったりと撫でてくれる。
「幸せそうだわ」
私は今日の婚約式とカイルの言葉を思い出して更に笑顔を深める。
「幸せです。カイルは私との婚約を本当に望んでくれていました。私が盲目でも構わないと言ってくれたんです。それに綺麗だと何度も言ってくれて。とても嬉しかったです」
「良かったわ。アリシアちゃん、一つだけいいかしら?」
「なんでしょうか?」
「これからもきっといろいろ悩むと思うの。その時は周りの声ではなくてカイル殿下の言葉だけを信じるのよ。わたくし達だって間違うこともあるわ。カイル殿下だって。でも、アリシアちゃんとカイル殿下が納得できていればいいの。他の人のことは気にしないで」
私はママさんの言葉を頭の中で反芻するとゆっくりと頷いた。
「はい! お母様」
これからも不安はあるけれど、今日のカイルの言葉だけをずっと心に止めておこう。
私はやっと心からこの婚約の先の未来を信じることができる気がしたのだった。
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感想 320

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みんなの感想(320件)

此処寝
2021.07.25 此処寝

 野暮ですが。
 2-3ページの中でカイルどの通信を切ったあとに
 [時計を見ると]という表現がありました。アリシアは、盲目なのになぜ時計を見て時間がかなりたったとわかったのですか?
 仮に、触れて時間がわかる時計だとしても、「見る」という表現は違和感があります。
 重箱の隅をつつくようで申し訳ありません。

2021.07.26 波湖 真

お読みいただきありがとうございます!
そうですね。仰る通りです。
ご指摘ありがとうございます。
しかしながら、レンタル作品は修正することが出来ず、申し訳ありません。
時報を聞くとに変換して頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。

解除
180まひろん
2021.07.02 180まひろん

私もコミカライズから流れて来たクチですが、とにかく面白くて一気読みしました!ポイントがたくさん有って良かった(´ー`*)
個人的にアラミック王子のその後がとても気になっていますが、番外編はもう無いのでしょうか?

それと、番外編エピローグの冒頭で
「どういうわけでアリシアちゃんが~」とありますが「というわけでアリシアちゃんが~」の方がしっくりくると思います

2021.07.02 波湖 真

お読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂けて嬉しいです。
アラミックも反省して幸せになってほしいですね。

今後ともよろしくお願いします!

解除
Kylie
2021.06.24 Kylie

アンネマリー10の最後の方、公爵令嬢になってます。結婚前なので、侯爵令嬢の誤変換かと。失礼致します。

2021.06.24 波湖 真

お読みいただきありがとうございます
ご指摘の箇所、訂正いたします。
これからもよろしくお願いします。

解除

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