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「エドワード大使並びにアニー夫人、お言葉に甘えて参上致しました。よろしくお願いします。」
ビシッと正装で一分の狂いもなくやって来たフィリップに確かにオンとオフはなさそうだと感じたエドワードとアニーはひとつだけ条件を出した。
「えー。フィリップ殿。滞在時にひとつだけ約束して欲しいことがあるのだが良いだろうか?」
「はい。何なりと仰ってください。」
「ここに滞在中は時計を見ないようにしてみてくれないか?」
「時計ですか?構いませんが、それではスケジュールをこなす事が出来ませんが、、。」
「いいんだよ。必要な予定は君が連れてきた執事に伝えるよう手配しよう。フィリップ殿は時計を見ずに過ごしてみてくれたまえ。」
「はぁ、わかりました。」
不思議そうに返事をするフィリップに早速サラの元に連れていくよう侍従に命じると送り出した。
「フィリップ様は大丈夫でしょうか?
今日もお時間はぴったりにお着きでしょう?時間がわからないことに耐えられるかしら?」
心配そうなアニーにエドワードは少し意地悪く答える。
「まぁ始めの何日かはサラが感じたギャップを十分に味わってもらうよ。それくらいしないと理解出来ないからねオンとオフの必要性は。」
「そうねぇ。」
おっとりと答えたアニーは尚も心配そうにフィリップが出て行ったドアを見つめた。
「サラ王女、大使のお言葉に甘え貴国の事を学びに来ました。よろしくお願いします。」
そう言ってフィリップはサラの座るソファの横で先程と同じ90度の礼をした。
サラはもう嫌われてもいいくらいの覚悟で座ったままフィリップに返答した。
「フィリップ様、ようこそ我が国へ。至らぬことも多いと思いますがどうかのんびりと過ごしてくださいませ。」
「あぁ、わかりました。」
フィリップは座ったまま挨拶されたことに多少驚いたように見えたがどうにか平静を保っていた。
サラはドギマギしているフィリップにふっと笑みを浮かべてどうぞと目の前の席を勧めた。
フィリップは公爵家でのサラとの違いにも驚きつつ腰を下ろした。
「サラ王女、、貴女は我が家ではかなり無理をしておられたのか?」
「そうですわね。私は本当はそれ程出来た人間では無いのです。公爵家ではフィリップ様に嫌われないよう知らず知らずに無理をしていたのかもしれません。」
「そうですか、、。それならそう言って頂ければ私にも何か出来たかもしれないが、、。」
残念そうにフィリップが呟くと尽かさずサラが答えた。
「いえ、無理ですわ。」
「何故そう言い切れるのですか?」
「そうですわね。言葉では中々難しいのです。でも、何も聞かずにここで私と同じように過ごして頂ければお分かりになるかもしれません。いかがですか?」
「わかりました。では、今から貴女を常にフォローさせていただきます。」
フィリップは、身を乗り出してサラに詰め寄る。
「まずは何をするのですか?」
サラは明るい微笑みを浮かべて答える。
「何もいたしません。」
「は?」
「ですから何も致しません」
「サラ王女、、私はどうすればいいのですか?」
困ったように聞いてきたフィリップを見つめサラは言いたかった事を言った。
「もちろん!ダラダラのんびり過ごすのです!」
「ダラダラ?のんびり?」
「こうやるのですわ。フィリップ様。」
サラは更に深くソファに腰掛けて体を沈め背もたれに頭を乗せた。
そして、目を閉じてふぅーと深呼吸をして体の力を抜いた。
フィリップは生まれてこの方見たこともやったことも無いポーズを見よう見まねでやってみた。
「こ、、これは、、なんとも、落ち着きませんな、、。」
ふわふわとした感触がどうも落ち着かずビシッと座り直したかったがサラから真似してくださらないと私の望みはわかりませんと言われ、何とかその体勢を保って過ごしたのだった。
フィリップはその体勢のままで数を数えてしばらく過ごしそれでもサラが何も言わないので我慢出来ず話しかけた。
「サラ王女。サラ王女?サラ、、、」
返事が無いので目を開けてみるとそこには幸せそうに惰眠をとるサラがいた。ぐっすりと眠っているようでいくら話しかけても返事はない。フィリップは姿勢を正してサラの寝顔をゆっくりと眺めた。
そういえば常に何かをしていた為ゆっくりとサラを見つめたことがなかったのだ。
サラは明るい栗色の髪をふわりとソファに広げてそのエメラルドの瞳は閉じられているがその愛らしい顔立ちは隠しきれない。
「疲れさせてしまっていたのか?」
サラの目の下に薄く残るクマを見てフィリップは後悔を滲ませて呟いた。
そして控えている侍女に上掛けを持ってくるように言い、よく寝ているサラの体にふんわりと掛けてから既に冷めてしまった紅茶を飲んでその日を過ごしたのだった。
「ん、、、、。」
サラがゆっくりと瞳を開けると目の前には元通りビシッと姿勢正しく座り本を読むフィリップが見えた。
「フィリップ様?」
「ああ。お目覚めですか?よく眠っておられましたね。」
「あ、、私?眠って?、、って寝顔!!」
「すみません。貴女に教えて頂いた体勢を維持するにはまだまだ修行が足りないようで、、しばらくは我慢したのですが、、、これからもう少し長くダラダラ出来るように学んでいきます。」
そういうとフィリップはサラの体に掛かっていた上掛けを取り綺麗にたたむと侍女に預けた。もちろんフィリップの前のお茶もお菓子もきっちりと並んでいるし、よくみると暖炉の上の置物の位置も等間隔に直されているようだった。
なんとも気恥ずかしい思いをしたが、案外フィリップは好奇心旺盛で新しい事を学んだり、習得することに意欲的であるとわかった。
サラはそれならうちの生活が出来るかも?とフィリップの行儀見習いに期待を寄せた。
ビシッと正装で一分の狂いもなくやって来たフィリップに確かにオンとオフはなさそうだと感じたエドワードとアニーはひとつだけ条件を出した。
「えー。フィリップ殿。滞在時にひとつだけ約束して欲しいことがあるのだが良いだろうか?」
「はい。何なりと仰ってください。」
「ここに滞在中は時計を見ないようにしてみてくれないか?」
「時計ですか?構いませんが、それではスケジュールをこなす事が出来ませんが、、。」
「いいんだよ。必要な予定は君が連れてきた執事に伝えるよう手配しよう。フィリップ殿は時計を見ずに過ごしてみてくれたまえ。」
「はぁ、わかりました。」
不思議そうに返事をするフィリップに早速サラの元に連れていくよう侍従に命じると送り出した。
「フィリップ様は大丈夫でしょうか?
今日もお時間はぴったりにお着きでしょう?時間がわからないことに耐えられるかしら?」
心配そうなアニーにエドワードは少し意地悪く答える。
「まぁ始めの何日かはサラが感じたギャップを十分に味わってもらうよ。それくらいしないと理解出来ないからねオンとオフの必要性は。」
「そうねぇ。」
おっとりと答えたアニーは尚も心配そうにフィリップが出て行ったドアを見つめた。
「サラ王女、大使のお言葉に甘え貴国の事を学びに来ました。よろしくお願いします。」
そう言ってフィリップはサラの座るソファの横で先程と同じ90度の礼をした。
サラはもう嫌われてもいいくらいの覚悟で座ったままフィリップに返答した。
「フィリップ様、ようこそ我が国へ。至らぬことも多いと思いますがどうかのんびりと過ごしてくださいませ。」
「あぁ、わかりました。」
フィリップは座ったまま挨拶されたことに多少驚いたように見えたがどうにか平静を保っていた。
サラはドギマギしているフィリップにふっと笑みを浮かべてどうぞと目の前の席を勧めた。
フィリップは公爵家でのサラとの違いにも驚きつつ腰を下ろした。
「サラ王女、、貴女は我が家ではかなり無理をしておられたのか?」
「そうですわね。私は本当はそれ程出来た人間では無いのです。公爵家ではフィリップ様に嫌われないよう知らず知らずに無理をしていたのかもしれません。」
「そうですか、、。それならそう言って頂ければ私にも何か出来たかもしれないが、、。」
残念そうにフィリップが呟くと尽かさずサラが答えた。
「いえ、無理ですわ。」
「何故そう言い切れるのですか?」
「そうですわね。言葉では中々難しいのです。でも、何も聞かずにここで私と同じように過ごして頂ければお分かりになるかもしれません。いかがですか?」
「わかりました。では、今から貴女を常にフォローさせていただきます。」
フィリップは、身を乗り出してサラに詰め寄る。
「まずは何をするのですか?」
サラは明るい微笑みを浮かべて答える。
「何もいたしません。」
「は?」
「ですから何も致しません」
「サラ王女、、私はどうすればいいのですか?」
困ったように聞いてきたフィリップを見つめサラは言いたかった事を言った。
「もちろん!ダラダラのんびり過ごすのです!」
「ダラダラ?のんびり?」
「こうやるのですわ。フィリップ様。」
サラは更に深くソファに腰掛けて体を沈め背もたれに頭を乗せた。
そして、目を閉じてふぅーと深呼吸をして体の力を抜いた。
フィリップは生まれてこの方見たこともやったことも無いポーズを見よう見まねでやってみた。
「こ、、これは、、なんとも、落ち着きませんな、、。」
ふわふわとした感触がどうも落ち着かずビシッと座り直したかったがサラから真似してくださらないと私の望みはわかりませんと言われ、何とかその体勢を保って過ごしたのだった。
フィリップはその体勢のままで数を数えてしばらく過ごしそれでもサラが何も言わないので我慢出来ず話しかけた。
「サラ王女。サラ王女?サラ、、、」
返事が無いので目を開けてみるとそこには幸せそうに惰眠をとるサラがいた。ぐっすりと眠っているようでいくら話しかけても返事はない。フィリップは姿勢を正してサラの寝顔をゆっくりと眺めた。
そういえば常に何かをしていた為ゆっくりとサラを見つめたことがなかったのだ。
サラは明るい栗色の髪をふわりとソファに広げてそのエメラルドの瞳は閉じられているがその愛らしい顔立ちは隠しきれない。
「疲れさせてしまっていたのか?」
サラの目の下に薄く残るクマを見てフィリップは後悔を滲ませて呟いた。
そして控えている侍女に上掛けを持ってくるように言い、よく寝ているサラの体にふんわりと掛けてから既に冷めてしまった紅茶を飲んでその日を過ごしたのだった。
「ん、、、、。」
サラがゆっくりと瞳を開けると目の前には元通りビシッと姿勢正しく座り本を読むフィリップが見えた。
「フィリップ様?」
「ああ。お目覚めですか?よく眠っておられましたね。」
「あ、、私?眠って?、、って寝顔!!」
「すみません。貴女に教えて頂いた体勢を維持するにはまだまだ修行が足りないようで、、しばらくは我慢したのですが、、、これからもう少し長くダラダラ出来るように学んでいきます。」
そういうとフィリップはサラの体に掛かっていた上掛けを取り綺麗にたたむと侍女に預けた。もちろんフィリップの前のお茶もお菓子もきっちりと並んでいるし、よくみると暖炉の上の置物の位置も等間隔に直されているようだった。
なんとも気恥ずかしい思いをしたが、案外フィリップは好奇心旺盛で新しい事を学んだり、習得することに意欲的であるとわかった。
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