音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

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第百七十八話 初夜の相手は……

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 俺の家で寝ていた親族達は全員夕方前には帰宅した。
 そして俺は、父さんのせいでずっとそわそわしていて、正直落ち着かなかった。
 そうだよ、結婚する事に全力を注いでいたから、すっかり初夜の事なんて忘れていたんだよ。
 俺は今日、童貞を捨てる!
 この事実を目の当たりにした時、前世から童貞をこじらせている俺はじっとしていられなかった。
 あちこちふらふら歩いてみたり、剣を握って素振りをしてみたり、腕立て伏せをやったり。
 そんな俺を見た父さんは、「出産を心待ちにしている父親かよ」と笑っていた。
 だってさ、落ち着かないんだぜ? こちとら初めて女性と致す訳なんだ!
 前世のエッチなビデオで知識はある。あるにはあるが、実戦とはかなりハードルが高いんだぜ?
 さらに、嫁達は親族を見送った時以外、部屋から一切出てこない。
 誰が俺と初夜を過ごすのかを決めたり色々相談をしているらしい。
 少しでも話して気を紛らそうとしたんだが、そうはさせてくれなかったから余計にそわそわする。

(誰だ、誰が俺の相手になるんだ!?)

 あまりにも落ち着かないから、中庭で右手に赤の名剣レヴィーア、左手に青の名剣リフィーアを両手に持って、仮想敵をイメージして戦う事にした。
 所謂シャドーボクシングに近いものだ。
 仮想敵は、現在もっとも最強の敵である、俺自身。
 何故なら俺は、聴いている曲によって戦闘スタイルを変える事が出来る。だから練習相手として自分自身を仮想敵に置くのは非常に訓練になる。
 後、戦っていれば気が紛れるしな!

 目を瞑り、集中する。
 暗闇の中に同じく両手に名剣達を持った俺が現れる。
 俺と目の前の俺は、剣を構えずに両腕をだらんと垂らしている。
 成程、向こうも様子見って訳か。
 無論、目の前の俺は実体がない。だからこの訓練では剣で受け止めるという選択肢は省き、互いの攻撃は全て回避のみとしている。
 俺と目の前の俺は同時に地面を蹴り、距離を詰めた。
 お互い考える事は同じか!
 ならば攻撃も同タイミングか?
 俺は自分から先手を打たず、相手の斬撃を回避してから反撃する事にした。
 すると、目の前の俺は斬撃を放ってこなかった。代わりに俺の頭部目掛けて回し蹴りを放ってきた!

「うおっ!?」

 我ながら唐突な攻撃をしてきやがる。
 予想外ながらも身体は反応し、しゃがんで蹴りを回避。同時に蹴りの軸足となっている左足に対して俺は水平に右手で剣を薙ぐ。
 赤い剣閃はそのまま空を斬った。つまり、左足を斬る事は出来なかったんだ。

(ちっ、飛んで避けやがった!)

 上に飛んで視界から外れたもう一人の俺を視線で追いかけると、空中で両方の剣を振り下ろそうとしていた。
 俺は咄嗟に横に短く飛んでこれを回避、大きな隙を作った目の前の俺に対して首を斬ろうと青の名剣リフィーアを振り下ろす。
 しかし流石は俺、剣を手放して殴ってきやがったんだ。
 この訓練での設定は、一発何かの攻撃を貰ったら負けとしている。
 つまり目の前の俺が放ったパンチが当たったら、俺が負けになる。
 俺は辛うじて攻撃を中断し、後方にステップして何とか回避出来た。

(かーっ! 我ながら戦いにくいぜ!)

 お互いに距離が空いた状態。
 目の前の俺は剣を持って立ち上がる。
 俺も呼吸を整えて、一撃に全てを乗せるつもりでさらに集中する。
 そして、また同時に地面を蹴って、互いの距離を詰める。
 恐らくお互いに同時に攻撃をするだろう。
 ならば俺は、目の前の俺の剣速を越えて、先に斬り捨てればいいだけの話だ。

「ふっ!!」

 青い剣閃が一瞬煌めき、目の前の俺の首を通過した。
 しかし、流石はもう一人の俺。
 向こうは敢えて斬撃をせずに突きを放ってきていて、俺の左胸を貫いていた。
 斬撃より突きの方が予備動作は少ないし、ワンテンポ速く攻撃を仕掛けられる。
 しかし俺は持てる限りの力を貯め、突きの速度と同等だった為に今回は相討ちだった。

 俺は集中を解いて、目の前の俺を消した。

「くっそ、あそこで突きを放ってくるかよ、俺……」

 実力が拮抗しているからこそ、俺自身との戦いはいつも五分以上は続かない。
 そして大抵が相討ちで終わってしまう。
 俺は何とか相討ちを抜け出して、一回でもいいから勝ちたいと思っているんだけど、もう一人の俺はそのつもりはさらさらないらしい。
 自分を越えるってのは、なかなかに難しい。
 さて、夕食までまだ時間があるし、もうちょっと自分自身と戦うか。
 俺は日が落ちるまで、何度も俺自身(イメージ)と戦って、初夜の緊張を誤魔化した。

 いつも決まった時間に夕食を食べる。
 今は夜の七時。
 俺は滲み出た汗をタオルで拭き取り、いつも食事をする部屋へ向かった。
 だが、誰もいなかった。
 机には俺用の食事が置いてあり、そして何か文字が書かれている紙が置いてあった。
 俺は紙を手に持って読んでみた。

『食事が終わったら、ご自身の部屋へ向かってください。待っています』

 ま、待ってるのか、俺の部屋で。
 しかしこれ、誰の字だ?
 わからないようにわざと丁寧に書かれていて、誰が書いた文字かさっぱりわからなかった。

 つ、ついに俺、今日童貞を卒業するのですね?
 めっちゃくちゃ緊張するんですけど!?

 あまりにも緊張していて、一人の夕食はかなり長く感じた。
 早めに食べているつもりなんだけど、世界がまるでスローモーションになったかのような感覚だ。
 それにリリルが作ってくれた美味しいご飯の筈なんだが、一切味が感じないんだ。味覚までバカになっちまったようだ。
 いや、ちょっと待て。俺汗かいちゃったよな?
 一瞬でも風呂に入って体を洗った方がいいんじゃないか!?
 今の俺はもしかしたら汗臭いかもしれない。それで嫁達が嫌がったら、俺はショックから立ち直れない自信がある!
 ええい、味は感じないし体感速度も遅く感じるが、一秒でも時間が惜しい。
 俺は料理を口の中にガツガツと入れ、そんなに咀嚼しないで飲み込む。
 さくっと飯を済ませて風呂に入り、シャワーで体を流す。念の為に愚息は念入りに洗っておく。
 恐らくこれで臭いは大丈夫な筈!
 さっさと体をタオルで拭いて服を着た後、速攻で自分の部屋に向かった。
 自分の部屋の前に立った瞬間、心臓の鼓動が煩くなり、緊張で汗が出てきている。

(誰だ、誰が俺の部屋で待っている?)

 部屋の中にサウンドボールを投げて声を聞こうとしたけど、そんな野暮な事はしないでおいた。

「すー、はー、すー、はーっ……。よしっ!」

 ドアノブに手を置いて捻り、ゆっくりドアを開いた。
 自分の部屋なのに、「……お邪魔しまーす」と小声で言いながら入った。
 そして、俺の部屋には――――

「誰もいないんかーーーーーいっ!!」

 誰もいませんでした。
 あっれぇ? おかしいな、あの紙には部屋で待ってると書いてあったのに……。
 何だよ、お預けプレイですか!?
 くっそぅ、俺の愚息はあまりの期待に怒張していたのに!!
 がっかりしていた時、突然部屋のドアが開いた。
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