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第百八十六話 新たな仲間、新たな行動
しおりを挟む「うぇんぶりぃ? 聞いた事がない言葉だな」
「まぁ、俺が考えた名前だから。適当中の適当」
「町の名前を適当に付けるな……」
嘘だけど。
説明するのも面倒だから、適当って事にしておいた。
ちなみにこの世界では《ウェンブリー》という単語は存在していないから、親父は首を傾げていた。
うちの嫁達も同じ反応だな。
「町の計画案はこれで問題ないだろう。しかし、結構時間が掛かると思うな」
「確か最初だけ国が支援してくれるんだっけ?」
「ああ。ハル殿もそれなりに資金を貯めているようだが、これは決まりだからな」
この国は、初めて領地を持つ貴族に対して、最初だけ支度金と領地の要となる屋敷と、貴族の要望を一つ無償で叶えてくれる。
もちろんこの要望については無条件という訳ではない。それなりの理由があればいいらしい。
まず屋敷に関しては色々飛び越えて侯爵になったので、大きめの屋敷を用意してくれる。
そして重要なのは、俺の要望だ。
「それで、俺の要望は通る?」
「ほぼ通せるが、一応用途も聞かせてもらえないか?」
「ああ。俺はさ、もっと音楽を誰でも気軽に聞けるようにしたいって前に話したじゃん?」
「うむ、聞いている」
「だから俺の町は、誰でもそんなに高くないお金を払ってくれたら、誰でも楽しめる所にしたいんだ」
「そこで、ステージが設置されている広場、という訳か」
「その通り!」
俺の要望は、広場にライブステージを作って貰う事だった。
将来的に俺の領地で、野外ライブをやりたいって思っていたんだ。
もちろんそれで集客が望めれば、俺の領地で買い物をしたり宿泊したりする客も増えるだろうから、同時にこちらにも収益があって旨味がある。
さらに今後誰かがこのライブステージで公演したいという希望があれば、使用料も取る事が出来る。
後はライブの価格設定を庶民でも払える位に設定すればいいだけだ。
この世界での音楽家は、一演奏で平均五十万ジル――日本円で五十万円も貰っている。
ターゲットはほぼ貴族。公演をするにしても入場料が八万ジルもする為、庶民からしたら相当貯金をしないと聴く事が出来ないものだ。
ちなみにこの世界の平均月収は十三万ジルらしい。物価がそこまで高くないからこの月収で暮らせるんだろうけど、公演に参加したいとなったら別問題だ。
こんな金額だから、音楽は貴族が占領しているなんて言われるんだよ。
俺はそれがすこぶる気に食わない。
今回、俺達のバンド《親友達》はアルバムを出した。
前世基準で考えたら五千ジルはアルバムでも高いけれど、それでも俺達がやった事は、現在の音楽市場の価格を大きく低下させた。
結構世界中に広まっているようだし、貴族も当然俺達の値段を知っただろう。
恐らく、今まで五十万ジルも払っていたのが馬鹿らしく感じるんじゃないだろうか。
「ちなみに、このライブハウスというのは何なのだ?」
「ああ、それは会場費を払えば誰でもライブを開く事が出来る施設さ。規模は小さいから、売り出し中の音楽家とかがここで名を売ってステップアップする場所とでも思ってくれ」
「す、すて? ……つまり、登竜門みたいなところか?」
「そう思ってくれて構わない。一応酒とか食べ物も出るからバーにも出来るし、仲間内でライブをするというのもありだ」
「よく想像できんなぁ。とりあえず実際に運用してみなさい。ちなみに、もし儲けられずに失敗したら罰があるからな?」
「ば、罰!?」
「うむ。今回領地の準備に約半年程掛かる。実際領地が出来上がったところから三年以内に規定値の納税が出来なかった場合、爵位剥奪――つまり、一般人となる」
「一般人に戻るだけ?」
「君ならそういう反応をすると思ったが、君にとってはかなり不利益になるぞ」
「一般人に戻る事…………あっ!!」
「気付いたか」
気付いちゃったよ気付いちゃったよ!
一般人に戻るって事は、嫁さんは一人だけになる!
となると、誰か一人を選んで、残り二人を切らなくちゃいけないって訳!?
だめだめだめだめ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
それはいかんですよ!
「貴族が何故必死になっているか、それは爵位が外されるからだ。莫大な収入を得られるし、国からも見合った年金も入る。つまり、領地運用が波に乗って納税も出来れば、動かなくても勝手に収入が入ってくるんだ。まぁそこまで行くのが一苦労なのだがな」
あぁ、不労収入って奴ですか。
なるほどねぇ、貴族も頑張ればそういう運用も出来るって訳か。
そりゃ皆必死になるわな。
そういう都市作成ゲームとかでも、最初は収入を増やすのに滅茶苦茶苦労する。でもある程度発展したら、後は意外と見てるだけっていうパターンがあるよなぁ。
一度俺はそういうゲームをやったけど、後半は全く変化がないから飽きちゃって止めるんだよな。
うん、より一層気を引き締めて領地運用しないといけないな。
俺が心の中で決意すると、そんな様子を見た親父が頷いた。
「うむ、良い表情になったな。脅してすまないが、この領地運用の計画案があまりにも未知数でな。未知数という事は成功と失敗が隣り合わせ、だから失敗した場合どうなるかを知って欲しかったのだ」
「いや、気が引き締まったから助かったよ。下手をすると嫁達と別れなくちゃいけないって事なんだから、油断していられないってのがよくわかった。ありがとう、親父」
「ふふふ、そこで怖じ気付かずに気を引き締められるハル殿は、流石と言えよう。君は貴族の世界は初めてだろうから、いくつか提案をしよう」
「提案?」
「そうだ。まず一つ目」
親父が指を鳴らすと、扉から燕尾服を着た初老の男性が入ってきた。
誰だ、この人?
でも何となく感じる。執事風で背筋も伸びていて上品な振る舞いなんだけど、とてつもなく強い。
「我が娘アーリア、そしてレイ嬢がいればある程度は大丈夫だろうが、貴族の駆引きとなると恐らく不安があるように余は思う。そこで、貴族の情報や駆引きに秀でている《影》をくれてやろう」
「えっ、この人は《影》なのか? ってかいいのかよ、親父を守る部隊だろ!?」
「安心しろ。こやつは実は定年でな。今まで仕えた褒美をやろうとしたら、残り少ない生涯をアーリアとその旦那を支える為に働きたいと申し出てな」
そういえば、《影》の皆さんはやけにアーリアの事が好きなんだよなぁ。
まるで孫として見ているような感じなんだよ。
初老の男性が、一歩前に出て頭を下げた。
「ハル様、アーリア様、レイ様、リリル様、初めまして。私は《影》の隊長をしておりました者です。名前は当の昔に捨てたので、ありきたりで申し訳御座いませんが《セバスチャン》と呼んでくださいませ」
『よろしくお願いします』
俺と嫁達はセバスチャンに頭を軽く下げた。
するとセバスチャンが軽く笑って見せた。
「貴方達は大変お優しいですね。下の者に対して頭を下げるとは。姫様も素晴らしい方と結婚された事、心の底から喜ばしく思います」
「ありがとうございます、セバスチャン。わたくしもとても幸せですの」
「貴女様の表情を見て、そう感じられます。ああ、《影》の悲願が叶って嬉しいです」
何だよ、《影》の悲願って……。
レイが席を立ち上がり、着ていたドレスのスカートの両端を軽く摘まみ挨拶をした。
「初めましてセバスチャン。僕はレイ・ゴールド――じゃなかった。レイ・ウィードだよ」
「ゴールドウェイ家の《麗人》でいらっしゃったレイ様で御座いますね? 存じ上げております。これから生涯を掛けて仕えていきたい所存ですので、どうか宜しくお願い致します」
「うん。僕の旦那様の事をしっかり支えて欲しいな」
「勿論で御座います」
次はリリルだ。
リリルはあまり礼儀作法は慣れていない。まぁ勉強中ってところだ。
不馴れな感じでスカートの両端を摘まんで挨拶をした。
「は、初めまして! えと、リリル・うぃ、ウィードです。その、あまり作法とかわからないので、色々教えて欲しいです!」
「畏まりました」
「よ、よろしくお願いします!」
最後は俺。
俺が立ち上がった瞬間、セバスチャンはいつの間にか俺の眼前まで迫っていて、手を握ってきた。
って、マジで気付かなかったんだけど!
何したこの人!!
「この度は、この度は!! 本当に姫様と結婚して頂きまして、有難う御座います!!」
「あ、はい」
「我ら《影》は、あまりに貴方が姫様に振り向かないので、初恋が叶わないのではと絶望しておりました!!」
そ、そこまでかよ。
「ですが、ようやく貴方は姫様に振り向いてくれて結婚もして頂けた! 我らの悲願は叶ったのです!!」
「お、落ち着いて? ちっと怖い」
「この感謝の気持ちを込めて、そして《影》の代表として、貴方に精一杯尽くす所存で御座います!!」
怖い! そして重い!!
どんだけアーリアの事好きなんだよ!!
アーリアの方に視線を向けると、困っているような笑顔を浮かべている。
レイとリリルに関しては、一歩引いているようで、無表情に徹している。
親父はというと、困り果てている様子。
なるほど、この人のこれは病気だ!
「わーかったわかった! いい加減落ち着けって!」
俺が手刀をセバスチャンの脳天にかまそうとしたが、逆に彼に手首を掴まれてしまった。
あんなに乱心していたっていうのに、まさか防がれるとは思わなかった。
「私の役目は、ウィード家を守る事で御座います。各貴族の情報収集に屋敷警護をさせて頂きます。もちろん私は執事なので、皆様の身の回りのお世話をさせて頂きます。どうぞ、宜しくお願い致します、旦那様」
「う、うん。よろしく」
やばい、この人は本気で強いぞ。
頼もしい人が俺の味方になってくれて、本気で心強い。
「旦那様、私の部下五人もご一緒させて下さい。執事二名にメイド三名で御座いますが、身の回りのお世話は勿論、《影》としても優秀で御座います」
「それは願ってもないけどさ、《影》を六人も貰っちゃっていいのか、親父?」
俺は親父の方に視線を向けると、大きく頷いた。
「ああ、いいぞ。余としても、可愛いアーリアに死なれては悲しいからな」
「そっか。じゃあありがたく頂くよ。何から何までわりぃな、親父」
「気にするな。しっかりと納税してくれよ?」
「わかってるよ」
確か貴族との駆引きも秀でてるって言っていたよなぁ。
ならば、是非とも活用しようじゃないか。
俺の魔法があれば、ある程度は何とでもなるしな!
そうだ、まだ何かあるみたいなニュアンスで親父は話していたな。
何だろう?
「親父、一つ目はセバスチャンの事だとして、二つ目は?」
「うむ。二つ目は王都に大学があってな、そこに《貴族科》というものがある。そこに入学を薦めようと思ってな」
「は? 貴族科? なんじゃそりゃ!!」
大学で《貴族科》だ?
意味わからん学科なんですけど!!
「世の国では、秀でた能力を持っている人材には惜しみ無く爵位を与えている」
「まぁ、うちの国って他の国より爵位になりやすいって言われているな」
「そうだ。勿論平民が貴族になったりする訳で、貴族社会の右も左もわからぬ者もいる。その為に我が国の大学では『貴族とはなんたるや』かを教える学科がある。それが《貴族科》だ」
ああ、なるほどねぇ。
確かに俺もよく貴族の事なんてわからねぇわ。
最初からわからない世界に飛び込むより、大学で基礎知識を学んだ方がいいかもしれないな。
「学科としては半年だ。礼儀作法や貴族の歴史、領地運用に役立つ基礎経営学といった内容だから半年で済む。ちょうど領地の準備中に学べるだろうし、他の貴族とコネを作る事も出来るぞ。恐らく最近入学式が終わったばかりだから、皆と同じスタートを切れるぞ」
ん~、これは行った方がいいだろうなぁ。
うん、決めた。
「わかった、入学するよ。もし可能なら、アーリア、レイ、リリルも一緒に通いたいんだけど、それって出来る?」
「「「え?」」」
俺の言葉に嫁達三人が驚く。
「ほら、やっぱり三人と一緒にいたいしさ。それに三人も貴族婦人になる訳だから、改めて勉強するのもいいと思うし、アーリアにおいては元王族で貴族じゃない。もしかしたら貴族社会の事はわからないかもしれないだろ?」
「ふむ、確かに王族と貴族では、社会構造に違いがあるな。わかった、では四人とも大学で学びなさい。ハル殿は学んだ事を領地運用に活かし、アーリア達は学んだを活かして夫であるハル殿を支えなさい」
「「「はい」」」
嫁達が笑顔で返事をした。
でも嬉しいなぁ、この三人と学校に行けるのがさ!
「またハルと一緒に学校へ行けるね!」
「うん! 私も楽しみ!」
「わたくしはハル様と一緒に学業に励むのは初めてですので、非常に嬉しいですわ!」
嫁達はとても喜んでいる様子だ。
よかったよかった。
これからも彼女達と一緒にいられるように、爵位剥奪だけはならないように気を付けよう。
この、愛しい笑顔を失わせないように。
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