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第二百三十話 ハル・ウィード侯爵の名裁き 1
しおりを挟む――アレクセイ視点――
俺は、端的に言えば戦争に大敗した。
五万もの兵を揃えたにも関わらず、短時間で一気に五千未満にまで減らされてしまったのだ。
何が起こったかわからず放心していると、気が付いた時にはハル・ウィードに捕虜として捕まっていた。
未だにどんな方法を使って《エクスプロージョン》を超長距離で放つ事が出来たのかがわからない。
俺に取り込まれた貴族達も生かされたまま捕らえられた。
同じ牢屋にぶちこまれ、質素な飯を食っては寝るという生活をしていた。
誰も一言も話さず、ただ時が過ぎるのを待った。
俺達は、クーデターに失敗したんだ。
待っているのは死罪のみ。
死の恐怖に耐える為、ひたすら無言を貫いていた。
喋る余力すらない。喋った途端、不安と恐怖で心が押し潰されてしまい、ハル・ウィードへの呪詛しか言わなくなるだろう。
大体三日経っただろうか、一日が非常に長く感じた。
何もしていないんだ、時の流れが遅くなっても仕方無いだろう。
そして今日、多分俺達は死ぬ。
何故なら、普段食事を運んでくる時以外誰も来ない牢の通路奥から、足音が聞こえた。
ガチャガチャという音も聞こえるから、鎧を着た兵士だろう。
急に押し寄せてきた死という恐怖に、全身が震え出した。
他の貴族もガクガクと震えている。
足音は、俺達が放り込まれている牢屋の目の前で止まった。
顔を上げて見てみると、白銀の鎧を着込んだイカつい顔をした兵士だった。
「来い、反逆者共。今から貴様達を別の場所に移動させる」
来た、ついに来てしまった。
俺は抗いたかったが、この兵士に勝てる気が微塵もしなかった。
なんせ、食事を与えられていたとはいえ、最小限の食事だ。力も一切入らない。
俺達は兵士に従って牢を出て、こいつの後ろをついていった。
牢屋を出ると別の兵士三人が俺達を囲むように配置される。
この三人も屈強な兵士だろう、体格が非常に良い。
走って逃げてもいいが、重い鎖で繋がれたこの手枷と足枷を何とかしないと、絶対に逃げ切れない。
従う他、なかった。
三日ぶりに外に出た。
本日は快晴。雲一つない良い天気だった。
まるで俺達が天に昇るのを歓迎しているかのような、忌々しい青空だ。
俺達はウェンブリーの街を歩かされる。
周囲はこの街の住民であふれ返っており、怒気が混じった視線を俺達に向けてきていた。
無数の敵意を全身に浴びるのは、想像以上に精神的に来るものがある。死ぬ恐怖に必死に耐えているのにこの敵意、今にも吐きそうな気分だ。
十分位歩かされ辿り着いたのは、人が二十人程乗れそうな台座が設置された広場だった。
どうやらここが俺達の処刑場らしい。
「早く行け」
兵士に急かされて、俺達は壇上する。
すると、用意されていたのは断頭台でも何でもなかった。俺達の人数分用意された椅子に横長の机。そしてその向かい側に豪華なソファが用意されていて、足を組んで座っている赤い髪の青年がいた。
こいつが、ハル・ウィードか。
謎の方法で俺達を下した張本人。
「来たか、アレクセイとそのお友達。アレクセイは先頭で、その他は適当に座ってくれ」
馬鹿にしているように鼻で笑い、兵士を使って俺達を着座させた。
自信に満ち溢れている目をしている。
それが今の俺にとっては相当癪に触る。
「さて、諸君。これから君達に処罰を与える。すでに国王陛下からは許可を頂いているものだから、今から読み上げる内容は陛下の御言葉と変わらないものと思え」
奴の後ろに控えていた執事が、金色の板を持ってきた。
その上には一枚の書状。
これはドールマンのくそったれが用意した書状だというのがわかった。
ハルは丁寧にそれを受け取り、封を切って書状を広げる。
「まずはアレクセイ・フォール。貴様は国王陛下に対してクーデターを企み、その一貫として我が領地を攻撃してきた。非常に許しがたい所業である。よって貴様には、以下の金額を支払う為に一生を使う事を命ずる」
「――――は?」
死罪、ではない?
むしろ金を払えというのか、一生を掛けて?
どういう意図があるのだ?
するとハルが俺に対して書状を差し出してきた。
直接確認しろという事か。
俺は受け取って内容を確認する。
その金額を見て、俺は心臓が止まりそうになった。
「ご、ご、五兆ジル!? な、何なんだ、その法外な金額は!! 国家予算の三年分相当ではないか!?」
周囲もざわつく。
まずあり得ない。いち貴族が生涯掛けて稼げる金が良くて一兆ジルと言われている。
それを一生掛けて五兆を支払えと言うのか!?
俺はハルに視線を向けた。
奴は、冷たい視線で俺を射抜く。
「俺はてめぇの悪事をしっかり把握している。てめぇが行った極悪非道の数々は、正直五兆ジルでも安いもんさ。さぁ、今日からきっちり働いて、五兆を支払いな」
目の前が、真っ白になりそうだった。
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