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第二百三十三話 ハル・ウィード侯爵の名裁き 4
しおりを挟む――《音楽の街、ウェンブリーの軌跡》九十八ページ第一章より抜粋――
こうしてハル・ウィードは、自身の領民の前でクーデターを起こしたアレクセイ・フォールを裁いた。
他の町からも彼の裁きを観に、遠方遙々からやって来る人もいた程だ。
そこで皆は思い知る。
若き英雄は優しく才能に溢れているだけではない。
味方に対してはとことん優しくしてくれるが、敵に対しては容赦を全くしないのである。
自発的にアレクセイの傘下に入った貴族は、遠慮なくその場で首を跳ねられた。
傷口からあふれ出る鮮血に、領民は吐き気を催す者も少なくなかった。
そんな残酷な光景を、何とも興味が無さそうに見つめる若き英雄。
彼の敵になった時、全力で遠慮なく排除しようとするだろう。
この裁きを見て領民達は、才能溢れる自身の領主には牙を向けないように努めようと誓ったという。
しかし、謎が残る。
何故首謀者であるアレクセイが生かされているのか。
アルディア、ファーレンス、ガルディスの御三家は非道な方法で傘下に加わるしかなかったので、生かされている理由はまだわかる。
だが、国王殺害まで目論んでいた奴が生かされているのはどうしてなのだろうか?
いくら借金があったとしても、奴はのうのうと生きていくに違いない。
地獄を見る?
貴族は金を稼げる立場だから、きっと何とかしてしまうだろう、と誰もが思った。
そんな考えは、実は浅かった事を知る。
アレクセイは文字通り、その生涯を終えるまで地獄を見る事となった。
まず一つ目。
アレクセイは骨董品を集めるのが趣味であった。
しかし陛下から派遣された三人の管理官の判断により、全て売却されて借金返済に充てられた。持ち主の許可なしにだ。
当然ながらアレクセイは激昂した。
三人の管理官は細身で大層美人だった為、きっと男の自分であれば腕力でねじ伏せられると思ったのだろう。
そこが間違いだった。
陛下が派遣したこの三人は、戦闘訓練を受けている女戦士でもあった。噂では陛下お抱えの暗部出身ではないかとの声もあがっていた程だ。
三人に返り討ちにあったアレクセイは、半日掛けて全ての指の爪を剥がされ、二度と骨董品を買わないように誓わせたという。
ここでアレクセイは、金を好きに使う自由を完全に奪われたのだった。
二つ目。
独身であったアレクセイは、いつの間にか結婚が決まっていた。
レミアリアの海沿いに面した場所で栄えている港街を管理している貴族、リージョン伯爵家の一人娘であるアリーゼとだった。
そもそもアレクセイはクーデターを起こした大罪人である。そんな彼に娘をやる貴族なんている筈もないと思われていた。
しかし、このリージョン伯爵家のアリーゼは違った。
満三十歳になった、貴族の娘としては完全に結婚に行き遅れてしまった腫れ物なのだ。
しかもこの娘、引きこもり体質で体型はまるで肥えたオークのようになってしまっており、その醜さから誰も嫁に欲しがらなかった。
そんな彼女といつの間にか結婚する形になっていた。
アレクセイは驚愕した。
当たり前である、自身の好みとはかけ離れた女と結婚する事になるのだ、地獄でしかない。
リージョン家としても、アリーゼをさっさと結婚させたかった為、大罪人であるアレクセイであろうとも喜んで娘を送り出したのだった。
まぁ適当にあしらっていればいいだろうとアレクセイも思っていたのだが、残念ながらそうはいかない。
アリーゼはとんでもない大食漢だった。
アレクセイが頑張って領民に謝罪し、どん底だった信頼を誠意を見せて少しずつ回復させ、収入も何とか戻ってきて貯金が出来そうだった。
しかし彼女は遠慮なく食べる。食べる。食べ尽くす。
彼女の食費で貯金は無くなっていく。
アリーゼを養う為に、アレクセイは自身の私財を使っているような形となってしまったのだ。
まだまだ続く。
アレクセイはアリーゼと初夜を迎えた(どうやら三人の管理官によって強制的に、との事)。
その際にアリーゼは性の素晴らしさを覚え、毎晩のようにねだった。
多い時は一晩で四回も。
全く好みでもない女を抱くという苦しみが、毎晩続いた。
そして決定的な出来事が彼を襲う。
ついにアリーゼは、何処からか仕入れた情報により、男性の上に股がるという体位を習得してきた。
体重はアレクセイの一.五倍程もあるアリーゼに上で好きなように動かれてしまい、耐えきれなくなったアレクセイの体は腰を骨折、さらには男性器があらぬ方向へと曲がってしまったのだ。
こうしてアレクセイは、男性機能の大半を失ってしまい、男性としての悦びを二度と味わえなくなってしまった。
ちなみに、子供はしっかり出来たようだ。
自由も奪われ、女すら抱けなくなったアレクセイは、生涯を終えるまで無気力に働いた。
目には生気が宿っておらず、ただただ金を稼ぐために働いた。
そんな彼は、四十五歳になった時に突然死を迎える。
死因は不明だったので解剖して解明しようとしたのだ。
そして結果は、彼の脳が拳程度の大きさに縮んでいたのだった。
脳が縮小した事により、生命機能が失われて死亡したのだろうと結論付けられた。
彼は終始早く死にたいと口にしていたと言う。
もしかしたら脳がその願いを聞き届け、縮小した事で自身を殺したのではないかと噂されているが、学術的な証明は未だされていない。
ちなみにアレクセイは死亡するまでに何とか一兆ジルは返済していた。
ただただ無関心に働いていた為に、ここまで返済できたのだった。
ただしまだ四兆も残っている。
残った負債は、彼の息子に引き継がれ、そしてさらに息子の息子に引き継がれとバトンを渡されていき、十三代に渡って何とか完済したという。
話はウェンブリーの街に戻す。
クーデターが終結して一ヶ月後、終結させた功績を称えられてついにハル・ウィードは公爵になった。
さらなる領地拡大に加え、アルディア、ファーレンス、ガルディスの御三家と協力関係を築き上げた事によってさらなる莫大な利益を得る。
元々音楽活動による収益も他の貴族の追随を許さない程だったが、拡大していく街に合わせて税収も増していき、レミアリアで一番の財力を持った貴族として名を知らしめす事になる。
そんな順風満帆の彼にとって、大事件が起こった。
待ちに待った第一子の誕生の瞬間が訪れたのだった。
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