音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

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第三十話 俺、とあるお誘いを受ける!

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「はぁぁ、またやっちまったぁ……」

「そんな綺麗な曲を弾きながら悪態付くなよ……」

 俺はあれから家に帰り、リビングでリューンを弾きながらため息を付いた。
 曲は適当、俺が即興で弾いている。
 俺の後悔ばかりの荒れた心を、リューンで癒している訳だ!

「まぁハルが誰かに噛み付くのは今に始まった事じゃないわね」

 母さんがケラケラ笑いながら言った。
 ……まるで俺が毎回噛み付いているようじゃんか!

「「噛み付いてる」」

 おっと、心の中で言っていたと思ったら、口に言っていたようだ!
 二人から同時にツッコミいただきました!

「しかも大体が、お偉いさんだな」

「うっ、言い返せねぇ」

「だろ?」

 父さんまでもケラケラ笑って言った。
 うん、残虐貴族もしかり、今回のアーバインっていう自称音楽極めたクソ野郎もしかりだよ。
 でもね、ただ理由もなく噛み付いている訳じゃない。
 俺が気に入らないと思ったから、動いているだけであって……。

「でも、母さんとしては、ちょっと安心しているのよ?」

「えっ? どういう事?」

「だってハル、生まれた時から手がかからなくて、喋るようになったと思ったら、何でも出来ちゃうからねぇ。私とお父さんの子なのに、天才が生まれちゃったって思ったわ」

 母さんの言葉に、父さんが「ちょっと待て、俺とお前の子なのにってのが引っ掛かるんだが!?」と反論していたが、母さんは華麗にスルーしていた。

「ハルに教える事は何もない、私達はただのハリボテの親なんだって実はちょっと落ち込んでた時期もあったのよ。でもね、何だかんだでハルも失敗して落ち込んだり、やらかしたって後悔してたりしてて、この子は天才以前に普通に人間なんだなって思えるの」

 俺が黙って聞いている。
 母さんの言葉は続く。

「だから私から一つ助言をするわね?」

「うん」

「ハル、あなたはそのまま突き進みなさい」

「えっ?」

「あなたのその行動力は、よくも悪くも周りに影響を与えるわ。それは、普通に平和に暮らすよりかもたくさんの刺激があって、人間として成長出来るの。称賛を浴びるだろうし、批難も受けて後悔もすると思う。でもね、人間はそうやって成長していくの」

 ……成長か。
 最近つくづく思う事がある。
 どんなに長く生きようが、人生ってのは後悔と学習の連続だって。
 どんなに異世界で前世の記憶を引っ張ってこようが、完璧に立ち回れないし、上手くいかない事の方が大きい。
 俺は父さんの無くなった左腕をちらっと見た。
 父さんのあれは、俺の後悔と失敗を具現しているものだ。
 でもあの出来事があったからこそ、俺は戦闘では一切油断しなくなった。おかげで残虐貴族の従者達との戦いでも、相手の命を奪う事に躊躇いはなかった。
 これもある種の成長だな。

「平穏を求めたら、そこで人間の成長は止まるの。まぁ今の世で平穏なんて、相当な貴族様じゃないと無理だけどね」

「確かにな」

 この異世界は命を散らす危険性が高すぎた。
 ウェアウルフ等の魔物もいるし、横暴な貴族から理不尽な暴力を受ける。
 俺の国にはないらしいが、他の国では奴隷制度もあって、とある富豪は誰かを殺したいが為に奴隷を買い、斬り捨てているのだとか。
 一度ミスをした瞬間、人生転落どころか命を落とす事になるわけだ。
 だから、平穏を望んでもほとんどが叶わない。

「とにかくハルは、そのまま突き進みなさい! ハルなら、どんな受難も跳ね返せるわ」

「いくらなんでも、それは過大評価じゃね?」

「ううん、ハルは跳ね返せる。だって、私と父さんの子供だもの」

 母さんは父さんの所まで歩き、父さんを背後から抱き締める形でそう言った。
 父さんと母さんの子供、か。
 ああ、前世では一度も言って貰えなかった、喉から手が出る位欲しかった言葉だ。
 この世界は命が軽い。
 でも俺は、この世界が大好きだ。
 こんなに、こんなにも、俺が前世で欲しかったものを与えてくれている世界なんだ。嫌いな訳がない。
 俺は泣きそうになるのを堪えて言った。

「ありがとう、母さん」

「うん! さぁハル! 何か弾いて頂戴!! 久々に歌いたくなっちゃった!!」

「いいね、久々にリリーの歌声を聴ける!」

「ふふ、あなたへ贈った愛の歌、歌っちゃおうかしら?」

 現在三十四歳の母さんは、相変わらず美人だ。
 その笑顔は眩しい。
 うん、いつまでも元気で、そのままで暮らしていって欲しいな。

 俺達家族は、夜遅くまで音楽を楽しんだ。
 俺が即興で弾いた曲に、母さんは「そんな凄い演奏、王都でも聴けないわ!」と戸惑っていたが、母さんも即興で歌を紡いだ。
 父さんは「いいぞいいぞ!」と言いながら、リズムに合わせて手を叩く。
 俺は意地悪してたまに早弾きすると、母さんは無理無理と焦ってたのは笑った。
 本当に、楽しい時間だったよ!







 まぁ楽しい時間の後に事件が起こるってのは、結構テンプレな訳であって。
 俺も案の定そのテンプレに当てはまってしまった。
 翌朝学校へ登校した俺は、アンナ先生に速攻で校長室に来るように言われた。
 なんで!? とか思ったけど、入った瞬間理由がわかった。

「やぁ、ハル君」

「…………………………」

 ちょび髭のナイスミドルなアーバインが、校長室のソファに座っていた。
 まさか、速攻で学校まで来るとは……。
 チャップリン校長は、自分の椅子にのほほんと座っている。

「とりあえず、座りたまえ」

「う、うっす……」

 俺は向かい合うようにソファに座った。
 うわぁぁ、昨日あんな事やらかしちまったから、顔を合わせにくい!!
 俺はなるべく目を合わせないように、視線をそらし続けた。

「ははは、安心したまえ。昨日の事でどうこう言う為に来たんじゃないから」

「へ? じゃあ何で?」

「うむ。ハル君、こいつを見てくれ」

 その台詞、何か嫌な予感しかしない。
 その後に「どう思う?」とか聞かれて、俺が「すごく……○○です」って答えなきゃいけないテンプレなんじゃねぇの?
 嫌だ、そんな様式美に乗っかりたくない!!
 すると、アーバインが取り出したのは、リューンだった。
 おおっ、一目見て年季が入ってるなぁってのがわかる代物だった。

「なかなか、使い込まれてますね。で、これをどうしろと?」

「うむ、今この場で演奏してくれないかね?」

「えっ? ……まぁ別に問題はないですけど」

 俺はアーバインに渡されたリューンを手に持って、演奏をしようとした。
 すると、フィンガーボードを押さえる左手に違和感を覚えた。
 ん? 何だこれ?
 俺は違和感を探す為に、弦を確かめる。
 すると、六本の弦の内三番目の弦が少し緩かった。
 こんなんで弾いたら、情けない音が出てしまう!
 俺はヘッド部分にあるペグに触れる。
 このペグってのが、弦の張りを強めたり弱めたり調整できる部分だ。
 俺は何度か調整しながら、他の弦と音が違和感ないように調整した。
 大体二分位の作業で、調整は終わった。

 にしても、何でこんなお粗末なリューンを使ってるんだ、このおっさんは!
 まぁいいや。
 俺は演奏しようとした時、声を掛けられた。

「そこまで! うん、ハル君、ありがとう」

「へ? 演奏はしなくていいの?」

「うむ。申し訳ないが、ちょっと試させてもらった」

「試させて? ……なるほどね」

 くそっ、こいつ弦をわざと緩めていやがったな!?
 何だよ嫌がらせかよ!
 俺が演奏中に変な音を出したら笑うとかそんな感じの!?
 かーっ!! やだやだ、こんなひねくれた大人にはなりたくないもんだねぇ!!

「で、これは嫌がらせ?」

「そんなつもりはないさ」

「だって、昨日俺、あんたに相当色々言いましたよね?」

「うん、言われたな。あれは私にとってはかなりの衝撃だった。言われて気付いたよ、私は傲っていたとね」

 へぇ、こいつ意外と話わかる?
 音楽業界なんて、傲って自分の腕を磨かなきゃ、あっという間に新人に追い抜かれて廃れていく世界だからな。
 年齢なんて関係ない、音楽業界で骨を埋めたいなら、柔軟な頭と毎日の練習が必要な訳だ。
 俺の場合は異世界に来た時から、それぞれの楽器のイメージトレーニングを毎日欠かさなかったから、この新しい体でもすぐにリューンを弾けた訳だ。

「それはいいとして、じゃあ何で俺を試した?」

「ふむ。実は私はね、王都で《王立シュタインベルツ音楽学校》という音楽学校を運営しているんだよ」

「音楽学校?」

「そうだ。全校生徒約四百人で、全員が音楽家志望の子供達だ」

 へぇ、そんな学校があるんだ。
 詳しく話を聞くと、このアーバインは相当有名らしく、王から直々に音楽学校を設立して後進を育てて欲しいと依頼されたらしい。
 現在開校十二年目で、多くの優秀な音楽家を世に排出した事から、音楽の名門校として、国だけじゃ留まらず国外からも留学してくる生徒がいるらしい。
 年齢は十歳までなら何歳でも入学が出来るそうだ。
 カリキュラムとしては約三年間で音楽を徹底的に叩き込む。作詞や作曲、楽器の弾き方に歌の技術等。そして最難関である卒業制作に取りかかる。
 自身が出せる最高の一曲を作曲するもので、審査する教師に認められないと卒業出来ないのだそうだ。
 卒業出来た者は、晴れてこの立派な学校の卒業生が名乗れ、出来なかった者は留年か退学かの選択肢が与えられる。
 どうやらこの学校の卒業生ってだけで、自身の経歴に箔が付くそうで、四度も留年してまで食らい付く生徒もいるほどなんだそうだ。
 ちなみに、最優秀で卒業した生徒は、《○○年度最優秀卒業生》の賞状が贈られ、音楽界のエリート街道間違いなしらしい。

 前世で言うと、四大大学首席卒業みたいなやつか。
 そりゃすげぇな!

「あんたの学校がすごいのわかったけど、何でそれを俺に?」

「こ、これハル君! アーバイン様にあんたはだめだろう!?」

 俺の口の悪さに、チャップリン校長が注意をしてきた。
 ってか、様付けかよ。そんなに有名なの?

「アーバイン様は、音楽一つで貴族になられた侯爵様なんだぞ!?」

「へぇ、貴族なんだ」

 音楽一本で侯爵まで登り詰めたんだ。
 ある種、音楽家の夢を叶えた成功者って訳だ。
 音楽家は自身を肯定してもらいたい、自己承認欲の塊だ。
 俺もそうだ。
 もし、曖昧な地位ではなく、爵位等の形での地位を持てたら、それは音楽家としては最上の喜びだ。
 日本で言うところの国宝認定だったり、功労賞だったりね。
 そこは純粋に尊敬出来るな。
 まぁ貴族だろうと驚かないけど。

「お、驚かないのかね?」

「別に。だって、レイのおじさんとかとも仲良くしてるし、どんなに偉かろうと人間である事は変わりないし」

「…………」

 校長、そんな呆れたような目で見ないでくれ。
 だって前世ではさ、とある外国の王族の方の為に曲を作った事があるんだ。
 実際話してみると気さくな人でさ、どんなに偉くてもやっぱり人間なんだよなって思った。
 それから結構メールしたり食事をしたりって、プライベートで交流した事あるから、今さら貴族如きでは怯まない。
 まぁレイのおじさんとおばさんのおかげで、貴族にも慣れたしね。

「くっ……あっはっはっは!!」

 ついにアーバインが壊れた!?

「いやぁ、失礼! ハル君、君は本当に面白い! 気に入った!!」

 えっ、気に入ったの?
 あんたをボロカスに言った俺を気に入ったの?
 俺が言うのも何だけど、あんた相当頭おかしいな!

「だから、君に良い話を持ってきた」

「良い話?」

「そうだ。校長にはすでに話してあるが、君が良ければすぐに手続きをしたい」

「だから、どういう話?」

「……ハル・ウィード君。君を私の推薦で《特別留学生》として、我が校に留学してみるつもりはないかね?」

 は?
 留学!?

 ちょっとちょっとちょっと!!
 話がいきなり予想斜め上を行き過ぎてて、よくわからんのですが!!

「期間は半年」

「は、半年!?」

 半年もかぁ。
 でも、この世界の音楽をもっと深く勉強する、いい機会かもな!
 よし、この話を受け――
 ――ようとした瞬間、リリルとレイの笑顔が、俺の脳裏によぎった。
 ……半年も、二人に会えないのか。

「……時間をくれない?」

「いつまで?」

「……一週間、いや、三日」

「ふむ、わかった。では私はゴールドウェイ家でもう少しお世話になる予定だ。三日後にもう一度ここに足を運ばせてもらおう。それか、ゴールドウェイの屋敷に来てくれても構わないよ?」

「……わかった」

 俺は無言で立ち上がり、校長室を出た。
 そして、重い足取りで教室へ向かう。

 ……こんな事は初めてだ。
 前世の俺なら、音楽の事になったら即決出来た。
 だが、今は出来なかった。
 恋を知った俺の心は、リリルとレイを欲した。離れるのを嫌がったんだ。
 くそっ、俺は音楽に没頭したいって思っている。
 思っているけど、あの二人と離れるのは、胸が裂けそうな位に嫌なんだ!
 なら留学を断ればいい。
 でも、そうすると心が「これはチャンスだ!」と訴えてきて否定してくる。

 音楽の事で、ここまで葛藤するなんて……。

「はぁ……恋は病とは、言い得て妙だな……」

 身が張り裂けそうな位の葛藤を抱えながら、今日も俺はリリルとレイに挟まれる形で授業を受けた。
 この二人は、相変わらず嬉しそうに俺の隣にいてくれる。
 いつもは癒される存在だけど、今は酷い言い方だけど苦しめる存在になっていた。



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