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第五十二話 俺、さらなる目標を立てる!
しおりを挟む「父さん、貴族の事についてもっと詳しく!!」
「いや、そろそろ陛下との謁見が――」
「そんな事はどうでもいい!! 早く、早く!!」
「必死だな、おい……」
当たり前だよ、死活問題だよ!
完全にぬかったわ!
俺は前世で、アニメのオープニング曲を作る依頼を結構受けていた。
最初は一切サブカルチャーに対して偏見はないけど興味がなかったんだけど、詳しく知る為に原作のラノベや漫画を読み漁った。
結果大ハマり、俺もオタクの仲間入りをしてしまった。
もちろんこういった転生ものも多く読んでいて、大体の設定が重婚可能だったから、俺も「きっとこの世界でも、誰でも重婚可能なんだろうな」と勝手に思い込んでいた。
それが、それが間違いだった!!
まさか貴族の特権なんて思うはずないだろうが!
「はぁ、お前って頭いいのに何処か抜けてるよな。てっきり知ってるもんだと思ってたぜ」
「俺だって完璧じゃないし! 早く教えろください!!」
「……たまに変な言葉を使うよな」
父さんは諦めたかのように、貴族の事について教えてくれた。
「貴族の階級については流石に知ってるだろうから割愛するが、まず貴族は領地が与えられる」
「あぁ、村か町かって感じだよな?」
「そうだ。階級によって与えられ、そこを運営して利益を立てていく。一番下の階級である男爵は、小さな村からスタートだな。で、通常の貴族なら領地の規模が大きくなると、階級も上がる」
「そうなんだ。何でそれで階級が上がるのさ?」
「貴族も国に税金を納めているんだが、領地の収入によって税金の額が変わる。ちなみに階級が上がると運営支援金というのが国から支給され、それが事実上貴族の年金に近い」
なるほど、領地の収入自体が前世で言う営業実績の目安になってる訳か。
それで納める税金が増えれば増える程、「お前頑張ってるな! よし、昇格だ!」みたいな感じなんだな。
そんな程度の把握で問題ないだろうな。
「そういやアーバインは領地持ってなかった気がしたけど?」
「おまっ、アーバイン様を呼び捨てするなよ!!」
「だって、俺とあいつは音楽仲間だし」
「……頭痛くなってきた」
「そんな事はどうでもいいから、続きを早く!」
父さんは深くため息をついて続けた。
「アーバイン様はかなりの特例だな。普通男爵から順に昇格していくんだけど、戦争で戦果をあげたりすると二つも爵位があがったり、一般兵が爵位を頂く事もあるんだ。アーバイン様は音楽でのし上がった希なお方で、そんな腕を見込んで領地の代わりに音楽学校とその全権利を陛下から賜ったんだ」
「はえ~、やっぱあいつすげぇな!」
「年々生徒数も増えているし、卒業生が有名な音楽家にもなっているから、その実績で近々公爵に昇格するんじゃないかって言われている程だ」
こうして父さんから貴族の話を聞いて、アーバインってすごい奴なんだなって本気で思ったわ。
普段はそこまで威厳とか見せないで、気楽に音楽の話をしているから、そのすごさが霞んでいたわ。
絶対今、あいつはどっかでくしゃみしてそうだな。
とりあえず今はアーバインの事はどうでもいいんだ!
「それで、重婚制度について!!」
「食い付いてくるなぁ。一般人は基本的に一人としか結婚できないが、貴族の場合は世継ぎとかの関係上子供をたくさん作る必要がある。だから貴族特権として重婚が認められている。人数は四人までだな」
「へぇ。でも人数決まってるんだ」
「過去に嫁をもらいすぎて経営破綻した貴族が複数いたそうだ。嫁皆が豪遊し過ぎた結果らしい。それで今は四人までと制限をかけたようなんだ」
くだらない理由で人数制限かかってた!
貴族の世界でも色々あるんだなぁ。
「ちなみに最初の奥さんが正妻、以降は第一側室といったような名称になる
「なるほどね。何か正妻とか側室って分けている意味はあるのか?」
「あるな。パーティの時に暗黙のルールがあってな。正妻は白のドレスを、それ以降は赤のドレスを着るらしいんだ」
は? 何それ!?
パーティでそんな識別みたいな事をやってどうするんだよ。
俺はそのままの疑問を父さんにぶつけてみた。
「まぁ正妻ってのは、その貴族家の中では一番の権力を握った妻だな。だから、基本的に他の家の正妻は、正妻同士で歓談するのさ。簡単に言えば人脈作りだ。じゃあ側室はと言うと、家の主の引き立て役だな」
「何だそりゃ!! 引き立て役ってどういう事だよ」
「正妻は他の家の正妻と仲を深め、協力体制を夫とは別の形で形成する。側室は政治干渉出来る権力は持ち合わせていないから、夫の近くに立って夫の顔を引き立てるのさ。基本的に側室は、わりかし美人が多いって聞くな」
あれか、側室は添えてある花のような役割か?
うっわ、胸糞悪いな。
女の子は男の引き立て役じゃねぇんだって!
そんな扱いは本当に嫌だな!
ん?
今俺はゴールドウェイ家に婿入りする話に勝手になってたな?
つまり、今の流れからしたら、レイが正妻でリリルが側室って事になるのか……?
何か、それすっげぇ嫌だ!!
俺は絶対に、二人を差別化したくないんだ!
ただ俺は、二人に傍にいてほしいだけなんだ。
なら貴族にならなきゃいい。でもそうしたら、重婚出来なくなる!
くそったれ、マジで貴族は面倒臭いな!!
「父さん、もしさ、その正妻側室ってのを取っ払いたいって思ったら、取っ払えるか?」
「ん~と、確か出来ると思う。そもそもドレスの色の件はただの暗黙の了解だしな、従う必要はない。ただし、他の貴族と交友関係を結ぶのは難しいだろう。後は、家訓かな」
「家訓……?」
「ああ。家訓とは、言うならその貴族の家で実施される小規模の法律みたいなやつだ。その家訓は貴族家に属する人間は絶対に守らなきゃいけないものだ。破ったら打ち首にだって出来るぜ」
「おおぅ、マジか。結構怖いな」
「しかも家訓は、他の貴族の行動を抑制出来る。例えばお前の娘を俺に寄越せと言われたとする。そうしたら、お前はうちの家訓に反しているから無理だって言う事が出来るんだ」
「なるほどね、貴族の中ではそれぞれの家訓を尊重しなくちゃいけないんだな」
「そうだ。家訓で定まっているのであれば、戦争とか仕掛けて相手をねじ伏せない限りは尊重しなくてはいけない。これは陛下が法律として定めているんだ」
いや、待てよ。
光明が見えてきたかもしれない!
「父さん、例えばおれがゴールドウェイ家に婿となって当主になったとする。その家訓を変える事は可能か?」
「……出来ないな」
出来ないのかよ!!
何で?
「ハル、家訓とは、初代当主が決めた法律のようなものだ。基本的にそれを曲げる事は許されない」
ちっ、せっかく光明が見えたのに……。
いや、まだ全然手がある!
「アーバインが貴族になった詳しい経緯って知ってるか、父さん?」
「すまん、それはわからない」
さすがにそこまで何でも知ってる訳じゃないか。
しかし、いい情報を聞けた。
正直出来るかどうかはわからない。でも、やるしかないじゃん!
「父さん!」
「ん? どうした?」
父さんがワインを口に含んで俺の言葉の続きを促してきた。
「俺決めた! 俺、ウィード家を貴族にする!!」
「ぶふーっ!?」
父さんが盛大にワインを吹いた。
まるで毒霧のように、勢いよく口からワインが吹き出された。
きったねぇな、父さん!
「げほ、げほっ、ごほっ!! おまっ、急にどうした!?」
「いや、そのままの意味だって。ハル・ウィードは新たな貴族になるって決意をしただけだ!」
「いやいやいやいやいやいやいや!! お前貴族面倒だとか結構嫌ってたじゃねぇか!」
「おう、面倒だ! 死ぬ程面倒臭そうで嫌さ!!」
「じゃあ何で自分から火の中に飛び込むような真似を?」
「まずは重婚が貴族の特権だからって所だな」
「でも、ゴールドウェイ家に婿入りすれば解決だろう?」
「そうだけど、違う」
そう、違うんだ。
俺はあの二人を差別化したくないんだ。
二人共、俺は正妻として扱いたい。
いや、そんな正妻だの側室だのくっだらねぇ!
俺はただ二人を愛しているだけなんだよ。そんな差別化は俺にとっては全く以て不要だし、ただ邪魔なだけだ。
なら、俺が取る道は一つしかない。
「俺はレイとリリルを正妻だの側室だのって枠にはめたくないんだ。だから、家訓で正妻、側室ってのを取っ払うものを作る!」
その道は、俺が初代ウィード家当主になり、正妻側室という枠をぶっ潰す家訓を作る事。
そうすれば、パーティとかでも白や赤で色の区別をさせなくてもいいって訳だ!
しかもこの家訓は、どうやら陛下の法律で尊重するようにとお達しが来ている。
なら尚更好都合じゃねぇか、家訓が法律で守られる訳だから、難癖付けられても「家訓ですので」の一言で退けられる!
「……俺は、ハルみたいに下心で貴族になるって人間は過去にいなかったと記憶している」
「そうなんだ。じゃあ一人だけでもこんな人間がいても、全然いいだろ?」
「……いいんだか、悪いんだか」
父さんは頭を抑えて下を向いた。
何だよ何だよ、父さんがそんなに頭を抱えるような事じゃないだろう?
まぁ貴族になる動機が不純すぎるとは思うけど、俺は絶対にあの二人と幸せになりたい。
人ってのは何だかんだで差別化されると、その役割に徹する習性を持った生き物だ。
つまり、正妻とか側室って役割を与えられると、最初の内は抗えるけど次第に与えられた役割にふさわしい行動を取るようになるらしい。
どっかのテレビ番組でやっていたが、実際の実験で一般人に看守役、囚人役といった役割を与えたらしい。
すると、特にこうしろと指定した訳でもないのに、看守役は囚人役に冗談抜きの罰則を与え始めた。最終的にはガチの暴力を奮い始めて実験は六日間で中止となる事態になったのだとか。
たった六日間で被験者の性格を歪めてしまう程、人間というのはその役割の状況に飲み込まれやすい性質を持っている事が実験でわかった。
俺が危惧しているのは、側室としての役割を与えられたリリルは、どうなってしまうのかって事だ。
俺の大好きなリリルが豹変してしまったら、きっと俺は耐えられなくなっちまう。
俺はレイとリリルを本気で愛している。多分二人も俺を愛してくれてると思ってる。
本気で恋愛しているのに、正妻とか側室で区別を付けられ、優先順位みたいなのを与えられてみろよ。俺だったら絶対に心が壊れて病んでいくと思う。
だからそんな馬鹿げたルールは、俺には不要だね!!
「――ハル、お前の目標は何だ?」
父さんが不意に俺に質問をしてきた。
目標か。そりゃ決まっているさ。
「俺は歴史に名を残すような音楽家になる! そして今加わったけどウィード家を貴族にする!」
「なら、ハルもアーバイン様のように、音楽で貴族にのし上がれ。今この国は芸術を中心としていて、軍部にそこまで力を注いでいない。つまり戦果でののし上がりは不可能だからな」
この国は芸術を大切にしている。
そして戦争はその国の芸術を破壊してしまう悪として思っている節があるから、あまり軍部には力を注いでいない。
その結果、その政策に対する不満から、《武力派》という武力至上主義を掲げた脳筋過激派を作っちまった訳なんだけどな。
「いいかハル、お前が選ぶ道は戦争で生き残るより大変な道だ」
「ああ、理解しているよ」
そう、アーバインという『音楽ひとつで貴族になったモデルケース』が出たせいで、アーバインの後に続こうとする音楽家が急増している。
アーバインの学校に生徒として入学している奴の中には、純粋に学びに来ている生徒の他に、アーバインとのコネを作ろうとしていたり、ゴマすって貴族への道筋を作ろうという邪な思惑を持っている奴等もいる。
つまり、俺が選んだ道は、競争率が恐ろしく高い険しいものだ。
俺はそんな道を自ら選んだ、とんでもない大馬鹿者なんだ。
でも俺は揺るがない。
音楽に対しては絶対的な自信があるし、努力も怠らない。
前世の記憶という、ちょっと卑怯な部分はあるけど、使えるものは全て使っていく。
前世で積み上げた音楽の腕と知識、そして情熱は、間違いなく俺の人生で培ってきた結晶だ。それらを活かさないでどうするのさ!
俺は、絶対に成し遂げてやるさ!
「――ふっ、ハルはやっぱり俺の息子だ」
「父さん?」
「その決めたら絶対に揺るがない意思、昔の俺にそっくりだ」
「そっか、へへ」
何だろう、尊敬する父親にそっくりって言われたら、ちょっと嬉しいんだけど。
前世の親父は本当に父親としては尊敬できなかったから、今世の父さんに似ているって言われるのは本当嬉しいんだよ。
って言うか、親父からは愛情じゃなくて金だけ貰っていたから、あいつに育てられたって思えないんだよな。
まぁ、クソ親父の事なんてどうでもいいや。俺は死んじまって二度とあいつとは会わないだろうし。
「いいかハル。お前自身が決めた事だ、絶対に揺らぐなよ!」
「……はい!」
「だけどな、もし少しでも疲れたら、休息の為に帰ってこい。俺と母さんはお前の味方だ。何があっても、な」
「……父さん」
父さんのにかっと歯をむき出しにした笑顔に、俺は頬が緩んだ。
あぁ、本当に最高に格好良い父親の元に産まれた事に感謝だ。
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