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第五十四話 俺、王女様に気に入られる!

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 王様と謁見した俺は、王女様へ俺のリューン演奏を披露する事となった。
 アーバインが俺の事を話していたようで、王女様は俺の演奏が大層気になっていたようだ。
 ってか、さすがアーバイン。音楽の腕で王様に気に入られ、貴族に成り上がった為か王族と親しい間柄のようだな。
 なら俺も、音楽の腕で貴族になってやろうじゃねぇか!
 そして、リリルとレイを嫁に貰って、正妻側室関係なく、幸せに暮らしたい!
 まぁ、貴族自体面倒臭そうだけどね……。

 さて今俺は、王様に案内されて噂の王女様がある、彼女の自室へやって来た。
 いやぁ、さすがは王族。王女様の部屋は我が家のリビングより広くて、きらびやかなんだよね。
 前世で住んでいた高級マンションより、正直広いわ!

「失礼致します、アーリア姫様。ロナウド・ウィード、入室の許可を頂けますでしょうか」

 王様が入ってもよいと許可しているからそんな挨拶必要ないだろうと思うんだけど、どうやらこの世界のマナーっぽい。
 父さんは左手を右胸に手を当て、軽くお辞儀をしながらそう言った。
 すると、部屋の奥のカーテンの向こうから、女の子の声がした。

「許可しますわ、ロナウド様」

 ――澄んだ綺麗な大人びた声に、俺は一瞬聞き惚れた。
 確か同年代だったよな、俺と。それなのに、まるで大人の女性のような声をしていた。
 そして、声からわかる位上品な雰囲気を漂わせている。
 どんな顔をしているか見てみたいが、カーテン越しだから見る事は叶わなかった。

 父さんはもう一度一礼した後、背筋を伸ばして入室した。
 俺も後に倣って、左手を右胸に当てて軽くお辞儀した。

「失礼致します、アーリア姫様。ハル・ウィード、リューンの演奏をさせて頂きたいので、入室の許可を頂けますでしょうか?」

「まぁ、アーバイン侯爵がお話になっていたハル様ですね? 心よりお待ちしておりました、どうぞ入ってくださいませ」

 澄んだ声のトーンが上がり、はしゃいだような声を出した王女様。
 うわぁ、そんな声でそんなに喜ばれたら、ちょっと俺、ドキドキするわ!

「アーバイン侯爵からお伺いしておりますが、ユニーク魔法で《音》属性というのは本当なのでしょうか?」

「左様で御座います、わたくしの属性は《音》で、あらゆる音を操れます。例えば――」

 俺は自分の口元に生成したサウンドボールを吸着させる。出した指示は、《俺の声をアーリア姫の声に変換する》というもの。

「――こんな風に、声も変えられます」

「「「っ!!」」」

 王様、父さん、アーリア姫の三人は、声にならない声で驚いていた。
 そりゃそうだ、俺の声が姫様の声になったんだからな。

「ハル君、君の魔法は無詠唱なのかね?」

「はっ、わたくしの魔法は無詠唱で音を操ります。様々な音を出したり、逆に相手の声を遮断したりする事が可能です」

「……いやはや、歴史上初ではないかな? ユニーク魔法を操れる魔術師は」

 王様が感心してくれている。
 よしよし、俺への好感度が高まっているのを感じているぜ!
 その調子でポイントを稼いでいって、貴族になってやろう!
 小さい事からコツコツと、だな。

「凄いですわ、ハル様! アーバイン侯爵から伺っていた通りの方でした! それで、異世界の音楽もその魔法で接続出来て、大変お詳しいとか?」

「えっ!? あんの野郎、それまで言いやがったか!!」

「おいっ、ハル! 口調、口調!!」

 え?
 あっ、やべぇ!
 アーバインがいらん事を言いやがったから、ついつい口に出してしまったわ。
 父さんが注意してくれた事に感謝だ。

「ゴホンっ、失礼致しました。アーバインが言ったように、わたくしは異世界の音楽を、この魔法を通じて知り、そして学びました」

「そうなのですね? 異世界の音楽は、わたくし達の音楽よりも遥かに進歩しているそうですね」

「はっ、左様で御座います」

「なるほど。ではハル様、わたくしに是非異世界の音楽を演奏して頂けますか?」

「はっ、畏まりました」

 すると、侍女らしき人が入室してきて、リューンを持ってきてくれた。
 渡されたリューンを手に持ってみると、これが相当上質なのがわかった。恐らく俺のリューンよりも遥かに高級品だろうな。
 多分使われていないせいか、ほぼ新品同様だ。俺が使っちゃっていいのかな?
 まぁいいや、これだけ高級な物なんて早々触れないだろうし、思いっきり演奏してやる!
 さて、前世の曲を演奏するのかぁ。
 ん~、正直リューン一本だけだと悩んでしまうな。
 基本的前世の世界ってのは、数種類の楽器を使って演奏している曲が多い。単体ってなると選曲が恐ろしく絞られちまう。
 でも仕方ないし、適当にリューン演奏にしても問題なさそうな曲を選ぼう。
 
 え~っと、あの曲はクラシックギターと同等のリューンに向かないしなぁ。
 じゃああの曲は? ……いや、編曲が面倒だ。
 あっ、ちょうどいい曲があったわ!
 ではでは、こんな感じで編曲して……おっ、いい感じになりそうだ!

 でも演奏する前に、俺は軽く指で弦を弾いて音を出す。
 うん、テンションは問題ないけど、音が違うなぁ。
 俺はヘッドのペグを捻って、音を調律していく。一つ一つの弦が、俺の理想の音に近づいていく。
 よし、調整は完了だな。

「お待たせ致しました。それでは今から演奏する曲名は、《キラメキ》で御座います」

「キラメキ、ですか?」

「はい。異世界の言葉なので何を言っているか意味不明かもしれません。ですが、それでもこの曲を楽しんで頂けると思います」

 俺は原曲を思い浮かべる。
 この曲は、wacciというバンドが発表した曲だ。
 歌詞は甘酸っぱい時を過ごした恋人と何かしらの理由で離れてしまった、だけどその思い出に対して感謝しているように読み取れる内容となっている。
 ボーカルの橋口洋平の低すぎず高すぎない歌声が、その甘酸っぱさをより強調しているし、最後の方になると悲しい内容になってくるのに、前向きに感謝を言っているように聞こえる。
 俺はろくに青春を過ごさずに音楽に打ち込んでしまったから、学生時代に彼女とか出来ていたら、きっとこんな風に過ごしていたんだろうなって聴きながら思っていたっけな。
 俺はリューンでその思いを表現しながら歌う。
 今はリリルとレイが俺の傍にいてくれている。とても甘酸っぱくて楽しい日々を過ごせているんだ。二人と離れる事なんて想像するのは真っ平御免だが、もし別れたとしても、きっと俺は感謝していたいと思う。
 俺は丁寧に演奏をし、歌い上げた。出来る限り優しい声色で。
 俺としては、原曲に恥じない形で演奏できたと思う。越えた演奏なんておこがましい事は言わない、それでも敬意を持って演奏できた。

 ふぅっと一息付いた後、皆の反応を見てみる。
 王様と父さんは、目を閉じて何かに浸っている。王女様は…………カーテンのせいでよく分からない。
 ううん、何とも分かりにくい反応だなぁ。
 言語の壁を越えられると信じているんだけど、今回はダメだったか?
 一応、聞いてみよう。

「えっと、演奏終わりました。いかがだったでしょうか?」

 まず俺の演奏に対して感想を言ってくれたのは、王様だった。

「何と言えばよいのか……。言葉は理解できなかった。しかしこんなにリューンを感情豊かに演奏できるとは思わなかった。アーバインも感情を表現できる演奏家だが、それよりもさらに豊かに表現している。素晴らしいの一言だ」

「ありがとうございます」

「さらにだ、君は歌も上手い。声の強弱で感情をしっかり表現しており、言葉がわからなくても何が言いたいのかが余に伝わってきたぞ」

 王様はうんうんと頷いて俺を褒めてくれた。
 まぁそもそもこの曲が素晴らしいからな、その歌詞の本質が王様に伝わったようで何よりだ。
 そして次に父さんも感想を言ってくれた。

「いやぁ、何かさ、リリーと出会った事を思い出したわ……」

 うちの母さんとの馴れ初めを、《キラメキ》を通して思い出していたらしい。

「ロナウド殿もか? 余も妻と出会った時を思い出していたぞ。妻は二年前に他界したが、今でも感謝しても足りない位に素晴らしい女だった」

「王妃様ですね? 一度お会いしましたが、素晴らしい女性でした」

「うむ、余もそう思うぞ」

 父さんと王様が自分の奥さんを褒め合い始めた!
 そっか、王妃様亡くなられてたんだなぁ。
 一目見てみたかったなぁ。
 すると、カーテン越しから王女様の声が聞こえた。

「すごい、凄いですわ、ハル様! こんなに心に響く演奏、初めて聴きましたわ!」

「ありがとうございます」

 そこまで喜ばれると嬉しいねぇ。
 この世界の演奏は、あまり旋律を奏でない。つまり、弾き語りをもっと簡素にした感じと言えばいいかな? だから歌がメインとなっていてちょっと味気ない感じなんだよ。
 だからリューン独奏を作曲したアーバインは評価されているし、俺もここまで高い評価を受けている訳だ。
 というか、歌の技術に関してもこの世界はまだまだなんだけどね。

「お父様、わたくし、決めましたわ」

「ん? アーリア。何を決めたんだい?」

「わたくし、ハル様の演奏に心を奪われてしまいましたわ! 是非、今後も色んな音楽を聴かせていただきたいので、わたくし専属の演奏家になって頂きたいのです!」

 おっと?
 王女様からお抱えのご指名を頂いたぜ。
 そこまで気に入って貰えると音楽家冥利に尽きるぜ!
 ま、断るけどな。

「そこまでお気に召して頂いて光栄で御座います。ですが、そのお話はお断りさせていただきます」

「えっ!? 何故で御座いますか? お金は言い値で出させていただきます」

「別にわたくしは金に関してはそこまで執着しておりません。実はちょっとした野望が御座います」

「野望、ですか?」

「はい。今音楽は、一般の国民には浸透しておらず、一部の貴族の嗜みとなっています。わたくしはそれが大層気に入らない!」

「何故ですか?」

「何故なら、音楽とはたくさんの人に聴いて貰わないと意味がありません。一部の貴族が喜ぶ音楽なんて、音楽じゃないんです」

 前世ではCDとかがあったから、浸透していたんだよな。
 何処の店に行っても、店内で必ずと言っていい程音楽だって流れているしな。それが当たり前だったんだ。
 でもこの世界は違う。この世界は高額の報酬を支払って、貴族が見栄で音楽家を雇う。
 もちろんコンサートを開く歌手もいるが、会場に入るのはやはり金持ちか貴族。一般人が払える入場料じゃないんだ。
 俺は音楽をこよなく愛している。
 そんな音楽を、有力者の嗜みだけで終わらせているこの世界の音楽事情に関しては、吐き気がする位嫌いだった。

「わたくしの野望は、どんな人でも気軽に聴けて、そして色んな人に口ずさんでくれるような音楽を作れる音楽家になる事です。故に申し訳御座いませんが、貴女様の専属になる気は毛頭ありません」

「おい、ハル!」

 父さんに止められたが、音楽に関しては引けないね!

「打ち首にされようとも、この信念だけは絶対に曲げられません。俺が奏でる音楽は、身分とか関係なく、色んな人に聴いてもらう為の音楽ですから」

 さて、俺は果たして打ち首にされちまうのかな?
 でもさ、音楽に対する信念を曲げてまで生きる位だったら、俺は喜んで処刑される方を選ぶ。
 リリルやレイと添い遂げられない無念は残るだろうけど、信念を曲げるよりは遥かにマシだな。

「……そうですか、残念です」

「申し訳御座いません。そこは譲れないです」

「……でも、わたくしも譲れませんわ! ハル様の音楽に惚れましたから!」

「いや、そう言われましても……」

「なら、週に一回だけでも構いません。是非、わたくしにハル様の素敵な音楽をお聞かせ願えないでしょうか?」

「え、え~~~~~っ……」

 何かすっげぇ食い下がってくるんですけど。
 打ち首にはならないみたいだけど、ここまでお願いされると心が揺らぐなぁ。
 しかも専属を諦めて、週一回まで譲歩してくれたみたいだし、それなら別に学業にも支障はないだろうし。
 でもなぁ、面倒臭そうなんだよなぁ……。
 俺は父さんの方を見てみる。

「ハル、俺は何も言わん。自分で決めろ」

 ですよねぇ。
 で、王様は?

「余からもお願い出来ないか? 余も君の音楽に虜にされてしまったからね」

 王様からもお願いされちまったよ……。
 はぁ、面倒臭そうなんだけど、俺の腕が見込まれたのは純粋に嬉しい。
 それに下心を言うと、王族との接点が生まれるから、ここで懇意するのもいいかもしれないな。
 上手く王女様の機嫌を取っていれば、必ず貴族に成り上がる事は可能だろう!
 くっくっく、わりぃな、王女様。
 俺はあんたを利用して、貴族になってやるぜ。

「わかりました。わたくしで良かったら演奏させていただきます。ただし、週一は厳守でお願いします。わたくしも音楽学校で学んでいる身ですので」

「はい! ありがとうございます、ハル様! では早速取り決めを行いましょう」

 王女様は嬉しそうに俺に対する待遇を伝えてくれた。
 まず、一回の演奏で40000ジルを支払ってくれるそうだ。別にいらないと言ったが、王女様の気が済まないらしい。
 そして週一回の演奏は、音楽学校が終わった放課後にしてもらった。

「ハル様!」

「なんでしょうか?」

「来週、楽しみにしておりますわ」

 カーテン越しから聞こえた声は、とても嬉しそうだった。
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