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第五十七話 最愛の二人、授業に参戦!

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 ――???視点――

 ついに、ついに一週間が経った!
 俺達は芸術学校、そして音楽学校に攻撃を仕掛ける。
 こんな芸術なんて下らないものにうつつを抜かしている、糞にも等しい体制に打撃を与える大きな計画だ。
 正直、この計画に成功失敗は関係ない。
 何故なら、俺達がこのような活動をする事で、国民に「芸術では力に対抗する事は出来ない」という事をわからせ、現体制に不安を持ってもらう事なのだ。
 もちろんそんな事を無視して、現国王と第一王子を殺害して第二王子を即位させれば話は早い。
 だが、国王と言うのは支持を得ないといけない。その為に国民に軍事力の大事さをわかってもらう必要があるのだ。
 この国の兵士達の錬度は、はっきり言って他国より低い。俺達の作戦は、そこを突いている。
 音楽学校と芸術学校に大打撃を与えられれば、間違いなく兵士達に犠牲となった生徒の親達は責め立てる。そして同時に兵士達が守ってくれない事に絶望するのだ。
 ああ、ようやくだ、ようやく血を見れる。
 ようやく人肉を剣で断つ事が出来る。
 もう、魔物なんてとっくに飽きていたのだ。
 人が絶命する瞬間を見たいのだ、戦いの末に人の命をこの手で断つ喜びを味わいたいのだ!
 はは、考えただけで勃起してくる。
 戦い、殺戮こそが人間にとって一番必要なものだ。
 文化? そんなのはどうでもいい。
 文化なんて、力の前ではすぐに消えてなくなってしまうものだ。
 ふっ、俺はきっと壊れているだろう。だが、それを悪くないと思っている。
 何故なら、生きてきた中でこんなに心が踊る事はなかったのだ、戦い以外ではな。
 早く斬りたい、そして命をすり減らした戦いをしたいのだ!

 ハル・ウィード。

 八歳にしてゴブリンを単独撃破出来る強さを誇る、まさに天才児。
 それなのに、こいつは音楽学校で勉強をするという、まさに俺にとっては有り得ない事をしている。
 何故だ、そこまでの力を持ちながら、何故剣の道にいかない!
 お前はそんな温室にいていい存在ではない、むしろお前にふさわしいのは戦場なのだ!
 いや、そんな事はどうでもいい。
 俺はお前と斬り合いたいだけなのだ。
 もし、俺がお前を斬り殺せたのなら、それはまさに最高の快楽であろう。いや、絶頂を得る事が出来るだろう。
 ああ、もうどうしたらいいのだろうか。気分が高揚しすぎて胸が苦しいぞ。

 さて、これから王都に潜入する訳だが、俺達はすでにこの王都の住人だからそこは問題ない。
 一番の問題は、養殖したゴブリン六十体をどのように王都へ入れるかだった。
 だが、これは意外にもすんなり解決した。
 実はゴブリンの中に、人語を理解する個体が誕生した。
 ゴブリンは知能が低いながらも、極稀に知能が発達した個体が誕生する。養殖していた時に運よくそれが産まれてくれた訳だ。
 俺達はそいつをリーダーに添え、計画を教えた。
 なんとも人語が理解できると非常に楽で、芸術学校には自分達の本能を満たせる人間がたくさんいる事を喜んでいた。
 そしてそいつを介して、他のゴブリン達も理解をし、作戦に従ってくれたのだ。
 作戦としては、我々の《実行部》が密かに王都に浸透させていた宗教を利用して潜入させる事にした。
 その宗教とは《月光教》と言い、信徒は皆仮面を隠し、身分や性別なんて関係なく、自身の悩みを皆と共有して解決方法を探っていくというものだ。そして一応の解決方法を見出だした信徒達は、最後に月の光を与えてくれる神に悩みを解決出来るように努めて生きる事を誓い、祈る。
 人間、仮面を被ると素顔が見られないという安心感か、心を大きく開くのだ。
 つまりは、ゴブリン達を《月光教》の信徒として偽装し、王都へ入国するのだ。
 ゴブリンがそんなに上手く出来るのかと思うだろうが、そこは頭がいいリーダーがしっかりと導いた。
 なんと、自主的にその作戦の練習をし始めた。
 上手くやれない個体を叱り、出来るまでやらせる。そして出来たらしっかりと褒める。そしてこの計画の先にある快楽をしっかり教え込んでいた。
 そうするとゴブリンは、しっかり訓練された兵士のように、そのリーダーに対して従順になったのだった。
 何も不安になる事はない、全て計画通りだ。

「では、《武力部》の。幸運を祈る」

 背後から《実行部》の幹部が小声で話し掛けてきた。
 俺は軽く頷いて答えた。
 さぁ、王都の門を潜ったら、楽しい楽しい戦いと殺戮の始まりだ。

 心が、踊る!














 ――ハル視点に戻る――

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 カンッ!!

 木刀と木刀がぶつかり合い、乾いた音が鳴り響いた。
 今俺は、魔法戦技の授業中で、戦っている最中なんだけど。
 その相手はなんと、レイだった!

「おいおいレイ、また腕を上げてねぇか?」

「それは嬉しいね! 僕は、ハルに守られているだけなのは嫌だからね!」

 カンッ、カンッ!!
 激しい剣撃だ。
 俺は何とか自分の木刀で受けたり、弾いたりしている。
 うん、左手で。

「そういうハルは、僕の事舐めてるのかな? 左手でやるなんて!」

「いやいや、もし舐めるなら、俺はレイの首を――」

「へ、変態!!」

 一週間前、土下座からの首筋にキスマークを付けた辺りから、結構オープンに下ネタを言うようになった。
 まぁ貴族育ちのレイはあまり耐性がないようで、顔を真っ赤にしていた。
 失礼な! 俺は変態じゃなくて普通の性欲旺盛な男の子(精神年齢四十三歳)なんですぅ!
 すると、頭に水が降ってきた。

「つべて! なんだ!?」

 周囲を見てみると、リリルが顔を赤くして掌をこちらに向けていた。
 あぁ、水属性の魔法で、俺の頭に水をぶっかけたのね。

「れ、レイちゃんばかり、ずるい!」

「リリルの場合は首じゃなくて、胸を――」

「死ね!」

「うわっ! レイが突然怒り出した!!」

 レイは最近胸にコンプレックスを抱いているらしい。
 俺がリリルの胸に釘付けだったりするのを、羨ましいと思っているようだ。
 まぁレイの場合はちょっと慎ましい膨らみだけど、レイの魅力はそこじゃないんだよな!
 もちろんリリルの魅力も、胸だけじゃない。
 要するに、二人には二人だけにしかない、とても魅力的な部分があるという訳だ。
 俺はそこを愛している! ああ、今すぐ頂きたい位愛しているさ!!

 さて、何で音楽学校の授業にリリルとレイが参加しているかと言うと、時は二日前に遡る。
 俺は学校が終わった後、暇だったアーバインと談笑をしていた。
 お互いの近況だったり、最近の流行の音楽の話など、とても有意義な内容を話せていた。
 そんな時、アーバインがリリルとレイについて聞いてきたんだ。

「そう言えばハル、重婚予定の恋人が王都に来ているらしいね?」

「ああ。今村の学校が改築中でさ、長期休校を利用して会いに来てくれたんだ」

「ほほぅ。ハルもなかなか隅に置けないな」

「ふふん、出来る男は女性関係も出来るのさ!」

「自信満々に言う事かね」

「事実だから仕方ねぇだろ?」

「……否定できないな」

「で、何故レイとリリルを話題に出したんだ?」

「いやね、一日位だったら私の権限を使って授業に参加させてもいいかなって思ってね」

「は? いや、あの二人は音楽家になる志なんてねぇぞ?」

「そうだが、逆にその二人を利用させてもらおうと思ってね」

「利用?」

「安心してくれ、悪い意味ではない」

 するとアーバインが理由を話してくれた。
 どうやら、アンナ先生が俺の事を心配しているようで、頻繁にアーバインに対して手紙を送ってくるらしい。
 何度も大丈夫だと返信はしているが、どうやら煮えきらないようなんだ。
 だから、村の学校在校生であるリリルとレイに一日だけ授業に参加してもらい、俺の様子をアンナ先生に報告をしてもらいたいのだとか。
 よかったわぁ、貴族の思惑なんて正直政治絡みだから面倒の極みなんだよな。でもそういう政治関係じゃないみたいだし、安心した。
 そういう事ならいいかな!

「多分、あの二人なら快諾すると思うぜ。で、日時は?」

「書類の準備があるから、二日後だね」

「オッケー、伝えておくよ」

「……そのおっけーって言葉、それも異世界の言葉かね?」

「まぁね」

「異世界の言葉とは、なかなか面白い発音だな」

 まぁそんな流れで今に至る訳だ。
 やっぱり他の男から見ても、レイとリリルは綺麗、可愛いと思われていて、俺がいるにも関わらずアプローチをかけてきやがった。
 まっ、魔法戦技の授業で真っ先にフルボッコにしてやったけどね!
 どうやら結構俺に気がある女の子がいたようで、二人が俺の恋人だと知ると、あからさまにショックを受けていた。
 そしてミリアは、あれからあまり笑ってくれない。
 うぅぅぅ、胃が痛い!!

 最初の授業は作詞の授業だった。
 俺は両隣にレイとリリルがいたけど、一旦その事は無視して真剣に授業を受けた。
 何度も作詞の先生に聞きに言っては相談し、アドバイスを吸収する。
 そんな俺の真剣な姿が、リリルとレイには新鮮だったようだ。

「ハルがこんなに真剣に授業を受けるなんて、向こうの学校では有り得なかったね」

「うん。でもハル君、すごく楽しそうで可愛い」

 これが二人の感想。
 リリルさんや、可愛いってどういう事よ?

「何かね、普段大人っぽいハル君が、この授業だと私と同い年だなって思えるの。何かね、それが可愛いって思えるの」

 リリルが満面の笑みでそう答えた。
 そ、そっか。何か照れ臭いな!
 でもね、男の子は可愛いって言われるより格好いいって言われたいの!
 まぁ、いいけどね。

 そして次の授業が、今受けている魔法戦技だ。
 一番はしゃいでいたのはレイだったんだけど、他の生徒の弱さに落胆していたな。
 仕方ないだろう、あくまでこの授業は最低限の自衛方法の学習が目的なんだから!
 だからレイは、俺とこうして戦っている訳だ。
 リリルはすぐに怪我を治せるように待機中だ!

 しっかし、本当こいつ、強くなってるな。
 俺と一緒に開発した《ゴッドスピード》を、無詠唱で放てるようになっていた。
 しかもさらに発展させていて、斬られた瞬間に自身の体を光の粒子に変換。そして俺の背後で実体に戻ってカウンター気味に反撃する。
 俺は自分の周囲に無数のサウンドボールを配置して、《集音》の指示を出した技、《サウンドマイク》で小さな音も拾い上げているから、実体に戻った瞬間の衣服の摩れる音から状況を感知してその斬撃を回避した。

「……それも避けるなんて、相変わらずハルの魔法は便利だね」

「いやいや、お前の光魔法の方は便利を通り越して規格外なのを理解しておけよ……」

「でも、当たらなきゃ、意味がない!」

 レイはさらに斬撃を強める。
 そして、これまた無詠唱で放てるようになった、刀身を見えなくする《秘剣・陽炎》を織り混ぜてきやがる。
 俺は刀身ではなくて、相手の腕の動きを見て斬撃を対処しているから、全く惑わされないんだけど。それでも一瞬悩んでしまうのがこの技の厄介な部分だ。
 斬撃を捌かれているレイは、徐々に焦りを募らせていく。
 証拠として、一つ一つの攻撃がだんだん大振りになってきたんだ。

「くっ、この!」

 来た、勝機!!
 この一番の大振りを狙って、俺はそれを受け流した。
 大振り過ぎて、受け流された事で大きな隙を作ってしまったレイ。

「しまっ――」

「ほいっ、俺の勝ち!」

 俺はレイのお腹に手を当てた。
 これ、セクハラじゃないからな!?
 この瞬間に俺は、《ソニックブーム》でトドメを刺せている事を表していた。まぁ大事なレイにそんなのをぶっ放す訳がないけどな!
 どうやらレイもチェックメイトだった事に気付いたらしく、悔しそうな表情を浮かべた。

「はぁ、僕の負けだよ。まさか、左腕で負けるなんて……」

「へへん、俺だって剣の努力もしてるんだぜ!」

「本当、ハルって勉強もこなせるから、文武両道だよね。羨ましい」

 まぁ俺の場合は前世の記憶を持っているという卑怯技をやってるからね!

「とりあえずレイ、攻撃が当たらないからってイラつくのは抑えようぜ?」

「無理でしょ! だって《ゴッドスピード》も《秘剣・陽炎》すらも通じないんだよ!?」

 レイはちょっと涙目になって俺に訴えてきていた。
 まぁ、俺が発案した魔法だからね、弱点も知っている訳だ。
 まず《ゴッドスピード》に関しては、実体に戻る時に少し間が空いてしまう。もしここに間髪入れずに攻撃できたなら完璧なのだが、実体に戻る反動がコンマ何秒程出来てしまいすぐに攻撃出来ないそうだ。
 そして《秘剣・陽炎》に関しても、剣の動きを見るんじゃなくて体の動きを見るようにすると、刀身が見えなくても予測で対処できるんだ。
 俺は敢えてその弱点を、レイには伝えていない。
 教えてしまったら、きっと成長が出来ないからだ。だから俺は言わないで自分で解決するようにさせているんだ。

「うううっ、いつか必ず完璧にしてみせる!」

「なら、俺ももっと強くならなきゃな!」

「えっと、少し立ち止まってね?」

 ふふ、どうしようかなぁ?

「じゃあ今度は私と相手して、ハル君」

「お、おう」

 まぁ流れとしては次はリリルだよなぁ。
 でも、実はリリルと開発した魔法は、かなり極悪だ。
 俺としては、あまり戦いたくないんだよねぇ……。

「あっ、アレは本気で撃たないからね?」

 リリルが俺の不安を汲み取ってくれた。
 ……何気にこの子は負けず嫌いだからなぁ、本当かなぁ……。





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最後までお読みいただきありがとうございます!
さて、5/6に開催されるコミティアで、本作の閑話的な同人誌を出します!
全て書き下ろしですので、きっと楽しめると思います。
詳しくは僕のtwitterか、活動報告を見ていただければと思いますので、よろしくお願いします。
もしコミティアに行かれる読者の方がいらっしゃいましたら、是非お立ち寄りください。
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