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第百十八話 アーリアとのデート3
しおりを挟むその後俺達は、色んな出店を回った。
一口パンを買って食べたり、古物屋で色々物色してみたり。まぁ特に掘り出し物はなかったのは残念。
そして手作りアクセサリー屋で俺達は足を止め、どういうのがあるのかを見させてもらった。
アーリアは目を輝かせながら一つ一つを手に取って見ていて、ウィンドウショッピングを堪能しているようだった。
「決めました! 店主様、このネックレスをください!」
アーリアは青の宝石が埋め込まれた銀のネックレスを買う事に決めたようだ。
「あ、ありがとうございますぅ!! 大変恐縮ですが、五千ジルでございます!」
うん、この店主さんにもアーリアが王女だってのがばれてるね。
まぁ目立つ容姿だし、すぐにばれるだろうな。
俺は五千ジルを支払おうとすると、アーリアに止められた。
え、何で?
「これはわたくしが支払いますわ」
「どうして?」
「……わたくしの勝手なワガママなのですが、ハル様から頂くのは正式に婚約した時にお願いしたいのです。だから、今回はわたくし自身の買い物とさせてくださいませ」
「……その願い、叶えられないかもしれないぞ?」
「そうかもしれませんね。ですが、わたくしは諦めが悪いんですの!」
本当に、アーリアは見た目に似合わずに一度決めた事は納得するまで追い求める。
俺にそこまで好意を向けてくれるのはかなり嬉しいけど、応えられない。
しかしこれ以上うやむやにしているのはアーリアにとっては残酷だ、そろそろ俺の意思をしっかり伝えないといけないかもしれない。
恐らく、今日がそのタイミングなのかもな。
今はとりあえず、苦笑して何も言わないでおいた。
アーリアは自分の財布からお金を出して支払って購入した。
そして両手で俺にそのネックレスを差し出してきた。
「ハル様、着けて頂けますか?」
「ああ、いいよ」
するとアーリアは俺に背中を向けて、帽子を取って長い銀髪を自分の手で纏め上げて、自身のうなじを露出させた!
うっわ、肌が白くてかなりうなじが綺麗だ……。
ついつい見惚れてしまうが、煩悩を何とか振り払ってネックレスを着けた。
……ふぅ、すっげぇドキドキしたよ。
こいつ、結構大胆だな!
「……ありがとうございました! いかがですか? 似合いますか?」
「ああ、お世辞抜きで似合ってるよ」
「本当でございますか!? よかった!」
うん、本当によく似合っている。
王族がこんな庶民のアクセサリーを着けていいのか? って一瞬思ったが、かなり今の格好に似合っていて、白い肌に青い宝石が良く映える。
本当に俺の決意――つまり、レイとリリル以外とは結婚しないっていう意思をねじ曲げようとする位、魅力的だよ。
くそっ、本気で辛い……。
出店を堪能した俺達は、国立公園まで足を運んでいた。
ちょっと人ゴミから避けたくなったんだ。
そして、アーリアが用を足したくなったようなので、公園に設置されているトイレへ向かった。
俺は近くのベンチに腰を掛けて待っていた。
どうやら《影》の皆さんがさりげなくトイレ周辺を守っていらっしゃるようなので、俺は安心してベンチでゆっくり座っていられた。
「……はぁ、不誠実かね。俺は」
レイとリリルっていう心に決めた女の子がいるのに、王様に頼まれたからと言ってアーリアとデートしちまってる。
それに、アーリアの存在が少しずつ自分の中で大きくなっているのを感じる。
それだけ隣にいてほしいって思う存在になりつつある。
本当に人の気持ちっていうのは、揺らぎやすくて、安定しないものなんだなとつくづく思うよ。
前世でも色んな人間を見てきた。
一生の愛を誓い合った芸能人カップル。俺も音楽を提供したりしていたから結婚式に招待されたもんだ。
お互い美男美女。誰から見てもお似合いで相思相愛。
きっと幸せな家庭を築くのだろうなと、俺は結婚式を見ながら思っていた。
しかし、そんな生活は一年を少し過ぎた程度で終わってしまう。
原因は、旦那の浮気だった。
あんなに極上な女を妻に迎えておきながら、浮気するのか!? と童貞をこじらせていた俺は憤慨したものだ。
……ぶっちゃけ羨ましかっただけです、はい。
どんなに美しいものを傍に置いていても、少しの不満や不安があれば別の何かにすがってしまう。
彼はそれで浮気をしてしまったようだった。
当然破局、旦那の方はしばらくした後に、その浮気相手と再婚をするのだった。
まぁ極端な例ではあるけど、俺もきっと会えない不満や他の男に靡いていないかという不安を抱えている。
そんな負の感情を払拭してくれるかのように、アーリアは寄り添ってくれているんだ。
嬉しくない訳がない。
でも俺は自分の意思を曲げたくないから、何とか踏み止まっている。
アーリアを抱き締めたくなるような衝動に襲われる事が増えてきた。
そこまで俺は、誰かの温もりを求めているんだ。
ああ、意外に俺の意思も、柔らかいって事なんだな。
「はぁ……。なかなかにしんどいぜ」
「……若者なのに、妙にしっくり来る程の老けっぷりだな」
突然、隣に現れた初老の紳士風の男。
しかも全く気付かない内に隣のベンチに座っている。
内心驚いているが、俺は動揺を顔に出さないように平常を保つ。
「あんたが《影》の一人?」
「……そうだ」
「ってか、正体知られていいんかい?」
「この顔は本当の顔ではない。しっかり偽装してある」
「……さいですか。それで、《影》の人が俺に何の用だ?」
俺達は向き合わずに話す。
お互いに知人である事を、端からわからないようにする為だ。
もう一つ付け加えると、俺は口から発声していない。故に口は全く動いていない。
俺のサウンドボールに都度指示を出して、俺の声で喋ってもらっている。
いやぁ、今日も変わらずに便利です!
そしてこの《影》の人も、じっくり見ないとわからない位の唇の動きで喋っている。
腹話術の技術に近い感じでやっている。
「……本当に貴殿の魔法は便利だな。本題だが、一つ貴殿に頼みがある」
「は? 頼み?」
「……是非、アーリア様を妻として受け入れてくれぬか」
こいつもかよ。
俺はサウンドボールを通さず、口から舌打ちを漏らしてしまった。
「一応、理由を聞こうか」
「我々は、陛下の直属の暗部故に、アーリア様の《魔眼》についても知っている。我々すら絶望した程にあの眼は嫌われている。だが、貴殿は臆する事なくあの眼を受け入れた」
「……そんな事あったなぁ」
「その時、陛下や我々の気持ちは一つだった。『彼女は、ハル・ウィードの元でないと結婚も出来ないし、幸せになれない』と」
《虹色の魔眼》と呼ばれる、相手の魔法による魔力の流れを視認でき、魔術陣にしたり魔力の流れを改変する事で魔法の発動を失敗させたり威力を大幅に上げたりと、一歩間違えたらとんでもない魔法を作り出せる魔眼だ。
歴史上最初に確認された奴がとんでもないサイコパス野郎だったらしく、その魔眼を有した本人とそれを産み出した家系を処刑によって根絶する、っていうのが世界レベルで行われている。
そんな忌み嫌われている魔眼を、俺は知らずに綺麗と言って受け入れたんだ。
俺の一言がきっかけで、王様や《影》、後多分王太子様も絡んでいるんだろうな、俺とアーリアをくっつけようと動き出したようだ。
俺としては政略結婚なんてもんは糞食らえと思っているから、やり方を変えて頑張って俺を惚れさせるようにあの手この手を使って来ているのだとか。
「しかし、貴殿はなかなか陥落しない。何かアーリア様に不満があるのか?」
「不満なんてねぇよ、これっぽっちも。むしろ心を揺さぶられ続けているさ」
「では、何故アーリア様を受け入れてくれないのだ!」
ここで初めて隣の《影》の表情を見た。
とても苦しそうだ。まるで、孫の願いを叶えられないじいちゃんみたいな。
「……あんたも同じ男ならわかるだろ? 譲れない、男の意地ってもんがあるんだ」
「貴殿の恋仲の二人の事かね?」
「ご存じでいらっしゃるか、流石だ。俺はその二人を妻に迎え入れる為に貴族を目指している」
「それも知っている。理由が婦人の序列をなくす為だとか。何とも愉快な理由で貴族を目指すものだな」
「笑ってくれてもいいぜ? 俺はとにかく、レイとリリルが最優先なんだ。彼女達を真っ先に妻に迎え入れたい」
「……第三婦人の席に、アーリア様は?」
「さぁな。俺は俺が惚れた女としか結婚するつもりはねぇ。まぁアーリアに関しては、レイとリリルを迎え入れてから……だな」
俺の最後の言葉には、色々な意味が含まれている。
アーリアも迎え入れるかもしれないし、もしかしたら迎え入れないかもしれないし。
《影》のじいちゃんもその意味を曖昧ながら汲み取ったらしく、「……そうか」と俯きながら弱々しく言った。
「では頼みを変更する。どうか、アーリア様を無下に扱わないで欲しい。結ばれなくても、だ」
「その点は安心してくれ」
「わかった。……そろそろお戻りになる。我々は任務に戻る」
「おう。あっ、そうだ。《影》の皆で食べてくれ。差し入れだ」
「……ありがたく受け取っておく」
俺は串焼きが入った袋を渡すと、一瞬だけじいちゃんの顔が笑顔になった。
アーリアが戻ってきた頃には、《影》の皆さんは何処か散り散りになっていた。
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こんにちは!
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、今回拙作「音の魔術師」をアルファポリス様の《第10回ファンタジー小説大賞》にエントリーさせていただきました!
ありがたい事に、現在100位以内に入っておりまして、大変嬉しく思います!
少しご協力頂ければなのですが、是非読者投票も行われているので、拙作を好いてくれているファンの方がいらっしゃったら、投票をしていただけると嬉しいです!
よろしくお願いします!
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