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第百七十四話 結婚式、終了
しおりを挟む俺は《ミュージックプレイヤー》を解除して、レイブラント君と向かい合った。
未だ観客達は歓声を上げていて、興奮冷めやらぬって感じだ。
まぁ俺と父さんの二人だけで、四十人の大人をKOしちまったんだからな。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ~~、しんどっ!」
隣にいる父さんがそう言った。
父さんは確かに汗だくで、立つのもやっとって状態みたいだ。
以前はこれ位ならまだまだやれる程だったのに、こんなに衰えたのか……。
「はぁ~、四十になった俺にはきっつい人数だった……」
「まだ四十だろう? まだまだ若いって」
「おいおい、俺にいつまで戦わせるつもりだよ」
「ん~、死ぬまでかな?」
「ハル、お前えぐいな」
「へへ。父さんと一緒に戦うのは楽しいし、これからも一緒にやりたいんだって」
「……無茶言うなよ」
レイブラント君を見てみると、手足は震えているが木剣を構えている。
怯えているのはわかる。しかし、俺を倒そうという気迫は伝わってきている。
政略結婚のはずだが、何故彼はここまで戦おうとしているんだろう?
俺にはちょっと理解出来なかった。
「おい、レイブラント君! あんたは何でそんなにアーリアと結婚したいんだ?」
「そ、それは、私は彼女の事を――」
「本当か? 俺と同じように、アーリアを好きなのか?」
「……」
黙り込んでしまう。
やっぱり、彼はアーリアを別に好きではないらしい。
「――どうしても、どうしても、王家との繋がりが必要なのだ」
「へぇ、そりゃまたどうしてさ」
「それが、私をここまで育ててくれた父上への恩返しになるからだ!!」
こいつはどうやら、親父殿に無理矢理やらされている訳ではないみたいだ。
親父殿の出世の為に、自分がその足掛かりを作る為に、アーリアと結婚をしようとしている。
そこにはアーリアへの愛はない。
ただただ、純粋に家族に対する恩返しをしたいという、彼なりの純粋な気持ちだったんだろうな。
そこで俺という横恋慕してきた奴に奪われようとしたから、こういった決闘を申し込んだ訳か。
「ふーん、なるほどねぇ」
「……笑っても構わない。だが、私が父上へ恩返し出来るのはこのような方法だけなのだ!」
相変わらず剣が震えているし足も震えている。
だが、レイブラント君の目には強い闘志が宿っていて、それは戦士が持つものと同じ視線だった。
そんな覚悟を持った男に対して、笑う訳ないじゃないか。
「笑わねぇよ、純粋に同じ男として尊敬する」
「――は?」
「確かにアーリアへの想いは全くないだろうよ。でもさ、向かい合ってわかるんだ、あんたが並々ならぬ意志でこの場に立っているのが。親の為にここまで出来るのは、純粋にすげぇよ」
「本当に……そう、思うか?」
「思うよ。自分の信念を曲げない、それこそ強い男だと俺は思う。だけどな」
俺だって負けられねぇんだよ。
だって、レイブラント君より強い想いがあると、信じているから。
「俺はアーリアが好きだ。レイとリリルと同じ位に、愛しているんだ。その想いは、あんたの信念より遥かに上だぜ?」
俺は自分に宿る闘気の全てを解放した。
闘気とは、闘争本能とか闘う意思、そういった気持ちを爆発させたものだ。
強い意思は時に大気を伝播して、相手に伝わる。
俺は今、アーリアを奪われたくないから倒す、という気迫を闘気に変換した。
そしてきっと俺の闘気がレイブラント君に届いたのだろう、一瞬で顔が青ざめた。
『う、うぅぅ。何かわたくし、気持ち悪くなってきました』
『全力全開のハル君の闘気ですね。普通の人がこれに当てられると気分が悪くなるかもしれないですね』
『……ちょっとしばらく実況をドーン様へ移行します』
『えっ、え? 俺!?』
実況さんがどっかに行っちゃったようだ。
きっとどっかで吐くのかな?
ちと悪い事しちゃったかなぁ。まぁ悪く思わないでくれ。
いきなり実況をパスされた隊長さんは、戸惑いつつも現状をしっかりと伝えている。
実況とは程遠いが、分かりやすく解説をしているようだ。
「さて、レイブラント君。あんたの家族への思いが本物なら、俺に一太刀入れられる筈だぜ?」
「う、うぅぅぅぅぅ」
足がもう限界なんだろう、膝が今にも地面に付きそうだ。
だが、彼の視線は未だに力強い。
諦めていないっていう証拠だ。
うん、レイブラント君の事、嫌いになれないわ。
「ぐっ、《ハミルトンの街》を統治している侯爵、《レオナルド・レイブラント》の長男、《ユーグリット・レイブラント》、参る!!」
ほう、同じ爵位だったか。
ユーグリット君が地面を蹴って俺に向かって走ってきている。
正直遅い、遅すぎる。だが、彼の表情は真剣そのもの。
自分が持てる力を出して、自分の意思を貫こうとしている男を笑う趣味はない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ユーグリット君が剣を上段に振りかぶり、俺の脳天目掛けて振り下ろす。
稚拙な技術故に、あまりにも遅い。
だが、俺はその斬撃を、敢えて受けた。
といっても、脳天じゃない。
体を移動させて、左肩へ当たるようにしたんだ。
振り下ろされた剣は、素直に俺の左肩に直撃してくれた。
「ぐっ!!」
遅い攻撃だったが、やっぱり当たるといてぇ!
しかし気合いが乗っているから、きっと攻撃も見た目以上に重かったんだろうな。
いい攻撃だ。
「あんたの一撃、見事だ。あんたが口にした言葉が嘘じゃないってのが、この攻撃でわかったよ」
「わ、わざと受けたの、か?」
「ああ、あんたの意思を感じられる、いい攻撃だったよ。だが残念だ、俺の想いの方が上だったようだな」
「……かもしれないな」
「試してみるか?」
「うむ。私の意思を体で受け止めて貰ったのだ。私もやらなきゃ平等ではないだろう?」
「……いいね、俺、そういうの好きだぜ?」
俺は右拳でユーグリット君の鳩尾を打ち抜いた。
コンパクトな打撃だが、急所に攻撃をしたんだ、その痛みは計り知れない。
「ぐっ、あ……」
ユーグリット君は痛みに耐えきれず、そのまま両膝を地面に付いてしまう。
だが剣を地面に立てて、倒れないように体を支えている。
「……ハル・ウィード侯爵の一撃、見事、だ。私の、負け、だ」
彼は悔しそうに顔を歪め、そしてそのまま前のめりで倒れた。
ふぅ、これでようやく全員だな。
『うむ、文句ない一撃で決まりましたね。勝者、ハル・ウィード!!』
隊長さんが声を張り上げて、俺の勝利を宣言してくれた。
そして、大歓声が沸き上がる。
「ハル様ぁぁぁぁっ!!」
「うおっ!?」
背後からアーリアの声がしたので振り向いてみると、俺に向かって飛びかかっていた。
驚きながらも俺はしっかりと彼女を受け止める。
「ハル様、わたくしは、ハル様の妻となり、生涯を共にする事を女神レヴィーア様の元、誓いますわ!」
「おいおい、女神像の前じゃないぜ?」
「そんなのはどうでもいいです! 早く、わたくしを妻にしてください」
もうどうやらアーリアは待ちきれないようだ。
俺はアーリアと離れ、彼女の左薬指に誓いの指輪を嵌め込む。
その瞬間、彼女は嬉しそうに笑ったんだ。
ああ、サングラスが邪魔だ、取ってしまいたい位だ。
そして俺は、アーリアとキスをした。
観客達は黄色い声を上げている。
女性達は素敵と憧れに近い声、男達は羨望の声だ。
「アーリア、これからもよろしくな」
「……はい! 本当に、わたくしはハル様の妻になったのですね。とても、嬉しいですわ」
こうして俺は、波乱があったものの、三人の妻を無事に迎え入れたのだった。
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