微笑む似非紳士と純情娘

月城うさぎ

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番外編

とある秘書の悩み事

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お久しぶりの苦労人、司馬視点です。
*誤字脱字訂正しました*
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 白夜様の様子がおかしい。

 幼少時から傍にいて仕えていた司馬がその些細な変化に気付いたのは、ある意味当然といえただろう。
祖父の代から代々東条家に仕えているため、司馬は5歳年下の白夜を幼い頃は弟のように見守ってきた。勿論子供の頃から厳しく躾けられてきた司馬は、自分の立場を弁えた行動を心がけてきたつもりで、年下の白夜や朝姫に対して敬意を忘れたことはなかった。

 そんな司馬は去年の年末から、上司であり主である白夜の些か行き過ぎた行動に、頭を悩まされることが増えてきた。
 
 今まで一度も胃の痛くなるような無茶や面倒事を振ってくることはなかった。仕事面では多少の無理は通してきたこともあるし、それは自分も全面的にサポートしてきたつもりだ。そして恋愛面では白夜が学生時代の頃を思い出しても、彼は決して誰か他人を巻き込むことはおろか、厄介ごとを引き起こす可能性すら起こさなかった。あっさりして割り切った関係を好む、そう思いこんでいたのだ。

 傍で見てきた為、当然ながら司馬は白夜の恋愛遍歴をある程度垣間見ている。昔から常に穏やかで大人顔負けの落ち着きぶりで微笑んでいた白夜は、中学高校は生徒会の会長を務め全校生徒や教師から絶大な支持を得ていた。容姿端麗、眉目秀麗、成績優秀、文武両道。そして東条グループの御曹司となれば、目立つなと言う方が無理だろう。限られた時間の中で学生らしい生活を謳歌してきたと傍から見てても思えた。

 社会人になっても割り切った大人な付き合いを好み、決して自分から大胆に行動することのなかった白夜を見ていたため、当初司馬は相当頭を悩まされた。まさかこの歳になって、自分の上司がここまで暴走するとは思っていなかったのだ。

 年末に起こった事件の後。とある人物について調べて欲しいと頼まれた直後から、坂の上から転がる石のようにエスカレートしていく白夜の行動に、司馬は始終ハラハラし通しだった。

 犯罪ギリギリの手段で調べ上げた女性の素性。そして接点を持つ為に己が持っている切り札を最大限に生かした行動力を使い、目に見えない包囲網を確実に張っていく用意周到で計算高い白夜。その様子を間近で見守ってきた司馬は、感嘆すると同時に少々背筋が寒くなった。正直に言うと、「ここまでするのか・・・」と心の中で呟いた事は、一度や二度ではない。

 相手が本当は誰なのか全てわかっていながら気付かないフリを続け、海外旅行にまで半ば強引に連れ出した後。現地でホテルの部屋をキャンセルしたりの裏工作までさせられた。頼まれればよっぽどの事がない限り引き受ける主義の司馬も、さすがにホテル側に空き部屋がないと嘘を告げる手配をするのに抵抗がなかったわけではない。無理なら全部屋を貸切にすると伝えれば快く協力してくれた。宿泊したホテルの従業員の教育がよく行き届いているのだろう。他の宿泊希望客を無下に扱わない所に高感度が上がった。

 そこまでは冷や汗をかきつつも何とかこなした。そして次に課せられた問題は、謎の人物”響”探し。麗に関係する響という名の人物を全員洗えと言われた時は、少し犯罪臭が漂い始めた。海斗を無理やり巻き込み、ようやく出てきた人物は結局血の繋がった弟だったのだが。一番初めに家族の可能性に思い当たらなかったのか。冷静そうに見えて実は内心では動揺していたのかもしれない。何があったのかは知らないが。

 年末年始の麗を巻き込んだ白夜の行き過ぎた行動を見守ってきた司馬は、それでも常に一歩離れた場所で上司の恋心を応援しつづけていた。

 だが胃痛の原因は白夜だけではなくて。確実にスルーして気付かない麗にも頭を悩まされ始めることが多くなった。お願いだから少し位気付いて欲しい。そう心の中で願っても伝わらず、彼女は幾度も危ない橋を自分から渡り始めた。それはもう傍から見ていて思わず額を覆いたくなるくらいの。何度も目配せをして助言しても、微妙に気付いているのかいないのか判断できない。ある意味その鈍感さは才能だと思い始めた。

 麗の独身男性を紹介して欲しい発言から、白夜が同性愛者なのではという疑いなど。室内の温度が一体何度下がったことだろう。微笑みながら怒る白夜の器用さには恐れ入る。

 彼女には自分の発言力の強さをそろそろ自覚して欲しい。
 麗の一挙一動が白夜の行動を決める。根回しをし、周囲から囲み、最終的には逃げられない位に追い詰められるのは自分自身だということを。そして薄々予想していた通りに、白夜は彼女の従兄の鷹臣を味方につけ、まんまと麗を第二秘書にさせた。

 ここまでくればもう天晴れの一言だ。

 自分が今まで見てきたものは一体なんだったのか。
 あっさりした関係を好むとばかり思っていたが、その考えを覆させられた。あまり物にも人にも強い関心をしめさない白夜が見せた麗に対する本気の執着心に、驚きを隠せなかった。これが初めて知った恋なのか。彼の本気に若干恐ろしさも感じたが、同時に心も動かされた。ここまで強く誰かを欲した白夜を見たことは一度もない。その恋を叶える努力を認め、影ながら応援すると誓った。


 だが、流石にこれは想定外だと司馬は呻いた。

 麗の奇行に自分を含め朝姫、海斗の三人が巻きこまれたのだ。突然抱きついてきた彼女は、社長室に入ってきた朝姫と海斗に暫く抱きついた後、その勢いのまま白夜にまで思いっきり抱きついた。
 
 あの時の彼の嬉しそうな顔はなかなか忘れられない。
 いつも微笑んでいるが、よほど彼女から胸に飛び込まれて心が緩んだのか。抱きしめ返した白夜の眼差しは愛しいものを見るように甘くて、思わず目頭が熱くなった。ようやく気持ちが報われる時が来たのかと若干期待を膨らませたが、次第に顔を真っ赤にさせた彼女は腕の拘束から飛び出し、そのまま部屋を出て行ってしまったのだ。

 その後取り残された三人の微妙な空気が漂う中で、白夜が告げた言葉に一瞬思考が停止した。

 『司馬。申し訳ないのですが、今から市役所に行って貰えますか?』
 
 とびっきりの笑顔を見た海斗は、素早く視線をそらした。その姿を視界の端で捉えてから、白夜に向き合う。

 そして告げられたお遣いの内容に、司馬の顔は引きつった。海斗が飲んでいた水を盛大に噴き出したのも咎めることは出来なかった。自分はタオルを渡して、呆れ顔で背中をさすってあげる朝姫を見やりながら、白夜に確認を取った。

 『社長、いえ、白夜様。相手の同意のない婚姻届を提出しても受理されませんよ?』
 一度受理されても後から撤回できる。白夜が突っ走って犯罪にまで手を染めないように時には待ったをかけるのも、長年仕える秘書として、そして兄代わりとして自分の役目だ。

 『勿論です。私が同意を得ないまま提出するとでも?』

 自信満々に告げた白夜の表情からは、自分が振られる可能性など一ミリも考えていないのだろう。既に婚姻届まで手元に用意しておこうと考えていることに、司馬は心の中で麗に一言謝罪した。

 どうか彼を好きになってくれますように。そして自分の大切な主を犯罪者にしないようご協力お願いします。


 そして1ヶ月も経たない間にこの婚姻届が役に立つとは、さすがの司馬にも予測は出来なかったのだ。
 

















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司馬の苦労はまだまだ続く・・・のかも?そろそろ彼も幸せになってほしいです(汗)
婚姻届はこの時から用意していました。この後司馬はちゃんと取りに行ってくれました。忙しいのに、ね。
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