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第二部
4.最上階の社長室
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*誤字訂正しました*
読みにくかったので、少し修正&加筆しました。
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社員食堂を離れて役員専用のエレベーターに乗り込んでから東条さんに話しかける。
でも何となくだけど、機嫌悪そう?
「あの、わざわざすみません。司馬さんは私に何の用事でしょうか?」
扉が閉まり社長室のある5階を押すのかと思いきや。東条さんは何故か最上階のボタンを押した。え、何で?司馬さんって今どこにいるの。
声に出さずとも私の疑問を正確に読み取った東条さんは、あっけなく否定した。
「司馬はここにはいませんよ。それに司馬が呼んでいるのも嘘です」
「・・・はい?」
嘘?え、何で嘘なんてわざわざついたんだろう。
怪訝な顔で隣にいる東条さんを見上げると、視線が合った。黒曜石のような瞳が私を真っ直ぐに見つめる。
「あれは貴女をあそこから連れ出す為の口実です」
「え?でも、食堂に用事があって来たんですよね?それで私をたまたま見かけたんじゃ・・・?」
じゃないと階が違うし、お昼を食べた後なら普通食堂に来ないだろう。私を連れ出すためって、そもそも何故私があそこにいるとわかったんだ?
「用があったのではなくて、貴女に会いに行ったのですよ。以前好きだと話していたメニューが今日のランチに出る事に気づきましてね。部屋に戻っても姿が見えなかったので、もしかしたら一般社員用の食堂で食べているのではと思いまして。一番初めに捜しに来てみました」
思ったとおりでしたね。
そう微笑みながらさらりと告げた東条さんに、私は思わず絶句する。何故私の行動パターンをそこまで読めるんですか!と内心で叫びを上げていた。実は東条さんもエスパーですか。もしかしなくてもうちの親戚じゃないのか。そうであっても多分驚かないと思う。
「ええっと、ご迷惑をおかけしました・・・でもあの、東条さん・・・」
「名前」
「はい?」
話し終わる前に珍しく東条さんが口を挟んだ。切れ長の二重の瞳がすっと細められる。
「名前で呼ぶと約束したはずですよね?」
口元は微笑んでいるのに目の奥で放つ光は真剣だ。その視線の強さに射すくめられて視線が逸らせない。思わず狭いエレベーター内なのに本能で一歩後ろに下がった。何となくだけど、よくない予感がするかも・・・。
「いいいやあああの!それは、2人っきりでいる時ならともかく!!」
「今は2人きりですが?」
ようやく硬直を解いた直後。下がった一歩をすぐに詰められた。何だろう、東条さんいつもの紳士っていうより、今はほんのちょっといじめっ子っぽくないですかね!?
「それは麗の時であって!会社にいる時は都ですから無理です!公私混同はいけません!!」
トン、と肩がエレベーターの壁にあたる。これ以上は一歩も下がれない。
そして東条さんの両手が私を囲むように後ろの壁について、間近で顔を近づけられてしまった。こんな状態になったら流石に都でいるのは無理だ・・・!(エレベーターに入った直後から麗だったけど。)
「でも今は私と麗以外に誰もいませんよ?」
掠れた声で囁かれ、吐息が耳元にかかった。その感触に驚き思わず「ひゃ!?」と小さく声が出た。ぞくりと震えが走り体が僅かに竦む。
もしかしなくても東条さん面白がってる!?
何で昼間からそんなに色気駄々漏れするんですか!
視線の強さと放たれる色香が刺激的すぎて直視できない。顔を背ければ、髪の隙間から首筋が覗いた。曝け出した首筋に東条さんが軽く指を這わせて、あの鬱血した箇所をなぞった。敏感な首を撫でられて、肌が粟立つ。うう、いちいち反応するな私の体よ!
「少し薄くなってますね・・・」
そう耳元で呟かれた後。ちう、と撫でられていた肌が突然強く吸われた。ピリっとした痛みが走る。
「っん・・・!」
チュ、とリップ音がして目を開けると、満足気な顔をした東条さんが視界に映る。もう訊かなくてもわかる。今私の首にキスマークつけましたね!?
「ななな、何するんですかあ~~!?」
かあー!と赤くなって思わず触れられていた首を手で押さえた。うわー!目立ったらどうしよう!?
「何って、マーキングです。麗は私のかわいいお嫁さんですから邪魔な虫除け代わりですね」
「よよよ嫁って、まだ結婚してませんよね!?」
だよね、出してないはずだよね!?婚姻届は金庫に保管するって言ってたよね!?
「ええ、確かに"まだ"ですが。でも近いうちにそうなるでしょう?」
甘く耳元で囁かれてから頬に軽くキスをされた。その直後、チンとエレベーターが到着を告げる音が鳴り、扉が開く。
もう何からつっこんでいいのかわからない。
顔を真っ赤にしたまま東条さんの後ろをついて行くと、エレベーターをおりてすぐの扉を東条さんが暗証番号を入力してから開けた。中へ促されて入ると、そこはどうやら昔の社長室だった。
東条さんが社長に就任する前まではこの最上階のフロアに社長室があった。けど今は丁度真ん中の5階に移動している。それは社員ともっと距離を縮めるためとか、社長室に来やすくするためとか、いろいろと理由があるようだ。最上階にあると社員を見下ろす形になるけど、真ん中だと上も下も見れて丁度いい位置なんだとか。目線を合わせるって意味だろうか。
そんなわけでこの最上階のフロアは今は別の物で埋められている。役員の部屋も5階に移動したからだ。ちなみに元々5階にあったのは資料室や倉庫代わりに使っていたスペースなどで、移動に困る事はなかった。今の最上階の奥には菜園があるし、今度空いたスペースにジムも出来るそうだ。それは社員にとっても嬉しいかも。
そしてもぬけの殻のはずの元社長室は、何故か応接間や机がそのまま残されている。定期的に掃除はされているようだけど、東条さん、何故私をここに連れ込んだんですか。
「あの、東条さん?」
困惑気味に見上げれば、「白夜で構いません」とやんわりと名前で呼ぶように要求された。
「ダメですよ!世の中、壁に耳あり障子に目ありですよ?噂になったら困るでしょう」
秘書と名前で呼び合う関係、社内で逢引き・・・そんな噂で困るのは社長の東条さんだ。私はまあ、女子社員の僻みと恨みと妬みと嫉妬が恐ろしいことになるだろうけど・・・あ、やっぱそれは怖いから却下だ。是非そんな恐ろしい体験は願い下げしたい。
「逆に牽制できて好都合なんですがね・・・」と溜息を吐くように呟いた声を私は自分の想像に集中していた為聞き逃した。
ふいに両手が握り締められる感触が伝わる。そして驚く暇も与えず、東条さんが私の手にキスを落とした。
もう、さり気なくキスをしてくるから油断ならない!さっきから口じゃなくて頬とか首とか、私をからかっているのだろか。顔の火照りが治まらないじゃないか!!
「な、何をいきなり・・・!?」
手を振り解こうとしても東条さんに握り締められてて無理だった。
「消毒です」
キュっと再び手を握り締められた後、右手を取られて手の甲にキスをされる。そしてそのまま唇が這うように手首まで移動してきた。リップ音が立てられてようやく唇が離されるまで、私は声にならない悲鳴をあげまくっていた。何で手首までキスするの!?
反対もと、左手までキスされそうになってすかさず手を解く。後退りして思わず距離を置いた。私の心臓を壊す気ですか、社内で!
「消毒って何の!?」
既に敬語も忘れている。動揺しまくってて言葉遣いに気を配る余裕はないみたいだ。
「勿論先ほど営業の霧島が貴女の手を握ったので、そのための消毒ですよ」
霧島さんが手を握った・・・?ああ、あの時か。確か自分に投票して欲しいってお願いされた時だ。そんなに票を求めなくても、5位に入るのは確実なんだし私のなんていらないと思うけど。多分その場のノリからリクエストしただけなんじゃ?
「手を触られただけですよ?」
そこまで過剰に反応することなのかと首を傾げて東条さんを見つめる。間合いを詰めた東条さんは少し眉を顰めた。そんな不機嫌顔は珍しい。
「それでも嫌ですね。貴女に触れる男性は私一人で十分ですので」
手を引っ張られてグイと抱き寄せられる。顔が東条さんのスーツにつかないように気をつける私に気付かないのか、東条さんは遠慮なく抱きしめてくれた。嬉しいけど私はこの高級なスーツを汚さないか、物凄く気が気じゃない。
「どうやら私は相当独占欲が強いようです」
はあ、と耳元で溜息を吐かれて、ドキンと心臓が跳ねた。独占欲が強い。ほかの男性に触れられるのが嫌。それってやきもちを妬いてくれたって事?
やばい、嬉しいかも・・・
私を独占したいという気持ちが困ったことに嬉しくて、つい頬が緩んでしまった。束縛なんて嫌だと思うよりも、もっとして欲しいと思うなんて。私は完全に恋の病に冒されていると思う。
背伸びをして東条さんの頬に小さくキスをした。目を見開いて驚く東条さんに微笑む。
「ごめんなさい。でも、ちょっと嬉しいです」
そう告げた直後。くいっと顎を上げさせられて、東条さんの唇が合わさった。目を閉じる暇もなくすぐに離されただけの瞬間的なキスでも、私の顔はちゃんと反応を示して真っ赤に染まってしまった。不意打ちはずるい・・・!
「週末はうちに泊まりに来てくれますよね?」
ギュっと再び抱きしめられたけど、予想外の質問を聞いて思わず反応に遅れる。
お泊り・・・?え、お泊り!?
泊まるのは初めてじゃないけど、恋人(仮婚約)になってからはこれが初めてだ。流石に私だって何を意味しているのかはわかる。でもそれはもう少し先だろうと漠然と思っていたわけで。東条さんがそれを含めた意味で泊まりに来てくれと頼んでいるなら・・・
それはまだ心の準備が・・・!!
一言も発さず硬直した私を見て、東条さんが顔を覗きこんで頬を撫でた。くすりと小さく微笑みながら優しく慈しむような手つきで頭まで撫でられる。
「深く考えなくていいですよ。ただ麗と少しでも一緒にいたいだけですから」
貴女の嫌がることはしません。
そう続けられて少しだけ緊張が解れた。けれどそれでも顔の火照りは治まらない。うう・・・恥ずかしい!
「はい、すみません・・・」
つい謝ってしまうと、「謝る必要はありません」と、東条さんは返してくれた。その優しさに私って本当に愛されていると感じてしまう。
「ありがとうございます。そうですね、お付き合いは順序正しく美しくですよね!」
そうだよ、恋人同士になったらその順序を守らなければ!
私の中の恋人のステップは、告白する→手を繋ぐ→デートする→キスをする→xxx・・・
あれ?
デートと最後以外、手も繋げばキスもクリアしている?って事は、デートをしていないのか。
「とう・・・えっと、白夜。私、白夜とデートがしたいです」
危ない、また言い間違える所だった。ここでまた不機嫌な顔をされたくない。
ようやく私に名前で呼ばれた東条さんは、嬉しそうな顔をして反応した。
「デートですか?勿論です。麗が行きたい所に行きましょう」
ぼーと見惚れるくらい温厚な笑みで微笑まれた私は、その笑顔の破壊力に耐えて何とか笑顔で頷いた。
今週の土曜日にデートが決まる。時間や場所はまた後で決めるとして、流石に仕事に戻る時間になったのでまたエレベーターで5階まで降りた。
都にモードチェンジをしてからその日は仕事に集中して、上機嫌で帰宅した直後。
「げっ!」
鷹臣君から届いたメールを見て、思わず呻き声を上げる。
突然舞い込んだ仕事の所為で、結局土曜日のデートは延期になりそうだった。
もう、鷹臣君のバカー!!
************************************************
白夜嫉妬しても麗を拉致ったらいけません。でもその後彼は麗の希望通り、2人きりでも社内で名前を呼ぶのは強要しないようになりました(多分ね!)
その気がないのに何故か甘くなるのは、100%この男の所為だと思います・・・エレベーターで何やってるの!着くまでそんなに時間かかるのかと疑問に思われると思いますが、都合よく解釈して頂けると大変助かります(笑)
誤字脱字、見つけましたら報告お願いします!
読みにくかったので、少し修正&加筆しました。
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社員食堂を離れて役員専用のエレベーターに乗り込んでから東条さんに話しかける。
でも何となくだけど、機嫌悪そう?
「あの、わざわざすみません。司馬さんは私に何の用事でしょうか?」
扉が閉まり社長室のある5階を押すのかと思いきや。東条さんは何故か最上階のボタンを押した。え、何で?司馬さんって今どこにいるの。
声に出さずとも私の疑問を正確に読み取った東条さんは、あっけなく否定した。
「司馬はここにはいませんよ。それに司馬が呼んでいるのも嘘です」
「・・・はい?」
嘘?え、何で嘘なんてわざわざついたんだろう。
怪訝な顔で隣にいる東条さんを見上げると、視線が合った。黒曜石のような瞳が私を真っ直ぐに見つめる。
「あれは貴女をあそこから連れ出す為の口実です」
「え?でも、食堂に用事があって来たんですよね?それで私をたまたま見かけたんじゃ・・・?」
じゃないと階が違うし、お昼を食べた後なら普通食堂に来ないだろう。私を連れ出すためって、そもそも何故私があそこにいるとわかったんだ?
「用があったのではなくて、貴女に会いに行ったのですよ。以前好きだと話していたメニューが今日のランチに出る事に気づきましてね。部屋に戻っても姿が見えなかったので、もしかしたら一般社員用の食堂で食べているのではと思いまして。一番初めに捜しに来てみました」
思ったとおりでしたね。
そう微笑みながらさらりと告げた東条さんに、私は思わず絶句する。何故私の行動パターンをそこまで読めるんですか!と内心で叫びを上げていた。実は東条さんもエスパーですか。もしかしなくてもうちの親戚じゃないのか。そうであっても多分驚かないと思う。
「ええっと、ご迷惑をおかけしました・・・でもあの、東条さん・・・」
「名前」
「はい?」
話し終わる前に珍しく東条さんが口を挟んだ。切れ長の二重の瞳がすっと細められる。
「名前で呼ぶと約束したはずですよね?」
口元は微笑んでいるのに目の奥で放つ光は真剣だ。その視線の強さに射すくめられて視線が逸らせない。思わず狭いエレベーター内なのに本能で一歩後ろに下がった。何となくだけど、よくない予感がするかも・・・。
「いいいやあああの!それは、2人っきりでいる時ならともかく!!」
「今は2人きりですが?」
ようやく硬直を解いた直後。下がった一歩をすぐに詰められた。何だろう、東条さんいつもの紳士っていうより、今はほんのちょっといじめっ子っぽくないですかね!?
「それは麗の時であって!会社にいる時は都ですから無理です!公私混同はいけません!!」
トン、と肩がエレベーターの壁にあたる。これ以上は一歩も下がれない。
そして東条さんの両手が私を囲むように後ろの壁について、間近で顔を近づけられてしまった。こんな状態になったら流石に都でいるのは無理だ・・・!(エレベーターに入った直後から麗だったけど。)
「でも今は私と麗以外に誰もいませんよ?」
掠れた声で囁かれ、吐息が耳元にかかった。その感触に驚き思わず「ひゃ!?」と小さく声が出た。ぞくりと震えが走り体が僅かに竦む。
もしかしなくても東条さん面白がってる!?
何で昼間からそんなに色気駄々漏れするんですか!
視線の強さと放たれる色香が刺激的すぎて直視できない。顔を背ければ、髪の隙間から首筋が覗いた。曝け出した首筋に東条さんが軽く指を這わせて、あの鬱血した箇所をなぞった。敏感な首を撫でられて、肌が粟立つ。うう、いちいち反応するな私の体よ!
「少し薄くなってますね・・・」
そう耳元で呟かれた後。ちう、と撫でられていた肌が突然強く吸われた。ピリっとした痛みが走る。
「っん・・・!」
チュ、とリップ音がして目を開けると、満足気な顔をした東条さんが視界に映る。もう訊かなくてもわかる。今私の首にキスマークつけましたね!?
「ななな、何するんですかあ~~!?」
かあー!と赤くなって思わず触れられていた首を手で押さえた。うわー!目立ったらどうしよう!?
「何って、マーキングです。麗は私のかわいいお嫁さんですから邪魔な虫除け代わりですね」
「よよよ嫁って、まだ結婚してませんよね!?」
だよね、出してないはずだよね!?婚姻届は金庫に保管するって言ってたよね!?
「ええ、確かに"まだ"ですが。でも近いうちにそうなるでしょう?」
甘く耳元で囁かれてから頬に軽くキスをされた。その直後、チンとエレベーターが到着を告げる音が鳴り、扉が開く。
もう何からつっこんでいいのかわからない。
顔を真っ赤にしたまま東条さんの後ろをついて行くと、エレベーターをおりてすぐの扉を東条さんが暗証番号を入力してから開けた。中へ促されて入ると、そこはどうやら昔の社長室だった。
東条さんが社長に就任する前まではこの最上階のフロアに社長室があった。けど今は丁度真ん中の5階に移動している。それは社員ともっと距離を縮めるためとか、社長室に来やすくするためとか、いろいろと理由があるようだ。最上階にあると社員を見下ろす形になるけど、真ん中だと上も下も見れて丁度いい位置なんだとか。目線を合わせるって意味だろうか。
そんなわけでこの最上階のフロアは今は別の物で埋められている。役員の部屋も5階に移動したからだ。ちなみに元々5階にあったのは資料室や倉庫代わりに使っていたスペースなどで、移動に困る事はなかった。今の最上階の奥には菜園があるし、今度空いたスペースにジムも出来るそうだ。それは社員にとっても嬉しいかも。
そしてもぬけの殻のはずの元社長室は、何故か応接間や机がそのまま残されている。定期的に掃除はされているようだけど、東条さん、何故私をここに連れ込んだんですか。
「あの、東条さん?」
困惑気味に見上げれば、「白夜で構いません」とやんわりと名前で呼ぶように要求された。
「ダメですよ!世の中、壁に耳あり障子に目ありですよ?噂になったら困るでしょう」
秘書と名前で呼び合う関係、社内で逢引き・・・そんな噂で困るのは社長の東条さんだ。私はまあ、女子社員の僻みと恨みと妬みと嫉妬が恐ろしいことになるだろうけど・・・あ、やっぱそれは怖いから却下だ。是非そんな恐ろしい体験は願い下げしたい。
「逆に牽制できて好都合なんですがね・・・」と溜息を吐くように呟いた声を私は自分の想像に集中していた為聞き逃した。
ふいに両手が握り締められる感触が伝わる。そして驚く暇も与えず、東条さんが私の手にキスを落とした。
もう、さり気なくキスをしてくるから油断ならない!さっきから口じゃなくて頬とか首とか、私をからかっているのだろか。顔の火照りが治まらないじゃないか!!
「な、何をいきなり・・・!?」
手を振り解こうとしても東条さんに握り締められてて無理だった。
「消毒です」
キュっと再び手を握り締められた後、右手を取られて手の甲にキスをされる。そしてそのまま唇が這うように手首まで移動してきた。リップ音が立てられてようやく唇が離されるまで、私は声にならない悲鳴をあげまくっていた。何で手首までキスするの!?
反対もと、左手までキスされそうになってすかさず手を解く。後退りして思わず距離を置いた。私の心臓を壊す気ですか、社内で!
「消毒って何の!?」
既に敬語も忘れている。動揺しまくってて言葉遣いに気を配る余裕はないみたいだ。
「勿論先ほど営業の霧島が貴女の手を握ったので、そのための消毒ですよ」
霧島さんが手を握った・・・?ああ、あの時か。確か自分に投票して欲しいってお願いされた時だ。そんなに票を求めなくても、5位に入るのは確実なんだし私のなんていらないと思うけど。多分その場のノリからリクエストしただけなんじゃ?
「手を触られただけですよ?」
そこまで過剰に反応することなのかと首を傾げて東条さんを見つめる。間合いを詰めた東条さんは少し眉を顰めた。そんな不機嫌顔は珍しい。
「それでも嫌ですね。貴女に触れる男性は私一人で十分ですので」
手を引っ張られてグイと抱き寄せられる。顔が東条さんのスーツにつかないように気をつける私に気付かないのか、東条さんは遠慮なく抱きしめてくれた。嬉しいけど私はこの高級なスーツを汚さないか、物凄く気が気じゃない。
「どうやら私は相当独占欲が強いようです」
はあ、と耳元で溜息を吐かれて、ドキンと心臓が跳ねた。独占欲が強い。ほかの男性に触れられるのが嫌。それってやきもちを妬いてくれたって事?
やばい、嬉しいかも・・・
私を独占したいという気持ちが困ったことに嬉しくて、つい頬が緩んでしまった。束縛なんて嫌だと思うよりも、もっとして欲しいと思うなんて。私は完全に恋の病に冒されていると思う。
背伸びをして東条さんの頬に小さくキスをした。目を見開いて驚く東条さんに微笑む。
「ごめんなさい。でも、ちょっと嬉しいです」
そう告げた直後。くいっと顎を上げさせられて、東条さんの唇が合わさった。目を閉じる暇もなくすぐに離されただけの瞬間的なキスでも、私の顔はちゃんと反応を示して真っ赤に染まってしまった。不意打ちはずるい・・・!
「週末はうちに泊まりに来てくれますよね?」
ギュっと再び抱きしめられたけど、予想外の質問を聞いて思わず反応に遅れる。
お泊り・・・?え、お泊り!?
泊まるのは初めてじゃないけど、恋人(仮婚約)になってからはこれが初めてだ。流石に私だって何を意味しているのかはわかる。でもそれはもう少し先だろうと漠然と思っていたわけで。東条さんがそれを含めた意味で泊まりに来てくれと頼んでいるなら・・・
それはまだ心の準備が・・・!!
一言も発さず硬直した私を見て、東条さんが顔を覗きこんで頬を撫でた。くすりと小さく微笑みながら優しく慈しむような手つきで頭まで撫でられる。
「深く考えなくていいですよ。ただ麗と少しでも一緒にいたいだけですから」
貴女の嫌がることはしません。
そう続けられて少しだけ緊張が解れた。けれどそれでも顔の火照りは治まらない。うう・・・恥ずかしい!
「はい、すみません・・・」
つい謝ってしまうと、「謝る必要はありません」と、東条さんは返してくれた。その優しさに私って本当に愛されていると感じてしまう。
「ありがとうございます。そうですね、お付き合いは順序正しく美しくですよね!」
そうだよ、恋人同士になったらその順序を守らなければ!
私の中の恋人のステップは、告白する→手を繋ぐ→デートする→キスをする→xxx・・・
あれ?
デートと最後以外、手も繋げばキスもクリアしている?って事は、デートをしていないのか。
「とう・・・えっと、白夜。私、白夜とデートがしたいです」
危ない、また言い間違える所だった。ここでまた不機嫌な顔をされたくない。
ようやく私に名前で呼ばれた東条さんは、嬉しそうな顔をして反応した。
「デートですか?勿論です。麗が行きたい所に行きましょう」
ぼーと見惚れるくらい温厚な笑みで微笑まれた私は、その笑顔の破壊力に耐えて何とか笑顔で頷いた。
今週の土曜日にデートが決まる。時間や場所はまた後で決めるとして、流石に仕事に戻る時間になったのでまたエレベーターで5階まで降りた。
都にモードチェンジをしてからその日は仕事に集中して、上機嫌で帰宅した直後。
「げっ!」
鷹臣君から届いたメールを見て、思わず呻き声を上げる。
突然舞い込んだ仕事の所為で、結局土曜日のデートは延期になりそうだった。
もう、鷹臣君のバカー!!
************************************************
白夜嫉妬しても麗を拉致ったらいけません。でもその後彼は麗の希望通り、2人きりでも社内で名前を呼ぶのは強要しないようになりました(多分ね!)
その気がないのに何故か甘くなるのは、100%この男の所為だと思います・・・エレベーターで何やってるの!着くまでそんなに時間かかるのかと疑問に思われると思いますが、都合よく解釈して頂けると大変助かります(笑)
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