微笑む似非紳士と純情娘

月城うさぎ

文字の大きさ
41 / 106
第二部

32.蒼園家

しおりを挟む
鷹臣視点です。麗は登場しません。
そしてすみません、新キャラ登場します。
********************************************

 そこそこ厄介事や面倒事には慣れていた。
 自分が父親の立場を引き継ぐまでは好きに生きろと言われてありがたくそうさせて貰っている。だがどうしても次期当主として参加しなければいけない行事は年に数回はあって。流石にそれらを全て無視することはできなかった。

 だから今回の件も気が進まなかったが、当主である実父の命令に付き従い、こんな辺鄙な場所にまで赴いたわけだが・・・

 エレベーターに乗り込み辿り着いた光景を目にした直後。
 鷹臣は既に若干後悔し始めていた。


 ◆ ◆ ◆

 古くから続く特殊な力を受け継ぐ一族は、皆揃って秘密主義者だ。勿論古紫家も例外ではない。情報が漏れないよう本邸の位置は基本的に隠されているし、常に強固な結界が張ってある。一般人が郵便を届ける場所は表向きの一般家庭が住まうような民家であって、広大な敷地に建てられた日本邸ではない。通行証なしに本邸に辿り着ける者はまずいないだろう。

 それ故、他家でも似たり寄ったりの工夫が施されているだろうとは思っていた。一族に関する情報は徹底的に管理され外に漏れないよう、何かしらの術なり結界なりを張っているのだと。だから待ち合わせ場所に赴いた鷹臣は忽然と現れた者達に目隠しをされて車に乗せられても、慌てることはなかった。平然と隣に座る十夜の存在も冷静さを保つ要素の一つになっただろう。目撃した人物は誰一人もいないのだから、誘拐や拉致などと騒ぎ立てられる心配もない。

 車で移動ならまだ楽だし比較的普通まともだ。たとえその待ち合わせ場所が飛行機で移動し、そこからまた電車で2時間も移動しないとならない不便な場所だとしても。目隠しをされて車で舗装されていないでこぼこ道を永遠と移動させられても。このぐらいはまだまだ想定内だ。

 鷹臣は文句も言わず無言のままじっと黙って目的地へ着くのを待った。
 そして辿り着いた場所に到着後、ようやく目隠しを取り案内役の後ろをひたすらついて歩く。時折十夜が小さな結界を張っておけという命令を聞き入れながら、鷹臣は自分達の周辺にも薄い結界を張って細心の注意を心がけていた。

 そして無機質なコンクリートの建物内から地下へ続くエレベーターに乗りこんだ。少しレトロな昭和風を思わせるエレベーターはチン、と目的地へ着いた音を響かせた。ようやく開いた光景を目撃した鷹臣は表情には出さずとも唖然とする。何だこの空間は。

 「やあやあ、古紫家のご当主と次代当主のお2人ではないですか!ようこそ遠い所にいらっしゃいました」

 ニコニコ笑顔で歓迎の意を示すように両腕を広げた30前の若い男は、広間の中央に立って二人に話しかけた。

 100畳近くあるだろう部屋は襖が全て取り払われており、新品な畳の匂いが微かに鼻腔を擽る。既に集まっているのは40名ほどだろうか。皆各々の色にまつわる服装を身にも纏っていた。特に決まりがあるわけではないが、いつの頃からか数年に1度の頻度で開催される会合には、それぞれが名前と一致する色をどこかに纏う事がお約束になっていた。十夜は品のいい紫のネクタイとカフスを身につけ、鷹臣は控えめな紫のワイシャツを黒のジャケットの下に着込んでいた。ちなみにネクタイはつけない主義だ。

 そして居並ぶ人物は、圧倒的に青色系を纏っている者が多い中、10名近くは赤い色を纏っていることに鷹臣は若干驚く。こちらがたった2人で赴いたのに、当然呼ばれたであろうもう一家族はそこそこ大人数で来たのだ。代表者だけではないことに鷹臣だけじゃなく十夜までもが訝んだ。

 だが眉を顰めた最大の原因は自分達を歓迎した男にある。

 170cm半ばのひょろりとした体躯に顔立ちだけは純和風の整った美貌の男。切れ長の一重は涼やかで、目尻の泣きぼくろがほんのりと男の色気が漂う。鍛えられた体躯とは言いがたい完全なインドア派な容姿だが、隙だらけというわけでもない。浮かべられた表情は友好的で喜びを露にしている。初対面相手にも何の苦もなく懐に入り込むような警戒心を抱かせない胡散臭い笑顔で、集まってくれた招待客に礼を述べていた。

 だがその格好がいかんせん、奇抜すぎた。

 あの有名な音楽家、モーツアルトを彷彿とさせるような白髪の巻き髪のカツラをかぶり、服装に至るまで中世的だ。膝丈までのズボンに白いソックス、そしてフリルがついた白いシャツに藍色のベストとジャケット。胸元にはブローチまでついていて、それすらアンティークかと思わせるような拘りようだった。

 純和風の容姿に中世のヨーロッパ的な格好。それだけでミスマッチなのに、その人物は更なる上を行った。

 「お集まりになった皆様。改めまして、ようこそ蒼園へ!そして初めまして、このたび当主の座に就く事が決まりました、蒼園そうえんかなでと申します。長旅でお疲れになった皆様にはまず始めに私が癒しの音楽を披露したいと思いますので、どうぞお寛ぎ下さい」

 畳の上に並べられた座布団の上に腰をかけた鷹臣と十夜は、突然始まった演奏会に内心困惑しながら大人しく黙り込む。

 そしてモーツアルト風を選んだのは勿論モーツアルトが作曲した曲を演奏するからだろうと予想した。その時はヴァイオリンかピアノでも演奏するのかと。だが彼が持ってこさせた楽器は、そのどちらかでもなくて。二本の金属弦が特徴的な中国の弦楽器――二胡だった。

 (――だれか突っ込めよ!)

 表面上では冷静さ保ちながら、内心では激しく突っ込みをいれつつ少々苛立つ。危なげなく二胡を操り見事な音色を奏でる蒼園 奏を眺めた。もはや突っ込みどころが満載すぎてどこから突っ込めばいいのかわからない。曲は一応リラックス効果があると言われるモーツアルトの有名曲なのに、何故楽器がそれなのだ。二胡でそれを弾けることも驚きだが。そしてお前はコスプレ趣味なのか。

 「やはり変人か」と、隣でぼそりと十夜が呟いた。
 無表情で気難しい顔を常に浮かべている父が呟いた「変人」の一言に、鷹臣は改めて父親の偉大さを思い知った。変人の一言で全てを片付けられて納得してしまえる程、自分はまだ人間が出来ていないようだ。変わり者揃いの蒼園家と自分より数十倍も面識がある父にとったらこの位は可愛い物なのだろう。

 二胡を抱えながらモーツアルトの曲を演奏し終わった男は、満足気な微笑みを浮かべた。

 「少しは旅の疲れが落ちたらいいのですが」と告げた男は重かったのか、目の前でカツラを取った。重いのなら初めからつけるな、と言いたいのをぐっと堪える。

 そして見た目は変人そうだが、やはりというか、流石というべきか。たった一曲奏でただけなのに、驚くほど疲労感が拭われていた。それは自分だけではないだろう。隣に座る十夜に視線のみで尋ねると、彼は微かに頷いて見せた。蒼園の特殊能力を身をもって体験するのは初めてだな、と鷹臣は頭の片隅で過去の記憶を探る。音楽や芸術に優れた蒼園の力はこんな事にも使えるのか。それともあの男が持つ力が癒しの音楽を奏でることなのか。

 10分ほど席を外してすぐに戻ってきた男は、今度はすっかり違和感のない姿になっていた。古紫本家でも見慣れた和装姿の蒼園 奏は、和服が似合う美男子にしか見えなかった。さっきまではどう見ても変人にしか見えなかったのに。ある意味詐欺のようだ。

 そして再び挨拶を告げて、どこかぴりぴりとした張り詰めた空気と共に、当主就任式が行われた。


 ◆ ◆ ◆

 当主就任式はつつがなく終わり日が暮れると一同は宴会場の広間に移動した。寡黙で社交的とは言えない十夜だが、当主として一癖も二癖もある連中と談笑をしていた。少々厳しく鋭利な瞳が印象的な顔つきだが、50を過ぎても皺がほとんどなく黒髪の十夜は未だに女性陣からの視線をちらほらと集めていた。

 遺伝的な物なのか、はたまた受け継がれる力の所為なのか。どうやら強い力を持つ者は総じて老いるのが遅い傾向にある。雪花がいい例だ。どう見たって80を過ぎているには見えないほどに若い。未だに彼女は50代後半の姿に見える。そしてこの場に集まる者が皆見た目通りの年齢ではないのだろう。

 鷹臣は一人広間から離れた壁際に移動した。先ほどの挨拶で使われた畳の部屋とは違い、今はすっかり洋風の広間で宴会が行われている。立食式のこの場で常に十夜に寄り添う事もないだろうと判断した鷹臣は、早々にこの場を傍観することに決めこんだ。

 先代当主が死亡した説明は結局得られないまま当主就任式が行われた。四十九日が過ぎたとは言え、こうも華やかな場を設ける気になるのかとつい柳眉を顰めたくなるが、すぐに頭を振る。他家で余計な事を口出しするべきではないのだから、死因については独自に調べつつ今は考えないでおこう。

 ふと微かな気配を察知する。自分が施した結界に見知った気配が感じられたのだ。その人物が誰か特定しようと意識を集中させた所で、横から声がかけられ思考を中断させられた。

 「あら。お久しぶりね?鷹臣さん」

 内心で小さく舌打ちをする。面倒で邪魔な奴が声をかけてきた。

 仕方がなく振り返ると、そこには数年前から変わらない容姿の美女が艶然と微笑んでいた。深紅のドレスは胸元が大胆にカットされており、太ももの際どい所までスリットが入っている。首元には同色のスカーフが巻かれているが、指の先から靴まで彼女が身につける物は決まったように赤一色だった。口紅も勿論赤で、指輪などの装飾品もルビーかガーネットという徹底振りだ。髪だけは落ち着いたブラウンに染まっているが、ここまで赤だったら流石に胸焼けを起こしそうである。見ている方が威嚇されている気分になりそうだ。

 見るからに気が強そうな美女は、見た目だけなら20代前半に見えるだろう。実際の年齢は自分とそう変わらないはずであるが。

 女は豊満な体を鷹臣に押し付けながら赤ワインの入ったグラスを鷹臣が持つグラスにあてた。こつん、とワイングラスの小さな音が響く。馴れ馴れしく鷹臣の腕に己の腕をからめたその女は、一般男性なら一目で骨抜きにされそうな魅惑的な微笑で鷹臣の耳元に唇を寄せた。

 「貴方、まだあの不吉な神憑き巫女と付き合っているの?いい加減わたしの愛を受け入れて欲しいのだけれど?」
 本気か冗談かわからない口調で女は囁いた。
 同性から見ても見惚れそうなほど完璧な肢体に細い腰、そして張りのあるキレイな谷間を見せ付けても、鷹臣は眉一つ動かさずただ一瞥するだけだった。

 「・・・アゲハか。何の用だ」
 挑発的な仕草に妖艶な微笑すら鷹臣は興味なさげだ。その様子に若干不満をあらわした女、緋涙ひるいアゲハは、するりと腕の拘束をほどいた。

 「ったく、相変わらずつれない男ね。わたしみたいないい女に言い寄られても眉すら動かさないって、本当失礼しちゃうわ」
 「お前のバカ力で俺の腕を折ろうする女はごめんだが、あいつよりいい女になったら考えてやるって前にも言ったはずだが?」
 そこでようやく無表情を崩した鷹臣は、ニヤリと口角を吊り上げた。絡められた腕は若干痛むが。もし鷹臣が咄嗟に触られた腕に結界を張っていなかったら、今頃複雑骨折をしているだろう。彼女が持つ怪力は洒落にならない。

 「ならさっさと結婚しなさいよ。いつまで火種を燻らせているつもりなの。全く、こっちだっていい迷惑よ」
 ぶつくさと不機嫌に文句を言い始めたアゲハを、鷹臣は昔馴染みを眺める視線で見つめた。

 「俺だって出来るならそうしたいがな、まあそろそろだろう」
 「あんまり悠長なこと言ってられないんじゃないの?まだ知らないと思うけど、あの新しいご当主様、見かけどおりのちょっと変わったへたれ和風イケメンなだけじゃないわよ」
 やはり変人という認識はどこも変わらないらしい。
 
 何か仕出かすつもりだから気を付けたほうがいいと、アゲハは懸念を露にした。
 その裏を感じさせる発言に、鷹臣は小さく頷き返して「わかってる」と周囲には聞こえないようぽそりと呟いた。


 ◆ ◆ ◆
 
 会場を見渡せる丘の上には一本の古い楠木くすのきが、その土地の主のように堂々と根をはっている。月明かりの下で一人の青年がその木の上から会場を双眼鏡から覗いていた。

 まるで夜に溶け込むかのような暗い藍色の上下を身に纏った青年は、感情の見えない眼差しで豪華で絢爛なパーティーを見下ろしながら、くしゃりと一通の白い紙を握りつぶした。

 青年は本来なら今宵の宴に出る権利がある人物で、そして束縛などとは無縁に生きてきた人物だ。

 自由を愛し芸術を愛し、自分が叶わなかった分、家に縛らず好きに生きろと幼い自分に告げたあの人はもういない。
 
 死に際すら会えず、明確な死因すら解明されていない前の当主が、何故突如急死したのか。ただ一言、"不運な事故"だけで片付けられた説明は到底納得できるものではなかった。

 そして今日正式に当主の座に就任したあの男――蒼園 奏は、何を考えているのか。
 身近にいた期間が短いため、判断材料が少なすぎる。たとえ血縁関係にあったとしても、彼とはほんの数回しか話したことがなかった。

 そもそも本家の集まりに参加した事すら、片手で数えるほどしかない。

 くしゃり、と丸めた紙の皺を伸ばし始めた所で、ふいに真下から名前を呼ばれた。

 「・・・慧那けいな。やっと見つけたぞ」

 目線のみで慧那と呼ばれた青年は、真っ直ぐ見上げてくる良く見知った人物に視線を投げた。

 「お前も一度位顔を出したらどうなんだ」
 「嫌だね。何で俺が行かないといけないの。めんどくさい」

 声をかけた青年は呆れの混じった表情で嘆息する。この場に来ただけでもマシなのだろう。面倒で厄介事に巻き込まれたくないのは自分も同じなのでそれ以上は言えなかった。ふと青年は慧那の手が握り締めているしわくちゃの紙に目を留めた。

 「お前、それって見たら燃やすか処分するか言われてなかったか?」
 「煩いよ、菊之介きくのすけ。ただでさえ人の名前おぼえるの嫌いなのに、一度見ただけで把握なんて出来るわけないじゃない。あの人俺たちを何だと思ってるの」

 再びめんどくさいと心底嫌そうに呟いた慧那に、菊之介はなんとも言えない顔で苦々しく頷く。

 それは今朝、時期当主から直接手渡された一通の紙だ。そこに記されていたのは、ざっと20名ほどの人名だった。一見何の共通点もなさそうに見えるそれらの名前だが、関係者が見れば一目瞭然だ。

 リストの上から綴られているのは、古くから付き合いのある古紫、緋涙の名に続いて、彼等の分家筋の名前が並べられていた。村崎、藤宮、紅月こうづきに火川。そして本来ならリストには載らないはずの人間の名前まで記載されている事に気付き、慧那は苛立ちを露にしていた。

 「先月もらった時は一番最後におまけ程度に名前が入っていただけだったのに。何で今回は彼女の名前が上位に入ってるの」
 「それは・・・上の考えが見直されたからなんじゃ?遅咲きの彼女の力が顕現したのはつい最近なんだし。それに直感力なんてほとんど分かりにくい力って言えばそうだしね」
 それでも納得できないのか、慧那の不機嫌はなおらない。
 無理もない、と菊之介は肩をすくめた。

 リストに載るのは各家の未婚の男女。年の頃は10代後半から30代までだろうか。その者達は古くから続く血を濃く受け継ぐ者達だった。そして上位に書かれていればいるほど優先順位が上がる。特にトップ5に入る人間は、是が非でも蒼園の一族が手に入れたい確実な人間だった。

 蒼園の未婚の年頃の男女に渡されたリストは既に決定済みの物。選ばれた人間は上からの命令でリストに載る人物と婚姻せよ、と通達が届いた。些か強引な話だが、この中から好きな人物と接触して穏便に婚姻まで持ち込めれば手段は構わないらしい。
 仕事の都合をつけて何とか早朝自分を呼び出した人物の部屋に窺えば、あまり会話らしい会話もした事がない同年代の親族が数名集められていた。
 着物姿の奏は呼び出した未婚の若者が全員集まると、名前が綴られたリストを渡した。

 『既に皆知ってのとおり、近年我ら一族のような力を持つ者が減少している。これは蒼園に限った事ではなく、古紫や緋涙家にも同様のことが言えよう。近親婚を繰り返してきたのは一族の血を守るためだが、僕は思うんだ。そんな古い慣習や保守的な考えではこれからの時代一族の力は続かないだろう。よって、君たちには是非協力をして欲しい』
 ぴらり、とそこで奏は名前が載ったリストを見せた。

 『ここに載せられているのは特に強い特異な体質や力を持った人物の名前だ。古紫家の分家筋や緋涙の分家の者も勿論いる。君たちにはここに記された人物と恋に落ちてもらいたい』
 ざわり、と集められた若者達の間に動揺が走った。始終笑顔のまま微笑み一つでその動揺をおさめると、奏はさらに説明を続けた。

 『無理にとは言わない。好きになれそうな人物を各々選んで接触をはかればいい。好みの人物だったら無理じゃないだろう?まあ、どうしても好きになれそうになかったら諦るけどね。ああそうそう、特に僕としては上位5名は確実に蒼園に迎えたいのだけれど。今まで彼等の家との婚姻は過去に起こったことはないが、ダメだという決まりがあったわけじゃない。皆自分の血筋を守りたいが為、あえて他家の血を混ぜたくなかったのだよ。でもね、保守的で秘密主義はもう流行らない。僕が本日当主になった暁には、鎖国状態だった門を開けようと思う』
 
 これが当主としての最初のお願いだ。
 
 そうにっこりと微笑みながら告げられたが、慧那は内心で憤慨していた。お願いだなんて言葉は卑怯だ。"当主として"と告げた時点でそれは"お願い"ではなくて"命令"だろう。
滅多に感情を荒げない慧那のこめかみに、青筋が浮かびそうになった。

 男女10名ずつ。その20名の中から一人を選び恋愛して結婚するだけだとにこやかに告げられ慧那は咄嗟に破り捨てたい衝動に駆られたが、寸前で止めた。もし自分以外の誰かが彼女に接触したらと考えると、誰が誰の攻略対象なのか、他の者達の動向を窺う必要がある。軽々しく破り捨てるべきじゃないと、残っていた冷静な自分が告げたのだった。

 最後まで奏の部屋に残った慧那は直接当主になる男に問いただした。お互いがフリーならともかく既に恋人がいる者たちはどうするつもりか、決まった相手が自分達にもいる場合も無理矢理別れさせるのか。
 その質問に奏はけろりと答えた。

 『結婚しているわけじゃないなら奪っちゃえばいいんじゃない?入り込む隙があるなら勝敗だって0じゃないでしょ。僕だって鬼じゃないし、集まってくれたあの子達に恋人がいないのは確認済みだよ。まあ、ここに載ってる彼等がフリーかはわからないけど』
 一拍間を置いた後、それにね、と続く。

 『君が気にしている子が上位に入った理由は最近になって力があるとわかったからだけじゃなくて、まだ生娘だからだよ。今時珍しいよね、この歳で清らかなままって。上が大層気に入っちゃってね、ほら、やっぱりいつの時代も奥ゆかしい女性があの年代の男は好きだからさ。それに僕達みたいな家系なら、純潔の乙女が特別って事、当然知ってるでしょ?慧那』
 
 数年ぶりに名前を呼ばれた事に驚きつつも、慧那は苦虫を噛み潰したような表情のまま部屋を後にした。



 「さて。どうするつもりなの?慧那は」

 穏やかな声色で尋ねる遠い親戚の菊之介を慧那は一瞥する。

 「・・・そんなの、決まってるでしょ」

 青白く輝く月を見上げて、慧那はそっと息を吐いた。

 
 
 















************************************************
モーツアルトの曲を二胡で弾けるかどうかはわかりません(汗)弦楽器だし多分大丈夫・・・ですかね?(おい)


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...