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第三部
12.旦那様の笑顔には裏がある(後編)
しおりを挟む今のこの状況は、私の愛を試されているのだろうか?
旦那様の命令を聞けるかどうかで!?
麗しい笑顔を刻んだままじっと見つめてくる白夜に、私は引きつった笑顔を返す。ここで笑ってごまかしなどは、出来そうにもない。こんな大がかりな準備をしている位だから、私が逃げれる余地もないのだろうが。
ごくん、と唾を飲み込んで確認事項を取った。
「誘惑って……K君にしたようにって事は、ディアナとしてだよね?」
「ディアナはこの姿の役名ですか? それでしたら、そうですね。もちろんいつも通りのあなたのままで誘惑してくださっても構いませんが」
いえ、それはできれば勘弁してください。
私は小さく頷いた。ディアナの姿を改めて鏡で見る。麗の面影はほとんどない今は、確かにPVで役に成りきっていた姿のままだ。それならもう一度私が役に成りきればいいだけなんじゃない?
そう、麗は絶対に無理でも、ディアナはすでに前科一犯。経験者の彼女なら相手が愛しい麗の旦那様でも大丈夫なはず!
確か彼女はずっと思い描かれていた勝手なイメージを押し付けられて、本当の自分をさらけ出せず爆発したのだった。遠くから見られているだけで近づけない。清らかな存在だと、近寄ってはいけないと思われていた事が悲しくて、あの夜覚悟を決めた堕天使を自分から襲ったのだった。本性を表したと言ってもいい。
昼は清楚で無垢な少女。でも夜は娼婦のような艶と妖艶さのを持つディアナ。どっちも本物でどっちも彼女。ただ可愛いかった少女はいつしか男を惑わす女へと変わる――。
脳内でK君に言われた言葉が再生される。
『男は女が時折見せるドキッとする色気やセクシーさに弱い生き物なんだよ。普段は清楚で可憐でも、妖艶な女っぽさを感じると、絶対に離せなくなるね』
そしてその後告げられた言葉……確か、『エロ可愛いは最高』って言ってた気がする!
そうだよ、結婚したからって油断はできない。白夜は客観的に見てもすごく格好いい。本気でシャレにならない事もこうやってするけれど、見た目だけじゃなくて料理も掃除も仕事も全部出来て完璧だ。中身は少々困るところもあるけれど、今はまだ許容範囲。いつ白夜に心変わりされて愛人一号、二号が出来てもおかしくはない……
それは困る! というか、絶対に嫌だ!!
K君の助言通り、私も少しは白夜を惑わせるくらいの色気を身に着けるべきだ。どんなにラブラブでも、男は魔が差す時は差す生き物だってK君も言ってたじゃないか。それなら今がまさに白夜を私にメロメロにさせる絶好の機会なんじゃないの!?
そうだよ、ディアナは丁度いい練習でいいじゃないかとあの時は納得したんだった。そう、あの撮影はあくまで練習。そして本番は、今だ。
黙りこんだ私を少し心配そうに声をかけてきた白夜に、薄らと微笑んでみせる。ディアナのスイッチが完全に入った私は、そっと白夜をソファから立たせた。
◆ ◆ ◆
部屋の中央に置かれた天蓋付きのベッドへ白夜を誘導させる。設定は、私がはじめ真ん中で寝ているところを愛しい彼に襲われて、逆に襲い返すんだった。PVを何度も見ていた白夜はその流れがわかっているのだろう。私が何も言わなくても、彼はすべて理解している。
カーテンは引かれて一つだけ開いていた窓も閉められた。エアコンの温度を再度調節して、準備は整った。薄暗い部屋になった今、外の時間は関係ない。僅かな照明で部屋を照らし、雰囲気づくりも完璧だ。
ゆっくりとベッドの中央に横たわった。髪やドレスに気を使いながら、ゆるく両手を組む。安らかな眠りを妨げないように、そっと彼が近づいてきた。
天蓋のカーテンが揺れる気配がする。静かに呼吸を殺して近づく彼の重みでベッドのマットレスがわずかに揺れた。頬を撫でられてそっと上半身を起こされる。首筋に彼の髪が掠めた時――私は渾身の力をこめて、彼をベッドへ押し倒した。
わずかに虚をつかれた顔をした白夜を馬乗りになりながら見下ろす。ふと微笑んで私を見つめる彼に、私も薄らと微笑を浮かべてみせた。ディアナの心境を思い出しながら。
ずっと会いたかった愛おしい彼がここにいる。目と鼻の先に、手が届く先に。見ているだけで十分だったのは、既に遠い昔だ。彼に触りたい、彼に触ってほしい。欲望に忠実になった私は、もう我慢などできるはずもない。喜びを与えて私と共に享楽に溺れてしまえ――。そんな激しい感情の渦に飲まれそうになる。
目を細めてくすりと笑った。ああ、今の私は、完全にディアナだ。
微動だにしない白夜の首筋をそっと指でなぞる。白くて滑らかな肌を指先で堪能して、覆い被さるように彼の首筋に顔を埋めた。口紅がつくことも気にせず、ゆっくりと唇で首筋に触れる。徐々に下りてきて丁度いい場所で、ちろりと舐めた。そのままの姿勢で、強く肌を吸い上げる。
本当に微かだけど、一瞬白夜の肩が揺れた気がした。顔を埋めているからどんな表情をしているのかわからない。だけど彼が示した反応に、私の中で火が燃え始める。
ああ、もっと見たい。もっと彼が感じる姿が見てみたい――
私が与える快楽に顔をゆがめて耐える姿が、羞恥に頬を染める姿が、喘ぎを漏らす姿が……
両手で彼の両肩をベッドに縫い付けたまま、ゆっくりと上半身を起こした。くっきりと痕が残った首筋を見て、征服欲が満たされる。
ああ、彼は本当に美しい――艶めくさらさらな黒髪も、黒曜石のような瞳も、すっと筋の通った高い鼻も、若干薄めの唇も、左右対称のバランスのいい顔も。
今はまだ余裕のあるいつもの柔和な笑みを浮かべているが、それは果たしていつまでもつだろうか。赤く鬱血した痣を指でなぞりながら、私は妖艶に微笑み、口紅をゆっくりと舌で舐めとった。あまり派手に彼の身体に口紅がついて欲しくない。
PVではここまでだった。起き上がったディアナが舌なめずりをして牙を見せるところまで。だから、ここからが本番だ。白夜を誘惑する私の本領発揮をする時がきた。
両手で頬を包み込んで、彼に再び覆い被さる。上半身がほとんどぴったりと彼にくっつくように乗っかり、その端整な顔に優しくキスを落としていく。いつも彼が麗にするように、額からこめかみ、頬、そして唇へ。唇にそっと触れてから、繋がりをもっと、もっとと求めていった。望み通り薄く口を開いてくれた隙に、舌を侵入させる。歯列を割り口内を暴くように舌を絡め取り、貪る。白夜の舌が私の口に侵入することはない。今はすべての主導権をディアナが握っているのだから。
淫らな水音が聞こえても、何故か羞恥心はわかなかった。むしろもっと聞いていたいと思えてくる。やはり今の私は麗じゃないのかもしれない。
そっと唇を離して、そのまま顎へスライドさせた。そして再び先ほど痕をつけた首筋へ、滑るようにキスを落とす。身体を下へ少しずらしながら、右手で彼が纏うシャツをめくり上げた。
白夜の普段着は襟ぐりがゆったりした物が多い。外に出かける時はきちんとした物を着るが、リラックスしたい時や休日などは襟の詰まっていないセーターやシャツなどを好む。今の彼が着ているのも半そでの白いサマーセーター。きれいな鎖骨が見える位ゆとりのあるトップスと下に着ているシャツをめくり、裾から手を侵入させていく。唇では彼の顎から下へキスを落としながら、片方の手は滑るような手つきで白夜の素肌を堪能していた。
適度に引き締まった体躯に滑らかな肌は手のひらに吸い付くようで、触り心地がいい。徐々に素肌を隠す物を上げていきながら、私は彼の鎖骨を吸い上げていた。
ああ、ここにもきれいに痕がついた。
所有の証をつけられた事に満足感が増す。これは癖になりそうかもしれない。
もっとちゃんと彼の素肌を見たい。そう思った私は、再び上半身を起こして彼に腰にまたがりながら、彼の上半身を覆っている服を脱がせにかかった。一言「脱いで」と告げれば、彼は脱がせやすいように動いてくれて、とても協力的だ。まるで絵画のように美しい裸体が視界に映り、胸の奥が疼きだす。
もっと、もっと触りたい、と。
両手を使い素肌を堪能し始める。上腕二頭筋の固さを確かめて、痕がついたきれいな鎖骨の形を確認して、大胸筋や薄らと割れている腹筋までゆっくりと味わっていく。
小指が彼の胸をかすめた瞬間、余裕の微笑を浮かべていた白夜の眉がわずかに反応を示した。その表情が色っぽくって艶めいていて、彼が吐く吐息を聞きたい、感じたいと思う自分の欲望に、私は従った。手のひらで胸をさわさわと触れていたのを止めて、彼の肌を舌で堪能する。胸の蕾も丹念に転がせば、白夜の口から喘ぎに似た吐息が微かにこぼれた。
「……っ」
上目遣いで見上げれば柳眉が少し寄っている。でも、まだまだ余裕を崩さない。舌で舐めるのとは反対側を指できゅっとつまむと、白夜が困り顔のような笑みで名前を呼んだ。
「ああ、いけない子ですね……麗は」
その瞬間。湧きあがったのは拒絶の感情。
違う、今の私は麗じゃない。その顔で、その声で……
「私以外の別の女の名前を呼ぶなんて、許さない」
咬みつくように唇を塞いだ。
嫉妬深く独占欲の強いディアナはどうやらすっかり私の一部になっている。唾液を分け合うような激しく濃厚なキスを交わした後、白夜の手を自分の胸元へと導く。大胆に胸の谷間が覗く胸に彼の手を押し当てて、囁くように告げた。
「ねえ、私にも触って?」
苦笑交じりの吐息をこぼした白夜は、次の瞬間私の腕を引っ張り抱き寄せてから、ベッドの上に押し倒した。
視点が反転して、気づいたら私が愛しい彼を見上げている。あっという間の早業だ。
「かわいく強請る誘惑は、合格にしてあげましょうか」
上半身に服を纏っていない状態のまま、白夜は私を見下ろして端整な顔を綻ばせる。瞳の奥には情欲が灯った炎をちらちらと燻らせながら。
彼の瞳に私が映る。それだけで、何とも言えない愉悦感と満足感に満たされていくようだ。
私はうっとりと彼を見つめたまま、再び問うた。
「触って? 白夜……」
にっこりと微笑んだ彼は私のこめかみにキスを落とす。
でもどうやら彼のお仕置きは、これで終わりではなかったようだ。
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すみません、まだ続きます……
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