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連載
蒼馬凌の事情
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「それじゃ、おやすみなさい。明日はオフだからゆっくり休んでね」
ゆっくりとエレベーターの扉が閉じられる。彼女の姿が見えなくなった瞬間、その場は冷たく無機質なただの箱に変わった。先ほどまでは狭いながらも温かみがあったのに。彼を運ぶ箱は再び上へと上昇する。
三年前、二十歳の誕生日を迎えた直後。蒼馬凌は芸能界入りを果たした。今までは実家暮らしだったが、所属事務所の社長の勧めもあってすぐに一人暮らしを始めた。
向けられる期待に応えるために必死で目の前のチャンスに食らいつき、今日までの3年間、何とか周りが望む合格点を獲得し続けている。失望されたくない。自分にかけられる想いを返したい。毎日音楽漬けの毎日で、無我夢中で仕事に没頭する今の自分をもし昔の自分が見たら、きっと驚愕するだろう。音楽が好きなのに思う存分出来なかったあの頃は、一体何にそこまで躊躇っていたのか。
部屋の隅に置かれた小包。届いたまま開封していなかった贈り物に視線を向けた。差出人は、ここ数年で急速に距離が縮まりつつある人物だった。
関わらないでいいのに。これまでのように、無関心で放っておいてくれたら楽なのに。こんな風にご機嫌伺いなんて、正直煩わしくないわけがない。
『君のますますの活躍を期待してるよ。――蒼園奏』
たった一行。だがこの一行をもらうかもらわないかは、重大な意味を秘める。蒼馬を含めた親戚一同を束ねる本家の当主が目をかけている。その事実は、一族の中での位置づけを決める要素になるのだから。
同封されていたのは、ヴァイオリンの弓だった。使い慣れた物があるのに、いやそもそも自分は歌手としてデビューしているのに。あえてそれを選ぶ理由は何だ。純粋な贈り物以外の裏があるようにしか思えない。
「僕は、あなたの駒になんかならない」
ぐしゃりと握りつぶした手紙を、凌は躊躇いもなくゴミ箱へ投げ捨てた。
◇◆◇◆◇
自分の家がよその家とは少し違うと感じたのは、小学校に入って間もなくだった。
親戚づきあいは祖父母止まりの友人の中で、遠縁を含めた一族の集まりなどが少なからず行われる家は、ごく少数。
伝統的な芸事や音楽の才に秀でた、少々特殊な血を引く蒼園家。蒼馬家はその分家の分家で、正直あまり本家とは関わりがない一般家庭だ。一族同士の集まりなど参加する必要性はほとんどない。面倒なしがらみも少なく自由に過ごせるのは、目に見える才能を蒼馬の人間は持っていなかったから。
蒼園の人間が奏でる音色には、不思議な力が宿る。それは眠気を誘う類だったり、安らぎを与える癒しだったり。誰しも多かれ少なかれ持っているであろう音の効果を、意図的に操り最大限に引き出せるのが彼等の血だ。本家の直系なら、人の精神を激しく左右する力を持っている。だが、凌にはそんな物を直接見たことも感じたこともない。聞くだけで人の精神まで操れるならば、確かに野放しにはさせてくれないだろうが、自分はその意味での血は受け継いでいないと思っていた。
一族の中で絶対音感を持つ者はごまんといる。凌の父母も絶対音感なら持っていたが、特別芸術や音楽の才があるわけではなかった。造詣にひときわ深いわけでもない。蒼馬は血が薄く、普通の人よりほんの少しだけ強い感性があるだけだった。
大人しい少年時代を送っていた凌は、5歳の誕生日にはヴァイオリンを与えられていた。本来なら音楽など関わらせず育てればよかったのだが、彼の母親も同じ蒼園の血を引く者。蒼馬家より多少濃い血を受け継ぐ分家出身の彼女は、息子にほんの少しの期待を抱いていた。
少しだけ、音楽が好きだったらいい。音楽じゃなくても、書道や絵でも何でもいい。子供のうちに感性を養ってあげられたらきっと将来息子の為になる。そう思うのも親心だろう。
普通だったら問題はなかった。だが、凌は一般的な5歳児とは思えないほど飲み込みも早く、器用に音色を奏でた。まるで前世でもヴァイオリンを弾いていたかのように、あっという間に音を吸収していく。
母親は純粋に喜んだ。しかし父親は難色を示した。我が子に得意分野が見つかったのはいい事だ。だが息子に本家の人間と並んでも遜色がないほど、濃ゆい血が流れていると思われるのはまずい。それに、息子の才能に気づかれるのはもっとまずい。一般人として過ごしてきた自分達には、何の力も持っていない。もし凌が欲しいと言われたら? 本家の蒼園か近しい分家にでも養子に出せと言われる可能性はゼロではない。
小学校に入ってからみるみる才能を開花させ、ヴァイオリン以外の弦楽器や歌にまで興味を抱く息子に父親は言い聞かせた。
『習い事として音楽に触れるのは構わない。やりたいなら学ばせてやる。だが、コンクールや発表会など、大多数の人間の前で演奏するのはダメだ』
好きなだけ学ばせてやりたい気持ちはあっても、複雑なしがらみがそれを許さない。決して目立つな、悟らせるな。お前はお前だけが聞くための音楽を続けなさい。でないと、父さんの子ではなくなってしまう――
幼いながらも、聡明だった凌は理解する。ああ、やはり自分は違うのか。周りの子供と比べて何かが違うとはわかっていた。僅かな音も拾う聴覚も、一度聞けば覚えられる記憶力も、見よう見まねで新しい曲を演奏する事も。水を飲むように吸収しては貪欲に新たな知識を求めていく。指導してくれた先生方に欲が出てくるとわかれば、すぐに音楽教室を変えさせられた。
『何故この子の才能を隠す、もっと外に出ていくべきだ。私が最高の音楽家に育てたい――』
明らかな差を見せつけられると、一緒に学んでいた同年代の子供達からもやっかみを受けた。あんなにうまいくせに発表会には出ない、コンクールも出ない。バカにしているのか、と。
影でこそこそ言われるのも慣れた頃。中学に上がれば凌は独学で音楽を学び始めた。決して外では弾かないと約束をして。
不満がなかったと言えば嘘になる。正直不満は大いにあった。だがそれを言う事はしなかった。中学生にもなれば、いい加減自分の家系が特殊なのは身に染みてわかっていたから。
――厄介で面倒な一族だ。
何度思った事かわからない。実際本家の人間は、目立つ能力を持つ一族を手元に呼び寄せる傾向があった。
楽器を弾く以上に危惧されたのは、歌う事。楽器の演奏よりも人の心を操りやすい声は、最も強く力が作用される。歌で他者を癒す事も傷つける事も出来る。それを知っていたから、何があるかわからないと用心する心配性の両親の憂いを祓う為、凌は楽器を奏でる以上に人前で歌うことはしなかった。自分にその力があるとは思っていなかったが。
放っておいてくれる保証がないのが辛い。自分の存在を知られているかすら怪しいのに、派手な行動は出来ず行動は制限される。煩わしいと思わずにはいられなかった。
苛立ちや嘘は全て笑顔の下に隠して、凌は学園生活を送って来た。吹奏楽部や軽音部には当然ながら入らなかった。コンサートやコンクールには出ないんで、なんて言ったら白い目で見られるのがわかっているからだ。
自分で判断が下せる大人になるまでは目立つ行為はしないように。なら、高校をそろそろ卒業する自分は、もう大人と思われてもいいのではないか。
義務教育は中学まで。しかし15歳で大人だと日本では思われない。それなら高校を卒業した18歳なら? 自分で責任を取る事も認められてくるはずだ。でもやはり成人年齢の20才だろうか。
――ハタチまで待つとか、考えたくない。
日陰でこっそりと自分だけで音楽を続けるのは、いい加減息苦しい。聞いてもらえる人がいなければ、指導をお願いする事も出来ない。あくまで趣味の範囲内で――という条件下で、何とか好きにさせて貰えている。納得しつつも理不尽さを感じずにはいられなかった。
窮屈で退屈だ。そろそろ怯える事などないだろうに。たとえ当主に見つかったとしても、一族の繁栄の為に働くなどする気はないし、強要されても関係ないで押し通せばいい。
出口の見えない苛立ちが最高潮に募って来た頃。有名大学に進学した高校時代の友人から、助っ人を頼まれた。
『悪い、凌! 今日の学祭でバンドやる予定なんだけど、ギターの奴が手首怪我しちまって! お前ギター弾けたよな!?』
――代わりに弾いてくれないか?
何とも無茶な要求をされた。一瞬脳裏にかすめたのは幼い頃からの父親との約束。だが、友人とは別大学に通う凌ももう19歳だ。ハタチではないにしろ、自分で責任が取れない子供ではない。己が撒いた種位、己で刈り取れる。これは人助けだ。
『いいけど、あと何時間あるの?』
『2時間!』
2時間で無茶な! と他のメンバーは騒ぎ立てたが、本番までの2時間で凌は見事友人が作曲したオリジナル曲を弾きこなした。楽譜も見ずに耳だけで曲を覚え、無事に本番を迎えた時。あまりの人の多さにくらりと眩暈がしそうになったのを覚えている。
今まで人前で弾いた事はほとんどない。身近な友人数名にせがまれて聞かせた事はあったが、それだけだ。彼の音楽はあくまで自分が満足する物。今では自分自身を保つ為に続けている物で、誰かを楽しませる為ではなかった。
大勢の人間の前で演奏するなど初体験だったが、人の視線はすぐに気にならなくなった。音の洪水が混ざり合い、紡がれるハーモニーに血が沸騰しそうになる。クラシックとはまた違う、激しいロック。繊細なヴァイオリンの旋律と異なる音色に、凌は夢中になった。ただ貪欲に他の音色との一体感を求める。重なる音に酔いしれるように、意識を集中させた。
楽器を弾いている時は、夢中になれる。自分の心と向き合いながら、静かに意識を集中して。
自分だけの世界から浮上したのは、大勢の観客の歓声だった。
――ああ、喜ばれてる。
こんなにも笑顔を向けられたのは初めての経験だ。気恥ずかしく、そして嬉しい。一人で部屋に篭り、歌を小声で口ずさみながらギターを弾いたときには得られない高揚感。ステージから降りた陵に、友人たちは興奮気味に詰め寄った。
『すげーよ凌! ノーミスかよ!?』
『俺今最高に気持ちいいぜ!』
背中を遠慮なく叩く彼らに笑う。笑いながらふと思う。気づかれただろうか? いや、気づかないはずがない。彼等の情報網は、恐ろしく広範囲で早い。
胸のもやもやが晴れないが、開き直った直後。凌は背後からかけられる声に振り返った。そこにいたのは彼らのファンだろうか。自分より少しだけ年上に見える女性だった。
『いい曲だったわ、楽しかった。でも、あなたはちゃんと楽しめた?』
……え?
目の前の彼女は、まっすぐ自分を見て微笑みかけた。
『いきなりごめんなさい。ただ少し気になって』
『いえ……、あの、楽しめたかはよくわかんないです。緊張して』
そう答えれば、彼女は頷いて納得してくれた。次はもっと楽しめるといいね、と言い残して去って行く。その後姿を見ていた友人が、凌に告げた。
『あれ、雨宮さんじゃん。来てたんだな~』
『知り合い?』
『俺じゃないけど、サークルの先輩が彼女の後輩でさ。あの人高校までうちの付属に通ってたんだよ。推薦で医学部狙える位成績も優秀だったのに、それ蹴って音大行ったらしいぜ。毎年学祭には必ず顔を出すんだって。確か卒業した後はクラウンレコードに入ったとか』
そうか、彼女も音楽をやっていたのか。でもプロにはならなかったらしい。
人ごみに埋もれてもう見えない彼女の姿を思い出す。真っ直ぐ楽しかったかと訊ねられたのは、初めてだった。
――楽しい……。そんな大切な気持ち、忘れてた。
音楽は自分が自分でいるための物。誰かに聞いてもらうのではない、自己完結した世界の安らぎだった。ただ頭をすっきりさせたくて、何も考えたくなくて、心を無にさせてくれる手段になっていた。楽しんで演奏したことは、子供の頃の記憶しか残っていない。
友人と別れた直後、そのまま凌はカラオケボックスに向かった。一人カラオケをするのはこの時が初めてだった。いや、カラオケボックスで歌うこと自体が初めてだ。付き合いで来たことは何度かあるが、友人が歌うのを聞く役に徹していたから。
何か強い衝動に駆られるように、一心不乱に歌い続ける。欲望のまま、心の葛藤を声に乗せて。
鬱屈した気持ちを吐き出すと、ようやく息が吸える気分になった。今まで思いっきり歌った事はないかもしれない。たった一日でここまでタブーだと思っていた事をするとは。やってみれば、案外あっさりした物だった。
扉を開けた瞬間、目の前の壁に背を預けている男と目が合いびっくりした。一瞬厄介な身内かと身構えたが、壮年の男はふっと笑って自分を見つめた。
『随分鬱屈した心をもてあましてるじゃねーか。なあ、もっと歌ってみたくねーか?』
……一体誰が信じるだろう。まさかこれが大手レコード会社の、彼の所属事務所の社長との出会いだなんて。
『いい声してるよ。透き通ってて心に響く。なかなかいないぜ? そこまで声がいいと思わせる奴は』
悪いようにはしねーからついて来いよ、と悪役にしか聞こえない台詞を言った男について行った自分は、やはりその一日でどこかのネジが飛んでいたのかもしれない。連れていかれた場所は、小ぢんまりとしたスタジオだった。隠れ家風のそこには必要最低限の楽器が置かれている。もちろん防音効果はバッチリだ。
あれよあれよという間に、言われるがままギターを片手に歌い始める。男はただじっと部屋の片隅で黙って聞いているだけ。時折このスタジオを貸してくれると言った彼の言葉に甘える事はなかったが、それから定期的にその男は凌に会いに来るようになった。
『もっと歌いたい物があるはずだ。叫びたい心の声があるはずだ。好きならとことん追求しろよ。その手助けをしてやるから、お前が奏でる世界を俺にも聞かせてくれ』
熱烈な誘いに折れたのは、心の底で思いっきり音楽と関わりたいと思っていたからだろう。歌いたい、奏でたい、自分の世界を広げたい。伸ばされた手を掴んだ時、彼は一つ条件を述べた。
『お願いがあります。もし音楽活動を始めたら、いずれ僕にもマネージャーがつくんですよね?』
怒られるだろうか。彼女の意志を聞かずにそんな事をお願いしたら。事務所の社長は面白そうに笑っては、彼女に訊いてみて了承したらいいぜと言った。
自分が忘れていた気持ちを思い出させるきっかけを作ってくれた女性は、きっと自分の事など覚えていない。でも、新しい世界を歩く時、彼女が隣にいてくれたらがんばれそうな気がすると自分勝手にも思ってしまったのだ。
二十歳の誕生日を迎えたその日、凌は両親に告げた。芸能界に入ると。
父親は一言、『そうか』と言い、母親は少し心配そうな視線で数回頷いた。彼等が自分を大事に思っているのは知っている。事実、何度か蒼園に近い分家の者が家に訪ねて来た事もあった。何が目的だったのかはわからない。でも迂闊な事は出来ないと自分の行動により一層気を付けたのは覚えている。
感謝の意を述べて、凌はマネージャーを引き受けてくれた彼女に会いに行った。
『初めまして、雨宮優花です。えーっと、蒼馬、凌君? マネージャーなんて初めてだから至らない事も多いけど、よろしくお願いします』
『こちらこそ、よろしくお願いします。雨宮優花さん』
――初めまして、ではないんだけどね。
くすりと微笑んだ理由に彼女は気づかないだろう。優花の方から声をかけてきたのに、少し寂しい気もする。
ふわりと笑う彼女の笑顔に支えられた事は、数え切れない。だが、時折ふと見せる笑顔の裏に隠れた寂しさに、目が奪われた。
どこか遠くを見て笑う女性。心の底から笑っている姿が見てみたい。
憂いを帯びた表情も好きだけど、やはり好きになった女性には笑顔でいて欲しいから。
「……傷つけた張本人が責任をもって笑顔にさせるのは当然なんですけど。何かムカつきますね」
「あ? 何か言ったか」
目の前を歩く優美な獣みたいな男に笑顔で首を振る。自分がどんなに努力しても、彼女が垣間見せた切なさは消える事がなかったのに。今では心の底から幸せそうに笑う優花を、しっかり祝福してやれる。
でもやはりムカつくから、少しくらい意地悪を言ってもいいだろう。
「早まったと後悔したらいつでも僕に会いに来てくださいね?」
「えっ!?」
頬を染めて慌てる優花と、一瞬で不機嫌になる大輝を見て、凌はいたずらっ子のように笑った。
『次はもっと楽しめるといいね』
そう告げた彼女の声が、今でも頭に響く。
「ええ、楽しいですよ。毎日が」
歌を聞いてくれる人がいる。音楽を続けられる場所がある。蒼園の息にかかっていない事務所に彼女が所属していて良かった。些細な偶然が重なりあい、縁が作られ今の自分がいる。
誰にも聞かれる事はなく、凌はひっそり呟いた。
◆ ◆ ◆
「別に幼い子供を無理やり親から引き離す鬼畜な真似は、流石にしないよ?」
「そうは言いきれないでしょ。欲しいと思ったら手段は選ばないじゃないですか」
お酒を交わしながら二人きりで話すのは、あんなに関わりたくないと思っていた蒼園家の当主、蒼園奏。まだ30そこそこの彼は、人当りのいい笑みを向けた。
「まあ、僕ならあの手この手を使って自分から来たいと思わせるけどね!」
「あなたがそうなら、前のご当主もそうだったんでしょうね。何せ変人で有名ですから」
あなたを含め――という言葉は寸前で飲み込んだが。蒼園の人間が変わり者揃いというのは、有名な話である。自分もその変人として見られるのは、不愉快極まりない。
疲れ気味に嘆息する凌を見ながら、奏は笑った。
「それにヴァイオリンの弓って何ですかあれ。別にいらないんで持って帰ってください」
「え~? あ、二胡の方が良かった?」
「そうは言ってません。何で二胡なんですか。弾いた事もないですよ。二胡でモーツアルトを弾こうとしたあなたの話は届いてますが。モーツアルトの仮装で」
「ああ、皆喜んでくれたよ!」
「戸惑っていたの間違いでしょう」
ずばりと返す凌に、奏はけらけらと笑う。とても当主として一族を束ねる男には見えない。
「君は結構毒吐くよね~」
「鍛えられましたから」
笑顔でにっこり返せば、当主は満足げな顔で目を和ませた。
――こんな風に二人きりで酒を飲むようになるとは、あの頃の自分は思ってもいなかった。
ゆっくりとエレベーターの扉が閉じられる。彼女の姿が見えなくなった瞬間、その場は冷たく無機質なただの箱に変わった。先ほどまでは狭いながらも温かみがあったのに。彼を運ぶ箱は再び上へと上昇する。
三年前、二十歳の誕生日を迎えた直後。蒼馬凌は芸能界入りを果たした。今までは実家暮らしだったが、所属事務所の社長の勧めもあってすぐに一人暮らしを始めた。
向けられる期待に応えるために必死で目の前のチャンスに食らいつき、今日までの3年間、何とか周りが望む合格点を獲得し続けている。失望されたくない。自分にかけられる想いを返したい。毎日音楽漬けの毎日で、無我夢中で仕事に没頭する今の自分をもし昔の自分が見たら、きっと驚愕するだろう。音楽が好きなのに思う存分出来なかったあの頃は、一体何にそこまで躊躇っていたのか。
部屋の隅に置かれた小包。届いたまま開封していなかった贈り物に視線を向けた。差出人は、ここ数年で急速に距離が縮まりつつある人物だった。
関わらないでいいのに。これまでのように、無関心で放っておいてくれたら楽なのに。こんな風にご機嫌伺いなんて、正直煩わしくないわけがない。
『君のますますの活躍を期待してるよ。――蒼園奏』
たった一行。だがこの一行をもらうかもらわないかは、重大な意味を秘める。蒼馬を含めた親戚一同を束ねる本家の当主が目をかけている。その事実は、一族の中での位置づけを決める要素になるのだから。
同封されていたのは、ヴァイオリンの弓だった。使い慣れた物があるのに、いやそもそも自分は歌手としてデビューしているのに。あえてそれを選ぶ理由は何だ。純粋な贈り物以外の裏があるようにしか思えない。
「僕は、あなたの駒になんかならない」
ぐしゃりと握りつぶした手紙を、凌は躊躇いもなくゴミ箱へ投げ捨てた。
◇◆◇◆◇
自分の家がよその家とは少し違うと感じたのは、小学校に入って間もなくだった。
親戚づきあいは祖父母止まりの友人の中で、遠縁を含めた一族の集まりなどが少なからず行われる家は、ごく少数。
伝統的な芸事や音楽の才に秀でた、少々特殊な血を引く蒼園家。蒼馬家はその分家の分家で、正直あまり本家とは関わりがない一般家庭だ。一族同士の集まりなど参加する必要性はほとんどない。面倒なしがらみも少なく自由に過ごせるのは、目に見える才能を蒼馬の人間は持っていなかったから。
蒼園の人間が奏でる音色には、不思議な力が宿る。それは眠気を誘う類だったり、安らぎを与える癒しだったり。誰しも多かれ少なかれ持っているであろう音の効果を、意図的に操り最大限に引き出せるのが彼等の血だ。本家の直系なら、人の精神を激しく左右する力を持っている。だが、凌にはそんな物を直接見たことも感じたこともない。聞くだけで人の精神まで操れるならば、確かに野放しにはさせてくれないだろうが、自分はその意味での血は受け継いでいないと思っていた。
一族の中で絶対音感を持つ者はごまんといる。凌の父母も絶対音感なら持っていたが、特別芸術や音楽の才があるわけではなかった。造詣にひときわ深いわけでもない。蒼馬は血が薄く、普通の人よりほんの少しだけ強い感性があるだけだった。
大人しい少年時代を送っていた凌は、5歳の誕生日にはヴァイオリンを与えられていた。本来なら音楽など関わらせず育てればよかったのだが、彼の母親も同じ蒼園の血を引く者。蒼馬家より多少濃い血を受け継ぐ分家出身の彼女は、息子にほんの少しの期待を抱いていた。
少しだけ、音楽が好きだったらいい。音楽じゃなくても、書道や絵でも何でもいい。子供のうちに感性を養ってあげられたらきっと将来息子の為になる。そう思うのも親心だろう。
普通だったら問題はなかった。だが、凌は一般的な5歳児とは思えないほど飲み込みも早く、器用に音色を奏でた。まるで前世でもヴァイオリンを弾いていたかのように、あっという間に音を吸収していく。
母親は純粋に喜んだ。しかし父親は難色を示した。我が子に得意分野が見つかったのはいい事だ。だが息子に本家の人間と並んでも遜色がないほど、濃ゆい血が流れていると思われるのはまずい。それに、息子の才能に気づかれるのはもっとまずい。一般人として過ごしてきた自分達には、何の力も持っていない。もし凌が欲しいと言われたら? 本家の蒼園か近しい分家にでも養子に出せと言われる可能性はゼロではない。
小学校に入ってからみるみる才能を開花させ、ヴァイオリン以外の弦楽器や歌にまで興味を抱く息子に父親は言い聞かせた。
『習い事として音楽に触れるのは構わない。やりたいなら学ばせてやる。だが、コンクールや発表会など、大多数の人間の前で演奏するのはダメだ』
好きなだけ学ばせてやりたい気持ちはあっても、複雑なしがらみがそれを許さない。決して目立つな、悟らせるな。お前はお前だけが聞くための音楽を続けなさい。でないと、父さんの子ではなくなってしまう――
幼いながらも、聡明だった凌は理解する。ああ、やはり自分は違うのか。周りの子供と比べて何かが違うとはわかっていた。僅かな音も拾う聴覚も、一度聞けば覚えられる記憶力も、見よう見まねで新しい曲を演奏する事も。水を飲むように吸収しては貪欲に新たな知識を求めていく。指導してくれた先生方に欲が出てくるとわかれば、すぐに音楽教室を変えさせられた。
『何故この子の才能を隠す、もっと外に出ていくべきだ。私が最高の音楽家に育てたい――』
明らかな差を見せつけられると、一緒に学んでいた同年代の子供達からもやっかみを受けた。あんなにうまいくせに発表会には出ない、コンクールも出ない。バカにしているのか、と。
影でこそこそ言われるのも慣れた頃。中学に上がれば凌は独学で音楽を学び始めた。決して外では弾かないと約束をして。
不満がなかったと言えば嘘になる。正直不満は大いにあった。だがそれを言う事はしなかった。中学生にもなれば、いい加減自分の家系が特殊なのは身に染みてわかっていたから。
――厄介で面倒な一族だ。
何度思った事かわからない。実際本家の人間は、目立つ能力を持つ一族を手元に呼び寄せる傾向があった。
楽器を弾く以上に危惧されたのは、歌う事。楽器の演奏よりも人の心を操りやすい声は、最も強く力が作用される。歌で他者を癒す事も傷つける事も出来る。それを知っていたから、何があるかわからないと用心する心配性の両親の憂いを祓う為、凌は楽器を奏でる以上に人前で歌うことはしなかった。自分にその力があるとは思っていなかったが。
放っておいてくれる保証がないのが辛い。自分の存在を知られているかすら怪しいのに、派手な行動は出来ず行動は制限される。煩わしいと思わずにはいられなかった。
苛立ちや嘘は全て笑顔の下に隠して、凌は学園生活を送って来た。吹奏楽部や軽音部には当然ながら入らなかった。コンサートやコンクールには出ないんで、なんて言ったら白い目で見られるのがわかっているからだ。
自分で判断が下せる大人になるまでは目立つ行為はしないように。なら、高校をそろそろ卒業する自分は、もう大人と思われてもいいのではないか。
義務教育は中学まで。しかし15歳で大人だと日本では思われない。それなら高校を卒業した18歳なら? 自分で責任を取る事も認められてくるはずだ。でもやはり成人年齢の20才だろうか。
――ハタチまで待つとか、考えたくない。
日陰でこっそりと自分だけで音楽を続けるのは、いい加減息苦しい。聞いてもらえる人がいなければ、指導をお願いする事も出来ない。あくまで趣味の範囲内で――という条件下で、何とか好きにさせて貰えている。納得しつつも理不尽さを感じずにはいられなかった。
窮屈で退屈だ。そろそろ怯える事などないだろうに。たとえ当主に見つかったとしても、一族の繁栄の為に働くなどする気はないし、強要されても関係ないで押し通せばいい。
出口の見えない苛立ちが最高潮に募って来た頃。有名大学に進学した高校時代の友人から、助っ人を頼まれた。
『悪い、凌! 今日の学祭でバンドやる予定なんだけど、ギターの奴が手首怪我しちまって! お前ギター弾けたよな!?』
――代わりに弾いてくれないか?
何とも無茶な要求をされた。一瞬脳裏にかすめたのは幼い頃からの父親との約束。だが、友人とは別大学に通う凌ももう19歳だ。ハタチではないにしろ、自分で責任が取れない子供ではない。己が撒いた種位、己で刈り取れる。これは人助けだ。
『いいけど、あと何時間あるの?』
『2時間!』
2時間で無茶な! と他のメンバーは騒ぎ立てたが、本番までの2時間で凌は見事友人が作曲したオリジナル曲を弾きこなした。楽譜も見ずに耳だけで曲を覚え、無事に本番を迎えた時。あまりの人の多さにくらりと眩暈がしそうになったのを覚えている。
今まで人前で弾いた事はほとんどない。身近な友人数名にせがまれて聞かせた事はあったが、それだけだ。彼の音楽はあくまで自分が満足する物。今では自分自身を保つ為に続けている物で、誰かを楽しませる為ではなかった。
大勢の人間の前で演奏するなど初体験だったが、人の視線はすぐに気にならなくなった。音の洪水が混ざり合い、紡がれるハーモニーに血が沸騰しそうになる。クラシックとはまた違う、激しいロック。繊細なヴァイオリンの旋律と異なる音色に、凌は夢中になった。ただ貪欲に他の音色との一体感を求める。重なる音に酔いしれるように、意識を集中させた。
楽器を弾いている時は、夢中になれる。自分の心と向き合いながら、静かに意識を集中して。
自分だけの世界から浮上したのは、大勢の観客の歓声だった。
――ああ、喜ばれてる。
こんなにも笑顔を向けられたのは初めての経験だ。気恥ずかしく、そして嬉しい。一人で部屋に篭り、歌を小声で口ずさみながらギターを弾いたときには得られない高揚感。ステージから降りた陵に、友人たちは興奮気味に詰め寄った。
『すげーよ凌! ノーミスかよ!?』
『俺今最高に気持ちいいぜ!』
背中を遠慮なく叩く彼らに笑う。笑いながらふと思う。気づかれただろうか? いや、気づかないはずがない。彼等の情報網は、恐ろしく広範囲で早い。
胸のもやもやが晴れないが、開き直った直後。凌は背後からかけられる声に振り返った。そこにいたのは彼らのファンだろうか。自分より少しだけ年上に見える女性だった。
『いい曲だったわ、楽しかった。でも、あなたはちゃんと楽しめた?』
……え?
目の前の彼女は、まっすぐ自分を見て微笑みかけた。
『いきなりごめんなさい。ただ少し気になって』
『いえ……、あの、楽しめたかはよくわかんないです。緊張して』
そう答えれば、彼女は頷いて納得してくれた。次はもっと楽しめるといいね、と言い残して去って行く。その後姿を見ていた友人が、凌に告げた。
『あれ、雨宮さんじゃん。来てたんだな~』
『知り合い?』
『俺じゃないけど、サークルの先輩が彼女の後輩でさ。あの人高校までうちの付属に通ってたんだよ。推薦で医学部狙える位成績も優秀だったのに、それ蹴って音大行ったらしいぜ。毎年学祭には必ず顔を出すんだって。確か卒業した後はクラウンレコードに入ったとか』
そうか、彼女も音楽をやっていたのか。でもプロにはならなかったらしい。
人ごみに埋もれてもう見えない彼女の姿を思い出す。真っ直ぐ楽しかったかと訊ねられたのは、初めてだった。
――楽しい……。そんな大切な気持ち、忘れてた。
音楽は自分が自分でいるための物。誰かに聞いてもらうのではない、自己完結した世界の安らぎだった。ただ頭をすっきりさせたくて、何も考えたくなくて、心を無にさせてくれる手段になっていた。楽しんで演奏したことは、子供の頃の記憶しか残っていない。
友人と別れた直後、そのまま凌はカラオケボックスに向かった。一人カラオケをするのはこの時が初めてだった。いや、カラオケボックスで歌うこと自体が初めてだ。付き合いで来たことは何度かあるが、友人が歌うのを聞く役に徹していたから。
何か強い衝動に駆られるように、一心不乱に歌い続ける。欲望のまま、心の葛藤を声に乗せて。
鬱屈した気持ちを吐き出すと、ようやく息が吸える気分になった。今まで思いっきり歌った事はないかもしれない。たった一日でここまでタブーだと思っていた事をするとは。やってみれば、案外あっさりした物だった。
扉を開けた瞬間、目の前の壁に背を預けている男と目が合いびっくりした。一瞬厄介な身内かと身構えたが、壮年の男はふっと笑って自分を見つめた。
『随分鬱屈した心をもてあましてるじゃねーか。なあ、もっと歌ってみたくねーか?』
……一体誰が信じるだろう。まさかこれが大手レコード会社の、彼の所属事務所の社長との出会いだなんて。
『いい声してるよ。透き通ってて心に響く。なかなかいないぜ? そこまで声がいいと思わせる奴は』
悪いようにはしねーからついて来いよ、と悪役にしか聞こえない台詞を言った男について行った自分は、やはりその一日でどこかのネジが飛んでいたのかもしれない。連れていかれた場所は、小ぢんまりとしたスタジオだった。隠れ家風のそこには必要最低限の楽器が置かれている。もちろん防音効果はバッチリだ。
あれよあれよという間に、言われるがままギターを片手に歌い始める。男はただじっと部屋の片隅で黙って聞いているだけ。時折このスタジオを貸してくれると言った彼の言葉に甘える事はなかったが、それから定期的にその男は凌に会いに来るようになった。
『もっと歌いたい物があるはずだ。叫びたい心の声があるはずだ。好きならとことん追求しろよ。その手助けをしてやるから、お前が奏でる世界を俺にも聞かせてくれ』
熱烈な誘いに折れたのは、心の底で思いっきり音楽と関わりたいと思っていたからだろう。歌いたい、奏でたい、自分の世界を広げたい。伸ばされた手を掴んだ時、彼は一つ条件を述べた。
『お願いがあります。もし音楽活動を始めたら、いずれ僕にもマネージャーがつくんですよね?』
怒られるだろうか。彼女の意志を聞かずにそんな事をお願いしたら。事務所の社長は面白そうに笑っては、彼女に訊いてみて了承したらいいぜと言った。
自分が忘れていた気持ちを思い出させるきっかけを作ってくれた女性は、きっと自分の事など覚えていない。でも、新しい世界を歩く時、彼女が隣にいてくれたらがんばれそうな気がすると自分勝手にも思ってしまったのだ。
二十歳の誕生日を迎えたその日、凌は両親に告げた。芸能界に入ると。
父親は一言、『そうか』と言い、母親は少し心配そうな視線で数回頷いた。彼等が自分を大事に思っているのは知っている。事実、何度か蒼園に近い分家の者が家に訪ねて来た事もあった。何が目的だったのかはわからない。でも迂闊な事は出来ないと自分の行動により一層気を付けたのは覚えている。
感謝の意を述べて、凌はマネージャーを引き受けてくれた彼女に会いに行った。
『初めまして、雨宮優花です。えーっと、蒼馬、凌君? マネージャーなんて初めてだから至らない事も多いけど、よろしくお願いします』
『こちらこそ、よろしくお願いします。雨宮優花さん』
――初めまして、ではないんだけどね。
くすりと微笑んだ理由に彼女は気づかないだろう。優花の方から声をかけてきたのに、少し寂しい気もする。
ふわりと笑う彼女の笑顔に支えられた事は、数え切れない。だが、時折ふと見せる笑顔の裏に隠れた寂しさに、目が奪われた。
どこか遠くを見て笑う女性。心の底から笑っている姿が見てみたい。
憂いを帯びた表情も好きだけど、やはり好きになった女性には笑顔でいて欲しいから。
「……傷つけた張本人が責任をもって笑顔にさせるのは当然なんですけど。何かムカつきますね」
「あ? 何か言ったか」
目の前を歩く優美な獣みたいな男に笑顔で首を振る。自分がどんなに努力しても、彼女が垣間見せた切なさは消える事がなかったのに。今では心の底から幸せそうに笑う優花を、しっかり祝福してやれる。
でもやはりムカつくから、少しくらい意地悪を言ってもいいだろう。
「早まったと後悔したらいつでも僕に会いに来てくださいね?」
「えっ!?」
頬を染めて慌てる優花と、一瞬で不機嫌になる大輝を見て、凌はいたずらっ子のように笑った。
『次はもっと楽しめるといいね』
そう告げた彼女の声が、今でも頭に響く。
「ええ、楽しいですよ。毎日が」
歌を聞いてくれる人がいる。音楽を続けられる場所がある。蒼園の息にかかっていない事務所に彼女が所属していて良かった。些細な偶然が重なりあい、縁が作られ今の自分がいる。
誰にも聞かれる事はなく、凌はひっそり呟いた。
◆ ◆ ◆
「別に幼い子供を無理やり親から引き離す鬼畜な真似は、流石にしないよ?」
「そうは言いきれないでしょ。欲しいと思ったら手段は選ばないじゃないですか」
お酒を交わしながら二人きりで話すのは、あんなに関わりたくないと思っていた蒼園家の当主、蒼園奏。まだ30そこそこの彼は、人当りのいい笑みを向けた。
「まあ、僕ならあの手この手を使って自分から来たいと思わせるけどね!」
「あなたがそうなら、前のご当主もそうだったんでしょうね。何せ変人で有名ですから」
あなたを含め――という言葉は寸前で飲み込んだが。蒼園の人間が変わり者揃いというのは、有名な話である。自分もその変人として見られるのは、不愉快極まりない。
疲れ気味に嘆息する凌を見ながら、奏は笑った。
「それにヴァイオリンの弓って何ですかあれ。別にいらないんで持って帰ってください」
「え~? あ、二胡の方が良かった?」
「そうは言ってません。何で二胡なんですか。弾いた事もないですよ。二胡でモーツアルトを弾こうとしたあなたの話は届いてますが。モーツアルトの仮装で」
「ああ、皆喜んでくれたよ!」
「戸惑っていたの間違いでしょう」
ずばりと返す凌に、奏はけらけらと笑う。とても当主として一族を束ねる男には見えない。
「君は結構毒吐くよね~」
「鍛えられましたから」
笑顔でにっこり返せば、当主は満足げな顔で目を和ませた。
――こんな風に二人きりで酒を飲むようになるとは、あの頃の自分は思ってもいなかった。
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