ワールドトークRPG!

しろやぎ

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二部

128 あたらしい星

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「……その後、いいところまでアンデッドケルベロスを傷つけたのー!! でも、メルが石畳の段差に躓いてバランスを崩したところで腕をねー…… ガブッと……やられたニャ」

 ぺたりと猫耳を伏せてメルが肩を落とした。ズタズタに噛みちぎられた右腕はアーティアの魔法によって元通りになっている。

「ケルベロスは、生きていた時よりも強力になってました。死後、アンデッド化して襲い掛かってくることがあるなんて……油断していました。パーティーリーダーのわたしの責任です」

 エステルもたっぷり気落ちしていた。いやそれは俺が実際にテーブルトークをしているときでも気づかないぞ。その仕掛けは、何が何でもゲームマスターがプレイヤーをハメたい臭がプンプンする。

「気付けない仕掛けってのは出てくるもんだからあまり気にするな」

 そう声をかけつつ、俺はターコイズブルーの髪の男。いや、エステルたちの話によると女。男装の麗人っていうのだろうか。このハーフエルフに目を向けた。

「あー、ロマーノっていったか。エステルたちを守ってくれてありがとうな」
「お気になさらず。仲間を助けるのに理由はいらないとリーズン様もいってました」

 リーズンの野郎。やっぱりリコッタとロマーノのこと知ってて俺に喋らなかったんだな。なんて人の悪い……いや、悪いエルフなんだ。

 二重人格。そんな言葉がこの世界にあるかどうかはわからないが、俺はリコッタとロマーノについては、そういったものなのだろうと考えている。俺がいた世界でも人格や能力が替わる多重人格っていうのはいたようだし、ファンタジーの世界ならなおさら不思議はあるまい。
 
 ――それにしても、やはり無謀だ。

 この世界だと神官という存在はレアっぽいらしく、回復役がいないパーティも珍しくないらしい。だが、ヘルハウンドを相手にするレベルのクエストに回復役がいないのはしんどいを超えている。確かヘルハウンドのレベルは8だぞ。魔法の装備を持ったメルが一対一でどうにかって強さのはずだ。

 それにメンバー数も少ない。いくらリコッタとロマーノが別人格で、それぞれ違うスキルを使えるとしても、受けるダメージは一緒だ。今回みたいに全員《転移/テレポート》で緊急避難する場合はMNDの消費が少なくて済むが、三人パーティじゃ先が見えている。

「……あの、お師匠さま。この子はどういった関係の方なのでしょうか?」

 落ち着きを取り戻しつつあるエステルがもっともな質問をしてきた。

「話すと長いんだが――。そうだな、俺がピニオーリで保護して、今はアーティアの子供……アウッ!!」
「わたしが保護することになった“妹”で“弟子”よ。ケイシャっていうの」
「そ、そうなんですか。ありがとう、ケイシャ。ロマーノを癒してくれて。わたしはエステル。あっちはメルっていうの」

 俺の言葉が終わる前に、アーティアの裏拳が閃いた。お前、戦士兼業してる神官なんだから、本気で痛かったぞ!!

「ど、どういた“ま”して」

 噛み噛みだがケイシャはしっかり対応している。しかし本当によくできた娘だ。

「こんな小さいのに《保存/プリザベイション》が使えるなんて凄いわ!! アーティア様にこんな妹がいたなんて知りませんでした」
「……ケイシャは《保存/プリザベイション》だけじゃなくて、《聖水/ブレスウォーター》や、まだ教えていないけど《視力回復/キュアーブラインドネス》も使えるはずよ」
「すげえな。そこそこの町の司祭クラスじゃねえか」

 ロマーノが口笛を吹いて感嘆する。確かにこの歳でこの魔法の実力は規格外だといってもいい。テーブルトークRPGでロリ神官とかはよく見かけるキャラではあるのだが、この世界だとそこまでぶっ壊れた設定の人物はそうそう話を聞かない。完全チートの俺がいうのも何だけど。

「凄いのねー 大きくなったら『北極星』ポールスターに入っていっしょに冒険してほしいのニャー」

 メルがケイシャの手を取ってぶんぶんと握手をしている。確かにこいつらのレベルからすれば、まだまだケイシャのレベルは低いといっていい。なにより歳が若すぎる。エステルやメルだってまだ十六歳の若さだが、ケイシャはまだ十歳くらいだろ。

「さすがにケイシャはまだ十歳くらいだからなー」
「き、九歳です。こない、だ。誕生日で、でした」

 マジか。完全に子供じゃないか。小学校でいえば三年か四年生ってことか。

「……若すぎるかもしれないけど、実力は大人にも勝るわ」
「えっ?」

 口元に折り曲げた指を当てて、アーティアが考え込んでいた。おい、もしかしてお前!?

「ケイシャ。あなたしばらく『北極星』ポールスターにお世話になるのはどうかしら?」
「おいおいおい! いくらなんでも若すぎるだろ!!」
「逆にいえば、問題あるのは年齢だけよ。さっき少し魔法を使って、今そこで《保存/プリザベイション》を使って倒れたのを前に見て、だいたいどれくらい連続して魔法を使えるかも把握しているつもり」

 難しい顔をしているが、頭はフル回転しているという表情だ。自分でも本当にこれが正しいのか考えあぐねている、という顔に見えた。

「メテオ。あなたもいっていたじゃない。これから戦争が始まって、すでに神官としては一人前のケイシャを保護しながら、わたしが金獅子の副官を務めるのはどうかって。わたしみたいに冒険者から始めて、いきなりひとつの町で神殿を立てたっていうならともかく、神官っていうのは権力闘争に巻き込まれやすいのよ」

 確かに俺はそういった。しかし、神官が権力闘争に巻き込まれやすいっていうところまでは考えてなかった。

「この娘の才能を考えると、下手に目をつけられてお抱えにさせられても――もちろんわたしがそんなことさせやしないけど。いずれにしても魔法が使える神官ってことがバレたら面倒事は避けられないわ。だったらせめて戦争が終わるまでは、危険を承知で二代目たちに預けておくのがいい気がするの」

 よくよく考えてのことだろう。しばらく間を置いてから、アーティアはケイシャの目を見た。

「――もちろん本人の意志次第だけど」
「わ、わたしも。ぼ、冒険者になれるんですか? メ、メテオお兄ちゃんや、アーティアお姉ちゃんみたいな」
「なれるわよ。あなたは商業と幸運を司る神に愛された娘なんだから」
「だった、ら。わたし、ぼ冒険者になりたいです!!」
「本人はこういっているけど、『北極星』ポールスターのリーダーは受け入れてくれるかしら?」

 成り行きにあっけにとられていたエステルだが、リーダーと呼ばれて背筋が伸びる。そして、力強く断言した。

「アーティア様の妹でお弟子様であるなら、お断りするはずもないです!! こちらこそ、お弟子様をお預かりさせていただけるなんて、光栄です!!」
「弟子と呼べるほどものを教えてはいないけどね。いい、ケイシャ。この戦争が終わったら一度みっちり神官の修行をつけてあげるから、それまでエステルのいうことをよく聞いて、神官としての役割を果たすのよ」
「は、はい!」

 おいおいおいおい。本当に大丈夫なのか!?
 俺が本当に大丈夫なのかと、いいかける前に、ロマーノが青い髪を掻いて苦言を呈した。

「俺はその娘の癒しの魔法を受けているから実力はわかるつもりだが…… いつも俺が前線や後衛でその娘を守ってやれるわけじゃない。見たところその娘、ケイシャっていったか。戦闘については完全に素人だろ?」

 ロマーノはそういって身体をぶるっと震わせた。みるみるうちに髪の色が変わり、俺も見たことがある、飴色のつややかな髪をした美少女――いや、こいつのほうが男なんだっけか。リコッタが“交代”して出てきた。

「わたしもそう思います。今まではわたしとロマーノで状況に応じて前衛と後衛を分担していましたが、前衛のメルの負担が増えすぎます。おそらく数体の魔物に囲まれたとき、たとえロマーノが前に出たとしても、後ろのふたりまで守れるかどうか……」

 俺もそれを心配していた。このままいくと壁役がメルひとりで、後衛が三人になる。ロマーノとリコッタが同一の身体をシェアしていて、盗賊のロマーノが常に出ずっぱりになったとしても、今度は精霊使いのリコッタが常時動けない。
 このパーティにはあともう一人。もしくは誰かが自分の身を守れるくらいまで、兼業で戦闘スキルを取るのが理想なのだ。ちょうど、俺たち『流れ星』シューティングスターの神官であるアーティアが、戦士を兼業しているように。

「話はわかったよう。戦争が終わるまでの間だったら、おいらがついていってあげるよう!」
「ガルーダ!? お前どっから湧いて出てきた!!」
「メテオのところの台所でお酒を“借りて”さっきまであっちの部屋のソファで寝てたんだよう」

 見れば寝癖をたっぷりこさえたガルーダの頭だった。いや、それよりもお前何勝手に俺の居場所に入ってきてるの? 

「おい、ちょっと内ポケット見せてみろ。不自然にふくらんでるじゃないか!!」
「やだエッチ! ちょっと“借りてる”だけだよう!!」
「俺の秘蔵の魔石じゃないか! 返せコラ!! 盗賊には関係ないだろ。しかもそれ消耗品じゃねえか。返すつもりないだろお前!!」
「まあまあ。これは後輩たちが窮地に立ったとき、先輩たるこのおいらが懐からさっそうと取り出す用なんだから。細かいことは気にしちゃダメだよう」
「お前なあ……」

 突然のガルーダ登場にどっと疲れた。予想していないところからのパンチが多すぎだ。

「そうね。ヒマ人のチビスケがついていってくれればひとまず安心ね。いいこと、チビスケ? わたしたちのときみたいに勝手に動いてパーティを危険な目に合わせたら、承知しないから」
「おおっとアーティア目が本気だよう!! おいら、かわいい後輩たちをそんな目に合わせたりしないよう!」
「……幾分不安はあるが、ガルーダだったら実力的には心配ないんだが。実力的には」
「メテオもなんか不満あるっぽいよう。なんだよ! せっかくおいらが名乗りでてやったのに!!」

 一気に賑やかになった部屋だが、これは決まりかもしれない。

 俺の弟子であるエステル。
 ハムのコレクションを受け継いだメル。
 リーズンの弟子であるリコッタとロマーノ。
 アーティアによって才能を開花させたケイシャ。
 ――それを引率してくれるガルーダ。 

 俺たちの二代目が順調に育っていってくれている気がして、ちょっと嬉しい。
************************************************
次回公開は12/14(日)です。

こんな濃いパーティのリーダーになるエステルに、
われながら同情を禁じ得ませんねー ハハハハ
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