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二部
159 最前線
しおりを挟む「国家間の戦争というのは初めてだけれども、魔物が相手というのは気が楽なようでいて、なかなか容易じゃない」
銀輪騎士団団長、ペリアス・シヴィトールは騎馬を操りつつ銀輪騎士たちを指揮すべく、数名の伴を連れて自ら最前線で剣を振るっていた。
「ワームの群れであればいくらでも対応しようがある。しかし後ろに控えている竜はいけない」
「ビショップ。前線はこれまでにワーム相手をしている騎士たちで十分持つわ。でも、あの竜がこちらに来たら、どう対応していいかわからないわ」
ペリアスのことをビショップと呼ぶ女騎士が、困ったように駆けてきた。銀輪騎士団副団長のシェイラ。先の金獅子騎士団団長の娘であり、ビショップの許嫁でもあるシェイラ・アト・レヨンイエッタの姿だった。
「わたしもそれを考えていた。黒龍騎士団がいない今、空中の敵に対して我々の有効な手段は弓だけだ」
今回の進軍には当然弓矢も大量に持ってきているのだが、本来の用途は相手が接近してくるまでに矢の雨を相手の軍に浴びせかける為。その後は接近戦での勝負になる。
しかし、平地同士にいる相手とは異なり、竜は空を飛んでいる。下から射掛けるにはそれだけで大きく威力を減じてしまうのだ。
「朽縄川で見たハム様とアーティア様の戦いを参考にするしかないわね」
頼りなげに矢筒を見るビショップの思惑を知ってか、シェイラは覚悟を決めたようだった。
「そうだな、あのおふたりの戦いを見ていたことは心強い。……わたしとシェイラで余程うまくやって、なんとか一体。というところだろうか」
悔しそうに頷くシェイラ。
ビショップはユルセールの騎士たちの中においてトップクラスの戦士。シェイラもまたその下に序列されるほどの剣の使い手である。見ているだけで威圧されそうな三体の竜の飛翔を見て、はっきりと実力差を感じずにはいられない。
「銀輪騎士団にうまく動いてもらい、わたしたちが戦っている間はできるだけ竜をひきつけつつ、手の空いたもの――そんな者がいればだが、弓箭で援護を。いずれにせよ、兵たちも無傷では済まされない」
「そんなこと皆覚悟の上よ。命令しなさい、ビショップ。兵のことを考えすぎるのは、あなたの悪い癖よ」
ビショップとて騎士団の長。覚悟は決めていたものの、兵たちに死んでくれという命令に怯んだ感がある。しかし、これまでのユルセールのかりそめの平和を思えば、責めるのも酷というものだろう。
それが証拠に、シェイラにかけられた一言で、ビショップから発される気配が変わった。もはや迷いを捨てたということだろう。この切り替えの早さは褒められて然るべきだ。
「待ってくれ」
「ハム様?」
覚悟を決めたところで現れたのは、食客としてだが金獅子騎士団を暫定的にまとめる役目を負ったハム。そして、団長補佐として随伴する形になったアーティアだった。
「あの下位種ドラゴン。二体までは俺とアーティアで受け持つ」
「……可能なのですか?」
実際にハムの戦いを間近に見ていたシェイラが、遠慮がちに尋ねる。無茶だ、と決めつけないあたりが、シェイラもまた並大抵の胆力ではないことを意味している。
しかしアーティアはきつい顔で今からすることに文句をつけた。
「無茶するわよね。下位種をこの人数で相手なんて、わたしたちもやったことはないわ」
「しかし、やらなきゃならんだろう?」
「こんなに無茶するとは思わなかったわ」
無茶とはいうが、できないとはいわないアーティア。勝算はあるが、できればしたくない。ということなのだろう。
このふたりをして確実ではないのだ。ということを噛みしめて、ビショップは新たに頭を巡らせた。銀輪騎士団たちをどのように指揮し、どれだけ被害が少なく最大の成果を上げることができるかを。
「わかりました。ひきつづき、銀輪騎士団たちには陽動と援護をさせつつ今いるワームたちを押しのける役を続けさせます」
「戦術や指揮についてはお任せしたほうがよさそうだ」
こんなときだが、ハムはすかっと笑ってビショップの指揮能力を認めた。大軍の指揮となれば、そうした訓練を受けているビショップのほうが上であることを、ハムは何のてらいもなく認めてみせた。
ビショップにしてみれば、格上の戦士が自分の能力を認めて任せてくれている。ということが嬉しく、また、やる気になるというものであった。
「お任せください。ワームと竜を相手に、騎士たちの半数はこの戦いで生命を落とすでしょうが……この国を守ってみせます」
おそらく遠からず竜は動いてくるだろう。その竜を誘導するのに隊を分けるということは、前線でワームたちを押しとどめている隊の力を割譲することだ。そうなれば被害は加速するだろう。それを見越しての半数。というビショップの読みだ。
「もうちょっとまからないの?」
「ま、まからない。といいますと?」
アーティアが仏頂面でビショップの決断を値切りにかかった。当然ビショップは何のことかわからず、オウム返しだ。
「半数死ぬうちの、さらに三分の二は助けたいところね」
「俺もそう思っていたところだ」
「し、しかし。どうやって?」
ビショップの言葉にふたりはさらりと左右に別れた。
「じゃあ俺は右翼のワームだ」
「わたしは左翼に行くわ」
「単身でワームの大軍に挑むのですか!? いくらなんでも無茶です!!」
さすがのシェイラもこれには無茶と叫んだ。
「ハム様はワームを跳ね除ける力と身を守る術を持っていますが、アーティア様単身ではあまりに無謀です! せめて、このシェイラをお供にお付け下さい!!」
シェイラの主張はもっともであった。いくら戦士としての力を持ったアーティアといえど、四方八方から圧殺しようとするワームに立ち向かうのは無茶だ。
しかし、それは通常の神官戦士としての話だ。
アーティアは戦士の力こそ中級の冒険者と同格ではあるが、神官としての力は比類のないものである。
「いらないわ。というより、周囲に人がいるとやりにくいの」
「おお、アーティアがついに“デイジー”の異名を……おぶっ!」
「ハム、あなたちょっと口数が多いわ。二度と回復してあげないわよ」
アーティアは素早い動きでハムの口をわしづかみにして言葉を遮った。その目と口調は本気のそれだ。
「す、すまん。そういや気にしていたか」
「メテオもリーズンもガルーダもハムも、本当にデリカシーがないわ」
ふん。と、鼻を鳴らしてアーティアは左翼のワームの群れに駆けていった。現在、ワームを押さえている銀輪騎士団たちを迂回して、ワームの群れに側面攻撃を仕掛けるように見える。
「む、無茶ですよ!!」
「アーティアなら大丈夫だ。むしろ、俺よりこういう場面には向いているかもしれん」
あきれ顔のビショップにハムは大丈夫と太鼓判を押す。
「それよりも、これからすることを見てアーティアのことを“デイジー”と呼んだら駄目だぞ。絶対に駄目だぞ」
そう言い残してハムは炎の舌を肩にかついで右翼に駆け出していった。
「あの人たちは本当にとんでもないわね……」
遠ざかるアーティアとハムの背を見てシェイラが呟く。
「……そうだな。流れ星の方々はみんなああなんだろう。ここは信じて、わたしたちはわたしたちのできることをしよう――しかし、シェイラ」
「なあに?」
「アーティア様を“デイジー”と呼んではいけないって、どういうことなのだろうか?」
「……さあ。この戦いが終わったらあなたが聞いてみるのがいいと思うわ」
「と、とんでもない!!」
シェイラの言葉にビショップは大きく首を振った。
騎士団長としての実力が、その行為に何かとてつもないリスクを秘めていることを感じて、ぶるっと身体を震わせずにはいられなかった。
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|∀・) そろそろ通常進行いけそうです!
年内のうちに二部完結!
というのを目指していたのですが、路線変更。
めざせ! 年度末!!
ムリせず書き続けてます。
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