180 / 265
二部
176 精霊王の炎
しおりを挟む「ハム様! あの銀色の竜は一体!?」
「俺たちにもよくわからん」
アーティアとビショップ。そしてシェイラと合流したふたりは、さっそくビショップからごく当然な質問を向けられた。
しかしそれに答えられるはずもなく、ハムは淡々とビショップとシェイラに続ける。
「馬は呼べば戻ってくるか? ふたりとも一度下がってレオン王のもとに戻れ」
「馬は口笛を吹けば戻ってくるように仕込んであります……しかし、流れ星の皆様はまさか残られると?」
「少ないほうが回復がしやすい」
無茶だ。ビショップもシェイラもそう思ったが、先程から流れ星の面々には驚かされっぱなしだ。この人たちであれば……という思いが、常識的な言葉をひっこめた。
「……承知しました、ご無事で。シェイラ、行くぞ!!」
「メテオ様にお会いしたらこの旨すぐに伝えます!!」
ビショップとシェイラが戦線から離脱すると、アーティアはじとっと仲間のふたりとイーフリートを睨みつける。
「こっちに向かってくるの、古代龍じゃないの。勝てないわよ?」
「メテオが来るまで持たせればいい」
「……そうね。メテオが気づいてくれれば、最悪《転移/テレポート》で逃げられる」
「案外、今のメテオなら龍にでも勝てるかもしれない」
「古代龍は神々に等しい力を持っているって話よ。いくらメテオでも――」
「ふたりとも、もう追いついてきたぞ。さすがは古代龍。しかも銀色。あの身体でどう飛んでいるんだか……」
リーズンがふたりに注意を促した。
「参ったな。もうロクに魔法を使えん。《大地震/アースクエイク》に力を込めすぎた」
ムダとは知りながらもリーズンは弓に矢をつがえた。リーズンがこうして弓矢を扱うということは、本当に精神力に余裕がないのだ。
「《精神賦活/インスティルメンタルエナジー》で心の力を分けてほしい?」
「アーティア。それがムダなことはお前がよく分かっているだろう。その分《回復/ヒーリング》に回してくれ」
アーティアの一応の申し出を断るリーズン。一度二度、精霊魔法が使えたとしても、銀龍が相手では焼け石に水だ。
リーズンはせめて、イーフリートがこちらの世界に顕在化するのをやめないためだけに、ここにいる。イーフリートはこちらの世界で消滅しても、しばらくすれば精霊界で復活する。怖いのは封印系の魔法だが、銀龍といえどもそんな特殊なことはしてこないだろう。
「リーズン。そして、ハム。アーティアよ」
「どうしたのイーフリート? わたしに話しかけるだなんて珍しい」
アーティアは驚いた。別に仲が悪いというわけではないが、イーフリートがリーズン以外と積極的に会話するのは稀なのだ。
「別におぬしだけに語りかけているわけではない。炎の精霊王イーフリート。いかに人間界だとはいえ、古代龍に一撃も浴びせず退場とあっては王の沽券にかかわる――」
「イーフリート? 何をする気だ」
「リーズン。しばらく我はおぬしの呼びかけにも応じられぬかもしれぬが、気を悪くしないでもらおう」
「……イーフリート?」
炎に包まれた巨体を銀龍の方へと向け、イーフリートはぶっきらぼうに締めくくった。
「我は炎の精霊王イーフリート。人間界であろうとせめて一撃。あの長物に浴びせてくれる――」
炎の竜巻となってイーフリートは空高く舞い上がる。高速で近づいてくる銀龍と相まみえるのもすぐだろう。
「リーズン。イーフリートが勝手に行動するなんて、今までなかったと思うけど?」
「あいつとは友達みたいなものだが、一応契約しているようなものだからな。勝手に行動しようと思えばできるはずだが、それは本来ならば精霊のルール違反だ」
「しかし、あいつ。楽しそうだったな」
「ハムにはそう見えたのか?」
「ああ」
イーフリートが楽しそうにしているのは、何かを焼きつくしているときだけ。少なくともリーズンは今までそう感じていたのだが。
「いわれてみれば……あいつ笑っていたか?」
「いつもどおりの鬼の顔だったわよ」
アーティアは反論の余地なくぴしゃりと断言した。
(古代龍よ! 銀龍よ!! 誇り高き龍が無様だな!!)
イーフリートは空中で銀龍に心の声で問いかけた。精霊同士の会話であれば言葉は不要。きわめて高い存在であり、神にも匹敵するといわれる古代龍ならば通じるのではないかと思ったのだ。
(……炎の精霊王。人間ごときに呼び出された精霊風情が!! わたしを無様と罵るのであれば、そなたも同様なのである!!)
銀龍もまた心の声でイーフリートに言葉を返す。しかしその調子には余裕が感じられなかった。
(我を呼び出したるはエルフの精霊使い。だが、今は自らの意思でおぬしを止めに来た)
(自らの意思でだと? 仮にも炎の精霊王がなにゆえ人間界で起こることに介入するのである!?)
こうしている間にも銀龍はイーフリートに接近してくる。
銀龍は意思に反して全身をがんじがらめに支配されていた。
あともう少し、間合いを詰めれば銀龍は神をも殺すことができる銀色の吐息.を炎の精霊王に浴びせかけることになっている。
精霊界の力を発揮できない精霊王には、足止めもできずに自分の世界へと還って貰うことになるだろう。
(止められるものなら止めるのである!! 銀龍の神殺しの吐息を耐え切れればな!!)
銀龍は全身をぶるりと震わせると、カッと顎を開いた。
銀色の鱗が逆立ち、太陽を浴びてぎらぎらと煌めいたと思うと、その光がふいに消失する。
その光は槍衾のような銀龍の牙の奥に現れたかと思うと、ぶよぶよとした光でできた銀色の塊を口内いっぱいに作った。
銀龍はそれを鋭い牙で噛み砕こうとする。
(銀龍よ。精霊界の真なる炎を馳走しよう――《爆轟/デトネイション》)
銀龍が銀色の塊を噛み砕いたのと、イーフリートが文様の入った太い両腕を突き出したのはまったくの同時であった。
無音のまま炸裂した銀の閃光。
そしてイーフリートの両の手のひらから生み出されたのは轟音と高熱の炎の炸裂。
およそこの地上では体験することができない光と熱が、精霊王と古代龍のはざまで生み出された。
「な、何よ……今の……魔法?」
イーフリートと銀龍が向かい合ったところで、今まで見たこともない閃光と、今まで聞いたことがない爆発音が炸裂し、アーティアは一瞬意識を失っていた。
「目が……耳が……――《五感回復/キュアーファイブセンス》」
意識を取り戻したところで目も見えず、耳も聞こえないアーティアは混乱しかけたが、すぐさま自分に五感の失調を回復する神聖魔法、《五感回復/キュアーファイブセンス》 をかけると、呆然と立っているリーズンとハムを目にし、次に草木のないのっぺらぼうになった平原を見た。
「ハム! リーズン!! あなたたち目と耳は大丈夫なの!?」
あの閃光と衝撃波でどうにかならないわけがない。アーティアはふたりに駆け寄ると腕を引っぱる。
「――アーティアか。回復してもらっていいか?」
ハムはあの衝撃に意識を失わずにいたのだろう。しかし、光と衝撃波は確実に視力と聴力を奪っていた。アーティアはハムに《五感回復/キュアーファイブセンス》をほどこすと、反応のないリーズンの前に回った。
「リーズン! あなた大丈夫なの!? ――リー……ズン?」
「イーフリートが……イーフリートの気配が……消えた」
リーズンの前に回ったアーティアが見たものは、おそらくは見えていない両目から、血の涙を流したリーズンだった。
************************************************
なんとか期日前に確定申告を終わらせ、ぶじ投稿できました…(ずだぼろ)
今週は出張で愛知県に三日ほどお仕事。
ますます執筆ペースが落ちるので、いまだ予断を許さぬ状況です、ドクター。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる