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二部
178 いずれの思惑
しおりを挟む「小癪な魔術師め――わたしのブレスをここまで食らって生き延びた存在は、思い出せぬほど遥か昔である!!」
顔面をあちこち焼けただれさせた銀龍は、よく通る下位魔法語でそういった。
だが、俺はそれどころじゃない。
まだまだVITに余裕はあるが、息は詰まるは全身光にさらされて痛いのなんの……
でも、言葉が通じるのはチャンスだ。
少しでも時間をかせいだほうがいい俺にとって、ただの雑談でもこのさいありがたい。
「いやマジで痛いんだけど!! というか古代龍がどうして人間の争いに加担するんだ。メタルドラゴンは秩序よりの龍のはずだろ!!」
「詳しいな、人間の魔術師。あの忌々しいアーティファクトを作った末裔だけのことはある」
アーティファクト? やっぱり何かしらで操られているってことか。
けど、なんだかまともに話ができそうな感じもする……
「あの、話し合いで解決……なんてムリだよね?」
「わたしが命じられ、縛られている以上はその道はありえぬ。なによりおぬしの抹殺が最優先されておるでな」
「なんだよ! 俺がなにしたっていうんだよ!!」
なにそのオーダー!? 俺なにも悪いことしてないのに!!
「“ちびのくせにえらく強い魔術師”殺す前に名を聞いておくのである」
「俺はメテオ。そっちは?」
「死すべき定めの人の子に語る名などないのである!!」
「名乗り損かよ!!」
思わずツッコミを入れたところでふたたび銀龍の尾が飛んでくる。今度は予備動作に気がついていたので、なんとか空中で避けることができた。
《飛翔/フライト》の魔法で宙に浮いているからうまく避けられないと思ったが、《加速/ヘイスト》のおかげでかなり快適に戦闘行動も取れる。
「――死すべき定めの人の子か。古代龍って確か即死系魔法が通じないとか、公式が設定未満な呟きしていたよな……」
テーブルトークRPG『アャータレウ』の公式は、何が何でも古代龍を神聖不可侵な無敵存在にしたかったように思える。細かいデータこそついに公表しなかったが、“そのブレスは神をも滅する”だとか“即死系の魔法では打ち倒すことが出来ない”などなどの記述を残している。
「こちとらゲーム発売終了してもずっと『アャータレウ』で遊び続けてるんだ。古代龍だろうがなんだろうが負けねえぞ!!」
慎重に行く必要があるが、公式が何が何でも無敵の存在にしたかった古代龍。なんとか倒してやりたいのも確かだ。
「轟けこの魔力。縦横に広がり晴天を衝き、霹靂をもたらせ。この雷が過ぎ去るまでは安息などあると思うなかれ――《雷鼓の束縛/サンダーバインド》!!」
魔術師レベル8の特殊拘束魔法《雷鼓の束縛/サンダーバインド》。対象一体の全身を切断不可能な雷の網で取り囲み、抵抗に失敗した者を拘束するとともに、落雷のような轟音を耳元で鳴らしつづけて精神集中を乱す魔法。
この魔法のいいところは、たとえ相手に抵抗されても雷の網は相手の動きを鈍らせ、さらに轟音で集中力を乱す効果がある――ゲーム的にいうと、回避力と攻撃力がちょこっと下がり、集中を必要とする魔法などのスキルを使いにくくする。
長期戦を覚悟するなら、まず初めに使っておきたい魔法のひとつだ。
「一撃必殺の《死の霧/デスミスト》や《石化/ペトリフィケーション》が効かないなら、じわじわ弱体化させてから削り取る!!」
次の魔法の候補を頭に思い浮かべながら、さっきよりも少し鋭さがなくなった龍の攻撃をかわす。
それでも長期戦だ。気を抜かずにしっかり弱体化させよう。
(ちびのくせにえらく強い魔術師――確かに相違ないのである)
身体の動きと言葉のほとんどはあの赤い髪と目の人間。ザラシュトラスに支配されてはいるものの、本当の意味での精神は封じられていなかった。
銀龍カトラは魔術師のタフさや魔力。つまり強さに感心していた。
(わたしの神殺しのブレスを三度も使わせて、まだ死ぬ様子がないのである)
銀龍の古い古い記憶を手繰っても、生物無生物問わずこの大きさでここまでタフなものはいなかった。
(とはいえ、今はなき神々や巨人族とまではいかないのだろうが、気に入ったのである――)
カトラは『龍王の装飾卵』で恣意的な行動をほとんど取ることができない。それまで大好きであった十数年続ける睡眠も、巣に貯めたきらめく宝石を眺めることも、フィレモンという人間の友人と語り合うこともできなくなった今、強制とはいえ戦うことくらいがカトラのうさ晴らしであった。
(魔術師単体がこれほど頑丈なのも、覚えがないのであるが……)
カトラはこれまで自分の財宝を狙いにきた、数多くの慮外者たちのことを思い出した。
その多くは集団で棲家にやってきては、寝ているカトラのことを叩き起こしてコレクションの宝を強奪しようとする者たちだ。
ときおり、なかなか骨のある者もいて、こと厄介なのは魔術師であることも熟知している。
カトラが面倒臭がって本気も出さずにあしらっていると、魔術師が魔法でどこかに消えてしまうのだ。そして、忘れたころに寝しなを起こされる。
カトラにとって魔術師とは夏の夜の蚊。倒しておかねばまたどこからか現れて、耳元で不快な魔法を使いはじめる。
(これほどの魔術師は倒しがいがあるのだ。どうせあの忌々しい『龍王の装飾卵』がわたしを縛っているのである。楽しまねば損なのである――)
そんなカトラに向けて魔法が放たれた。
――《雷鼓の束縛/サンダーバインド》。
(この魔法が使えるということは、確実に《転移/テレポート》も使えるのである)
全員をチリチリとした電撃に包まれる。カトラにとってこれは特に問題視するものではない。
魔力で作られた網も、多少動きづらい気はするのだが、これも気にするほどではない。
(うるさいのである! やかましいのである!!)
――頭部周辺でランダムに響く落雷のような轟音。
これこそがカトラにとってもっと癇に障るものだった。
これまでもそれなりに強い魔術師たちは、まずカトラにこの魔法を使ってきた。
古代龍たるカトラに、いくらかでも効果を挙げられる数少ない魔法ではある。
だが、不愉快極まるこの魔法を、カトラは龍の持つ《無効化/インヴァリデイション》の特殊能力で、ほぼ解除することができる。
しかし、あるときからカトラは相手の魔法や魔法のアイテムの効果を、ある程度まで受けるようになった。
二度と自分に逆らわないように。心の奥底を叩き折るために、相手の目論みをひっくり返すためだ。
『龍王の装飾卵』で支配されているカトラだが、本来であれば適当に傷めつけて――その多くは加減がわからず殺してしまったが――二度と関り合いを持たせないための行為だ。
もとが誇り高く、秩序ある生き方を望むメタルドラゴン。生き物を殺して喜ぶ趣味はない。
(だが、この魔術師には死んでもらわねばならないのである――もったいないのである)
数少ない定命の友人だったフィレモンが死んでしまい、この小さな魔術師はひょっとすると話し相手くらいにはなったのかもしれない。
そう思うとカトラは、支配されている自分を疎ましく思い、人間の魔術師を哀れに思った。
「遍く満ちたものにひと垂らし。すべてを溶かし尽くす魔力の雫よ、膨れて爆ぜてみせておくれ。《酸の霧/アシッドミスト》」
そんなことを考えていたカトラの鼻面に、酸の霧が広がった。
「くさいのである! ヒリヒリするのである!!」
人間であれば一瞬でドロドロの何かにとろけてしまうであろう魔法も、カトラにとっては少し顔がヒリヒリする程度であった。
しかし、この魔法の臭気はカトラを不快にさせた。続く耳元での《雷鼓の束縛/サンダーバインド》による轟音で、決定的だった。
「許さないのである!!」
************************************************
二部ラストが近いので、読み返しながらちょこちょこ書いてます。
自分が書いた文章を読むのがダメな人もいますが、
わたしは案外自分の文章好きなので苦にならないのがいいですね(謎の自画自賛)。
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