ワールドトークRPG!

しろやぎ

文字の大きさ
189 / 265
二部

185 彗星剣(後編)

しおりを挟む

 メルに求められたミッションを要約すると、こうだ。

「エステルが《転移/テレポート》をかける瞬間にジャンプして、目の前にある赤い髪の男に、出現と同時に突進しながら一撃で急所を突け」

 何の事はない。彗星剣というのは遠くの敵に対して《転移/テレポート》で誰かを飛ばし、その瞬間切る。というものだ。
 しかし、通常では転移した瞬間、性格な状況が把握できないのはこちらも相手も同じ。
 ゆえに彗星剣は“すでに攻撃モーションに入った相手を転移させる”のが骨子となる。
 攻撃するための正確さはほとんど魔術師の観測と転移の正確さにかかってくる。

 かつて流れ星シューティングスターの中ではこの技の研究が行われたが、慎重派のハムはどうしても転移ののち、周囲の状況を見てからアクションを起こしてしまい、その一拍のため、あまり有効とはいいがたかった。

 その点ガルーダはそういったためらいがほとんどない。
 相手の目の前に転移した瞬間、すでに短剣が相手の首元にあることすらあり、認識すらされたかわからないくらいの感覚で瞬殺することすらできる。

 しかし、彗星剣には大きな弱点がいくつかあった。

 そもそも転移の座標に厳密さが欠けると、めくらうちの大振りが空を切る事になり、そのまま相手に無防備なところを反撃されることがある。

 さらに、首尾よく相手に攻撃が当たったとしても、一撃で葬れなくてはやはり反撃を喰らう。大勢に囲まれている場合、皆が駆けつけてくるまでガルーダは独力で生き延びなくてはならない。

 要するに一方通行の特攻技なのだ。
 それを知ったエステルは、はじめ彗星剣の使用に反対した。

「……ガルーダさん。これって転移したあとはひとりぼっちになっちゃうんですか?」
「んー。まあそうなるよう。おいらも何度か敵に囲まれちゃって、ボコられて死にそうになったものだよう」
「そんな危険な技をメルに――」
「――やるニャ!!」
「メル!?」
「メルはメテオ様の護衛なの。ここで赤い人をかけるやっつければメテオ様の役に立てるニャ!! 」 

 しかし、メルはその話を聞いてやる気満々であった。

「で、でも、一歩間違えたらスキだらけなのよ。メルは盗賊のガルーダさんみたいに一撃必殺の訓練も受けてないんだし……あの霧の化物もいるかもしれない」
「エステルお姉ちゃんがばっちりなところに飛ばしてくれるから平気なのー メルにはハム師匠からもらった串正宗もあるから大丈夫ニャ」

 エステルに全幅の信頼を置いているメルであった。
 むしろ不安であったのはエステルのほうであったが、これまでメルが串正宗でいくつもの鋭い突き。うまく突けば岩石すら貫通させる魔法の鉄芯剣エストックの力を見てきている。
 であればエステルとて、つきあいも長く呼吸のタイミングが取りやすいメル以外に考えられない。

「……わかったわ。やりましょう」
「メルがんばるよー!!」

 メルは駆けながら、そのときのことを思い出していた。
 細かいタイミングの打ち合わせはしなかった。
 ただ決まっていたことは――

 絨毯が視界に入ったら思いっきりジャンプして、思いっきり串政宗を打ちこむだけ。
 
 絨毯が視界に入ったら思いっきりジャンプして、思いっきり串政宗を打ちこむだけ。

 絨毯が視界に入ったら思いっきりジャンプして、思いっきり串政宗を打ちこむだけ。

 絨毯が――

 本能がメルの身体を動かした。
 何かが後ろから迫ってくる。血のつながりはないが姉と呼ぶ、慣れ親しんだ気配。

 跳躍。 

 全身の筋肉をねじって串正宗を握る腕に溜めを作って――

「ニャッ!!」

 ――打ち出す。

「――あ゛!?」

 驚愕に見開かれた炎のような瞳と、メルの金色の瞳が交差した。

 すでに全力で突き出された串政宗は、炎のような髪を持つ頭。
 狂太子ザラシュトラスの眉間へと、定められていた。
 メルは一本の弓矢のような鋭さで、狙いを過たず突進していくだけ。

「あ゛あ゛あ゛っ!!」

 馬上の狂太子が叫んだと思うと、顔面をわずかにひねる。

 メルの手に気色の悪い感触が走った。
 串政宗は狂太子の眉間ではなく、わずかにずらされてまなじりを深く大きく貫いた。

 タイミングは完璧であった。
 この場にガルーダとメテオがいれば、そう評していただろう。
 突然現れたと思ったら剣を突けつけられ、それに反応したザラシュトラスの動きは尋常なものではなかった。

「どこから現れた! この猫――」

 ザラシュトラスはそのまま背後に切り抜けていった何か――猫族の女のように見えたものを探して振り返ると、右手に握った『龍王の装飾卵イースターエッグ』に気を送った。
 龍王の装飾卵イースターエッグは龍を操り、龍の肉体の強さをその身に宿すアーティファクト。
 メルの彗星剣を破ったのは、龍の身体能力を人間の身に宿したゆえのことだった。

 だが、ふり返ったザラシュトラスはメルを見つけられなかった。
 傷ついた右目の視力がきかず、その傷を負わせた張本人の姿を見失ったのだ。

 そして、串正宗を打ち込んだ勢いでザラシュトラスの背後へと落ちていくメルは、まだ諦めていなかった。

 ハムより譲り受けた串政宗の秘密の技。いざというときのとっておきが残っていたからだ。

 一撃目を外してしまったメルはすぐに行動を起こしていた。
 空中で身体をひねり、一回転すると串正宗を突き出し、ボウガンを構えるようにピタリと照準を構える。
 落下していく中、ザラシュトラスが馬ごとこちらを向いたのがわかった。
 しかし、落下していくメルの姿はちょうど馬の身体に隠れて死角になっている。そのえザラシュトラスは右目を潰されている。

(しまったニャ……頭が狙えないニャ!!)

 ほんの数秒の間のことだが、メルにはすべてがゆっくりと進んでいるように思えた。
 その時間の中で、相手も自分を見つけられないが、メルもザラシュトラスの急所。頭を狙いきれない位置にいた。

(一度着地して――ダメニャ! あいつの動き、タダモンじゃないニャ!! ヘンな霧もあるニャ!!)

 ザラシュトラスの周囲には、一見して不自然な霧が渦巻いていた。先ほどメルたちを攻撃し、馬車を壊したミストブリンガーだ。
 エステルの《転移/テレポート》で瞬間移動したメルには知る由もないが、まっとうな手段で狂太子に近づくことは至難であっただろう。

 メルは一か八か、防御の厚い心臓を狙ってみようと思ったが、ザラシュトラスの右手にぼんやりと光る何かを見て思い直した。

「標的は赤い髪と目の男。でももし外しちゃったら、その男が持っている装飾のある卵が銀龍を操っているアーティファクト。小手でもいいから、叩き落とせばその一瞬だけでも銀龍にスキができるかもしれない。もしものときは、お師匠様ならその一瞬でなんとかしてくれるかも――」

 事前に、エステルから聞いていたことを思い出す。
 照準をぼんやり光る何かに定めると、串政宗を握る力をぐっと強めて叫んだ。

「新、彗星剣ニャ!!」

 メルが叫ぶと、串政宗の芯が爆発するかのように射出された。
 今度こそ剣は狙いをあやまたず、ひとすじの光となってザラシュトラスの右手に吸い込まれた。

「あ゛あ゛!?」

 ザラシュトラスが馬の斜め下から何かが光ったと気づいた瞬間、銀色の光で辺り一帯が包み込まれた。
************************************************
週二回更新ってこんなにタイトでしたっけ…()
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...