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二部
185 彗星剣(後編)
しおりを挟むメルに求められたミッションを要約すると、こうだ。
「エステルが《転移/テレポート》をかける瞬間にジャンプして、目の前にある赤い髪の男に、出現と同時に突進しながら一撃で急所を突け」
何の事はない。彗星剣というのは遠くの敵に対して《転移/テレポート》で誰かを飛ばし、その瞬間切る。というものだ。
しかし、通常では転移した瞬間、性格な状況が把握できないのはこちらも相手も同じ。
ゆえに彗星剣は“すでに攻撃モーションに入った相手を転移させる”のが骨子となる。
攻撃するための正確さはほとんど魔術師の観測と転移の正確さにかかってくる。
かつて流れ星の中ではこの技の研究が行われたが、慎重派のハムはどうしても転移ののち、周囲の状況を見てからアクションを起こしてしまい、その一拍のため、あまり有効とはいいがたかった。
その点ガルーダはそういったためらいがほとんどない。
相手の目の前に転移した瞬間、すでに短剣が相手の首元にあることすらあり、認識すらされたかわからないくらいの感覚で瞬殺することすらできる。
しかし、彗星剣には大きな弱点がいくつかあった。
そもそも転移の座標に厳密さが欠けると、めくらうちの大振りが空を切る事になり、そのまま相手に無防備なところを反撃されることがある。
さらに、首尾よく相手に攻撃が当たったとしても、一撃で葬れなくてはやはり反撃を喰らう。大勢に囲まれている場合、皆が駆けつけてくるまでガルーダは独力で生き延びなくてはならない。
要するに一方通行の特攻技なのだ。
それを知ったエステルは、はじめ彗星剣の使用に反対した。
「……ガルーダさん。これって転移したあとはひとりぼっちになっちゃうんですか?」
「んー。まあそうなるよう。おいらも何度か敵に囲まれちゃって、ボコられて死にそうになったものだよう」
「そんな危険な技をメルに――」
「――やるニャ!!」
「メル!?」
「メルはメテオ様の護衛なの。ここで赤い人をかけるやっつければメテオ様の役に立てるニャ!! 」
しかし、メルはその話を聞いてやる気満々であった。
「で、でも、一歩間違えたらスキだらけなのよ。メルは盗賊のガルーダさんみたいに一撃必殺の訓練も受けてないんだし……あの霧の化物もいるかもしれない」
「エステルお姉ちゃんがばっちりなところに飛ばしてくれるから平気なのー メルにはハム師匠からもらった串正宗もあるから大丈夫ニャ」
エステルに全幅の信頼を置いているメルであった。
むしろ不安であったのはエステルのほうであったが、これまでメルが串正宗でいくつもの鋭い突き。うまく突けば岩石すら貫通させる魔法の鉄芯剣の力を見てきている。
であればエステルとて、つきあいも長く呼吸のタイミングが取りやすいメル以外に考えられない。
「……わかったわ。やりましょう」
「メルがんばるよー!!」
メルは駆けながら、そのときのことを思い出していた。
細かいタイミングの打ち合わせはしなかった。
ただ決まっていたことは――
絨毯が視界に入ったら思いっきりジャンプして、思いっきり串政宗を打ちこむだけ。
絨毯が視界に入ったら思いっきりジャンプして、思いっきり串政宗を打ちこむだけ。
絨毯が視界に入ったら思いっきりジャンプして、思いっきり串政宗を打ちこむだけ。
絨毯が――
本能がメルの身体を動かした。
何かが後ろから迫ってくる。血のつながりはないが姉と呼ぶ、慣れ親しんだ気配。
跳躍。
全身の筋肉をねじって串正宗を握る腕に溜めを作って――
「ニャッ!!」
――打ち出す。
「――あ゛!?」
驚愕に見開かれた炎のような瞳と、メルの金色の瞳が交差した。
すでに全力で突き出された串政宗は、炎のような髪を持つ頭。
狂太子ザラシュトラスの眉間へと、定められていた。
メルは一本の弓矢のような鋭さで、狙いを過たず突進していくだけ。
「あ゛あ゛あ゛っ!!」
馬上の狂太子が叫んだと思うと、顔面をわずかにひねる。
メルの手に気色の悪い感触が走った。
串政宗は狂太子の眉間ではなく、わずかにずらされてまなじりを深く大きく貫いた。
タイミングは完璧であった。
この場にガルーダとメテオがいれば、そう評していただろう。
突然現れたと思ったら剣を突けつけられ、それに反応したザラシュトラスの動きは尋常なものではなかった。
「どこから現れた! この猫――」
ザラシュトラスはそのまま背後に切り抜けていった何か――猫族の女のように見えたものを探して振り返ると、右手に握った『龍王の装飾卵』に気を送った。
龍王の装飾卵は龍を操り、龍の肉体の強さをその身に宿すアーティファクト。
メルの彗星剣を破ったのは、龍の身体能力を人間の身に宿したゆえのことだった。
だが、ふり返ったザラシュトラスはメルを見つけられなかった。
傷ついた右目の視力がきかず、その傷を負わせた張本人の姿を見失ったのだ。
そして、串正宗を打ち込んだ勢いでザラシュトラスの背後へと落ちていくメルは、まだ諦めていなかった。
ハムより譲り受けた串政宗の秘密の技。いざというときのとっておきが残っていたからだ。
一撃目を外してしまったメルはすぐに行動を起こしていた。
空中で身体をひねり、一回転すると串正宗を突き出し、ボウガンを構えるようにピタリと照準を構える。
落下していく中、ザラシュトラスが馬ごとこちらを向いたのがわかった。
しかし、落下していくメルの姿はちょうど馬の身体に隠れて死角になっている。そのえザラシュトラスは右目を潰されている。
(しまったニャ……頭が狙えないニャ!!)
ほんの数秒の間のことだが、メルにはすべてがゆっくりと進んでいるように思えた。
その時間の中で、相手も自分を見つけられないが、メルもザラシュトラスの急所。頭を狙いきれない位置にいた。
(一度着地して――ダメニャ! あいつの動き、タダモンじゃないニャ!! ヘンな霧もあるニャ!!)
ザラシュトラスの周囲には、一見して不自然な霧が渦巻いていた。先ほどメルたちを攻撃し、馬車を壊したミストブリンガーだ。
エステルの《転移/テレポート》で瞬間移動したメルには知る由もないが、まっとうな手段で狂太子に近づくことは至難であっただろう。
メルは一か八か、防御の厚い心臓を狙ってみようと思ったが、ザラシュトラスの右手にぼんやりと光る何かを見て思い直した。
「標的は赤い髪と目の男。でももし外しちゃったら、その男が持っている装飾のある卵が銀龍を操っているアーティファクト。小手でもいいから、叩き落とせばその一瞬だけでも銀龍にスキができるかもしれない。もしものときは、お師匠様ならその一瞬でなんとかしてくれるかも――」
事前に、エステルから聞いていたことを思い出す。
照準をぼんやり光る何かに定めると、串政宗を握る力をぐっと強めて叫んだ。
「新、彗星剣ニャ!!」
メルが叫ぶと、串政宗の芯が爆発するかのように射出された。
今度こそ剣は狙いをあやまたず、ひとすじの光となってザラシュトラスの右手に吸い込まれた。
「あ゛あ゛!?」
ザラシュトラスが馬の斜め下から何かが光ったと気づいた瞬間、銀色の光で辺り一帯が包み込まれた。
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週二回更新ってこんなにタイトでしたっけ…()
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