ワールドトークRPG!

しろやぎ

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二部

191 宴のあと

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 カトラは勝手にワインのボトルから手酌で自分のぶんを注ぐと、すいっと一口飲み下す。

「人間の作る酒はうまいのだ」
「龍も酒を飲むんだな」

 うまそうにワインを嗜むカトラを見て、素直な感想が思わず口をついた。

「龍の中にはのんべが多いのだぞ? 食事というものを必要としない古代龍エルダードラゴンにとって、飲食は完全に嗜みの領域なのである」

 そういうものか。
 俺は龍がばりぼりと人間をライスのように。リトルフィートを漬物のように。ドワーフを肉のように。そしてエルフを野菜のように食べるイメージを想像してしまった。

「……人間などまずいにきまっておろう。だいいち服だ髪だ剣だ鎧だと、人間種は身にまとうものが多すぎるのである」
「まさか、俺の心を読んだのか!?」
「そんな顔をしていればゴブリンにもわかるのである」

 うーむ。ウソのつけない俺の表情筋。

「これよりアヴィルードはわたしの住処すみかである。レオン王が正式にレゴリスを退けたことと同時に、国中に告知するということになっているのである」
「そうか。それはよかった」

 ユルセールの領地に古代龍エルダードラゴンが住み着くことになったか……
 生半可な国家じゃ手を出しにこなくなるだろうな。

「その代わり、わたしがユルセールに住まう限り、三度までユルセール王の頼みを聞くこととなったのである。島ひとつを頂く条件としては破格なのであるが、此度は方々に迷惑をかけたのでなあ……」
「カトラって銀龍のくせにずいぶん義理堅いよな……」
「ぎ、銀龍のくせにとはどういう了見なのだ!? 古代龍エルダードラゴンは人間種よりもはるかに文化的な種族であれば、当然であろう!!」

 おーおー。ムキになっちゃって。
 銀龍といえども今の姿は巫女風衣装のコスプレ少女だ。これならまだ強面こわもてのおっちゃんのほうが恫喝効果があるってもんだ。

「……メテオ。お前は古代龍エルダードラゴンに対する敬意というものがなってないのである」
「サーセン」
「カトラよ。ひとつ訪ねたい」

 俺が誠心誠意のお詫びをしているところに割って入ったのはリーズンだ。

「イーフリートと再契約をしたい。通常の契約方法で問題ないだろうか?」

 カトラのブレスでこの人間界から消滅し、精霊の世界に帰ったイーフリート。リーズンはふたたび再契約するつもりでいる。
 もちろんレベル10で、通常使える精霊魔法を極めたリーズンであれば『アャータレウ』のルール上、《コントロール・グレータースピリット/上位精霊支配》で再契約できるはずだが――

「通常の方法では再契約できぬ。イーフリートは精霊のルールを破ってお主らを助けた。契約はこの人間界でもっとも炎の濃い場所で行われねばならないのである」
「なるほど。その場所とは?」

 神妙な顔でカトラはリーズンの言葉にしばし思いを巡らせていた。

「イーフリートを従えることができる術者であれば、他の精霊王と契約することもできよう。アクエリアスでもクラーケンでも、ベヒモスでもジンでも――」
「俺は、イーフリートと契約をしたい」

 リーズンにとってイーフリートは俺たちに等しい仲間だ。その気持は変わらないだろう。

「……よかろう。このユルセールよりはるか東にあるゲヘナの火山に向かうのだ。その地こそ、この人間界でもっとも炎の精霊力に満ちた場所。そこでならば、イーフリートもお主の呼びかけに応えられるのである」
「そうか。銀龍よ、感謝する」

 必要なことだけを聞いて、リーズンは頭を下げた。
 しかし、カトラの話はまだ終わらなかった。

「心するのである。まだあやつが居座っておればだが――ゲヘナ火山はわたしと同じ古代龍エルダードラゴン。赤龍ゲヘナの住まう火山なのである」
「……そうか」
「おいおい。そうかってリーズン!!」

 表情ひとつ変えないリーズンに俺のほうがたまらず突っ込む。

「このカトラと古代龍エルダードラゴンだぞ? しかも相手は混沌勢力のカラードラゴン――」
「わかっている。だが、俺は行かねばならん」
「俺も行く」

 イーフリートは俺たちを助けてくれた。
 俺だって再召喚できるものならさせてやりたい。

「……気持ちだけ貰っておく」
「なんでだ!? 俺たちパーティで行けば、カラードラゴンだってなんとかできるかもしれない!!」
「俺はな……メテオ。不甲斐ないんだ」

 それまで表情を買えることがなかったリーズンが唇を噛んだ。全身を震わせて、感情爆発寸前といったふうに。

「イーフリートに助けられ、メテオにも助けられ……このまま助けらればかりなのは俺の性に合わん」
「そんな。俺はそんな……」
「メテオ。今回はイーフリートとお前に助けられた。だが、何かあったらお前を助けてくれるのは誰だ?」
「リーズン……」
「何かあったら俺が助ける」

 リーズンの両腕が俺の肩をつかむ。
 ここまでいわれて、引き止めるなんてできない。
 こいつは俺の領域まで自分を高める気だ。

「……わかった。信じてる。リーズン」
「あのときイーフリートが使った魔法――《爆轟/デトネイション》。まだ精霊魔法には俺の知らない境地がある。旅から帰ってきたらメテオに教えてやるぞ」
「楽しみだな」

 それは本当に楽しみだ。けっきょく俺はイーフリートが使ったという《爆轟/デトネイション》を見られなかったからな。

「……旅はいいんだけど、リーズン」

 アーティアが静かに割っていった。

「ウォルスタの領主の仕事はどうするのよ?」
「メテオのところのギルドにフィリアという精霊使いがいただろう? 彼女であれば問題あるまい」
「おい! ウチの人材を勝手に使うな!!」
「いいだろう。魔術師ギルドにはまだオリナスがいる。だいたい魔術師ギルドは人材を抱え込みすぎだ。少しは街のためによこせ」

 おいおい! 思わず話に引き込まれたけど、リーズンってウォルスタの領主だろ!!
 見方を変えれば職務放棄してぶらりひとり旅じゃないか!

「ちょっとお酒を過ごしすぎたようです。わたしたちは先に休ませていただきますね」
「ニャ? リコッタはもう寝るのー? メルはまだ……」
「――あっ、そうよね! ほら、ケイシャももう寝ましょう。それじゃあお師匠様。皆様おやすみなさい」
「お、おやすみなさい」

 リコッタがそそくさと席を外すと、エステルもメルとケイシャの背中を押して退場してしまった。

「……逃げたか。リコッタめ。空気の精霊を読むとは腕を上げたな」
「あっ! あいつら逃げたのか!! てか空気の精霊なんていないだろ!? やっぱりリーズン、お前はウォルスタに残って領主業を続けろ。イーフリートは俺が代わりに契約してきておいてやるから」
「馬鹿をいえ。お前にはクロックというできた守護精霊がいる。どこだクロック――メテオが二重契約を犯そうとしているぞ――」
「やめてくれ。せっかくあのお喋りなのがいないんだから藪をつつくなって!!」

 クロックが出てくると延々俺の近くで喋りまくるから迷惑なんだ。本当にやめて。

「お主ら仲がいいのか悪いのかわからないのである」
「そうね。人間の間だと喧嘩するほど仲がいい、というんだけど」
「アーティア。お前だってリーズンがいなくなったら迷惑するだろ。止めてやってくれ」
「別に。メテオのところのフィリアが領主になってくれるんであれば、構わないわ」
「そんな。ハム、ガルーダ!! お前たちだって――」

 やけに静かだと思っていたら、ハムの姿はすでになく、ガルーダは腹をパンパンに膨らませて床で鼻提灯を膨らませていた。

「メテオ。お前だって魔術師ギルドを大放置していたんだ。このさいウォルスタの中枢を新しくするのも悪くないだろう」
「ま、まあ。フィリアたちがいいっていえば」
「それじゃあ詳細はウォルスタに戻ったら詰めよう。俺も今日は眠らせてもらう」
「わたしもそうするわ。おやすみ、メテオ」
「――お、おい」
「わたしも人間の姿が疲れたのである。要件は終わったので、さっそくアヴィルードを片付けてくるのである」

 バルコニーからリーズンとアーティアが消え、カトラは少女の姿のまま床を蹴り、城下のリ=ハン湖へと身を投げた。

「お、おい!!」
「小さな魔術師、メテオ。さらばなのである!!」

 カトラは空中で銀龍の姿になると、うねうねと空中を泳ぐように飛んでいった。少女の姿でそういう突飛なことをするのはやめてほしい。
 あと、その姿だと俺と身長たいして変わらないからその呼び方もやめてほしい。

「……うーん。まだ飲めるよう……おかわりだよう……」

 残ったのは俺の足元でヘソを出して幸せそうに眠っているガルーダだけだった。

 ……あれ?
 こいつ、俺が寝室まで運ぶの? 
************************************************
(たぶん)あと二話で第二部完です。

ご指摘いただいた誤字は、もうちょっと落ち着いたら一気に直しますので…(死にそう)
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