神々の間では異世界転移がブームらしいです。《サイドストーリー》

はぐれメタボ

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番外編

始まりの日

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  何かが腐ったような、すえた臭いとカビの臭い、そして僅かな血の鉄臭さが混ざった空気が満ちるボロ小屋。
  どこかで拾った破れて、シミの出来た布に包まって眠っていた俺は空腹で目を覚ました。
  ここはミルミット王国の王都。
  300年前に勇者と共に邪神を封印した英雄の1人が作り上げた帝国と並ぶほどの大国の王都にも当然、行く宛のない負け犬達が集まった吹き溜まりが存在する。
  このスラムでは、王国の兵の目も届かない。
  弱い者は奪われ、死んで行く地獄の様な世界だ。
  俺はボロ切れから抜け出すと身体を解す。
  拾った瓶に汲んでおいた少し濁った水で喉を潤すと寝床にしているボロ小屋を出てスラムの出口を目指す。
  道端には生きているのか死んでいるのか分からないような奴らが汚い布に包まっている。
  別の通りでは表の通りから引きずり込まれたのだろう、3人の男に殴られ、身包みを剥がされている男がいる。
  また、別の通りでは、昼間から下着の様な格好をした女が男を引っ掛けようと物色している。
  このスラムではいつもと変わらない、日常の風景だ。
  スラムから出た俺は大通りではないがそこそこ人通りが多く、道が入り組んでいる通りを歩く。
  大通りは見回りの兵士が多くまた、逃げにくい。
  この通りなら道が複雑で、俺が本気で逃げれば大人は追いつく事など出来はしない。
  目的なく歩いている様に見せかけて獲物を探していると如何にもな田舎者お上りを見つけた。
  露店で商品を見入っている。
  俺はさり気なく男の側に立つと、機会を伺う。
  購入する商品を決めたらしい男は商品を指差しながら店主に声をかける。
  そして無造作に懐から皮袋を取り出した。
  俺は男の注意が露店の店主に向いているのを確認すると、男の手から素早く皮袋を奪い、走り出す。
  皮袋の持ち主は一瞬、呆気にとられた後、大声を出しながら追いかけて来る。
  しかし、この通りを熟知している俺に追いつく事は出来ない。
  男の追跡を振り切った俺は皮袋の中を覗き見る。
  まあまあの金額だ。
  今日はあと1人くらいにして、早めに寝ぐらに帰ろう。
  さっきとは別の通りで獲物を探す。
  少しするといい獲物を見つけた。
  見た所、若い冒険者の様だ。
  冒険者は基本的に身体能力が高い。
  なので、他の掻っ払いやスリ達は避ける。
  しかし、俺には独自の持論があった。
  それは、冒険者でも大柄で鎧や剣で武装したヤツは実は狙い目だと言う事だ。
  確かに冒険者は一般人に比べ荒事に慣れている。
  しかし、別に正面から戦い、金品を奪う訳ではない。
  ヤツが皮袋サイフを取り出したら、掠め取り、逃げればいいのだ。
  それならば大柄な冒険者は狭い路地では動きにくく、人混みでは思う様に追ってこれない。
  また、重たい鎧や剣を持っていては、速く走ることも難しいだろう。
  俺は頭を剃り上げた20代くらいの大柄な冒険者に狙いを定め、買い物をするのを待つ。
  すると、冒険者は串焼きの屋台の前で立ち止まった。
  串焼きの匂いに自然と腹の虫が騒ぎ出す。
  肉なんてここ最近口にしていない。
  今日は奮発してスラムで売っている、なんの肉かは分からない串焼きでも食おうかな。
  肉はパサパサで薄く塩が振ってあるだけの串焼きだが、その日暮らしの俺からすると高級品だ。
  冒険者が串焼きの代金を支払おうと皮袋を取り出した。
  俺は冒険者の影から素早く手を伸ばし皮袋を掴む。  
  あとは冒険者が諦めるまでひたすら走るだけだ。
  踵を返し、駆け出そうとした時、俺は襟首を掴まれ押し留められた。
  後ろを伺うと先ほどの冒険者が俺の肩と腕を掴み拘束する。

「クソ! 離せよクソ野郎!」

「口の悪いガキだ、あぁ店主、すまない、代金だ」

  冒険者は俺を捕まえたまま店主に金を払い、串焼きを受け取る。

「兄ちゃん、衛兵を呼ぶか?」

「いや、俺が詰所まで連れて行こう。
  どうせ帰り道だ」

「そうかい。そいつはここいらを荒らしまわっているスラムのガキだ。
  よく捕まえてくれたな」

「おい! 離せって言ってんだろハゲ!」

「コレはハゲではない、剃ってんだ!」

  冒険者は俺を抱えて歩き出す。
  俺がどんなに暴れてもビクともしない。
  このまま衛兵に突き出されたらどうなるのか脳裏に不安がよぎる。
  俺が捕まった通りから離れ、野次馬が居なくなると、通りと通りの狭間にある裏通りに入る。
  すると冒険者は、抱えていた俺を地面に降ろした。
  しかし、逃げられない様にしっかりと腕を掴まれている。
  辺りに人目はない。
  ここで殴り殺されても助けに入る者は居ないだろう。

「クソ! クソ! 俺を如何する気だ! クソハゲ野郎!」

「だからコレは剃ってんだって言ってんだろ!」

  冒険者は俺を無理やり地面に座らせると自分は打ち捨てられていた木箱に腰を下ろした。

「お前なんで掻っ払いなんてやってんだ?」

「はぁ? んなの生きる為に決まってんだろ! 俺みたいなガキが1人で生きていくには仕方ねぇだろぉが!」

「だが、お前のやっている事は悪い事だ」

「悪い事だ? テメェに言われなくても分かってるよ! じゃあ何か? 掻っ払いは悪い事だから俺にのたれ死ねとでも言うのか?」

「なるほど、悪い事だってのは分かってるんだな」

「あぁん⁉︎」

ゴチ

「いってぇぇえ‼︎」

  冒険者のゲンコツが俺の頭に落ちたと理解するのに少し時間が掛かった。

「取り敢えずケジメだ」

「テメェ‼︎ この野……」

  俺は言葉が出なかった。
  冒険者の行動が理解出来なかったからだ。
  冒険者は持っていた串焼きを俺に差し出したのだ。
  スラムのパサパサで味がほとんど無い串焼きではない。
  ジューシーで肉汁が溢れ、タレがたっぷりと絡んだ串焼きだ。

「どうした、腹減ってるんだろ? 食え」

「何のつもりだ」

「良いから食え」

「………………」

  俺は冒険者の手から、串焼きを奪う様に取ると夢中になって貪った。
  初めて食べるその串焼きの味は生涯忘れる事はないだろう。
 
「お前、もう掻っ払いなんて辞めろ」

  串焼きを食い終わるまで黙って待っていた冒険者は俺にそう告げた。
  俺の腕を掴んでいた手はいつの間にか離されている。
  今なら簡単に逃げる事が出来るだろう。
  しかし、何故か俺は逃げる事なく冒険者に言葉を返した。

「でも、俺はコレしか生きる方法を知らない……」

「生きる方法は俺が教えてやる。
  お前、冒険者にならないか?」

「冒険者?」

「そうだ、まずは俺のパーティで見習いとして鍛えてやる。
  一人前になればさっきの串焼きなんて毎日でも食べられる」

  冒険者の言葉に、俺は自分の未来を決める選択を迫られていると直感した。
  そして、俺の出した答えは…………

「分かった。俺、冒険者になる」

 




  あの日、冒険者から受け取った1本の串焼きが全ての始まりだった。
  のちに、数多の人々を冒険へと誘う物語。
  吟遊詩人達によって、大陸全土に語り継がれる、壮大な冒険譚の幕開けだった。










  
  冒険者のパーティの拠点へと連れて行かれる道中、冒険者はお互いに名前すら名乗って居なかったのに気がついたようだ。

「そうだ、俺はゴルド、Cランクパーティ《天馬の手綱》のリーダーだ。
  お前の名前はなんだ?
  あ、あとお前、言葉遣いを直せよ!
  女が『俺』なんて言うもんじゃねぇ」

「余計なお世話だ」

「で、名前は?」

「……………………リゼッタ」



                     始まりの日 完
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