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盃を満たすは神の酒
蘇る騎士
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今日は朝から騒がしい。
昼頃からは遠くの方から魔物の咆哮や冒険者の雄叫び、兵士の笛、などの『戦場の音』が鳴り響いている。
「マスター、お代わりだ」
「あいよ」
マスターから渡されたグラスを煽る。
今日はずっと同じ物を飲んでいる。
俺の貸切と化している酔いどれスライムのカウンターでいつも通りのマスターと最後の時を無駄に消費する。
「なぁ、バルさん、あんたはそれで良いのかい?」
「いいって、何がだ?」
「本当はあんたも魔物と戦いたいんじゃないか?」
「はぁ、なんで俺が?
俺はこのまま、この街が魔物に潰される時までここにいるつもりだよ。
そうすれば俺は家族の所に行けるんだ」
「はぁ~、じゃあなんであんた、今日はずっと果実水ばっか飲んでんだ?
ウチは酒場だぞ?」
「……………………」
ドッガァァア!!!
俺がマスターの言葉に答えられず、黙り込んでしまった時、すぐ近くから何が崩れる音がした。
「な、なんだ⁉︎」
「あ、おいマスター!」
慌てて外に飛び出すマスターの後を追う。
すると酒場に近い街の防壁が無残にも崩れ落ちていた。
防壁が崩れた辺りから魔物の鳴き声が聞こえる。
「いよいよ、終わりだな」
「バルさん……」
マスターは何かを言いかけた様だが、俺はそれを最後まで聞く事は出来なかった。
「きゃぁぁあ!」
防壁が崩れ落ちた方から女性が悲鳴を上げながら走ってくる。
女性は片手で赤ん坊を抱いてきて、もう片方の手は5歳ぐらいの少女の手を握っている。
彼女達を追っているのは大きな黒い虎の魔物だ。
「不味い!」
マスターの叫び声が聞こえる。
子供を連れた女性ではあの魔物から逃げ切る事は出来ない。
魔物は母親に手を引かれて大泣きしながら走る少女に狙いを定めたのか、僅かに身を屈めて少しタメを作ると、放たれた矢の様に少女に飛びかかった。
しかし、黒い虎の魔物の鋭い牙が少女を傷つける事は出来なかった。
魔物の牙は少女と赤ん坊を庇って背中を向けた母親の前に立った俺の左腕に向けられている。
人間の腕など簡単に食い千切ってしまうだろう魔物の牙は俺の皮膚に触れる事はなく、身体に纏った高密度に圧縮された魔力の鎧によって押し止められている。
聖騎士のあやつる守護武技の1つ、魔力鎧だ。
俺は何をやっているんだ?
どうせみんな死ぬと言うのに……
こんな事をしても死ぬまでの恐怖が長引くだけなのに……
そんな疑問が俺の脳裏をよぎる。
だが、実の所その答えはすでに気づいている。
昨日、バッカスに言われた言葉が俺の脳裏から離れない。
「見つかるまで何年でも探せばいいか……」
俺はやはり……家族を諦める事が出来ない……
あの日、国を失ったあの日からずっと身に付けていたマジックバッグに手を入れる。
手にしたのは、あの日失った自らの誇り、必ず守ると誓い、そしてその誓いを破ってしまった、敬愛する少女から下賜された物。
俺の身体を覆い隠せる程の大楯、美しい装飾が施されたミスリル製のタワーシールド、聖なる加護を秘めた守護者の証である愛盾、護りし者を手にした腕を振り上げる。
全身の力を右腕に伝え体重の乗った一撃を魔物の頭に叩き込む。
強靭な防具は最強の鈍器となり、魔物の命を奪う。
「バル……」
俺の後ろには、母子を逃したマスターが居た。
「マスター、髭剃りと髪留めをくれないか……」
「行くのか?」
「ああ、俺がバカだったんだ。
ようやく気付いた」
「そうか……」
マスターはそう小さく答えると髭剃りと髪留めになりそうな紐を探しに店に戻った。
この日、酔っ払いバルの…………元聖騎士団長、バルバロッサ・フォン・ブリッツの戦いが再び始まった。
昼頃からは遠くの方から魔物の咆哮や冒険者の雄叫び、兵士の笛、などの『戦場の音』が鳴り響いている。
「マスター、お代わりだ」
「あいよ」
マスターから渡されたグラスを煽る。
今日はずっと同じ物を飲んでいる。
俺の貸切と化している酔いどれスライムのカウンターでいつも通りのマスターと最後の時を無駄に消費する。
「なぁ、バルさん、あんたはそれで良いのかい?」
「いいって、何がだ?」
「本当はあんたも魔物と戦いたいんじゃないか?」
「はぁ、なんで俺が?
俺はこのまま、この街が魔物に潰される時までここにいるつもりだよ。
そうすれば俺は家族の所に行けるんだ」
「はぁ~、じゃあなんであんた、今日はずっと果実水ばっか飲んでんだ?
ウチは酒場だぞ?」
「……………………」
ドッガァァア!!!
俺がマスターの言葉に答えられず、黙り込んでしまった時、すぐ近くから何が崩れる音がした。
「な、なんだ⁉︎」
「あ、おいマスター!」
慌てて外に飛び出すマスターの後を追う。
すると酒場に近い街の防壁が無残にも崩れ落ちていた。
防壁が崩れた辺りから魔物の鳴き声が聞こえる。
「いよいよ、終わりだな」
「バルさん……」
マスターは何かを言いかけた様だが、俺はそれを最後まで聞く事は出来なかった。
「きゃぁぁあ!」
防壁が崩れ落ちた方から女性が悲鳴を上げながら走ってくる。
女性は片手で赤ん坊を抱いてきて、もう片方の手は5歳ぐらいの少女の手を握っている。
彼女達を追っているのは大きな黒い虎の魔物だ。
「不味い!」
マスターの叫び声が聞こえる。
子供を連れた女性ではあの魔物から逃げ切る事は出来ない。
魔物は母親に手を引かれて大泣きしながら走る少女に狙いを定めたのか、僅かに身を屈めて少しタメを作ると、放たれた矢の様に少女に飛びかかった。
しかし、黒い虎の魔物の鋭い牙が少女を傷つける事は出来なかった。
魔物の牙は少女と赤ん坊を庇って背中を向けた母親の前に立った俺の左腕に向けられている。
人間の腕など簡単に食い千切ってしまうだろう魔物の牙は俺の皮膚に触れる事はなく、身体に纏った高密度に圧縮された魔力の鎧によって押し止められている。
聖騎士のあやつる守護武技の1つ、魔力鎧だ。
俺は何をやっているんだ?
どうせみんな死ぬと言うのに……
こんな事をしても死ぬまでの恐怖が長引くだけなのに……
そんな疑問が俺の脳裏をよぎる。
だが、実の所その答えはすでに気づいている。
昨日、バッカスに言われた言葉が俺の脳裏から離れない。
「見つかるまで何年でも探せばいいか……」
俺はやはり……家族を諦める事が出来ない……
あの日、国を失ったあの日からずっと身に付けていたマジックバッグに手を入れる。
手にしたのは、あの日失った自らの誇り、必ず守ると誓い、そしてその誓いを破ってしまった、敬愛する少女から下賜された物。
俺の身体を覆い隠せる程の大楯、美しい装飾が施されたミスリル製のタワーシールド、聖なる加護を秘めた守護者の証である愛盾、護りし者を手にした腕を振り上げる。
全身の力を右腕に伝え体重の乗った一撃を魔物の頭に叩き込む。
強靭な防具は最強の鈍器となり、魔物の命を奪う。
「バル……」
俺の後ろには、母子を逃したマスターが居た。
「マスター、髭剃りと髪留めをくれないか……」
「行くのか?」
「ああ、俺がバカだったんだ。
ようやく気付いた」
「そうか……」
マスターはそう小さく答えると髭剃りと髪留めになりそうな紐を探しに店に戻った。
この日、酔っ払いバルの…………元聖騎士団長、バルバロッサ・フォン・ブリッツの戦いが再び始まった。
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