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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》

44話 腐敗の徒

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  暗い森の中、青白い顔の男が走る。
  男の顔は体調が優れないなどと言う様なものではなく、生者では有りえない様な顔色だ。
  それもそのはず、男は人間ではない。
  ある魔法使いの邪悪な魔術によって生み出され、使役される亡者、レッサーリッチであった。
  3人の人間と戦い、目的を果たした為、周囲のアンデッドを寄せ集め、まるで自分がスケルトンドラゴンになったかの様に見せかけ逃走したのだった。
  スケルトンドラゴンは見た目だけは立派だが、所詮は虚仮威しの紛い物、本物のドラゴンの骨では無い為、せいぜいBランクくらいだろう。
  しかし、それで人間がアンデッドのボスを倒したと思えば上々、真のボスである自分が逃走した事に気付いたとしても多少時間を稼ぐくらいは出来るだろう。
  森の奥深く、かつてイザール神聖国と呼ばれていた領土に差し掛かった辺りで、レッサーリッチは足を止める。
  前方の岩場に人間の男が1人、腰掛けていたからだ。
  レッサーリッチは男の前に跪坐くとその手に持っていた物を掲げる様に差し出した。

「ふむ」

  男はレッサーリッチの手から神聖な気配を発する錫杖を受け取る。
  聖なる加護を受けた錫杖を手にしていたレッサーリッチの手は既に使いもにならない程ボロボロに焼け爛れていたが、男は気にする素振りも見せなかった。
  傍でこうべを垂れるレッサーリッチに視線すら向ける事なく鑑定する。

《聖者の錫杖》
#遺物級__アンティーク_#
聖なる加護を受けた錫杖

効果
・光属性強化
・アンデット特効
・魔力回復強化
・結界強化

  その錫杖が間違いなく歴代の教皇に伝わるマジックアイテムだと確認した男は、その聖なる力の源である魔宝石に手をかざす。

「練金」

  詠唱も魔法陣も使わず唱えたのは単純な初級練金術。
  しかし、男操るそれは、本来なら簡単な鉄の接着や目に見える程度の不純物の除去程度の効果しか無い練金術の初級魔法でありながら、『遺物級アンティークのマジックアイテムの素材を分解する』と言う有りえない程の効果を示した。
  錫杖から取り出した魔宝石を見つめる。

《光のオーブ》

遺物級アンティーク

膨大な光の魔力が込められた魔宝石

  鑑定結果を見た男はニヤリと笑い、パチリと右手の指を鳴らす。
  するとレッサーリッチは無言のまま崩れ落ち土に還る。
  男はレッサーリッチだった土塊の中から人間の頭蓋骨を拾い上げると光のオーブとともにしまい込み、森を後にするのだった。



===========================



「入れ」

  横柄な態度の兵士に促された俺達はヤナバル王国の王都へと足を踏み入れた。
  ヤナバル王国の王都は ミルミット王国の王都やグリント帝国の帝都とは明らかに雰囲気が違った。
  とても一国の王都とは思えない程、活気と言うものを感じることが出来ない。
  道を行く人々は皆、他人と目を合わせない様に、人の目に留まらない様に足早に去って行く。

「なぁ、なんかさぁ……」

「ええ……」

「なんつーか、空気が重いって感じか?」

  俺達が顔を見合わせていると1つ隣の通りからざわざわとした声が聞こえてくる。
  建物の陰から様子を伺うと揉め事の様だ。

「おら、さっさと歩け!」

「きゃっ!」

「おいおい、手荒な真似はするなよ。
  その女にはベッドで愉しませて貰うんだからな」

「「「がっはははは」」」

「お、お待ちください!どうか、どうか妻だけは……」

  俺達は目の前の光景に唖然となる。
  ここは辺鄙で人気のない街道ではない。
  一国の王都、国王のお膝元の通りのど真ん中だ。

「なんで街中に盗賊がいるのよ」

「こんなの直ぐに衛兵に捕まるだろ?」

  マーリンとカートの意見はもっともだ。
  白昼堂々と人攫いなどまかり通る筈がない。

「ほぉ、ロミオ。
  よくこの俺にそんな口を聞けるものだな。
  別に俺は無理やり連れ出している訳じゃない。
  お前の女がお前じゃ満足出来ないって言うから、親切な俺が相手をしてやってるんだ。
  そうだろ、ジュリエット?」

「……………………はい」

「俺とこの男、どっちが良いんだ?」

「…………マクベス様です」

  帯剣した男達に腕を掴まれた女性が絞り出す様に答え、周りの男達から笑い声があがる。
  なんだ、あの茶番は?

「聞いたなロミオ、聞いたなら夫としてやるべき事があるだろ?」

「…………っ!」

「ん?
  分からないなら教えてやろう。
『マクベス様、どうか私の妻をよろしくお願いします』っだ。
  言ってみろ」

「……………………」

「なんだその目は?」

「ロミオ……私は大丈夫だから…………」

「………………マクベス様……どうか……私の妻を……よろしくお願いします」

  男の絞り出すかの様な言葉に周りの男達が再び笑う。

「はっはっは、さて、帰るぞ、お前ら」

「ヘッヘッヘ、マクベス様。
  たまには俺達も愉しませて下さいよ。
  おぅ、お前で良い、オラ、来いよ」

  帯剣した男の1人が近くに居た娘に手を伸ばす。

「ぐぁぁあ!」

  しかし、その手が娘に触れる事はなかった。
  それよりも速く、マクベスと呼ばれた男のレイピアが帯剣した男の肩を貫いていた。

「貴様、俺は『帰るぞ』と言ったんだぞ?」

「も、ももも申し訳ありません、おお許し下さい」

「フン、まあいい、行くぞ」

  男達はジュリエットと呼ばれた女性をつれ立ち去って行く。
 
「何なのよ、アレ!」

「衛兵は何やってんだ!」

「仕方ない、捕まえて衛兵に突き出そう」

  俺達が物陰から出て行こうとすると近くに居た者達が慌てて俺達の前を塞ぐ。
  奴らの仲間かと思ったがその格好をみるとどう見てもただの一般市民だ。

「ちょっと、どいてよ!
  彼女、連れて行かれるじゃない!」

「お前達、今日、この街に着いた冒険者か?
  頼む、何も騒ぎを起こさないでくれ」

「どう言うことだ!
  早く、衛兵を呼ばないと!」

  俺の言葉に市民の男は驚愕の答えを口にする。

「無駄だ、あの剣を持った男達がこの王都の衛兵なんだ」

「はぁぁあ⁉︎」

「あんなのが衛兵⁉︎
  腐敗なんてもんじゃねぇぞ!」

「この国の王族や貴族は何をしているんだ!」

「王族ならほら、あのジュリエットを連れてった奴、あいつがこの国の第3王子、マクベス・フォン・ヤナバルだ」
  
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