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【番外編】竜人王アルファは惑わす
⑦
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俺は驚いて息を呑む。
そこにいたのは青の王。
青の王は、焦ったような気まずいような困ったような面持ちで逃げる様子もなく、そこに佇んでいた。
「あぉ――!」
声を上げた俺の口を青の王は咄嗟に手で塞いだ。
その距離は口づけできそうなほどに近い。
整った容姿が間近に迫り、一瞬焦った。
青の王は人差し指を唇に翳して囁いた。
「しっ……大きな声を出さないで。扉の前にいる近衛に気づかれたくない」
素直にこくこくと頷くと、ほっとしたように青の王は手を離した。
数秒だけ、廊下扉のほうを窺うが、ロニーが動く気配はない。
「手荒に口を塞いでごめん。いや……それよりも、覗くつもりはなかったんだ。本当にすまない」
青の王が発した言葉に俺は羞恥して顔が熱くなった。
身体を覆った毛布をぎゅっと握る。
何をしていたのか言い逃れはできないだろうか。
恥ずかしさから青の王の紅い瞳と目を合わせないようにして、小さな声で訊いた。
「どうして……ベランダなんかに?」
「えっ……部屋を間違えたから」
あまりにも適当すぎる返事に、思わず顔を上げると、しっかりと目が合う。
その悪びれもしない態度に呆れてしまった。
王の自室がどこにあるのか知らないが、俺の部屋と間違えるはずがない。
しかもベランダから侵入するなんて。
致命的に嘘が下手くそすぎるだろ。
俺は青の王を軽く睨みつけながら、声を抑えて非難する。
「どうやったら、部屋を間違えるなんてことが起きるんですか? もっとましな言い訳を考えてください」
五歳のカスパーだって、もっと上手い嘘を考えつくぞ。
「本当だって……あぁ、くそ……俺は何も見てない。声が聞こえたぐらいだから大丈夫だ」
全然、大丈夫なんかじゃない。
俺が言葉に窮していると、青の王は続けて言った。
「邪魔してごめん。俺はさっさっと出て行くから、どうぞ続けてくれ」
「は⁉︎」
足の間を拭き取ってもいないことに、俺は今更ながら気づいた。
一歩、後退る。
「あ、もう萎えちゃった? 俺はいい声が聞けて、勃ちそうになってるぞ」
そんなことを言うわりに、青の王から下心が感じられない。
口元には余裕そうな笑みまで滲ませていた。
視線を逸そうとすると、顔を覗き込まれる。
やめてほしい。
「これはふたりだけの秘密な。俺も誰かに言ったりしないから、マイネもベランダから俺が侵入したことは内緒にしといて」
「……はい」
自慰をしているところを見られたなんて、口が裂けても言えない。
俺を宥めるように肩に触れた青の王の手のひらが存外に優しい。
なぜか癪に障った。
それからベランダに引き返した青の王は、「じゃあ」と手を振ると、軽快に手摺に両足をかけた。
この部屋は三階なのに、躊躇いもなく地上に飛び降りる。
ベランダに出て、無事を確認しようかとも思ったがやめた。
深いため息をつく。
「なんだったんだ」
王が客人の部屋をベランダから訪問するなんてあり得ない。
しかも今の時刻は夜。
なんて常識破りなんだろうか。
俺はぴしゃりと窓を閉めた。
翌日の午後。
俺はリサの客室にいた。
リサの部屋は中央に大きな作業台が設置され、薬師に必要とされる器具が乱雑に並べられている。
そのせいか俺の部屋よりも狭く感じられた。
部屋の隅に追いやられたソファーに座り、俺の対面にオティリオとハンが腰を下ろした。
目の前の卓の上に親指ぐらいの大きさの硝子の小瓶がある。
「これがリュウコですか?」
灰色がかった乳白色の粉末を納めた小瓶を、俺は上下に振ってみた。
軽くてサラサラとしている。
一見、粒子の細かい砂か香辛料のようだ。
この小瓶は午前中にリサの元に届けられたらしく、すでに成分は調査済みだと言う。
オティリオは簡潔に訊いた。
「それで。治療薬になりそうなのか?」
「ええ。獣人不全病は改善される可能性が高い」
作業台の前に立つリサは、冷静に結果のみを伝える。
期待した通りだ。
オティリオは両手で顔を覆って、「あああぁ」と喜びを吐き出し、その隣でハンが「よかった」と安堵の表情で呟いた。
俺は胸の前で小瓶を握りしめる。
あの文献を信用してなっかわけではないが、実際のところほかに手がかりもなく、信じるしかなかったのだ。
三人とも同じ気持ちだったのだろう。
嬉しさが溢れる。
「あとは確実にアンゼル国に持ち帰るだけだね」
そう言って、オティリオは脱力したように手足を伸ばした。
これでもう誰も死なずにすむ。
早く届けたい。
そう思うと、興奮して鼓動が高鳴った。
まず領主館に行って、エモリーにリュウコを渡したい。
そして一秒でも早く、すべての患者に治療薬を届けたい。
オティリオは顔だけリサに向けて、口を開いた。
「……リュウコが何かはわかりそうか?」
「悔しいけど検討がつかない」
リサがあっさりと首を横に振る。
その正体を突き止めることが、青の王が提示した条件だ。
改めて小瓶を見つめる。
薬師のリサにわからないのならば、俺にわかるはずがないが。
――代償としてリュウコを作ってもらう。
青の王の言葉が蘇る。
作れ……か。
あのとき宰相やほかの高官たちが驚いた顔をしていたことを思い出す。
それほど容易に作れるものではないのだろう。
「僕は特殊なものだと思うな。竜人国にしかないなら、見たこともないかもしれない」
オティリオの発言にハンも口を揃える。
「私もそう思います。購入することができないなら、他国に流出することもない。相当稀なものですよ」
「あ、違法な薬物という可能性はないですか? だから法的に購入禁止にしているとか」
俺が思いつきを口にすると、すぐにリサに否定された。
「それはないな。毒でもなかったし興奮させるような有害物質も入ってなかった」
「そうですか」
一旦、俺は黙る。
腕組みをするハンが、呟くように言う。
「島国ですし、海に関係するものとか?」
オティリオは首を捻った。
「うーん……竜人国以外にも海に面している国はいっぱいある。竜人国にしかないものにはならないんじゃないのか?」
「……ここの海にしか生息しない貴重な生物がいるのかもしれません」
重ねてハンが言い募る。
「見た目だけなら砂浜の砂に似てますね」
俺が口を挟むと、リサは少し笑った。
「そうね。でも、もともとの形は粉末じゃないと思う。これは何かを砕いて、粉末にしてるのよ。これは、すごく硬いものと繊維状の少し柔らかい歪な構造をしている」
俺は再度、小瓶に目を向ける。
頭の中で、硬くて柔らかそうなものを探す。
「サンゴ礁とか、どうですか?」
ハンが少し自信ありげに発言した。
「サンゴか……言われてみれば、少し光沢もあるし、一理あるかもしれないけど……」
つぎに俺が訊く。
「それなら貝殻は?」
「ああ。貝殻も構造的にはすごく似ているよ。でも……」
リサはサンゴでも貝殻でもないと思っているような面持ちだ。
そこでオティリオにばっさりと切り捨てられる。
「そんな単純なものではないだろ。サンゴにしても貝殻にしても、そのへんの海に潜れば取れる」
「そう言われてしまうと、リュウコではなさそうです」
俺は口を尖らせた。
難しい。
正解に辿り着けないような気がする。
「それに完成させるのに七か月かかると言っていただろ」
オティリオが顎に手を置いて、深く考える仕草をした。
その表情はどことなくルシャードに似ている。
「七か月かけて加工するという意味なのか、それとも何かが成長するのに七か月必要なのか……」
リサがそう言うのを受けて、俺はまたしても思いつくまま、口に出してみる。
「何かの種とか?」
そこでオティリオが声を上げた。
「あ! 真珠という宝石があるだろ? あれはどうだ?」
「ああ。その考え方は悪くないですね。成分が一致するか調べてみたい」
リサの反応は一番よかった。
俺は真珠というものをよくわからなかったから、オティリオに教えてもらった。
丸い形状で貝の中に現れるらしい。
その後も、いろいろな意見を出し合い、最後に明日は王都を見て回ろうと決めたところで、解散となった。
リサの客室を出ると、扉前に控えていたグスタを連れて回廊を歩きはじめた。
その俺を追いかけるようにして、オティリオが走ってくる。
「マイネ。部屋に戻るのか?」
名前を呼ばれて立ち止まり「はい」と返事をした。
「部屋まで送るよ」
そう言うと、オティリオは隣を歩く。
俺に何か話があるのかと思ったが、オティリオはしばらく口を閉ざしたままだ。
しかし何かを探るような観察するかのような、妙な視線をオティリオから受ける。
「どうかしましたか?」
そうするとオティリオは逡巡しながら口を開いた。
「青の王のことなんだけど……何も感じないか?」
「すごく破天荒さが際立ってますね」
俺は不敬にならない程度の表現に収めた。
思い出したくもないが、昨夜のことが頭に過ぎる。
「そういう意味じゃなくて……あの左目を見ても何も感じない?」
「左目に王の証の紋章が浮かび上がってます」
「何か心がざわつくとかない? あの左目に魅了の力が宿っている気がするんだよ」
「魅了?」
俺が足を止めると、オティリオもそれに倣った。
「何か人を惑わすような力を感じないか? 青の王を好きになったりしてないよね?」
「俺が? まさか⁉︎」
浮気を疑われているのか、と驚く。
心外にもほどがある。
「本当に?」
そう訊かれたとき、ちょうど前方から角を曲がる青の王とクオン宰相が現れた。
会話を中断した俺とオティリオは、視線を交わす。
青の王は大股で目の前まで来ると、俺たちに挨拶をする間も与えずに訊いた。
「リュウコを届けさせたが、何かわかったか?」
オティリオは「ええ」と頷いて、リュウコの成分が獣人不全病の治療薬になるだろうことを伝える。
「よかったな。約束して通り、急いでリュウコを集めさせているから安心して待ってろ」
オティリオは「ありがとうございます」と丁寧に礼を返すと、「それでは」と俺の背中を押して、すぐに去ろうとした。
けれども、青の王の唇が不意に俺の耳元を掠める。
「誰にも言ってない?」
昨夜のことだろうとすぐにわかった。
俯いて「はい」と呟く。
それを見ていたオティリオが、訝しげに眉を顰める。
「なんのことですか?」
「マイネと俺だけの秘密さ」
青の王が揶揄うように嘯く。
もう蒸し返さないでほしい。
早く忘れたいのだから。
「オティリオ殿下、行きましょう」
オティリオの腕を引くが、動こうとしない。
まいったな。
オティリオは不機嫌そうに苛立ちをあらわにしていた。
「マイネはルシャード兄上の番だ。馴れ馴れしくしないでくれ」
「こんなの馴れ馴れしいうちに入らないだろ。俺よりもオティリオ殿下のほうこそ、マイネと距離が近過ぎないか?」
「僕はいいんだ」
「そんなの不平等だろ」
オティリオは青の王から視線を転じると、正面から俺と向き合い、勢いよく両肩を掴まれる。
「秘密って何? 口止めされてるの? 青の王と何かあったのか⁉︎」
俺は全力で首を振り続けた。
口止めされてるわけではなく、俺が恥ずかしすぎて言えないだけだ。
何もない。
疑わないでほしい。
そこにいたのは青の王。
青の王は、焦ったような気まずいような困ったような面持ちで逃げる様子もなく、そこに佇んでいた。
「あぉ――!」
声を上げた俺の口を青の王は咄嗟に手で塞いだ。
その距離は口づけできそうなほどに近い。
整った容姿が間近に迫り、一瞬焦った。
青の王は人差し指を唇に翳して囁いた。
「しっ……大きな声を出さないで。扉の前にいる近衛に気づかれたくない」
素直にこくこくと頷くと、ほっとしたように青の王は手を離した。
数秒だけ、廊下扉のほうを窺うが、ロニーが動く気配はない。
「手荒に口を塞いでごめん。いや……それよりも、覗くつもりはなかったんだ。本当にすまない」
青の王が発した言葉に俺は羞恥して顔が熱くなった。
身体を覆った毛布をぎゅっと握る。
何をしていたのか言い逃れはできないだろうか。
恥ずかしさから青の王の紅い瞳と目を合わせないようにして、小さな声で訊いた。
「どうして……ベランダなんかに?」
「えっ……部屋を間違えたから」
あまりにも適当すぎる返事に、思わず顔を上げると、しっかりと目が合う。
その悪びれもしない態度に呆れてしまった。
王の自室がどこにあるのか知らないが、俺の部屋と間違えるはずがない。
しかもベランダから侵入するなんて。
致命的に嘘が下手くそすぎるだろ。
俺は青の王を軽く睨みつけながら、声を抑えて非難する。
「どうやったら、部屋を間違えるなんてことが起きるんですか? もっとましな言い訳を考えてください」
五歳のカスパーだって、もっと上手い嘘を考えつくぞ。
「本当だって……あぁ、くそ……俺は何も見てない。声が聞こえたぐらいだから大丈夫だ」
全然、大丈夫なんかじゃない。
俺が言葉に窮していると、青の王は続けて言った。
「邪魔してごめん。俺はさっさっと出て行くから、どうぞ続けてくれ」
「は⁉︎」
足の間を拭き取ってもいないことに、俺は今更ながら気づいた。
一歩、後退る。
「あ、もう萎えちゃった? 俺はいい声が聞けて、勃ちそうになってるぞ」
そんなことを言うわりに、青の王から下心が感じられない。
口元には余裕そうな笑みまで滲ませていた。
視線を逸そうとすると、顔を覗き込まれる。
やめてほしい。
「これはふたりだけの秘密な。俺も誰かに言ったりしないから、マイネもベランダから俺が侵入したことは内緒にしといて」
「……はい」
自慰をしているところを見られたなんて、口が裂けても言えない。
俺を宥めるように肩に触れた青の王の手のひらが存外に優しい。
なぜか癪に障った。
それからベランダに引き返した青の王は、「じゃあ」と手を振ると、軽快に手摺に両足をかけた。
この部屋は三階なのに、躊躇いもなく地上に飛び降りる。
ベランダに出て、無事を確認しようかとも思ったがやめた。
深いため息をつく。
「なんだったんだ」
王が客人の部屋をベランダから訪問するなんてあり得ない。
しかも今の時刻は夜。
なんて常識破りなんだろうか。
俺はぴしゃりと窓を閉めた。
翌日の午後。
俺はリサの客室にいた。
リサの部屋は中央に大きな作業台が設置され、薬師に必要とされる器具が乱雑に並べられている。
そのせいか俺の部屋よりも狭く感じられた。
部屋の隅に追いやられたソファーに座り、俺の対面にオティリオとハンが腰を下ろした。
目の前の卓の上に親指ぐらいの大きさの硝子の小瓶がある。
「これがリュウコですか?」
灰色がかった乳白色の粉末を納めた小瓶を、俺は上下に振ってみた。
軽くてサラサラとしている。
一見、粒子の細かい砂か香辛料のようだ。
この小瓶は午前中にリサの元に届けられたらしく、すでに成分は調査済みだと言う。
オティリオは簡潔に訊いた。
「それで。治療薬になりそうなのか?」
「ええ。獣人不全病は改善される可能性が高い」
作業台の前に立つリサは、冷静に結果のみを伝える。
期待した通りだ。
オティリオは両手で顔を覆って、「あああぁ」と喜びを吐き出し、その隣でハンが「よかった」と安堵の表情で呟いた。
俺は胸の前で小瓶を握りしめる。
あの文献を信用してなっかわけではないが、実際のところほかに手がかりもなく、信じるしかなかったのだ。
三人とも同じ気持ちだったのだろう。
嬉しさが溢れる。
「あとは確実にアンゼル国に持ち帰るだけだね」
そう言って、オティリオは脱力したように手足を伸ばした。
これでもう誰も死なずにすむ。
早く届けたい。
そう思うと、興奮して鼓動が高鳴った。
まず領主館に行って、エモリーにリュウコを渡したい。
そして一秒でも早く、すべての患者に治療薬を届けたい。
オティリオは顔だけリサに向けて、口を開いた。
「……リュウコが何かはわかりそうか?」
「悔しいけど検討がつかない」
リサがあっさりと首を横に振る。
その正体を突き止めることが、青の王が提示した条件だ。
改めて小瓶を見つめる。
薬師のリサにわからないのならば、俺にわかるはずがないが。
――代償としてリュウコを作ってもらう。
青の王の言葉が蘇る。
作れ……か。
あのとき宰相やほかの高官たちが驚いた顔をしていたことを思い出す。
それほど容易に作れるものではないのだろう。
「僕は特殊なものだと思うな。竜人国にしかないなら、見たこともないかもしれない」
オティリオの発言にハンも口を揃える。
「私もそう思います。購入することができないなら、他国に流出することもない。相当稀なものですよ」
「あ、違法な薬物という可能性はないですか? だから法的に購入禁止にしているとか」
俺が思いつきを口にすると、すぐにリサに否定された。
「それはないな。毒でもなかったし興奮させるような有害物質も入ってなかった」
「そうですか」
一旦、俺は黙る。
腕組みをするハンが、呟くように言う。
「島国ですし、海に関係するものとか?」
オティリオは首を捻った。
「うーん……竜人国以外にも海に面している国はいっぱいある。竜人国にしかないものにはならないんじゃないのか?」
「……ここの海にしか生息しない貴重な生物がいるのかもしれません」
重ねてハンが言い募る。
「見た目だけなら砂浜の砂に似てますね」
俺が口を挟むと、リサは少し笑った。
「そうね。でも、もともとの形は粉末じゃないと思う。これは何かを砕いて、粉末にしてるのよ。これは、すごく硬いものと繊維状の少し柔らかい歪な構造をしている」
俺は再度、小瓶に目を向ける。
頭の中で、硬くて柔らかそうなものを探す。
「サンゴ礁とか、どうですか?」
ハンが少し自信ありげに発言した。
「サンゴか……言われてみれば、少し光沢もあるし、一理あるかもしれないけど……」
つぎに俺が訊く。
「それなら貝殻は?」
「ああ。貝殻も構造的にはすごく似ているよ。でも……」
リサはサンゴでも貝殻でもないと思っているような面持ちだ。
そこでオティリオにばっさりと切り捨てられる。
「そんな単純なものではないだろ。サンゴにしても貝殻にしても、そのへんの海に潜れば取れる」
「そう言われてしまうと、リュウコではなさそうです」
俺は口を尖らせた。
難しい。
正解に辿り着けないような気がする。
「それに完成させるのに七か月かかると言っていただろ」
オティリオが顎に手を置いて、深く考える仕草をした。
その表情はどことなくルシャードに似ている。
「七か月かけて加工するという意味なのか、それとも何かが成長するのに七か月必要なのか……」
リサがそう言うのを受けて、俺はまたしても思いつくまま、口に出してみる。
「何かの種とか?」
そこでオティリオが声を上げた。
「あ! 真珠という宝石があるだろ? あれはどうだ?」
「ああ。その考え方は悪くないですね。成分が一致するか調べてみたい」
リサの反応は一番よかった。
俺は真珠というものをよくわからなかったから、オティリオに教えてもらった。
丸い形状で貝の中に現れるらしい。
その後も、いろいろな意見を出し合い、最後に明日は王都を見て回ろうと決めたところで、解散となった。
リサの客室を出ると、扉前に控えていたグスタを連れて回廊を歩きはじめた。
その俺を追いかけるようにして、オティリオが走ってくる。
「マイネ。部屋に戻るのか?」
名前を呼ばれて立ち止まり「はい」と返事をした。
「部屋まで送るよ」
そう言うと、オティリオは隣を歩く。
俺に何か話があるのかと思ったが、オティリオはしばらく口を閉ざしたままだ。
しかし何かを探るような観察するかのような、妙な視線をオティリオから受ける。
「どうかしましたか?」
そうするとオティリオは逡巡しながら口を開いた。
「青の王のことなんだけど……何も感じないか?」
「すごく破天荒さが際立ってますね」
俺は不敬にならない程度の表現に収めた。
思い出したくもないが、昨夜のことが頭に過ぎる。
「そういう意味じゃなくて……あの左目を見ても何も感じない?」
「左目に王の証の紋章が浮かび上がってます」
「何か心がざわつくとかない? あの左目に魅了の力が宿っている気がするんだよ」
「魅了?」
俺が足を止めると、オティリオもそれに倣った。
「何か人を惑わすような力を感じないか? 青の王を好きになったりしてないよね?」
「俺が? まさか⁉︎」
浮気を疑われているのか、と驚く。
心外にもほどがある。
「本当に?」
そう訊かれたとき、ちょうど前方から角を曲がる青の王とクオン宰相が現れた。
会話を中断した俺とオティリオは、視線を交わす。
青の王は大股で目の前まで来ると、俺たちに挨拶をする間も与えずに訊いた。
「リュウコを届けさせたが、何かわかったか?」
オティリオは「ええ」と頷いて、リュウコの成分が獣人不全病の治療薬になるだろうことを伝える。
「よかったな。約束して通り、急いでリュウコを集めさせているから安心して待ってろ」
オティリオは「ありがとうございます」と丁寧に礼を返すと、「それでは」と俺の背中を押して、すぐに去ろうとした。
けれども、青の王の唇が不意に俺の耳元を掠める。
「誰にも言ってない?」
昨夜のことだろうとすぐにわかった。
俯いて「はい」と呟く。
それを見ていたオティリオが、訝しげに眉を顰める。
「なんのことですか?」
「マイネと俺だけの秘密さ」
青の王が揶揄うように嘯く。
もう蒸し返さないでほしい。
早く忘れたいのだから。
「オティリオ殿下、行きましょう」
オティリオの腕を引くが、動こうとしない。
まいったな。
オティリオは不機嫌そうに苛立ちをあらわにしていた。
「マイネはルシャード兄上の番だ。馴れ馴れしくしないでくれ」
「こんなの馴れ馴れしいうちに入らないだろ。俺よりもオティリオ殿下のほうこそ、マイネと距離が近過ぎないか?」
「僕はいいんだ」
「そんなの不平等だろ」
オティリオは青の王から視線を転じると、正面から俺と向き合い、勢いよく両肩を掴まれる。
「秘密って何? 口止めされてるの? 青の王と何かあったのか⁉︎」
俺は全力で首を振り続けた。
口止めされてるわけではなく、俺が恥ずかしすぎて言えないだけだ。
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