【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

犬白グミ

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18 まさかの護衛

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 翌日。
 約束の時間に銀ノ宮を訪問した。
 王宮の右奥に位置するオティリオの銀ノ宮は、色とりどりの花が咲き誇る前庭を抜けると現れた。
 建物全体がアーチを描いたような特徴的な構造である白亜の宮だ。 

 玄関の立派な両扉の前に、すでに近衛騎士のヨシカが待機していた。
 小型のふたり用の獣人力車も用意されている。

「ヨシカさんが護衛?」
 俺が声をかけると、ヨシカが頷いた。
「あぁ。でも俺だけじゃない」

 他にも護衛がいるようだが姿は見えない。
 ヨシカの視線が意味ありげに上空を向いた。

 その意味がわからないまま、俺は使用人に来訪を告げると、オティリオが出てくる。

 侍従長のティノに「いってらっしゃいませ」と見送られながら、オティリオと力車に乗り込んだ。
 ふたり用の力車の座席は、進行方向を向いたベンチシートのみと軽量な造りになっており、王族専用なだけあってゆったりとしていた。
 屋根が開閉式の珍しい様式だ。

 一瞬で獣型になったヨシカは、腕も脚もよりいっそう逞しくなる。
 薄茶色の毛が全身を覆い、顔まわりのたてがみだけが長毛だった。

 獣人力車が動き出す。
 ゆっくりと滑らかに前進し、徐々に速度が増した。

 屋根を開けると車内に風が入る。
 上空を見上げて、オティリオが驚愕の声を漏らした。

「あれ? 聖獣じゃないか⁉︎」
「どこですか?」

 思わず、俺は王子を押し除ける。
 立ち上がった。

 オティリオが「危ないから座って」と忠告するけど、聞こえない。
 俺は聖獣を見たことがなかった。

 どこだ。
 陽光の眩しさに目を細めた瞬間、翼を広げた聖獣の姿をとらえた。

 聖獣は翼を羽ばたくような動きを見せ、ぐっと高度を下げる。
 艶やかそうな毛の色が黄金なのがわかる。

 金の聖獣はルシャードしかいない。

 手のひらで太陽を遮ぎり、必死に目を開けて眺めた。

 あまりにも神々しい姿に目が奪われる。
 青空に浮かぶ金色の聖獣は、星や月のように凛々しく美しく輝いていた。

 力車が右に曲がる。
 聖獣の翼も右に傾いで、俺たちを追っているかのようだ。

 翼の音を聞いてみたい。
 輝く金色の翼を触りたいと思ってしまった。

 興奮を抑えきれない俺は、手のひらにじわりと汗が滲む。


 店に到着するまで、俺は聖獣の姿を夢中で見続けていた。
 オティリオが不機嫌になっているのにも気づかずに。

 車から降りたオティリオは、ヨシカに問いただす。
「まさか兄上も護衛とか言わないよね?」

「そのまさかだと聞いています」
 ヨシカは、苦笑しながら肩を竦めた。

 不審そうにするオティリオは、考え込むような表情を覗かせたが、俺の背中を押して「入ろう」と店内に促す。

 店主と菓子職人に出迎えられて席に案内されると、個室のようなパティオだった。
 緑に囲まれた洒落た空間に、真っ白い丸いテーブルと椅子がある。

 選んだ品を注文したあと、オティリオが不貞腐れたように口を開いた。
「兄上が護衛とかありえないから」

「そうなんですか?」
「どんな気まぐれか知らないけど、もう帰っただろうね。さすがに待ってるとは思えない」
「そうですね」

 店に着く直前、ルシャードの姿を見失っていた。引き返したのかもしれない。

「聖獣って本当に飛べるんですね。驚きました」
「僕は小さい頃から見慣れてるから驚くことはないけど、確かにルシャード兄上の黄金の聖獣は綺麗だと思うよ。近寄りがたいぐらいにね」
「はい。ルシャード殿下は聖獣じゃないときも近寄りがたいですけど」

 注文した品が届いた。
 俺は果肉が入った冷たい紅茶と大量の生クリームが添えたパンケーキを頼んでいた。

「兄上には今でも緊張する?」

 オティリオにそう訊かれて、剣術大会でルシャードに抱き寄せられたときの体温を俺は反芻した。
 なぜか繰り返し何度も思い返してしまう。

「はい。そうですね」
「こっちも美味しいよ? 食べる?」

 オティリオが注文したのは、果物とカスタードクリームを挟んだケーキだ。
 オティリオが不意にフォークを俺に向けて、食べさせようとする。 

「……からかわないでください」

 俺は笑った。
 オティリオの差し出す手から、王子の食べかけをいただくなんてできるわけがない。

「だって、あまりにも美味しそうに食べるからさ。気に入ってくれた?」
「はい。美味しいです」

 ぱくりと頬張る。
 俺の皿は残り少なくなっていた。

「食べ終わったら、どこに行こうか? 何か欲しいものがあれば贈るよ。宝石店にでも行く?」

 さすが王子。
 誰にでも言っているのだろう。

「自分で購入しますので贈りものは結構です。寄宿舎が殺風景なので、小物を飾りたいとはずっと思ってまして、よろしければどこかに立ち寄ってもいいですか?」
「それならピレネー広場で陶器市をやってるらしいから行ってみよか? 花瓶とかはどうだ? そしたら僕の庭園の花をあげるよ」

 俺は頷く。
 店を出ると、待機していたヨシカと合流した。

 ピレネー広場に通じる道は獣人力車の侵入を禁止しているらしく、そこからはヨシカに護衛されながら徒歩で向かった。
 王立博物館の前に広がるピレネー広場は、王都の中心的場所だ。 

 広場の入口はすでに人で溢れ、活気に溢れていた。
 そこにはカラフルな簡易式の出店が立ち並び、売り物の陶器が所狭しと飾られている。
 陽気な音楽が、どこからか流れてきた。
 歩けないほどの人混みではないが、避けながら進むため流れが悪い。

 


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