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19 手首を掴まれる
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オティリオが立ち止まり、出店を覗いた。
無骨なマグカップの独創的な店だ。
一点ごとに微妙な違いがあり唯一無二を選ぶことができるようだ。
「これいいな」
そう言ってオティリオは吟味するかのように顎に手を添える。
確かに王宮で使用されている繊細な食器とは違い、味のある土色で素朴な印象が目を引く。
俺の脚に衝撃があった。
小さな女の子がぶつかって、転んでしまったのだ。
「大丈夫か? 走ったらあぶないよ」
俺は腰を屈め、立ち上がらせる。
怪我はないようだ。
「お金、落としちゃった」
小さな手を俺に向けて、女の子が泣きそうな声を出した。
地面に転がるコインを見つけた俺が、拾って渡してあげると、女の子は「ありがとう」と笑顔になって立ち去る。
そうして腰を上げて、オティリオのいたほうに視線を戻した。
しかし、銀髪碧眼の王子の姿がない。
「あ……?」
一瞬、目を離しただけなのに、はぐれてしまったようだ。
辺りを見渡してもいない。
だがオティリオにはヨシカがついているはずだ。
心配はいらないだろう。
オティリオを探すことよりも、俺は自身の買い物を優先しようと思った。
そのとたん、手首を掴まれる。
黒いフードを目深に被った怪しい男。
「はぐれたようだな」
声を聞き、驚く。
ルシャードの声だったからだ。
「まぁいい。陶器を探してるのか?」
ルシャードは俺の手首をつかんだまま離さない。
王宮に帰ったとばかり思っていたのに。
「……寄宿舎に飾れるものがないか、探してました」
俺が返事をすると、ルシャードは頷いて歩きはじめた。
まさか俺に付き添ってくれるのだろうか。
戸惑っていると、ルシャードの足が止まり、危うく背中にぶつかるところだった。
「こういうのは、どうだ?」
陶器のオブジェを集めた店の前だった。
手のひらぐらいの小さなものや抱えるほど大きなものまである。
童話に登場しそうな小人や植物などさまざまなオブジェだ。
その中に翼の生えた獣を見つけて、俺は手に取って呟く。
「これって、もしかして――」
「聖獣だな」
ルシャードが素気なく答える。
翼を大きく広げて鎮座する聖獣と羽ばたく瞬間を捉えたような躍動感のある聖獣がいた。
俺は声を顰めて囁くように告げる。
「ルシャード殿下が飛ばれているのを、下から見ました。とても綺麗でした」
「そうか」
「帰りも護衛されるのですか?」
「そのつもりだ」
金色の聖獣を再び目撃できるのかと思うと、俺は嬉しさを隠せない。
人混みに押されて、ルシャードとの距離が縮まり肩が触れ合った。
ルシャードが俺の顔を覗き込む。
「マイネは甘い物が好きらしいな。ケーキを食べたのか?」
フードを被ったルシャードは、金色の瞳が隠れているものの、整った鼻筋や唇が俺に接近して内心どきりとする。
「食べました。ルシャード殿下も召し上がったことがあるお店かもしれません」
「いや、俺は甘い物が得意ではない。だから金ノ宮の料理人はデザートが得意なのに残念がっている」
「まったく食べられないのですか?」
「好んでは食べないな。マイネが金ノ宮に食べに来たら料理人が喜びそうだ。今度、皆も呼んで金ノ宮で会食でも開こう」
「そのときは、ぜひ誘ってください」
ルシャードの口角が上がり、微かに笑ったように見えた。
そんなルシャードをまじまじと凝視してしまいそうになり、俺は無理やり商品へと視線を転じた。
おもむろに花瓶を手に取る。
「花は好きか?」
「花というよりも緑が好きです」
「背丈のある花瓶だったら大ぶりな枝も生けられるぞ。あれとかどうだ?」
ルシャードが指さしたのは、細長い筒状の陶器と黒いアイアンが組み合わさったルシャードが選びそうな洒落た花瓶だ。
オティリオだったら、隣の斬新な形状を選びそうだった。
「これにします」
俺は、ルシャードが選んだ花瓶を買うことにした。
「あと、あの聖獣のオブジェも……」
俺がそう言うと、ルシャードが嫌そうな顔をする。
そのとき、近くから「マイネ!」と呼ぶオティリオの声がした。
「……見つかったか」
そう言うルシャードの声が残念そうなのは、俺の願望だろうか。
触れていた肩が離れてしまい、俺はルシャードとの時間が終わったことを悟った。
無骨なマグカップの独創的な店だ。
一点ごとに微妙な違いがあり唯一無二を選ぶことができるようだ。
「これいいな」
そう言ってオティリオは吟味するかのように顎に手を添える。
確かに王宮で使用されている繊細な食器とは違い、味のある土色で素朴な印象が目を引く。
俺の脚に衝撃があった。
小さな女の子がぶつかって、転んでしまったのだ。
「大丈夫か? 走ったらあぶないよ」
俺は腰を屈め、立ち上がらせる。
怪我はないようだ。
「お金、落としちゃった」
小さな手を俺に向けて、女の子が泣きそうな声を出した。
地面に転がるコインを見つけた俺が、拾って渡してあげると、女の子は「ありがとう」と笑顔になって立ち去る。
そうして腰を上げて、オティリオのいたほうに視線を戻した。
しかし、銀髪碧眼の王子の姿がない。
「あ……?」
一瞬、目を離しただけなのに、はぐれてしまったようだ。
辺りを見渡してもいない。
だがオティリオにはヨシカがついているはずだ。
心配はいらないだろう。
オティリオを探すことよりも、俺は自身の買い物を優先しようと思った。
そのとたん、手首を掴まれる。
黒いフードを目深に被った怪しい男。
「はぐれたようだな」
声を聞き、驚く。
ルシャードの声だったからだ。
「まぁいい。陶器を探してるのか?」
ルシャードは俺の手首をつかんだまま離さない。
王宮に帰ったとばかり思っていたのに。
「……寄宿舎に飾れるものがないか、探してました」
俺が返事をすると、ルシャードは頷いて歩きはじめた。
まさか俺に付き添ってくれるのだろうか。
戸惑っていると、ルシャードの足が止まり、危うく背中にぶつかるところだった。
「こういうのは、どうだ?」
陶器のオブジェを集めた店の前だった。
手のひらぐらいの小さなものや抱えるほど大きなものまである。
童話に登場しそうな小人や植物などさまざまなオブジェだ。
その中に翼の生えた獣を見つけて、俺は手に取って呟く。
「これって、もしかして――」
「聖獣だな」
ルシャードが素気なく答える。
翼を大きく広げて鎮座する聖獣と羽ばたく瞬間を捉えたような躍動感のある聖獣がいた。
俺は声を顰めて囁くように告げる。
「ルシャード殿下が飛ばれているのを、下から見ました。とても綺麗でした」
「そうか」
「帰りも護衛されるのですか?」
「そのつもりだ」
金色の聖獣を再び目撃できるのかと思うと、俺は嬉しさを隠せない。
人混みに押されて、ルシャードとの距離が縮まり肩が触れ合った。
ルシャードが俺の顔を覗き込む。
「マイネは甘い物が好きらしいな。ケーキを食べたのか?」
フードを被ったルシャードは、金色の瞳が隠れているものの、整った鼻筋や唇が俺に接近して内心どきりとする。
「食べました。ルシャード殿下も召し上がったことがあるお店かもしれません」
「いや、俺は甘い物が得意ではない。だから金ノ宮の料理人はデザートが得意なのに残念がっている」
「まったく食べられないのですか?」
「好んでは食べないな。マイネが金ノ宮に食べに来たら料理人が喜びそうだ。今度、皆も呼んで金ノ宮で会食でも開こう」
「そのときは、ぜひ誘ってください」
ルシャードの口角が上がり、微かに笑ったように見えた。
そんなルシャードをまじまじと凝視してしまいそうになり、俺は無理やり商品へと視線を転じた。
おもむろに花瓶を手に取る。
「花は好きか?」
「花というよりも緑が好きです」
「背丈のある花瓶だったら大ぶりな枝も生けられるぞ。あれとかどうだ?」
ルシャードが指さしたのは、細長い筒状の陶器と黒いアイアンが組み合わさったルシャードが選びそうな洒落た花瓶だ。
オティリオだったら、隣の斬新な形状を選びそうだった。
「これにします」
俺は、ルシャードが選んだ花瓶を買うことにした。
「あと、あの聖獣のオブジェも……」
俺がそう言うと、ルシャードが嫌そうな顔をする。
そのとき、近くから「マイネ!」と呼ぶオティリオの声がした。
「……見つかったか」
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