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26 ハンの願い①
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秘書官ハンは新しい事務官を気に入っていた。
初対面のとき、まるで長い付き合いをしているかのような親しみやすさを感じた。
まだ二十三歳と若いが、穏やかな空気をまとった男だ。
顔立ちは整っているわけでもなく、どこにでもいそうな平凡な容姿をしているのに、どこか目を引くところがある。
大きくて丸い目は、笑ったとたんふにゃりと細くなり、優しげで愛らしい印象だ。
色白の肌は非常に滑らかで透明感があり、清潔感を醸し出していた。
無意識に鼻歌を口ずさみながら歩いている姿は、周囲を脱力させるような安心感を与えた。
秘書官と事務官はふたりだけで部屋にいることが多いため、性格が合わないと気づまりを感じてしまうが、気取らないマイネとはよい関係が築けていた。
マイネが事務官になって三日目。
ルシャードから「マイネを調べろ」と言われたときに抵抗を感じるほどには、すでに親しくなっていた。
しかし仕方ない。
嘆息しながら、マイネの生まれ育った王都の外れの町に向かったのだ。
家族や友人に会うと、それとなく情報を引き出す。
すると意外なことがわかってしまった。
急いで王宮に戻り、マイネが帰宅したのを確認してから、ルシャードの執務室の扉を叩いた。
アーチ窓の外は夕焼けが赤く染まっている。
その窓の前で、ルシャードは執務机で書類に目を通していた。
ハンが無言でその前に立ち止まると、ルシャードはようやく顔を上げて、さっさと報告しろと言いたげな視線をよこす。
「マイネはオメガでした」
ハンは淡々と告げた。
「やはり、そうか」
ルシャードは、確信していたような返事を返す。
秘書官になって十年目になるが、今だにルシャードが何を考えているのかわからないときがある。
「どうも、王宮のオメガリストにマイネの名前は載ってないようなんです。だから、ベータで申請してもオメガだと発覚されなかったんでしょうね」
「オメガリストに載らないオメガがいるのか?」
「はい。漏れも考えられますが、私の予想では、異常のあるオメガは削除される可能性があります」
異常とは、つまり妊娠できないオメガのことだ。故郷でもマイネは妊娠できないという噂が聞こえた。
ハンは続けて口を開く。
「ベータだと偽ったのには、何か事情があると思うのですが……どうしますか? 解雇されるんですか?」
「……採用してしまったものを、すぐに解雇はできない」
「そうですよね」
ハンは、ほっと安堵した。
「俺にだけマイネの匂いがわかるのはどうしてだと思う?」
考え込むようなルシャードの言葉に、ハンは驚く。
確かにルシャード以外のアルファから、マイネのバース性を疑うような反応はなかった。
――大問題だ。
ハンはごくりの唾を飲み込む。
「運命ですね」
「馬鹿馬鹿しい。運命の番だと言うのか?」
ルシャードは鼻で笑った。
しかし、ハンの返事を予想していたはずだ。
アルファとオメガの間で神話のように語り継がれる運命の番。
見た目がよいのに、冷淡すぎる第二王子は恋愛に疎い。
人の心がないのだと誰もが諦めかけていた。
「どんな匂いがするんですか?」
「すっきりとした甘い匂いだ」
ルシャードが口元に笑みを溢した。
オメガの甘い匂いをハンは、感じたことがない。
ベータはオメガのフェロモンがわからないのだ。
番という言葉もベータのハンには関係がない。
そのあと、徐々にマイネを見つめるルシャードの視線に、明らかに熱が帯びていき、ハンが出した答えは間違ってなかったと考えはじめていた。
初対面のとき、まるで長い付き合いをしているかのような親しみやすさを感じた。
まだ二十三歳と若いが、穏やかな空気をまとった男だ。
顔立ちは整っているわけでもなく、どこにでもいそうな平凡な容姿をしているのに、どこか目を引くところがある。
大きくて丸い目は、笑ったとたんふにゃりと細くなり、優しげで愛らしい印象だ。
色白の肌は非常に滑らかで透明感があり、清潔感を醸し出していた。
無意識に鼻歌を口ずさみながら歩いている姿は、周囲を脱力させるような安心感を与えた。
秘書官と事務官はふたりだけで部屋にいることが多いため、性格が合わないと気づまりを感じてしまうが、気取らないマイネとはよい関係が築けていた。
マイネが事務官になって三日目。
ルシャードから「マイネを調べろ」と言われたときに抵抗を感じるほどには、すでに親しくなっていた。
しかし仕方ない。
嘆息しながら、マイネの生まれ育った王都の外れの町に向かったのだ。
家族や友人に会うと、それとなく情報を引き出す。
すると意外なことがわかってしまった。
急いで王宮に戻り、マイネが帰宅したのを確認してから、ルシャードの執務室の扉を叩いた。
アーチ窓の外は夕焼けが赤く染まっている。
その窓の前で、ルシャードは執務机で書類に目を通していた。
ハンが無言でその前に立ち止まると、ルシャードはようやく顔を上げて、さっさと報告しろと言いたげな視線をよこす。
「マイネはオメガでした」
ハンは淡々と告げた。
「やはり、そうか」
ルシャードは、確信していたような返事を返す。
秘書官になって十年目になるが、今だにルシャードが何を考えているのかわからないときがある。
「どうも、王宮のオメガリストにマイネの名前は載ってないようなんです。だから、ベータで申請してもオメガだと発覚されなかったんでしょうね」
「オメガリストに載らないオメガがいるのか?」
「はい。漏れも考えられますが、私の予想では、異常のあるオメガは削除される可能性があります」
異常とは、つまり妊娠できないオメガのことだ。故郷でもマイネは妊娠できないという噂が聞こえた。
ハンは続けて口を開く。
「ベータだと偽ったのには、何か事情があると思うのですが……どうしますか? 解雇されるんですか?」
「……採用してしまったものを、すぐに解雇はできない」
「そうですよね」
ハンは、ほっと安堵した。
「俺にだけマイネの匂いがわかるのはどうしてだと思う?」
考え込むようなルシャードの言葉に、ハンは驚く。
確かにルシャード以外のアルファから、マイネのバース性を疑うような反応はなかった。
――大問題だ。
ハンはごくりの唾を飲み込む。
「運命ですね」
「馬鹿馬鹿しい。運命の番だと言うのか?」
ルシャードは鼻で笑った。
しかし、ハンの返事を予想していたはずだ。
アルファとオメガの間で神話のように語り継がれる運命の番。
見た目がよいのに、冷淡すぎる第二王子は恋愛に疎い。
人の心がないのだと誰もが諦めかけていた。
「どんな匂いがするんですか?」
「すっきりとした甘い匂いだ」
ルシャードが口元に笑みを溢した。
オメガの甘い匂いをハンは、感じたことがない。
ベータはオメガのフェロモンがわからないのだ。
番という言葉もベータのハンには関係がない。
そのあと、徐々にマイネを見つめるルシャードの視線に、明らかに熱が帯びていき、ハンが出した答えは間違ってなかったと考えはじめていた。
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