【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

犬白グミ

文字の大きさ
27 / 69

26 ハンの願い①

しおりを挟む
 秘書官ハンは新しい事務官を気に入っていた。
 初対面のとき、まるで長い付き合いをしているかのような親しみやすさを感じた。

 まだ二十三歳と若いが、穏やかな空気をまとった男だ。
 顔立ちは整っているわけでもなく、どこにでもいそうな平凡な容姿をしているのに、どこか目を引くところがある。
 大きくて丸い目は、笑ったとたんふにゃりと細くなり、優しげで愛らしい印象だ。
 色白の肌は非常に滑らかで透明感があり、清潔感を醸し出していた。

 無意識に鼻歌を口ずさみながら歩いている姿は、周囲を脱力させるような安心感を与えた。
 秘書官と事務官はふたりだけで部屋にいることが多いため、性格が合わないと気づまりを感じてしまうが、気取らないマイネとはよい関係が築けていた。

 マイネが事務官になって三日目。

 ルシャードから「マイネを調べろ」と言われたときに抵抗を感じるほどには、すでに親しくなっていた。
 しかし仕方ない。
 嘆息しながら、マイネの生まれ育った王都の外れの町に向かったのだ。

 家族や友人に会うと、それとなく情報を引き出す。
 すると意外なことがわかってしまった。

 急いで王宮に戻り、マイネが帰宅したのを確認してから、ルシャードの執務室の扉を叩いた。

 アーチ窓の外は夕焼けが赤く染まっている。
 その窓の前で、ルシャードは執務机で書類に目を通していた。

 ハンが無言でその前に立ち止まると、ルシャードはようやく顔を上げて、さっさと報告しろと言いたげな視線をよこす。

「マイネはオメガでした」
 ハンは淡々と告げた。

「やはり、そうか」
 ルシャードは、確信していたような返事を返す。

 秘書官になって十年目になるが、今だにルシャードが何を考えているのかわからないときがある。

「どうも、王宮のオメガリストにマイネの名前は載ってないようなんです。だから、ベータで申請してもオメガだと発覚されなかったんでしょうね」
「オメガリストに載らないオメガがいるのか?」
「はい。漏れも考えられますが、私の予想では、異常のあるオメガは削除される可能性があります」

 異常とは、つまり妊娠できないオメガのことだ。故郷でもマイネは妊娠できないという噂が聞こえた。

 ハンは続けて口を開く。
「ベータだと偽ったのには、何か事情があると思うのですが……どうしますか? 解雇されるんですか?」

「……採用してしまったものを、すぐに解雇はできない」
「そうですよね」

 ハンは、ほっと安堵した。

「俺にだけマイネの匂いがわかるのはどうしてだと思う?」

 考え込むようなルシャードの言葉に、ハンは驚く。
 確かにルシャード以外のアルファから、マイネのバース性を疑うような反応はなかった。

 ――大問題だ。

 ハンはごくりの唾を飲み込む。

「運命ですね」
「馬鹿馬鹿しい。運命の番だと言うのか?」

 ルシャードは鼻で笑った。
 しかし、ハンの返事を予想していたはずだ。
 アルファとオメガの間で神話のように語り継がれる運命の番。

 見た目がよいのに、冷淡すぎる第二王子は恋愛に疎い。
 人の心がないのだと誰もが諦めかけていた。

「どんな匂いがするんですか?」
「すっきりとした甘い匂いだ」

 ルシャードが口元に笑みを溢した。

 オメガの甘い匂いをハンは、感じたことがない。
 ベータはオメガのフェロモンがわからないのだ。
 番という言葉もベータのハンには関係がない。

 そのあと、徐々にマイネを見つめるルシャードの視線に、明らかに熱が帯びていき、ハンが出した答えは間違ってなかったと考えはじめていた。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

処理中です...