【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

犬白グミ

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27 ハンの願い②

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 剣術大会が終わった五日後。
 執務室に戻ったルシャードに、ハンは急いで伝えた。

「明日、オティリオ殿下がマイネとふたりで王都に行きたいそうです。近衛の護衛を申請されました」
「マイネは承諾したのか?」

 ルシャードが不機嫌そうに目を細める。

「はい。なんでも美味しいケーキが食べられる店があるそうです」
「明日か……俺の予定はどうなってる?」
「明日は、第二騎士団との合同練習があります。そのあと第二騎士団長との会食があります」

 ルシャードが次に発する言葉を、なんとなく予想できた。

「どっちも不参加で問題なさそうだな。オティリオの護衛は俺が行く。空から護衛してやる」

 空からとは聖獣になってという意味だ。
 護衛してやるではなく邪魔をしてやるの間違いだろう。

 ハンは呆れたような表情を覗かせる。

 つぎの日、ルシャードは何食わぬ顔をして、護衛に行った。
 戻ってきたときも、いつも通りのルシャードだった。

 しかしそれ以来、ルシャードとマイネの距離は明らかに縮まった。
 ルシャードに対するマイネの緊張が解けたのだ。

 マイネにだけ微笑むルシャード。
 そんな表情もできるのかと何度も見してしまう。
 ハンだけではない。
 皆が驚いている。気づいてないのはマイネだけだ。

 マイネもルシャードを運命だと感じているといいのだが。
 ふたりは運命の番なのだと確信した。





 マイネが王宮に来てから四か月が過ぎた。

 オメガには三か月に一度、四日間の発情期があり、発情期になればマイネは仕事を休むだろうと考えていた。
 しかし、四か月経っても一度もマイネが休むことはなかった。

 執務机で作業をしているルシャードに、ハンは何気なく確認する。
「抑制剤を飲んでも発情期かどうかはわかりますよね?」

「わかる」
 ルシャードも同じ疑問を感じていたようだ。

「なんだか元気がなさそうなのも気になります。もしかして、妊娠してるから発情期がこないってことは考えられませんか?」

 そのとき、ルシャードの手の中で、インクペンがぼきりと折れた。

「殿下! そのインクペンは貴重なものなんですよ!」
「お前が変なことを言うからだ」

 ルシャードが顔を上げ、替えのインクペンを引き出しから取り出す。

「でも可能性はゼロじゃないですよね? 男オメガの妊娠はわかりにくいって言いますし」
「忘れたのか? オメガリストに載ってないから妊娠できないって言ったのは、誰だ? もし妊娠しているとしたら、採用される前からのはずだ。マイネを調べたとき、それらしい奴がいたのか?」

 ルシャードがハンを睨む。怖い。

「いませんでした。でも王宮に来てからってことも考えられます」
「それはない。マイネから他のアルファの匂いを感じたことはない……――寄宿舎のマイネの両隣を空き部屋にしようかと考えている」

 ルシャードは真剣な表情で言った。
 そんなことを言い出すなんて、ハンが知っていたルシャードではない。

「は? できませんよ。部屋の玄関扉を頑丈に変えたのだって、マイネに怪しまれてました」
「わかった……この話は終わりだ。それより、この前頼んでおいた会食の件はどうなってる?」

 三日後に金ノ宮で会食を開くとき、ルシャードはすべての料理をマイネが好むもので揃えようとしていた。






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