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28 ハンの願い③
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窓の外は雨が降っている。
執務室のアーチ窓の前で、背中を向けて立ち竦むルシャードがいた。
ルシャードの覇気のない背中に、ハンは遠慮がちに訊いた。
「寄宿舎のマイネの部屋は片付けてもよろしいですか?」
マイネは発情期が終わった翌日に、金ノ宮を抜け出して行方不明になった。
そして、ムレ川に落ちて流されたという情報が舞い込んだのは四日前だ。
王都の南を流れるムレ川にマイネがどうして訪れたのかはわかっていない。
しかし目撃証言によると、マイネとされる男は足を滑らせ誤って、ムレ川に落ちたらしい。
ぬかるんだ河原には確かにマイネの片方だけの靴が残っていた。
まだ遺体は上がってないものの、流れが速く海と繋がっているムレ川に落ちてしまったら、見つけだすことは不可能だとされていた。
振り返ったルシャードは、無表情で言う。
「マイネは生きてる」
ハンも生きていると信じたいが。
「そう信じたい気持ちはわかりますが」
「お前が、運命だと言ったんだろ。運命の番なら生死がわかるはずだ。その俺が生きてると言ってるんだ……マイネの部屋にある荷物はすべて金ノ宮に運んでくれ」
窓に当たった雨粒が次から次へと流れて落ち、ルシャードの心が泣いているかのようだった。
ハンは、かすみそうになる視界を堪える。
「わかりました」
「オティリオが拉致した可能性はないのか?」
「ないです。オティリオ殿下も憔悴しきってます。自分のせいでマイネが自殺したと言っていました。あと追いしないかと警戒されるほどです」
「自殺だと?」
マイネが最後に会った人物はオティリオだ。
無断で金ノ宮に入り込んだようで、侍従が庭園にいるのを目撃している。
そのオティリオが自殺だと言うならば、何か心当たりがあるはずなのに、泣くばかりで話を聞くことはできなかった。
ルシャードも、地獄に突き落とされたような様子で、目を背けたくなる。
気丈に振る舞っているが、マイネがいない喪失感がひしひしと伝わってくる。
「マイネを捜せ」
ルシャードに命じられた。
マイネを捜している間は悲しみから救われるのならば、ルシャードの望み通りにしてみようか、とハンは思った。
「生きているとしたら、誰かに拐かされて王都を離れたかもしれません。名前も変えていたら、何年かかるかわかりません」
「何年かけても捜し出す」
「わかりました。時間はかかるかと思いますが」
マイネが政務宮にいたのは、五か月と短い期間だ。
それから、その何倍も月日が流れた。
その三年後、国王が退位し第一王子のディアークが即位すると、ルシャードは王弟となり近衛騎士団長をダイタに譲る。
その間、ルシャードが新しい事務官を雇うことはなかった。
マイネがいたという目撃情報は何度かもたらされたが、すべて落胆する結果に終わった。
その頃から、ルシャードは視察という名目で王国全土を回り、自らマイネを捜すようになった。
その姿にハンも信じるようになってきた。
マイネは、どこかで生きていると。
執務室のアーチ窓の前で、背中を向けて立ち竦むルシャードがいた。
ルシャードの覇気のない背中に、ハンは遠慮がちに訊いた。
「寄宿舎のマイネの部屋は片付けてもよろしいですか?」
マイネは発情期が終わった翌日に、金ノ宮を抜け出して行方不明になった。
そして、ムレ川に落ちて流されたという情報が舞い込んだのは四日前だ。
王都の南を流れるムレ川にマイネがどうして訪れたのかはわかっていない。
しかし目撃証言によると、マイネとされる男は足を滑らせ誤って、ムレ川に落ちたらしい。
ぬかるんだ河原には確かにマイネの片方だけの靴が残っていた。
まだ遺体は上がってないものの、流れが速く海と繋がっているムレ川に落ちてしまったら、見つけだすことは不可能だとされていた。
振り返ったルシャードは、無表情で言う。
「マイネは生きてる」
ハンも生きていると信じたいが。
「そう信じたい気持ちはわかりますが」
「お前が、運命だと言ったんだろ。運命の番なら生死がわかるはずだ。その俺が生きてると言ってるんだ……マイネの部屋にある荷物はすべて金ノ宮に運んでくれ」
窓に当たった雨粒が次から次へと流れて落ち、ルシャードの心が泣いているかのようだった。
ハンは、かすみそうになる視界を堪える。
「わかりました」
「オティリオが拉致した可能性はないのか?」
「ないです。オティリオ殿下も憔悴しきってます。自分のせいでマイネが自殺したと言っていました。あと追いしないかと警戒されるほどです」
「自殺だと?」
マイネが最後に会った人物はオティリオだ。
無断で金ノ宮に入り込んだようで、侍従が庭園にいるのを目撃している。
そのオティリオが自殺だと言うならば、何か心当たりがあるはずなのに、泣くばかりで話を聞くことはできなかった。
ルシャードも、地獄に突き落とされたような様子で、目を背けたくなる。
気丈に振る舞っているが、マイネがいない喪失感がひしひしと伝わってくる。
「マイネを捜せ」
ルシャードに命じられた。
マイネを捜している間は悲しみから救われるのならば、ルシャードの望み通りにしてみようか、とハンは思った。
「生きているとしたら、誰かに拐かされて王都を離れたかもしれません。名前も変えていたら、何年かかるかわかりません」
「何年かけても捜し出す」
「わかりました。時間はかかるかと思いますが」
マイネが政務宮にいたのは、五か月と短い期間だ。
それから、その何倍も月日が流れた。
その三年後、国王が退位し第一王子のディアークが即位すると、ルシャードは王弟となり近衛騎士団長をダイタに譲る。
その間、ルシャードが新しい事務官を雇うことはなかった。
マイネがいたという目撃情報は何度かもたらされたが、すべて落胆する結果に終わった。
その頃から、ルシャードは視察という名目で王国全土を回り、自らマイネを捜すようになった。
その姿にハンも信じるようになってきた。
マイネは、どこかで生きていると。
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