【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

犬白グミ

文字の大きさ
31 / 69

30 消えた王女

しおりを挟む
 翌日。
 ゲリンが不審がっていたガッタの王女について、アプト領主の番であるエモリーに訊ねることになった。
 仕事とは別の用件で話があるとエモリーに切り出したところ、ゲリンも加わった三人で領主館の食堂で昼食を一緒に摂ることになった。

「それで、何の話だい?」

 午後からも予定があるエモリーは時間に余裕がなく、俺の向かいの席に着くと早速促される。

「あの……四年半前の話なんですが、ガッタの王女殿下がアンゼル国を訪問する際に、アプト領の領主館に立ち寄ったりしませんでしたか?」

「ガッタから王女殿下?」
 サラダの生野菜を食べながら、エモリーは不思議そうな顔をした。

 俺は食事に伸ばしかけた手が止まった。
 珍しくも、なんだか喉を通らなそうだったからだ。

「はい。四年半前です。覚えてませんか?」

「四年半どころか、そんなことは一度もない」
 エモリーが断言する。

 俺はその答えに思考が止まってしまい、次に何を訊けばよいのかわからなくなった。 

 そんな俺を察してか、隣に座っているゲリンがあとを継ぐように質問する。
「それなら、王家と関わりのある人はどうですか?」

 エモリーは記憶の引き出しを探るような面持ちで考え込んだ。
「四年半前だろ……あぁ、そういえばいたな。王家がガッタから呼び寄せた女性を、領主館に泊めたことがあった」

「その人は極秘訪問した王女殿下だったのではないですか?」
 俺が確信めいた口調で訊くと、エモリーがすぐに手を振って否定する。

「王女殿下なわけがないよ。だってマイネも会ったことある人だよ」
「誰ですか?」
「リサだよ。あの子は優秀な薬師として、ガッタから王家が呼び寄せたと聞いたよ。でも王族付きの薬師にはならず、アプト領の山間の景観がえらく気に入ったとかで、戻ってきてあの家に住み着くことになったんだ」
「リサですか……」

 確かに、俺もリサが王女だとは思えない。

「他にいませんでしたか? 第二王子殿下がガッタの王女を出迎えたはずなんです」
「そんなことはなかった」

 ガッタの王女がアプト領に来てないと否定されても、俄かには信じられない。
 いるはずの王女がいない?
 ルシャードの婚約者はどこに消えたのだ?

 それが、結婚が延期になっている理由なのだろうか。
 俺はグラスの果実水を飲み干した。なんだか喉が渇く。

 黙り込んだ俺に、ゲリンが言う。 
「マイネ、リサに会いに行ってみないか?」

「……リサは関係ないだろ。行く必要あるか?」
「王女のことを知っている可能性がある」

 ひとり食事を続けるエモリーが、魚のムニエルを食べ終わってから口を開く。
「二日前、君たちがリサの家に行っている間に、ルシャード殿下の秘書官だと名乗る男が領主館に来てね」

「秘書官のハンさんとは、以前お世話になったことがあって……俺の行方を心配して会いに来たみたいです」
「そうだったのか。その秘書官があまりにも必死にマイネのことを訊いてきたけど、簡単にマイネのことを教えていいものか判断に迷ったんだよ」
「ありがとうございます」

 エモリーの口からカスパーのことが、漏れなくてよかった。

「それで、どうしてもマイネに今すぐ会いたいって言うから、行き先だけ教えたんだ。そうしたら、秘書官はリサの家を知ってるみたいだった」

「え?」
 俺は虚をつかれた。
 ゲリンと顔を見合わせる。

 どういうことだ?

「だからさ、よくわからないけど、午後からリサに会いに行ってみたら」
 食事が終わったエモリーはそう言い残すと、俺たちを置いて席を立った。

「マイネ、食べたらすぐに出発するぞ」
 ゲリンに言われて、何も考えることができなかった俺は、急いで食べはじめる。

 食事を済ませてエモリーの屋敷から出ると、舗装された大通りをふたりで歩いた。 

「ルシャード殿下もリサのこと知ってたと思うか?」
 俺が疑問を口にしたら、ゲリンはあっさりと即答する。
「知ってたんだろうな。だから俺たちを迷わずに見つけ出して、山賊に襲われてるところに出くわせた」

 俺は納得してしまう。
 いくら万能なルシャードでも、あんな山沿いの似た風景ばかりの土地で、知らない目的地にたどり着くのは至難の技だろう。

 ルシャードはリサの家を知っていた、と考えたほうが違和感がない。

 それから、ゲリンが警戒したように獣の耳を震わせる。
 声を顰めた。

「尾行されてる」

 俺は背後を振り返りそうになったのを堪えた。

「殿下がマイネに護衛をつけていったのか?」
「まさか」

 ルシャードが俺に護衛をつけるだろうか。
 そこまでするとは思えないが。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

事故つがいの夫が俺を離さない!

カミヤルイ
BL
事故から始まったつがいの二人がすれ違いを経て、両思いのつがい夫夫になるまでのオメガバースラブストーリー。 *オメガバース自己設定あり 【あらすじ】 華やかな恋に憧れるオメガのエルフィーは、アカデミーのアイドルアルファとつがいになりたいと、卒業パーティーの夜に彼を呼び出し告白を決行する。だがなぜかやって来たのはアルファの幼馴染のクラウス。クラウスは堅物の唐変木でなぜかエルフィーを嫌っている上、双子の弟の想い人だ。 エルフィーは好きな人が来ないショックでお守りとして持っていたヒート誘発剤を誤発させ、ヒートを起こしてしまう。 そして目覚めると、明らかに事後であり、うなじには番成立の咬み痕が! ダブルショックのエルフィーと怒り心頭の弟。エルフィーは治癒魔法で番解消薬を作ると誓うが、すぐにクラウスがやってきて求婚され、半ば強制的に婚約生活が始まって──── 【登場人物】 受け:エルフィー・セルドラン(20)幼馴染のアルファと事故つがいになってしまった治癒魔力持ちのオメガ。王立アカデミーを卒業したばかりで、家業の医薬品ラボで仕事をしている 攻め:クラウス・モンテカルスト(20)エルフィーと事故つがいになったアルファ。公爵家の跡継ぎで王都騎士団の精鋭騎士。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

処理中です...