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30 消えた王女
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翌日。
ゲリンが不審がっていたガッタの王女について、アプト領主の番であるエモリーに訊ねることになった。
仕事とは別の用件で話があるとエモリーに切り出したところ、ゲリンも加わった三人で領主館の食堂で昼食を一緒に摂ることになった。
「それで、何の話だい?」
午後からも予定があるエモリーは時間に余裕がなく、俺の向かいの席に着くと早速促される。
「あの……四年半前の話なんですが、ガッタの王女殿下がアンゼル国を訪問する際に、アプト領の領主館に立ち寄ったりしませんでしたか?」
「ガッタから王女殿下?」
サラダの生野菜を食べながら、エモリーは不思議そうな顔をした。
俺は食事に伸ばしかけた手が止まった。
珍しくも、なんだか喉を通らなそうだったからだ。
「はい。四年半前です。覚えてませんか?」
「四年半どころか、そんなことは一度もない」
エモリーが断言する。
俺はその答えに思考が止まってしまい、次に何を訊けばよいのかわからなくなった。
そんな俺を察してか、隣に座っているゲリンがあとを継ぐように質問する。
「それなら、王家と関わりのある人はどうですか?」
エモリーは記憶の引き出しを探るような面持ちで考え込んだ。
「四年半前だろ……あぁ、そういえばいたな。王家がガッタから呼び寄せた女性を、領主館に泊めたことがあった」
「その人は極秘訪問した王女殿下だったのではないですか?」
俺が確信めいた口調で訊くと、エモリーがすぐに手を振って否定する。
「王女殿下なわけがないよ。だってマイネも会ったことある人だよ」
「誰ですか?」
「リサだよ。あの子は優秀な薬師として、ガッタから王家が呼び寄せたと聞いたよ。でも王族付きの薬師にはならず、アプト領の山間の景観がえらく気に入ったとかで、戻ってきてあの家に住み着くことになったんだ」
「リサですか……」
確かに、俺もリサが王女だとは思えない。
「他にいませんでしたか? 第二王子殿下がガッタの王女を出迎えたはずなんです」
「そんなことはなかった」
ガッタの王女がアプト領に来てないと否定されても、俄かには信じられない。
いるはずの王女がいない?
ルシャードの婚約者はどこに消えたのだ?
それが、結婚が延期になっている理由なのだろうか。
俺はグラスの果実水を飲み干した。なんだか喉が渇く。
黙り込んだ俺に、ゲリンが言う。
「マイネ、リサに会いに行ってみないか?」
「……リサは関係ないだろ。行く必要あるか?」
「王女のことを知っている可能性がある」
ひとり食事を続けるエモリーが、魚のムニエルを食べ終わってから口を開く。
「二日前、君たちがリサの家に行っている間に、ルシャード殿下の秘書官だと名乗る男が領主館に来てね」
「秘書官のハンさんとは、以前お世話になったことがあって……俺の行方を心配して会いに来たみたいです」
「そうだったのか。その秘書官があまりにも必死にマイネのことを訊いてきたけど、簡単にマイネのことを教えていいものか判断に迷ったんだよ」
「ありがとうございます」
エモリーの口からカスパーのことが、漏れなくてよかった。
「それで、どうしてもマイネに今すぐ会いたいって言うから、行き先だけ教えたんだ。そうしたら、秘書官はリサの家を知ってるみたいだった」
「え?」
俺は虚をつかれた。
ゲリンと顔を見合わせる。
どういうことだ?
「だからさ、よくわからないけど、午後からリサに会いに行ってみたら」
食事が終わったエモリーはそう言い残すと、俺たちを置いて席を立った。
「マイネ、食べたらすぐに出発するぞ」
ゲリンに言われて、何も考えることができなかった俺は、急いで食べはじめる。
食事を済ませてエモリーの屋敷から出ると、舗装された大通りをふたりで歩いた。
「ルシャード殿下もリサのこと知ってたと思うか?」
俺が疑問を口にしたら、ゲリンはあっさりと即答する。
「知ってたんだろうな。だから俺たちを迷わずに見つけ出して、山賊に襲われてるところに出くわせた」
俺は納得してしまう。
いくら万能なルシャードでも、あんな山沿いの似た風景ばかりの土地で、知らない目的地にたどり着くのは至難の技だろう。
ルシャードはリサの家を知っていた、と考えたほうが違和感がない。
それから、ゲリンが警戒したように獣の耳を震わせる。
声を顰めた。
「尾行されてる」
俺は背後を振り返りそうになったのを堪えた。
「殿下がマイネに護衛をつけていったのか?」
「まさか」
ルシャードが俺に護衛をつけるだろうか。
そこまでするとは思えないが。
ゲリンが不審がっていたガッタの王女について、アプト領主の番であるエモリーに訊ねることになった。
仕事とは別の用件で話があるとエモリーに切り出したところ、ゲリンも加わった三人で領主館の食堂で昼食を一緒に摂ることになった。
「それで、何の話だい?」
午後からも予定があるエモリーは時間に余裕がなく、俺の向かいの席に着くと早速促される。
「あの……四年半前の話なんですが、ガッタの王女殿下がアンゼル国を訪問する際に、アプト領の領主館に立ち寄ったりしませんでしたか?」
「ガッタから王女殿下?」
サラダの生野菜を食べながら、エモリーは不思議そうな顔をした。
俺は食事に伸ばしかけた手が止まった。
珍しくも、なんだか喉を通らなそうだったからだ。
「はい。四年半前です。覚えてませんか?」
「四年半どころか、そんなことは一度もない」
エモリーが断言する。
俺はその答えに思考が止まってしまい、次に何を訊けばよいのかわからなくなった。
そんな俺を察してか、隣に座っているゲリンがあとを継ぐように質問する。
「それなら、王家と関わりのある人はどうですか?」
エモリーは記憶の引き出しを探るような面持ちで考え込んだ。
「四年半前だろ……あぁ、そういえばいたな。王家がガッタから呼び寄せた女性を、領主館に泊めたことがあった」
「その人は極秘訪問した王女殿下だったのではないですか?」
俺が確信めいた口調で訊くと、エモリーがすぐに手を振って否定する。
「王女殿下なわけがないよ。だってマイネも会ったことある人だよ」
「誰ですか?」
「リサだよ。あの子は優秀な薬師として、ガッタから王家が呼び寄せたと聞いたよ。でも王族付きの薬師にはならず、アプト領の山間の景観がえらく気に入ったとかで、戻ってきてあの家に住み着くことになったんだ」
「リサですか……」
確かに、俺もリサが王女だとは思えない。
「他にいませんでしたか? 第二王子殿下がガッタの王女を出迎えたはずなんです」
「そんなことはなかった」
ガッタの王女がアプト領に来てないと否定されても、俄かには信じられない。
いるはずの王女がいない?
ルシャードの婚約者はどこに消えたのだ?
それが、結婚が延期になっている理由なのだろうか。
俺はグラスの果実水を飲み干した。なんだか喉が渇く。
黙り込んだ俺に、ゲリンが言う。
「マイネ、リサに会いに行ってみないか?」
「……リサは関係ないだろ。行く必要あるか?」
「王女のことを知っている可能性がある」
ひとり食事を続けるエモリーが、魚のムニエルを食べ終わってから口を開く。
「二日前、君たちがリサの家に行っている間に、ルシャード殿下の秘書官だと名乗る男が領主館に来てね」
「秘書官のハンさんとは、以前お世話になったことがあって……俺の行方を心配して会いに来たみたいです」
「そうだったのか。その秘書官があまりにも必死にマイネのことを訊いてきたけど、簡単にマイネのことを教えていいものか判断に迷ったんだよ」
「ありがとうございます」
エモリーの口からカスパーのことが、漏れなくてよかった。
「それで、どうしてもマイネに今すぐ会いたいって言うから、行き先だけ教えたんだ。そうしたら、秘書官はリサの家を知ってるみたいだった」
「え?」
俺は虚をつかれた。
ゲリンと顔を見合わせる。
どういうことだ?
「だからさ、よくわからないけど、午後からリサに会いに行ってみたら」
食事が終わったエモリーはそう言い残すと、俺たちを置いて席を立った。
「マイネ、食べたらすぐに出発するぞ」
ゲリンに言われて、何も考えることができなかった俺は、急いで食べはじめる。
食事を済ませてエモリーの屋敷から出ると、舗装された大通りをふたりで歩いた。
「ルシャード殿下もリサのこと知ってたと思うか?」
俺が疑問を口にしたら、ゲリンはあっさりと即答する。
「知ってたんだろうな。だから俺たちを迷わずに見つけ出して、山賊に襲われてるところに出くわせた」
俺は納得してしまう。
いくら万能なルシャードでも、あんな山沿いの似た風景ばかりの土地で、知らない目的地にたどり着くのは至難の技だろう。
ルシャードはリサの家を知っていた、と考えたほうが違和感がない。
それから、ゲリンが警戒したように獣の耳を震わせる。
声を顰めた。
「尾行されてる」
俺は背後を振り返りそうになったのを堪えた。
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そこまでするとは思えないが。
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