【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

犬白グミ

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34 人質

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 ついで息を切らしたコニーが、扉に体当たりする勢いで飛び込んできた。

「マイネ! カスパーが人質になった! 病院に戻って」

 扉の前で待機していたゲリンが聞き終わるやいなや、獣型に変化して勢いよく駆け出す。
 人質とはどういうことだ?

 先ほどまで、カスパーは病院の玄関口で遊んでいた。
 ゲリンの速さに遅れをとりながらも、懸命に追う。
 いつの間にかオティリオも俺に並んでいた。

 オメガ病院の待合室に足を踏み入れたとたん、顔を赤らめた男がカスパーに短剣の刃を向けているのを目撃する。
 俺の背中に恐怖が這う。

 こんな事態になるとわかっていたら、外で遊ぶカスパーと離れなかったのに。

 待合室は、あまり広くない。
 通路のように細長い形だ。
 その入口にいる俺とオティリオとゲリンから、十五歩ほどの距離に男とカスパーがいた。
 その奥に数人の看護師と患者の姿が見受けられる。

 男はカスパーを羽交締めにして、首元に短剣を突きつけた。
「止まれ! 近づくんじゃねぇ!」

 男はよりいっそうカスパーの首に刃を近づける。
 あと少しでカスパーの柔らかい皮膚に突き刺さって、血が流れそうだ。 

「やめろ!」

 青ざめた俺が悲鳴のように叫ぶと、カスパーが泣き出す。
 俺は、爪が食い込むほど拳を握った。

「剣を持ってる奴はこっちに寄越せ」

 ゲリンとオティリオが腰に帯びた剣を投げると、男がその剣を蹴り飛ばす。

「デールを連れてこい!」
 男が怒鳴った。

 カスパーがびくりと震える。

 デールとは入院中の十六歳のオメガだ。
 幼い頃から家族に虐待され軟禁状態だったところを、保護されて、一昨日から入院していた。
 この男がデールを虐げていた家族ではないのか。
 もっとデールの状況を把握していれば、対策して警護を強化しただろうに。 

 男がぶつぶつと「デールは俺のもんだ」と呟ている。
 その顔は狂気に歪んでいた。
 どうする。男にデールを引き渡すのは危険だ。
  
「子供を人質にしても逃げるときに邪魔だろ。どうやって逃げるつもりだ?」

 男を刺激しないような声音でするりと声をかけたのは、オティリオだった。

「は? 逃げる必要がどこにある? 悪いのは病院側だ。病院がデールを閉じ込めてんだ。俺はデールの兄だぞ。俺は連れて帰るだけだ!」

 犯人がオティリオとの会話に気を取られ、短剣がカスパーからゆらりと離れた。

「そうか。兄なのか。デールはオメガの弟なんだな。要求はデールを連れて帰ることか?」
 オティリオは冷静な態度で話し続ける。

「そうだ! デールは俺の弟なんだよ。俺たちは一緒にいないと駄目なんだ」

 再び男の短剣が遠ざかったとき、カスパーは気丈にも男の腕に力任せに噛みついた。  
 犯人が「ぎゃっ」と短く呻き、腕が緩む。

 その隙を狙って、カスパーが駆け出した。
 と同時に、ゲリンが床を蹴る。
 再びカスパーが捕まるより早く、男に接近し腕を蹴り上げた。

 俺は短剣が床に転がるのを確認しながら、両手を広げてカスパーに走り寄った。
 抱き止めて、安堵の息を吐く。
 カスパーも震えていた。 

 ゲリンに拘束された男は、もう抵抗する気力もないかのように項垂れている。

 しかし、ほっとしたのも束の間。

 突如、男が懐の中に隠し持っていたもう一本の短剣を、素早くとり出して振り回した。
 ゲリンが後ずさったとたん、男がカスパーに飛びかかる。
 短剣がカスパーを狙う。

 後方から待機していた近衛騎士が飛び出すが、もう間に合わない。
 背筋が凍る。
 俺はカスパーの身体全体を隠すようにぎゅっと包み込んだ。

 何かがぶつかる衝撃。

 次の瞬間、近衛騎士とゲリンが犯人を拘束していた。
 もがいて床に転がる男の手の中に短剣はない。

 俺の眼前でゆっくりと倒れるオティリオの背中に、その短剣が深く突き刺さっていた。

 守られるべき王弟のオティリオが、咄嗟に俺の盾となったと気づく。

「殿下!」
 近衛騎士がオティリオに駆け寄った。

 痛みに歪んだ表情で目を閉じたオティリオは、倒れて動かない。
 居合わせた看護師たちに「手術室に!」とゲリンが鋭く指示を飛ばす。
 担架を用意し慎重に乗せると、急いで廊下を移動した。

「殿下、聞こえますか?」

 担架の傍から呼びかけても意識が朦朧としているのか、オティリオからは呻き声が返ってくるだけだ。
 倒れたときに頭を打ったのかもしれない。
 オティリオを許せないと思っていたが、こんなことは望んでなどいなかった。




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