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35 オティリオとカスパー
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すぐに術室に入り、迅速に手術が行われた。
「幸い臓器の損傷はなく、致命傷ではありませんでした」
手術が終わってエモリーがそう告げると、待合室で待つ近衛騎士や俺とカスパーは、安堵して深い息を吐き出す。
そのあとはアルファのオティリオをオメガ病院で入院させるわけにもいかず、領主館で一番豪華な客間で大きな寝台に寝かされた。
あの犯人はゲリンによって地下牢に連行され、そこで処罰されるのを待つことになる。
王弟を刺した罪は重いだろう。
寝続けるオティリオを、俺とカスパーが見守っていると、一時間後に、ようやくオティリオの指先が動いた。
「おとうさん。うごいたよ」
俺がオティリオの顔を覗き込むと、うっすらと目を開いた。
オティリオは一瞬、痛みに顔を歪めたあと、カスパーと目を合わせる。
「水飲みますか?」
オティリオは頷く。
寝たままでも飲める容器の吸い口を口元に近づけると、喉が渇いていたようでこくこくと飲んだ。
「たすけて、くれて、ありがと」
カスパーがオティリオの指を握ると、オティリオは瞬きをして、その小さな手を眺める。
「……ふたりに怪我がなくて良かった」
オティリオが掠れた声で言って、ルシャードに似たカスパーの姿をまじまじと見入った。
「何歳だ?」
「四歳」
カスパーはそう言いながら、四本の指を表す。
「カスパー。目を覚ましたってエモリーに伝えてきてくれないか」
俺が頼むと、カスパーは「わかった」とぴょんっと椅子から下りて出ていく。
「……カスパーっていうのか?」
オティリオに問われて、俺は「はい」と返事をするしかなかった。
押し黙る。次に問われることはわかっていた。
「兄上の子だよね?」
俺は逡巡しながらも、首を縦に動かす。
言い逃れができないほど、カスパーとルシャードは似ている。
オティリオにカスパーのことを知られてしまった。
もうルシャードにも隠してはおけないだろう。
「兄上は知ってるの?」
「……まだ」
俺が口ごもると、オティリオは眉尻を下げた。
「ごめんな。僕のせいで言えなかったよね。獣人ってことは、聖獣か……」
身動きをしたオティリオは、全身に痛みが走った様子で眉間に皺を寄せてぎゅっと瞼を閉じる。
「刺された背中に傷が残るかもしれないそうです」
「……僕の背中には翼がないだろ。だから、この背中が大嫌いだったのだけど、カスパーを守った傷が残るなら好きになれるかもしれない」
そう言うと、オティリオがかすかに口角を上げる。
聖獣でないことにオティリオが劣等感を持っているとは知らなかった。
王家の血を継ぐオティリオはアルファでありながら、人間に産まれたため聖獣にはなれない。
すぐにカスパーがエモリーを連れて戻ってきた。
「気分はいかがですか? 頭が痛いとか吐き気があるとかありませんか?」
「今のところはない」
「もしかしたら、今夜あたり熱が出るかもしれません」
診察の途中で、俺はそっと部屋を抜け出した。
俯きながら深いため息をつく。
そして、顔を上げたとき、近衛騎士として扉の前にいるのが懐かしい人だと気づいた。
「ヨシカさん!」
獅子獣人のヨシカだ。
「おぉ。マイネ、話をするのは久しぶりだな」
ヨシカは意味ありげに、にやりと笑った。
「……やっぱり俺のこと見張ってたのって、ヨシカさんだよね?」
俺を見張る獅子獣人がいることは、わかっていた。
「見張りって人聞きが悪いな。ルシャード殿下からマイネの護衛を頼まれてたんだぞ」
「本当?」
「あぁ。今日はオティリオ殿下の近衛も来てたし、少し離れて様子をうかがっていたら、俺らしくもなく出遅れた」
カスパーのことはもう報告してしまっただろうか、と俺は不安げにする。
それを察したヨシカが、声を顰めた。
「あの子のことなら報告してない。俺が伝えていい話じゃないだろ。でも、ずっと黙っておくことはできないからな」
「……わかってる」
カスパーの存在は俺からルシャードに告げたい。
どんな反応が返ってくるかはわからない。
それは恐ろしくもあるが、人の口から報告されるぐらいなら、自分自身で伝えたかった。
「幸い臓器の損傷はなく、致命傷ではありませんでした」
手術が終わってエモリーがそう告げると、待合室で待つ近衛騎士や俺とカスパーは、安堵して深い息を吐き出す。
そのあとはアルファのオティリオをオメガ病院で入院させるわけにもいかず、領主館で一番豪華な客間で大きな寝台に寝かされた。
あの犯人はゲリンによって地下牢に連行され、そこで処罰されるのを待つことになる。
王弟を刺した罪は重いだろう。
寝続けるオティリオを、俺とカスパーが見守っていると、一時間後に、ようやくオティリオの指先が動いた。
「おとうさん。うごいたよ」
俺がオティリオの顔を覗き込むと、うっすらと目を開いた。
オティリオは一瞬、痛みに顔を歪めたあと、カスパーと目を合わせる。
「水飲みますか?」
オティリオは頷く。
寝たままでも飲める容器の吸い口を口元に近づけると、喉が渇いていたようでこくこくと飲んだ。
「たすけて、くれて、ありがと」
カスパーがオティリオの指を握ると、オティリオは瞬きをして、その小さな手を眺める。
「……ふたりに怪我がなくて良かった」
オティリオが掠れた声で言って、ルシャードに似たカスパーの姿をまじまじと見入った。
「何歳だ?」
「四歳」
カスパーはそう言いながら、四本の指を表す。
「カスパー。目を覚ましたってエモリーに伝えてきてくれないか」
俺が頼むと、カスパーは「わかった」とぴょんっと椅子から下りて出ていく。
「……カスパーっていうのか?」
オティリオに問われて、俺は「はい」と返事をするしかなかった。
押し黙る。次に問われることはわかっていた。
「兄上の子だよね?」
俺は逡巡しながらも、首を縦に動かす。
言い逃れができないほど、カスパーとルシャードは似ている。
オティリオにカスパーのことを知られてしまった。
もうルシャードにも隠してはおけないだろう。
「兄上は知ってるの?」
「……まだ」
俺が口ごもると、オティリオは眉尻を下げた。
「ごめんな。僕のせいで言えなかったよね。獣人ってことは、聖獣か……」
身動きをしたオティリオは、全身に痛みが走った様子で眉間に皺を寄せてぎゅっと瞼を閉じる。
「刺された背中に傷が残るかもしれないそうです」
「……僕の背中には翼がないだろ。だから、この背中が大嫌いだったのだけど、カスパーを守った傷が残るなら好きになれるかもしれない」
そう言うと、オティリオがかすかに口角を上げる。
聖獣でないことにオティリオが劣等感を持っているとは知らなかった。
王家の血を継ぐオティリオはアルファでありながら、人間に産まれたため聖獣にはなれない。
すぐにカスパーがエモリーを連れて戻ってきた。
「気分はいかがですか? 頭が痛いとか吐き気があるとかありませんか?」
「今のところはない」
「もしかしたら、今夜あたり熱が出るかもしれません」
診察の途中で、俺はそっと部屋を抜け出した。
俯きながら深いため息をつく。
そして、顔を上げたとき、近衛騎士として扉の前にいるのが懐かしい人だと気づいた。
「ヨシカさん!」
獅子獣人のヨシカだ。
「おぉ。マイネ、話をするのは久しぶりだな」
ヨシカは意味ありげに、にやりと笑った。
「……やっぱり俺のこと見張ってたのって、ヨシカさんだよね?」
俺を見張る獅子獣人がいることは、わかっていた。
「見張りって人聞きが悪いな。ルシャード殿下からマイネの護衛を頼まれてたんだぞ」
「本当?」
「あぁ。今日はオティリオ殿下の近衛も来てたし、少し離れて様子をうかがっていたら、俺らしくもなく出遅れた」
カスパーのことはもう報告してしまっただろうか、と俺は不安げにする。
それを察したヨシカが、声を顰めた。
「あの子のことなら報告してない。俺が伝えていい話じゃないだろ。でも、ずっと黙っておくことはできないからな」
「……わかってる」
カスパーの存在は俺からルシャードに告げたい。
どんな反応が返ってくるかはわからない。
それは恐ろしくもあるが、人の口から報告されるぐらいなら、自分自身で伝えたかった。
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