【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

犬白グミ

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ルシャードの溺愛 ①

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 ルシャードはマイネの寝顔をじっと眺めていた。

 番になると約束した日から、準備に忙しくあまり寝られなかったが、隣で眠るマイネから目を離すことができなかった。
 昨日、婚姻の儀を無事に終えた。
 マイネが王宮に到着したら、すぐに行えるように調整をした。

 少々、強引だったかもしれないが、兄のディアーク王と大神官のふたりさえ揃えば、婚姻の儀は執り行うのは可能だった。
 結婚しなければカスパーの父親になれないのだから、少しぐらい無理をしたところで支障はないだろう。

 マイネを番にすると決めたのは、四年半前。
 ルシャードがマイネの寝顔をはじめて見た日だ。

 それなのに、マイネは姿を消してしまった。

 あれから夢の中でしかマイネに会うことはできなかった。
 繰り返し何度もマイネの夢を見た。
 夢から覚めると現実の寂しさに襲われて、しばらく微動だにできなかった。
 ルシャードはマイネをなくしたあの日から、一歩も動くことができなかった。

 ――そんな悲しみに打ちひしがれていた朝だった。

 念願の一報が舞い込んだのは。

 ルシャードはすべての予定を変更して、アプト領に飛んだのだ。

 ついにマイネを発見した。
 黒い森でマイネを見つけだしたとき、手で触れ、幻ではないかと確かめずにはいられなかった。
 そのまま、王宮に連れ帰らなかったのは、混乱していたからだ。
 冷静な判断ができていれば、マイネから再び離れることなどできなかっただろう。

 ルシャードは、寝入っているマイネの腹部の手術跡を指でなぞった。
 カスパーを出産したときに腹を切ってできた跡だ。

 マイネから出産したと聞いたときは驚いた。
 父親になっていたのだ。知らないうちに。

 まだ父親という実感は薄いものの、カスパーを大切にしたいという気持ちは芽生えはじめている。

 マイネの瞼が震えたため、ルシャードは咄嗟に目を閉じ寝たふりをした。
 マイネが動く気配がして視線を感じる。

「惹かれ合う運命の番……」

 囁く声がして、ルシャードは思わずマイネを胸の中に閉じ込めた。
 マイネは筋肉の少ない細身の体型だ。
 抱きしめるとしっくりとするような安心感がある。

「マイネは俺の運命の番だ」
 そう言うと、マイネの耳朶を甘噛みする。

 獣の耳を持つルシャードにとって、マイネの特徴的な人間の耳は可愛いすぎる。
 丸くて小さくて、触りたくて、噛みたいと思ってしまう。

 マイネは顔を顰めたが、嫌がる素振りは見せない。

「俺も同じこと考えてました。ルシャード様は運命の番なんだって。何があっても、結ばれる運命だったんです」 

 マイネの表情は、わかりやすい。
 大きくて丸い目が輝きを放ち、とびきりの嬉しさを表現した。

 清潔感と優しさ、そして知的さを併せ持ったマイネの顔立ちは、何よりも可愛い。

 ルシャードはマイネのうなじに触れた。
 そこには番の証となる噛み痕がついている。

「痕ついてますか?」
「あぁ」

 ルシャードが印を指でなぞった。
 強く噛みすぎてしまったかと思ったが、不思議と出血はない。

「生涯、番はマイネだけだ。愛してる。出会った頃からずっと、これからも」

 ルシャードは誓いをたてるかのようにマイネに口づけをした。
 マイネは、ルシャードの手をしっかりと両手で握りしめる。

「俺も好きです。これからもずっと好きです。ルシャード様の番になれて嬉しい」

 毛布の中で、ルシャードの長い尻尾が無意識にマイネの腰に巻きついた。
 マイネの菫色の瞳を覗き込み、頬に口づけする。

「マイネ。朝食は食べれそうか?」

 昨日の夜は、無理をさせてしまった。
 久しぶりの行為に夢中になりすぎた。
 上半身を起こしたマイネが腰を押さえた。

「うぅ……ちょっと、痛いかもしれません。でもカスパーが待ってるから」
「それなら隣の部屋に食事を運んで、カスパーも連れてきてもらおう」
「あ、はい。そうしてほしいです」

 ルシャードは寝台から下りて、侍従を呼んで指示を出す。
 黒の上衣と下衣を身にまとうと、マイネよりも先に隣の部屋に向かった。
 ルシャードの自室には食事用の丸いテーブルと椅子三脚を運び終わったところだ。

 そこに廊下側の扉をそっと開けてカスパーが現れる。
 マイネの姿を探しているようだが、まだ着替え中で部屋にはいない。
 ルシャードと目が合うと、カスパーは「おはよう、ございます」と朝の挨拶をした。

「おはよう。入っていいぞ」

 ルシャードは、できる限り柔和な表情をする。

 実のところ、ルシャードは子供という存在が苦手だった。
 それなのにマイネと出会って、恋をして父親になっていた。

 逡巡しながらカスパーが、室内に入る。

 カスパーは、ルシャードによく似た容姿だ。
 カスパーが黄金を受け継いだ獣人の容姿でなかったならば、実子と認められることはなかったかもしれない。
 黄金の聖獣は、ルシャードただひとりしかいない。
 だからルシャードの子であると証明できたのだ。

 カスパーは距離を計りかねるように、おずおずとルシャードに近寄った。




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