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ルシャードの溺愛 ②
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「昨日は、眠れたか?」
ルシャードが訊くと、カスパーは言い淀む。
「……ゲリンと、いっしょに、ねた。でも、おとうさんが、いい」
カスパーの自室は、マイネの部屋の真下に位置し階段で繋がっている。
昨日は、そこで寝たのだろう。
「俺も一緒でもいいか?」
「ルシャードさまも?」
カスパーが小首を傾げた。
「今日から三人で一緒に寝ないか?」
ルシャードが、そう言ったとき、マイネが寝室側の扉から入ってきた。
カスパーが駆け寄って、マイネの膝に抱きついた。
「おとうさん、おはよう!」
マイネも「おはよう」と返すと、用意させた椅子にぎこちない様子で座る。
ルシャードもその右隣の席に腰を下ろした。
「おとうさん。ルシャードさまと、さんにん、だって」
カスパーがルシャードの言葉を伝えるが、マイネはすでに扉の向こうで聞いていたようだ。
「そうだな、これからは三人で寝ような」
そう言って笑った。
笑うと丸い目が細くなり、丸みのある顔立ちが強調されて可愛らしい。
微笑んだときの口元はとても魅力的だ。
カスパーもマイネの左隣に着席すると、不審げな顔になった。
「あれ? おとうさん、においが、かわった?」
「本当? ルシャード様と番になったから、オメガの匂いが消えたのかな」
マイネはうなじに手を伸ばし、確認するように印を撫でた。
マイネのフェロモンの匂いがわかるのは、番であるルシャードだけだ。
その事実に独占欲が満たされる。
侍女が朝食を並べて部屋を退出した。
昨日の夕食は、お祝いと称した宴でハンやダイタや騎士団を招いていたから、三人だけで食事をするのは、はじめてだ。
カスパーの前にある皿の盛りつけは、どれも食べやすくひと口の大きさにカットされていた。
感心する。
幼い子供と接する機会が少ないルシャードには、わからない気配りだ。
カスパーは、大きな口を開けて食べはじめた。
ハムを食べて嬉しそうに目を細める仕草がマイネに似ている。
「美味しいか?」
「うん」
ルシャードの問いに、カスパーは満面の笑みを返した。
「カスパーの好きな食べ物はなんだ?」
「おとうさんの、サンドイッチ、すき。あと、このハム! サンドイッチに、したら、きっと、さいきょうだよ」
「俺もこのハム好きです。これ食べたら、王宮に帰ってきたって懐かしく思いました」
カスパーの言葉にマイネも同意する。
ハムを食べて思ったのか……。
ハムに負けたような気がして、ルシャードは苦笑する。
カスパーもマイネも、頬を膨らませて食べている。
なんとも愛らしい。
ルシャードが思い描いたこともない、幸せがここにあった。
「カスパーの部屋に足りない物があったら、言ってくれ」
紅茶のカップを傾けつつ、ルシャードが言うと、口の中を飲み込んでからマイネが答える。
「いろいろ用意してくれてありがとうございます。聖獣のことを知りたいんですが、本とかありますか?」
「何が知りたい? 聖獣のことなら俺に訊けばいい。なんでも答える」
「いつ、なれる?」
そう訊く、カスパーの瞳は輝いていた。
カスパーは早くなりたいようだ。
「一般的な獣人と一緒で、十歳ぐらいで獣型に変化できるようになる」
「すぐ、とべる?」
「これには個人差がある。それに、あまり知られてないが、翼があるのに飛べない聖獣もいる」
末の弟は、聖獣なのに飛べない。
自身の宮に引きこもって、式典も出てこなくなって二年ぐらい経つ。
マイネもカスパーも驚いた様子だ。
「ルシャードさまは? いつ、とべた?」
飛べた日の記憶は、よく覚えている。
急に、背中がぶわっと浮き、空高く舞い上がったのだ。
そう答えようとしたが、ルシャードはどうしても言っておきたいことがあった。
「カスパー、無理にとは言わないが、これからは俺のことを父上と呼んでくれないか」
父親なのだから、何も間違ったことは言っていない。
それなのに、なぜか背中に汗が浮かぶ。
「ちちうえ?」
カスパーがはじめて覚える言葉を口にした。
「あ……あぁ、それでいい。そのうち慣れるだろう」
ルシャード自身も、何度も呼ばれるうちに父親になったと実感していくはずだ。
そのとき、マイネが目元を袖で拭く仕草をして、悲しませるようなことを言っただろうかと、ひやりとする。
涙目になったマイネの菫色の瞳を、カスパーが覗き込んだ。
「おとうさん、ないてる?」
「……感動しちゃった」
マイネは幸せそうに笑いながら、涙を滲ませていた。
ルシャードが訊くと、カスパーは言い淀む。
「……ゲリンと、いっしょに、ねた。でも、おとうさんが、いい」
カスパーの自室は、マイネの部屋の真下に位置し階段で繋がっている。
昨日は、そこで寝たのだろう。
「俺も一緒でもいいか?」
「ルシャードさまも?」
カスパーが小首を傾げた。
「今日から三人で一緒に寝ないか?」
ルシャードが、そう言ったとき、マイネが寝室側の扉から入ってきた。
カスパーが駆け寄って、マイネの膝に抱きついた。
「おとうさん、おはよう!」
マイネも「おはよう」と返すと、用意させた椅子にぎこちない様子で座る。
ルシャードもその右隣の席に腰を下ろした。
「おとうさん。ルシャードさまと、さんにん、だって」
カスパーがルシャードの言葉を伝えるが、マイネはすでに扉の向こうで聞いていたようだ。
「そうだな、これからは三人で寝ような」
そう言って笑った。
笑うと丸い目が細くなり、丸みのある顔立ちが強調されて可愛らしい。
微笑んだときの口元はとても魅力的だ。
カスパーもマイネの左隣に着席すると、不審げな顔になった。
「あれ? おとうさん、においが、かわった?」
「本当? ルシャード様と番になったから、オメガの匂いが消えたのかな」
マイネはうなじに手を伸ばし、確認するように印を撫でた。
マイネのフェロモンの匂いがわかるのは、番であるルシャードだけだ。
その事実に独占欲が満たされる。
侍女が朝食を並べて部屋を退出した。
昨日の夕食は、お祝いと称した宴でハンやダイタや騎士団を招いていたから、三人だけで食事をするのは、はじめてだ。
カスパーの前にある皿の盛りつけは、どれも食べやすくひと口の大きさにカットされていた。
感心する。
幼い子供と接する機会が少ないルシャードには、わからない気配りだ。
カスパーは、大きな口を開けて食べはじめた。
ハムを食べて嬉しそうに目を細める仕草がマイネに似ている。
「美味しいか?」
「うん」
ルシャードの問いに、カスパーは満面の笑みを返した。
「カスパーの好きな食べ物はなんだ?」
「おとうさんの、サンドイッチ、すき。あと、このハム! サンドイッチに、したら、きっと、さいきょうだよ」
「俺もこのハム好きです。これ食べたら、王宮に帰ってきたって懐かしく思いました」
カスパーの言葉にマイネも同意する。
ハムを食べて思ったのか……。
ハムに負けたような気がして、ルシャードは苦笑する。
カスパーもマイネも、頬を膨らませて食べている。
なんとも愛らしい。
ルシャードが思い描いたこともない、幸せがここにあった。
「カスパーの部屋に足りない物があったら、言ってくれ」
紅茶のカップを傾けつつ、ルシャードが言うと、口の中を飲み込んでからマイネが答える。
「いろいろ用意してくれてありがとうございます。聖獣のことを知りたいんですが、本とかありますか?」
「何が知りたい? 聖獣のことなら俺に訊けばいい。なんでも答える」
「いつ、なれる?」
そう訊く、カスパーの瞳は輝いていた。
カスパーは早くなりたいようだ。
「一般的な獣人と一緒で、十歳ぐらいで獣型に変化できるようになる」
「すぐ、とべる?」
「これには個人差がある。それに、あまり知られてないが、翼があるのに飛べない聖獣もいる」
末の弟は、聖獣なのに飛べない。
自身の宮に引きこもって、式典も出てこなくなって二年ぐらい経つ。
マイネもカスパーも驚いた様子だ。
「ルシャードさまは? いつ、とべた?」
飛べた日の記憶は、よく覚えている。
急に、背中がぶわっと浮き、空高く舞い上がったのだ。
そう答えようとしたが、ルシャードはどうしても言っておきたいことがあった。
「カスパー、無理にとは言わないが、これからは俺のことを父上と呼んでくれないか」
父親なのだから、何も間違ったことは言っていない。
それなのに、なぜか背中に汗が浮かぶ。
「ちちうえ?」
カスパーがはじめて覚える言葉を口にした。
「あ……あぁ、それでいい。そのうち慣れるだろう」
ルシャード自身も、何度も呼ばれるうちに父親になったと実感していくはずだ。
そのとき、マイネが目元を袖で拭く仕草をして、悲しませるようなことを言っただろうかと、ひやりとする。
涙目になったマイネの菫色の瞳を、カスパーが覗き込んだ。
「おとうさん、ないてる?」
「……感動しちゃった」
マイネは幸せそうに笑いながら、涙を滲ませていた。
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