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番外⑤〜蕾〜
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※視点が変わりますのでご注意ください
「やった! やりましたわ!」
ヴィクトリア・ヴェルブレイズは満面の笑みで王の間を駆け回る。
「薄々感じておったがまさかヴィクトリアまでも覚醒するとは」
ヴァルカンは娘の顕現させた魔導書を感慨深く見つめている。
彼女の無垢な心を反映するように輝く純白の魔導書は、長年連れ添う幼馴染のように彼女にふわふわと寄り添っている。
「お父様! お母様! 見てくださいまし! わたくしの麗しき魔導書を!」
ヴィクトリアは舞踏会の舞のようにくるくると優雅に舞う。
「これこれ。あまりはしゃぐものではない。王家の人間としての自覚を持たねば」
「それはそうですけど」
ヴァルカンは頬を膨らめるヴィクトリアの頭を優しく撫でる。
「ヴィクトリア。よくやりましたね。さすがは私たちの娘です」
「うふふ!」
不機嫌な顔は一変し満面の笑みに変わった。
「わずか十二歳にして覚醒させたのはサラマンド史上最年少。その上ヴィゴーと同じSランクだ。そなたの功績は我がヴェルブレイズ家にとって計り知れぬ栄光となるだろう。私の代で二度も最年少を塗り替える快挙を目撃することになるとは私も鼻が高い」
「お父様、わたくしなんかよりヴィンセントお兄様の方がず~っと優れた魔導士ですわ。いいえ。わたくしだけでなく、ヴィゴーお兄様よりもずっと」
ヴァルカンは大きく咳払いし、マントを羽織り直す。
「あいつは我が一族の恥晒しだ。エレメント以下の階級の人間などこの城に置くわけにいかぬ。魔法を使えないだけでなく、魔導書の顕現が起こらないという醜態まで晒した。あいつは王家の人間以前に魔導士として終わっている。だからこの国から追放したのだ」
「そんなことありませんわ! ヴィンセントお兄様はいつも不思議な力でわたくしを元気付けてくれましたもの! あれは絶対魔法でした!」
「ははは!! あいつが魔法?! それは断じてあり得ぬ。そなたも魔法の発動原理は学んでおろう。私たちに流れるマナを利用し魔導書という媒体を通して初めて魔法としてその姿を変えるのだ。だからこそ意識的にマナを感じることができるのだ。魔導書がなければマナを操作し放出する術がない。マナは目に見えぬほど小さな粒子。その数も無数だ。魔導書もなく魔法を使うということは、その粒子一粒一粒に意識を通わせ操るということ。そんな芸当ができるのは古の五大賢者くらいのものよ」
「たとえそうだとしても・・・ わたくしはヴィンセントお兄様を信じています」
ヴァルカンは膝を折り、煌びやかなスカートの裾を掴むヴィクトリアの顔を覗き込む。
「そなたはヴィンセントに懐いておったから特別な感情を抱いておるのだろうが、これは王家としての宿命なのだ。どのようなことがあっても覆ることはない。あいつのことは忘れなさい。それに、そなたにはヴィゴーという立派な兄もおるだろう」
「・・・ヴィゴーお兄様は嫌いです」
母ヴァネッサはうつむくヴィクトリアの肩にそっと両手を置いた。
「血の繋がった兄弟です。悪く言うものではありませんよ」
「それを言うならヴィンセントお兄様だって血の繋がった兄です! わたくしにとってお兄様はヴィンセントお兄様だけです!」
二人の手を振り払いヴィクトリアは王の間を飛び出した。
(ヴィンセントお兄様は誰よりも立派な魔導士です。それは誰よりもそばに居たわたくしが一番良く分かっています)
ヴィクトリアは生まれつき体が弱く、しばしば床に伏せっていた。
ある日、大きな病にかかり命を落としかけたことがあった。
不治の病と診断され周囲に害を及さぬよう接触を避けるため隔離されることになった。
一日の大半をベッドの上で過ごすことを余儀なくされ、希望を失い悲しみに暮れていたそんな時だった。
妹の様子を見て不憫に思ったヴィンセントは、親の目を盗みたびたび部屋に忍び込んでは他愛もない話でヴィクトリアを元気づけようとした。
ヴィクトリアはヴィンセントが部屋に訪れるのを楽しみに待つようになった。
ヴィンセントと何気ない話で笑い合う。
彼女にとってそれが一番幸せな時間だった。
不思議なことに、ヴィンセントが部屋を訪れるようになってからヴィクトリアの容体はみるみる快復していき、ついには病気にかかること自体が珍しくなった
「ヴィンセントお兄様はいつもわたくしの手を包み祈りを捧げてくれた。泣いてしまうわたくしを勇気づけてくれた。あの時に感じた温もりと優しさは生涯忘れません」
「治ることがないとされていた病気が完治しただけでなく、普通の人と同じように生活ができるようになった。わたくしがこうして生きていられるのも全部ヴィンセントお兄様のおかげ」
ヴィクトリアは祈るように胸の前で手を合わせた。
「わたくしは信じています。ヴィンセントお兄様こそが、誰もを幸せにしてくれるこの世界でたったひとりの、本物の魔導士だということを」
「・・・会いたいですわ。ヴィンセントお兄様」
肩を落とす彼女に希望を示すように、回廊から差し込む夕日はキラキラと輝いていたーーー。
「やった! やりましたわ!」
ヴィクトリア・ヴェルブレイズは満面の笑みで王の間を駆け回る。
「薄々感じておったがまさかヴィクトリアまでも覚醒するとは」
ヴァルカンは娘の顕現させた魔導書を感慨深く見つめている。
彼女の無垢な心を反映するように輝く純白の魔導書は、長年連れ添う幼馴染のように彼女にふわふわと寄り添っている。
「お父様! お母様! 見てくださいまし! わたくしの麗しき魔導書を!」
ヴィクトリアは舞踏会の舞のようにくるくると優雅に舞う。
「これこれ。あまりはしゃぐものではない。王家の人間としての自覚を持たねば」
「それはそうですけど」
ヴァルカンは頬を膨らめるヴィクトリアの頭を優しく撫でる。
「ヴィクトリア。よくやりましたね。さすがは私たちの娘です」
「うふふ!」
不機嫌な顔は一変し満面の笑みに変わった。
「わずか十二歳にして覚醒させたのはサラマンド史上最年少。その上ヴィゴーと同じSランクだ。そなたの功績は我がヴェルブレイズ家にとって計り知れぬ栄光となるだろう。私の代で二度も最年少を塗り替える快挙を目撃することになるとは私も鼻が高い」
「お父様、わたくしなんかよりヴィンセントお兄様の方がず~っと優れた魔導士ですわ。いいえ。わたくしだけでなく、ヴィゴーお兄様よりもずっと」
ヴァルカンは大きく咳払いし、マントを羽織り直す。
「あいつは我が一族の恥晒しだ。エレメント以下の階級の人間などこの城に置くわけにいかぬ。魔法を使えないだけでなく、魔導書の顕現が起こらないという醜態まで晒した。あいつは王家の人間以前に魔導士として終わっている。だからこの国から追放したのだ」
「そんなことありませんわ! ヴィンセントお兄様はいつも不思議な力でわたくしを元気付けてくれましたもの! あれは絶対魔法でした!」
「ははは!! あいつが魔法?! それは断じてあり得ぬ。そなたも魔法の発動原理は学んでおろう。私たちに流れるマナを利用し魔導書という媒体を通して初めて魔法としてその姿を変えるのだ。だからこそ意識的にマナを感じることができるのだ。魔導書がなければマナを操作し放出する術がない。マナは目に見えぬほど小さな粒子。その数も無数だ。魔導書もなく魔法を使うということは、その粒子一粒一粒に意識を通わせ操るということ。そんな芸当ができるのは古の五大賢者くらいのものよ」
「たとえそうだとしても・・・ わたくしはヴィンセントお兄様を信じています」
ヴァルカンは膝を折り、煌びやかなスカートの裾を掴むヴィクトリアの顔を覗き込む。
「そなたはヴィンセントに懐いておったから特別な感情を抱いておるのだろうが、これは王家としての宿命なのだ。どのようなことがあっても覆ることはない。あいつのことは忘れなさい。それに、そなたにはヴィゴーという立派な兄もおるだろう」
「・・・ヴィゴーお兄様は嫌いです」
母ヴァネッサはうつむくヴィクトリアの肩にそっと両手を置いた。
「血の繋がった兄弟です。悪く言うものではありませんよ」
「それを言うならヴィンセントお兄様だって血の繋がった兄です! わたくしにとってお兄様はヴィンセントお兄様だけです!」
二人の手を振り払いヴィクトリアは王の間を飛び出した。
(ヴィンセントお兄様は誰よりも立派な魔導士です。それは誰よりもそばに居たわたくしが一番良く分かっています)
ヴィクトリアは生まれつき体が弱く、しばしば床に伏せっていた。
ある日、大きな病にかかり命を落としかけたことがあった。
不治の病と診断され周囲に害を及さぬよう接触を避けるため隔離されることになった。
一日の大半をベッドの上で過ごすことを余儀なくされ、希望を失い悲しみに暮れていたそんな時だった。
妹の様子を見て不憫に思ったヴィンセントは、親の目を盗みたびたび部屋に忍び込んでは他愛もない話でヴィクトリアを元気づけようとした。
ヴィクトリアはヴィンセントが部屋に訪れるのを楽しみに待つようになった。
ヴィンセントと何気ない話で笑い合う。
彼女にとってそれが一番幸せな時間だった。
不思議なことに、ヴィンセントが部屋を訪れるようになってからヴィクトリアの容体はみるみる快復していき、ついには病気にかかること自体が珍しくなった
「ヴィンセントお兄様はいつもわたくしの手を包み祈りを捧げてくれた。泣いてしまうわたくしを勇気づけてくれた。あの時に感じた温もりと優しさは生涯忘れません」
「治ることがないとされていた病気が完治しただけでなく、普通の人と同じように生活ができるようになった。わたくしがこうして生きていられるのも全部ヴィンセントお兄様のおかげ」
ヴィクトリアは祈るように胸の前で手を合わせた。
「わたくしは信じています。ヴィンセントお兄様こそが、誰もを幸せにしてくれるこの世界でたったひとりの、本物の魔導士だということを」
「・・・会いたいですわ。ヴィンセントお兄様」
肩を落とす彼女に希望を示すように、回廊から差し込む夕日はキラキラと輝いていたーーー。
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