三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜

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第61話 借り物の力が残したもの

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 夜空の星々を連想させる小さな光の瞬きが、折れた刀身の威厳を保っていた。

 その美しさに惹かれるようにそっと手を触れたーーー。


 ーーー王都ドルガリス前に広がる荒野。

 遮るもののない開けた大地に、黒く禍々しい翼を羽ばたかせゆっくりと降臨する魔王。

 それを向かうつべく仲間と兵を引き連れ、その先頭に立つ濃茶色のロングウェーブを靡かせる女性。

 彼女のうなじでわずかに瞬くあの光輪。

 形状はやや違うが、アストリア大聖堂で見た勇者のものと酷似している。

 両耳に光る数多のピアスに、同じように胸元で輝くいくつも重ねられたネックレス。

 腕にも、腰にまでも装飾品が付けられている。

 その個性的な容姿はもちろん、ただ一人洗練された闘気を纏うその佇まいから、勇者だということはすぐに分かった。

 戦いが始まると、勇者は防戦一方で、積極的に戦局を変えようとする動きは見られなかった。

 とはいえ、勇者一人で魔王を相手にするその技術と身体能力には目を見張る。

 激しい攻防を繰り広げる中、魔王の背後から勇者パーティの一人が奇襲を試みる。

 しかし、瞬時に対応した魔王の爪が容易く彼の腹を貫いた。

 禍々しいその腕が鮮血に染まる。

 一人の犠牲を皮切りに、他の仲間や小隊が次々に魔王に攻撃を仕掛けるが、その全てが一瞬にして無に帰した。

『残るは貴様のみだ』

 ただ一人残った勇者に向かい魔王が踏み出したその時だった。

 彼女の足元から青い魔法陣が展開されると同時に、彼女の身につけるアクセサリーの数々と、傍に倒れる屍の山が同じように青く輝き出した。

『皆の命は無駄にしない』

 なんてエネルギーだ。先程までとはまるで別人。

 自らのスキルのみでここまで能力値を上昇させられるのか。

 驚異的な速さで魔王に迫り、先程までの戦い方とは比べようもない怒涛の勢いで攻撃を仕掛ける勇者。

 剣術のキレが格段に増し、その剣圧は見ているこちらの方まで届きそうな勢いだ。

 しかし、恐るべきは魔王。

 奴は、そんな彼女の攻撃を全て無力化していた。

 すると突然、魔王から真っ赤なオーラが凄まじい勢いで噴出した。

 今度は魔王による苛烈な猛攻が始まった。

 魔王が腕を振るうたびに容易く破壊される岩や山肌。

 踏み込むたびに大きく割れる大地。

 なんとか食らいつき善戦していた勇者だったが、一瞬見せた隙が命取りとなった。

 彼女の剣閃を打ち砕いた魔王の狂爪が、彼女の胸を貫いた。

『どれほど力を重ねようと、借り物では我を超えられぬ』

 そう言い放つと、犠牲になった者たちの魂が魔王に吸収されていった。

『貴様とその剣に刻まれたものは忘却だけだったな』

 血溜まりの中、勇者は異空間へと去っていく魔王を虚な瞳で見つめていた。

『ーーーィリス!』

 どこからともなく声が響いた。

 懐かしさと安心感を覚える声。

 勇者は震える腕を持ち上げ、手探りで地面に刺さる聖剣に手を触れた。

『・・・すまない。お前の願いを、叶えてやれなかった・・・。私の、たった一人の友人・・・』
『ーーー逝かないで。ーーー独りにしないで』

 微かに響く声。

 虚な勇者の表情に、ふと笑みが浮かんだように見えた。

『力だけでは・・・。未来は変えられない、か・・・』

 静かに呟き、彼女はゆっくりと瞳を閉じたーーー。


 ーーー柔らかな陽の光が一筋、朽ち果てた聖剣を照らしていた。

「いつの間にか戻ってきたのか・・・」

 勇者と魔王の戦いが脳裏に焼き付いて離れない。

 あの勇者の力は、倒れた仲間の数だけ自分の能力を底上げする固有スキル。

 単独であそこまで魔王と戦えるのは素直に賞賛に値する。

 ロザリアですら、あそこまで持ち堪えることはできないかもしれない。

 しかし、あれだけ高い戦闘能力を誇りながら、魔王に届かなかった。

 力だけでは未来は変えられない、か・・・。

 ループを繰り返す中で、俺は魔王を倒すことだけに集中し進んできた。

廻天ループ』の副作用で跳ね上がった能力値を駆使し、どうにかして奴をねじ伏せることだけを考えていた。

 それ自体が間違いだったのかもしれない。

 これまでの、ただ相手を破壊する攻撃的なやり方では、魔王に通用しないのかもしれない。

 もっと、何か別の・・・。

 光に照らされた聖剣の残骸が次第にその温かい光に包まれていく。

 やがてそれは小さな光の粒となり、降り注ぐ一筋の光の方へと昇っていった。

 尾を引く僅かな光が目の前に留まり集まっていく。

 そして、それらは小さな結晶となって強い輝きを放った。

 手を添えると、結晶は身を任せるように手のひらに収まった。

「これで二つ目が終わりましたね」
「俺は、魔王を倒すためにループを繰り返した」
「もちろんご存知ですとも。こうしている今だってそのための準備なのですし」
「俺のやり方は間違っていたのかもしれない」

 カルマナは不思議そうに首を傾げた。

「だからロザリアさんたちに事情を話して、こうして聖匠の試練をしているのではないのですか?」
「俺とロザリアがそれぞれ試練を乗り越え力を合わせれば、絶対的な強さを持つ魔王にも届くかもしれない。だが、何か大切なことを見落としている気がするんだ」
「大切なこと、ですか?」

 過去の勇者たちの戦いを垣間見て感情移入したのだろうか。

 ほんの少しだけ心に引っかかるこの感覚を無視してはいけない気がする。

 偶然の産物ではなく、何か五感のようなものが俺に伝えようとしているように思えてならない。

 魔王を倒す、その答えに辿り着くための道筋を。

 だが、それが何なのかはさっぱりだ。

 立ち止まるわけにもいかない。

 俺たちは、あと三つ結晶を集めなければならない。

 今の段階ではまだ確証が持てないな。

 下手な推測は無意味だし、目的を見失ってしまう。

「いや、なんでもない。変なことを言ったな。忘れてくれ」
「残念でした♪ 愛する人の言葉は一言も漏らさず記憶しているんです。運命共同体ですからね♪」
「またそれか。愛ってお前な・・・」

 ブレずにこだわる奴だな。

「さあ、長居は無用です! 次へ行きましょう!」

 ジュリエットと手を繋ぎ歩いていくカルマナの背中をしばらく見つめていた。

 本当に、これでいいんだよな?

 問いかけるように、手のひらの結晶を見つめる。

「お~い。早くしないと置いていきますよ~」
「笑わせるな。二秒もあれば追い越せる」

 抱いたわずかな疑念も、心の引っかかりも、この試練を超えた先で分かるかもしれない。

 今は、お前のその明るさを心の癒しとしよう。

 そう言い聞かせ、導くように先を行く二人の背中を追いかけるのだったーーー。
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