異世界転生したけど採取生活で平穏に生きています 〜武勲とか伝説とかよそでやってください〜

助手

文字の大きさ
13 / 15

第2話の7

しおりを挟む
 頼まれたものを売り、頼まれたものを買い、手紙を届け終わったシロは武器屋の前で立ち止まっていた。

 世情のせいか、訪れる度に武器屋には新作が並んでいた。今日の目玉は大きな戦斧で、刃の部分にチスイバクレツムシが仕込んであるとの売り文句だった。

「えげつないもの思いつくな……」

「お、シロじゃないか」

 武器屋の店主が現れ、シロに声をかけた。

「これってつまり、斬った傷口に虫がとりつくってこと?」

「まあそうだな。傷口の血を吸いまくった虫に、再度衝撃を加えれば爆発するな。斧に血が染み込んでいくから、減った分は中で繁殖する」

「ええ……」

「ええ、って……お前さん見るだけで買わないだろ。買うのはナイフくらいで」

「仕組みを知ったり、見るのは好きなんだけど……」

 先だって納品した虫も、武器に使われるのだろうか。わかってはいるつもりだが、実物を見るとシロは落ち込んでしまう。

 それを察したのか、店主は殊勝な面持ちになった。

「……でもまあ、なんだ。お前さんもナイフを人殺しではなく、森での道を拓いたり作業に使ったりするだろ?」

「うん」

「それと同じさ。その戦斧だって、平和になったら発破作業にでも使ってもらえるかもしれない。血なんて動物のでも魚のでもぶっかけておけばいいんだから」

「……平和になったら、武器屋こそ廃業だな」

「余計なお世話だ」

 もう来るなよー! と見送る店主に手を振り、シロは教会へと向かった。

 エリと合流し、帰りにエリの行きたい店に立ち寄り、王都から出て森に入ったところでシロはその事を話した。

「うーん……やっぱりシロ、気にしすぎ」

「そうかな」

「そうだよ。そんなこと言ったら牛飼いだって、『うちの牛乳を拷問の道具に使って溺れ死にさせた! 悲しい!』ってなるじゃない。キリがないよ」

「その例え合ってるのかな」

「……でも、シロが嫌ならやらなくていいよ。鉄鉱石や危険な虫って、私達どうしても必要ってわけじゃないもの。食べ物なら森にも畑にもたくさんある」

 そう言って、エリはシロの顔を覗き込む。森の木々を縫って差し込む陽の光が、彼女の笑顔を斑に照らしていた。

「いや、そこまで落ち込んでないよ」

「たまにそうなるよね、シロって」

「申し訳ない」

「わかってるから良いんだけどね。シロは採取の方が向いてるの。動物を殺すのは苦手なんだから」

 うるさいな、と笑いながら、二人と一匹は森の細い道を歩き続ける。

 しばらくの沈黙の後、ねえ、とエリが声をかけた。

「三人だよね?」

「……三人だと思うけど」

「団十郎は?」

『ばうばうばう』

「満場一致。間違いない。それにしても下手くそだね。足音まで聞こえる」

「とにかく撒こう」

「そうだね」

 二人と一匹は急に道を外れて斜面を駆け上がる。その背後で慌てるように草木が揺れる音と、男達の慌てる声が聞こえたのだった。





「撒いたかな?」

「いいみたい。団十郎、追ってきてる?」

『ばうわう』

「そうかあ……どうする?」

 エリは斜面の下を見る。目視は出来ないが、立ち止まっている以上はいずれ見つかるだろう。

 シロはエリを見て少し考えたが、やがて決意を口にする。

「……『普通は戦いを避けろと教えるが、俺の教えは違う』」

 それを聞き、エリは妖しい笑みを浮かべて続けた。

「『戦うべき時は戦え』」

「『楽に勝てるなら、なお良い』」

「決まりだね。あ、お化粧しちゃおうっと」

 エリは手近な木に垂れていた赤い実をもいだ。指ですり潰し、目の下に塗りたくる。荷物や鞍を降ろしていたシロと団十郎にも、同じように塗った。

 シロは荷物から靴を取り出した。足首まである、厚い革で縫われた靴だった。シロとエリはその靴に履き替える。続けてナイフを取り出し、それぞれ自分のベルトに差す。

 二人と一匹は円を組み、笑顔になって大きく足踏みを始めた。

「『戦え、戦え』」

「『我らを脅かす無知なる者に、慈悲なき裁きを』」

『ばうわう』

 シロとエリは顔を見合わせる。笑みを深めて、より高らかに地面を踏み鳴らす。

「『仕留めろ、仕留めろ』」

「『血は大地に、肉は我らに、骨は虫共の住処に』」

『ばうわう』

 踊る二人に、団十郎も嬉しそうに飛び跳ねる。

「『行くぞ、行くぞ』」

「『最初の喉笛、誰のもの』」

 シロがそう言うと、団十郎はぴたりと動きを止めた。

『……ウォオオオオオオオ―――――ォォ!!!』

 団十郎に続き、シロとエリも空に向かって遠吠えを放つ。

 次の瞬間、二人と一匹は飛び降りるように斜面を駆け下りる。風のように木々の間を抜け、獲物へ向けて一直線に迫っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...