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1章◆王都スタルクリア
第一番『楽園行き』
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◆
次にタビトが目を覚ました時、窓の外で雨が降っていた。
雨雲のせいで外の景色は暗く沈んでいるが、まだ夜にはなっていないようだ。
半端な時間に目を覚ましたからだろうか。いつもと何か違うなあ、とぼんやり考えていると、そこが過去に一度だけ泊まったことのある、イリスの寝室だと気付く。
――あれ。オレなんで先生の部屋で寝てんだろ。
リウルにばれたらまた殴られるかもしれない。それに、なんだかとても喉が渇いていた。水が飲みたい。
ベッドから起き上がろうとして、いやに体が重いことに気付く。全身に鉛でも詰まっているようだ。
タビトは苦労しながらも体を起こし、壁に凭れるようにして廊下に出た。するとキッチンの方から、誰かの話し声が聞こえてくる。
「……、……ってことですか? 一切れ完食してますけど」
「でも、状況的にそれしかないだろう。『楽園行き』は水分に触れると色が変わるから、リンゴ茶に入れられてないことは確かだ」
「いやでも、『一口食べたら楽園行き』なのに……試しにちょっと齧ってみていいですか?」
「絶対にやめなさい」
イリスとリウルが話している声だ。声を聞くと急に二人の顔が見たくなり、少し体が軽くなった気がした。壁に手を付きながらキッチンに向かうと、入口にさしかかったところでこちらを向いていたリウルと目が合う。
「タビト! お前もう起きて……」
リウルの声につられてイリスもタビトを振り返る。その表情は驚きに満ちていたが、イリスが泣いていないことに気付くと何故だか無性にほっとした。
「せん……っおわ、」
安心すると力が抜けたのか、壁に手を付いたままずるずるとその場に座り込んでしまう。そのまま床に倒れ込みそうになったところを、飛び出してきたリウルに支えられた。
「おい、大丈夫か? 何でもう動いてんだよ……こっち来い、ほら」
リウルの肩を借りながら、ダイニングテーブルより少し離れたところにある皮張りのソファまで移動する。最近「発掘」されたソファは柔らかく、ずしんと体が大きく沈み込んだ。
「タビト、喉渇いてないか。水飲むか?」
「ああ、うん……でもオレ、自分でやるよ」
「いいから座ってろ」
なんだか、いやにリウルが優しくて怖い。リウルはてきぱきと水差しからマグカップに水を注ぐとタビトの口元に運び、水を飲む介助までしてくれた。
――そういえば、王都行きの馬車の中でもこんな風に先生に水を飲ませてもらったな。……できれば先生にしてもらいたかったなぁ……。
ちらりとイリスの方に目をやると、イリスはリウルの半歩後ろで顔を強張らせていた。
イリスは一度リウルと目を合わせると、意を決したようにタビトの隣に座る。
「タビト。……まだ麻痺が残っているようだけど無理してない? いま話せる?」
「まひ……? ああ、はい……起きた時はだるかったけど、今はそんなに……。水も飲んですっきりしたし」
「そう」
ほっ、とイリスが安堵の息を吐く。そして迷うように一瞬目線をさ迷わせた。
「何から話せばいいのか……。そうだ、倒れる前に何があったかは思い出せる? 君はここで男とお茶してたと思うんだけど」
「あ」
家主の不在だというのに勝手に老人を家に入れ、土産のリンゴパイを食べ、奴隷の首輪を見られるという、様々な失態を思い出す。
この話はリウルの前でしたくないなあ、と思いながらも、渋々口を開く。つたないながらも起こった順番に経緯を説明し、急に体が動かなくなったところまで語ると、イリスとリウルは二人揃って目を瞠った。
「先生の言った通り、やっぱりパイの方ですね」
「本当に一切れ完食したんだ……?」
険しい表情になった二人を見て、タビトはいよいよ気まずくなる。やはり家主の不在に土産物を勝手に食べたのはまずかったか。
「ご、ごめんなさい。でもおかわりは我慢したんで」
それで何が許されるのかという話だが、申し訳程度に付け足す。
少しの沈黙を挟んだ後、イリスがおずおずと口を開いた。
「タビト。君が食べたパイに盛られていた毒は『楽園行き』と言ってね。口にすると一口で体が麻痺して一晩は動けなくなり、最悪死の危険もある猛毒……のはずなんだ。それなのに君は一皿食べ切って、昏倒してからたった二時間で起きてきた……。訳が分からない。ヴァルトレインが使ったのは『楽園行き』じゃなかったのか?」
「でも先生、本人がそう言ったんでしょう? あの爺がそんな嘘ついて得することないでしょう」
リウルの問いに、イリスは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「あの人が何を考えているかなんて私には分からないよ。タビト、他に何か気付いたことはない? 『楽園行き』は蛇リンゴっていう果実から毒の成分だけを抽出・精製した透明の液体で、ほのかにリンゴのような甘い香りがして……」
「いや先生、盛られてたのがリンゴのパイなんだから毒自体の匂いに気付くのは無理ですって」
「そうなんだけど、でも他に何か……」
イリスとリウルが難しい顔で話し合っているのをぼうっと見ていると、ふいにタビトの頭の中で記憶が繋がった。
「……蛇リンゴ? ……ああ、だからか」
「何か思い出した?」
タビトの呟きに反応し、二人が食い気味で顔を覗き込んでくる。タビトはそれに若干気圧されながら答える。
「いや、だからあのパイ懐かしい味がしたんだなって思って。オレ村にいた頃よく食ってたんですよ、蛇リンゴ」
「……は? よく食ってた? 蛇リンゴを?」
「あの青くて小さいやつですよね? けっこう美味いですよ、おやつみたいな感じでパクパクいけるっていうか」
「おやつ……? ぱくぱく……?」
イリスが初めて聞いた言葉のように首を傾げる。リウルも同じように首を傾げながら言う。
「果実の状態ではそこまで毒性は高くないとは言え、半日は手足が麻痺して動かなくなったと思うんだが……そんなもんを日常的に食ってたのか、お前は?」
「まあ、はい、ちょうど今くらいが旬ですし。それに麻痺って言ってもちょっと舌がぴりぴりするだけで……え?」
イリスとリウルが化け物を見るような目でタビトを見つめていたことに気付き、さすがに何かまずいことを言ったのだと自覚した。ああ、オレがこんなだから「これだからソマリ人は」と言われてしまうんだ。卑しい食いしん坊の自分が情けない。
微妙な沈黙の後、リウルが思い出したように口火を切る。
「そうだ、タビトお前……前にも妙なこと言ってたよな。先生に苦手な食べ物ないかって訊かれた時にベニイロマダラヘビは嫌だとかなんとか……」
「ああ、はい……」
あの場にリウルはいなかった気がするが、イリスから聞いたんだろうか、などと考えながら答える。
「あのヘビ不味いわりに噛まれると指が痺れて動きにくくなっちゃうんですよね。不味い、少ない、食べにくいでいいとこなしなんで、さすがにオレでもよっぽど腹が減った時以外は手を出しません」
「つまり……よっぽど腹が減った時は食べるのか……?」
「まあ、他に食べるものがない時は仕方ないですよね。……ね?」
二人が黙り込んでしまったので、内心で焦りを覚えながら同意を求める。するとイリスは青い顔で、独り言のように言った。
「ベニイロマダラヘビは毒液が目に入れば失明はほぼ確実、噛まれると出血からの腫れ嘔吐発熱、意識変容、呼吸困難、最悪の場合死に至る……」
「え? い、いやだなぁ先生大袈裟ですよ、怖いこと言わないでくださいって」
「タビト! ほ、他には? 他には村でどんなもん食ってた? 思いつく限り言ってみろ」
「えぇ……?」
これ以上悪食エピソードを披露して距離を置かれたくなかったが、リウルがいつになく真剣な目をしているので、タビトは少し前のことをを思い返す。
「えーっと、今だったらムラサキ沼イチゴ、フタクチダケ、蕗の薹とか食べごろですよね。あと白斑山ぶどうか。今年はまだ食べられてないけど、あれもけっこう好物で……」
言葉の途中で、リウルがなんとも言えない表情をしていることに気付く。
タビトがつい口を噤むと、リウルは重々しい口調で言った。
「……その中で安全なのは蕗の薹だけだ。特にフタクチダケは、……ヤバい」
「はぁ。……いや、あの、オレもなんも知らない訳じゃないですよ? 知ってはますよ? 毒があるやつはだいたい感覚で分かるし。でも他に食べるものがないから仕方なく――」
「タビト!」
がば、と突如イリスに正面から抱き着かれ、タビトの体が大きくソファに沈む。突然のことに目を白黒させていると、イリスはタビトの体に腕を回し、子どもにするように腕や背中を撫で始めた。
「ほ、本当に……苦労してきたんだね。今までよく生きていてくれた。君は立派だよ、本当に」
「先生……」
イリスの体温と花のような香りに包まれ、タビトの胸が高鳴る。自分もイリスの背に腕を回そうとするが、肩に触れる直前リウルの存在を思い出してとどまる。
――やばっ。また殴られるかも。
両手を半端に上げた姿勢でこっそりとリウルを覗き見ると、彼は意外にも口に手をあてて何か考え込んでいるようだった。そしてぼそりと呟く。
「先生、もしかしてこれ……ひょっとしたらひょっとするんじゃないですか?」
その言葉に、イリスもぴくりと肩を揺らす。
「いや、いけますよきっと……! 今まで先生の治癒の魔法だけじゃどうしても限界がありました。でもこいつなら――」
リウルはタビトの目を見据えると、ぐいと肩を掴む。二人分の体重をかけられ、タビトの体が更に沈む。
「こいつの化け物みたいに頑丈な胃袋なら耐えられるかもしれない。いけますよ先生、タビトなら魔人復活のための七十三の毒、制覇できるかも!」
次にタビトが目を覚ました時、窓の外で雨が降っていた。
雨雲のせいで外の景色は暗く沈んでいるが、まだ夜にはなっていないようだ。
半端な時間に目を覚ましたからだろうか。いつもと何か違うなあ、とぼんやり考えていると、そこが過去に一度だけ泊まったことのある、イリスの寝室だと気付く。
――あれ。オレなんで先生の部屋で寝てんだろ。
リウルにばれたらまた殴られるかもしれない。それに、なんだかとても喉が渇いていた。水が飲みたい。
ベッドから起き上がろうとして、いやに体が重いことに気付く。全身に鉛でも詰まっているようだ。
タビトは苦労しながらも体を起こし、壁に凭れるようにして廊下に出た。するとキッチンの方から、誰かの話し声が聞こえてくる。
「……、……ってことですか? 一切れ完食してますけど」
「でも、状況的にそれしかないだろう。『楽園行き』は水分に触れると色が変わるから、リンゴ茶に入れられてないことは確かだ」
「いやでも、『一口食べたら楽園行き』なのに……試しにちょっと齧ってみていいですか?」
「絶対にやめなさい」
イリスとリウルが話している声だ。声を聞くと急に二人の顔が見たくなり、少し体が軽くなった気がした。壁に手を付きながらキッチンに向かうと、入口にさしかかったところでこちらを向いていたリウルと目が合う。
「タビト! お前もう起きて……」
リウルの声につられてイリスもタビトを振り返る。その表情は驚きに満ちていたが、イリスが泣いていないことに気付くと何故だか無性にほっとした。
「せん……っおわ、」
安心すると力が抜けたのか、壁に手を付いたままずるずるとその場に座り込んでしまう。そのまま床に倒れ込みそうになったところを、飛び出してきたリウルに支えられた。
「おい、大丈夫か? 何でもう動いてんだよ……こっち来い、ほら」
リウルの肩を借りながら、ダイニングテーブルより少し離れたところにある皮張りのソファまで移動する。最近「発掘」されたソファは柔らかく、ずしんと体が大きく沈み込んだ。
「タビト、喉渇いてないか。水飲むか?」
「ああ、うん……でもオレ、自分でやるよ」
「いいから座ってろ」
なんだか、いやにリウルが優しくて怖い。リウルはてきぱきと水差しからマグカップに水を注ぐとタビトの口元に運び、水を飲む介助までしてくれた。
――そういえば、王都行きの馬車の中でもこんな風に先生に水を飲ませてもらったな。……できれば先生にしてもらいたかったなぁ……。
ちらりとイリスの方に目をやると、イリスはリウルの半歩後ろで顔を強張らせていた。
イリスは一度リウルと目を合わせると、意を決したようにタビトの隣に座る。
「タビト。……まだ麻痺が残っているようだけど無理してない? いま話せる?」
「まひ……? ああ、はい……起きた時はだるかったけど、今はそんなに……。水も飲んですっきりしたし」
「そう」
ほっ、とイリスが安堵の息を吐く。そして迷うように一瞬目線をさ迷わせた。
「何から話せばいいのか……。そうだ、倒れる前に何があったかは思い出せる? 君はここで男とお茶してたと思うんだけど」
「あ」
家主の不在だというのに勝手に老人を家に入れ、土産のリンゴパイを食べ、奴隷の首輪を見られるという、様々な失態を思い出す。
この話はリウルの前でしたくないなあ、と思いながらも、渋々口を開く。つたないながらも起こった順番に経緯を説明し、急に体が動かなくなったところまで語ると、イリスとリウルは二人揃って目を瞠った。
「先生の言った通り、やっぱりパイの方ですね」
「本当に一切れ完食したんだ……?」
険しい表情になった二人を見て、タビトはいよいよ気まずくなる。やはり家主の不在に土産物を勝手に食べたのはまずかったか。
「ご、ごめんなさい。でもおかわりは我慢したんで」
それで何が許されるのかという話だが、申し訳程度に付け足す。
少しの沈黙を挟んだ後、イリスがおずおずと口を開いた。
「タビト。君が食べたパイに盛られていた毒は『楽園行き』と言ってね。口にすると一口で体が麻痺して一晩は動けなくなり、最悪死の危険もある猛毒……のはずなんだ。それなのに君は一皿食べ切って、昏倒してからたった二時間で起きてきた……。訳が分からない。ヴァルトレインが使ったのは『楽園行き』じゃなかったのか?」
「でも先生、本人がそう言ったんでしょう? あの爺がそんな嘘ついて得することないでしょう」
リウルの問いに、イリスは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「あの人が何を考えているかなんて私には分からないよ。タビト、他に何か気付いたことはない? 『楽園行き』は蛇リンゴっていう果実から毒の成分だけを抽出・精製した透明の液体で、ほのかにリンゴのような甘い香りがして……」
「いや先生、盛られてたのがリンゴのパイなんだから毒自体の匂いに気付くのは無理ですって」
「そうなんだけど、でも他に何か……」
イリスとリウルが難しい顔で話し合っているのをぼうっと見ていると、ふいにタビトの頭の中で記憶が繋がった。
「……蛇リンゴ? ……ああ、だからか」
「何か思い出した?」
タビトの呟きに反応し、二人が食い気味で顔を覗き込んでくる。タビトはそれに若干気圧されながら答える。
「いや、だからあのパイ懐かしい味がしたんだなって思って。オレ村にいた頃よく食ってたんですよ、蛇リンゴ」
「……は? よく食ってた? 蛇リンゴを?」
「あの青くて小さいやつですよね? けっこう美味いですよ、おやつみたいな感じでパクパクいけるっていうか」
「おやつ……? ぱくぱく……?」
イリスが初めて聞いた言葉のように首を傾げる。リウルも同じように首を傾げながら言う。
「果実の状態ではそこまで毒性は高くないとは言え、半日は手足が麻痺して動かなくなったと思うんだが……そんなもんを日常的に食ってたのか、お前は?」
「まあ、はい、ちょうど今くらいが旬ですし。それに麻痺って言ってもちょっと舌がぴりぴりするだけで……え?」
イリスとリウルが化け物を見るような目でタビトを見つめていたことに気付き、さすがに何かまずいことを言ったのだと自覚した。ああ、オレがこんなだから「これだからソマリ人は」と言われてしまうんだ。卑しい食いしん坊の自分が情けない。
微妙な沈黙の後、リウルが思い出したように口火を切る。
「そうだ、タビトお前……前にも妙なこと言ってたよな。先生に苦手な食べ物ないかって訊かれた時にベニイロマダラヘビは嫌だとかなんとか……」
「ああ、はい……」
あの場にリウルはいなかった気がするが、イリスから聞いたんだろうか、などと考えながら答える。
「あのヘビ不味いわりに噛まれると指が痺れて動きにくくなっちゃうんですよね。不味い、少ない、食べにくいでいいとこなしなんで、さすがにオレでもよっぽど腹が減った時以外は手を出しません」
「つまり……よっぽど腹が減った時は食べるのか……?」
「まあ、他に食べるものがない時は仕方ないですよね。……ね?」
二人が黙り込んでしまったので、内心で焦りを覚えながら同意を求める。するとイリスは青い顔で、独り言のように言った。
「ベニイロマダラヘビは毒液が目に入れば失明はほぼ確実、噛まれると出血からの腫れ嘔吐発熱、意識変容、呼吸困難、最悪の場合死に至る……」
「え? い、いやだなぁ先生大袈裟ですよ、怖いこと言わないでくださいって」
「タビト! ほ、他には? 他には村でどんなもん食ってた? 思いつく限り言ってみろ」
「えぇ……?」
これ以上悪食エピソードを披露して距離を置かれたくなかったが、リウルがいつになく真剣な目をしているので、タビトは少し前のことをを思い返す。
「えーっと、今だったらムラサキ沼イチゴ、フタクチダケ、蕗の薹とか食べごろですよね。あと白斑山ぶどうか。今年はまだ食べられてないけど、あれもけっこう好物で……」
言葉の途中で、リウルがなんとも言えない表情をしていることに気付く。
タビトがつい口を噤むと、リウルは重々しい口調で言った。
「……その中で安全なのは蕗の薹だけだ。特にフタクチダケは、……ヤバい」
「はぁ。……いや、あの、オレもなんも知らない訳じゃないですよ? 知ってはますよ? 毒があるやつはだいたい感覚で分かるし。でも他に食べるものがないから仕方なく――」
「タビト!」
がば、と突如イリスに正面から抱き着かれ、タビトの体が大きくソファに沈む。突然のことに目を白黒させていると、イリスはタビトの体に腕を回し、子どもにするように腕や背中を撫で始めた。
「ほ、本当に……苦労してきたんだね。今までよく生きていてくれた。君は立派だよ、本当に」
「先生……」
イリスの体温と花のような香りに包まれ、タビトの胸が高鳴る。自分もイリスの背に腕を回そうとするが、肩に触れる直前リウルの存在を思い出してとどまる。
――やばっ。また殴られるかも。
両手を半端に上げた姿勢でこっそりとリウルを覗き見ると、彼は意外にも口に手をあてて何か考え込んでいるようだった。そしてぼそりと呟く。
「先生、もしかしてこれ……ひょっとしたらひょっとするんじゃないですか?」
その言葉に、イリスもぴくりと肩を揺らす。
「いや、いけますよきっと……! 今まで先生の治癒の魔法だけじゃどうしても限界がありました。でもこいつなら――」
リウルはタビトの目を見据えると、ぐいと肩を掴む。二人分の体重をかけられ、タビトの体が更に沈む。
「こいつの化け物みたいに頑丈な胃袋なら耐えられるかもしれない。いけますよ先生、タビトなら魔人復活のための七十三の毒、制覇できるかも!」
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