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偶然
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「いやぁすごい偶然やわ! 一夏と千君が同じ学校のクラスメイトやなんて! 天変地異の前触れやな!」
と、赤ら顔で笑うのは、秋子の父親――一夏にとっては祖父になる――の秋蔵だ。
秋蔵は昨日柿之内が持ってきた賄賂――夏鰹のたたきがたいそう気に入ったようで、一応今晩の主役である一夏を差し置いてバクバクと食べている。
「このへんでは新鮮な海の魚っちゅうんはなかなか手に入らんからなぁ。ほんまにありがたいわ」
「もうお父さん、食べ過ぎ。一夏ちゃんと千君が食べらへんやないの」
「気にせんと食うたらええやないか。遠慮なんかしとったらあかんで。この世は弱肉強食や。なあ千くん」
「はい。ほんまその通りです」
「ほら千君もこう言とる。 なあ一夏!」
「えっ。あ、うん。……そうだね……」
時刻は午後六時半。夕食には少し早い時間だが、永瀬家――母の旧姓である――の居間で、一夏は何故か、柿之内と並んで座っていた。横に長い飴色の座卓の上には、夏鰹のたたきを筆頭に、家の女達がつくった料理が大皿小皿に盛り付けられ、所狭しと並べられている。
味も作った人の人柄通り気取っていない、素朴な『よそのうちの家庭料理』という感じでどれも満遍なく美味しい――とは思うが、実際のところ一夏は食事を味わうどころではなかった。
――なんで。なんで、ここに柿之内君がいるの? いやいるのはもういるんだから仕方ない、家の事情とかだろうから。そんなことよりもっと重要なのは、――何で、普通に喋ってるの? それもこんな愛想よく。それに何より、喋り方が……。
味のしない菜飯を口に運びながらちらちらと隣の柿之内の様子を探っていると、何度目かで目が合った。一夏はぎくりとしてその場に飛びあがりそうになったが、柿之内は唇に薄く笑みを浮かべて囁く。
「……皆原クン。ちょっとええか」
「えっ。な、何が?」
「ちょっと向こうで話そか。秋子さんごめん、ちょっと皆原クンに学校のことで相談あるから借りるわ」
「えー。ご飯終わってからじゃあかんの?」
「うん、ごめん。ちょっと急用やねん。……ほら行くで」
「うぇっ」
柿之内に首根っこを掴まれ、一夏はずるずると居間から引きずり出された。
「見すぎ」
永瀬家の玄関を出てすぐのところで、柿之内は開口一番そう言った。
「ご。……ごめん……」
一夏にも自覚があったので素直に謝る。すると柿之内は面倒くさそうに頭をかいた。
「いや。……別に見るんはいいけど、あんなチラチラビクビクしながら見んなよ。オレが普段お前いじめてるみたいやん」
「……」
そんな風に見えていただろうか。だったら悪いことをした。
そう思いつつも、気になるのは柿之内の態度だ。一夏は思い切って口を開く。
「あのさ、柿之内君。……俺も聞いていい?」
「……」
「その、……学校にいる時と全然違っ――」
「嫌や。話したくない」
被せるように柿之内が言った。
「驚かせたのはオレも悪かった。でも学校で喋らんのは喋りたくないからや。他に言うことはない」
きっぱりと言い切ると、柿之内は早々に家の中に入っていった。少し遅れて一夏も居間に戻ると、その時は柿之内は既に食事を終え、春太郎や深冬――秋子の子で、一夏とは従弟妹にあたる――の卓で二人をあやしながら食べさせていた。
一夏は一人元の席に座ると、表面が乾き始めたきんぴらに箸をつける。
柿之内を意識しないようにと意識しながらとる食事は、やはり味がしなかった。
と、赤ら顔で笑うのは、秋子の父親――一夏にとっては祖父になる――の秋蔵だ。
秋蔵は昨日柿之内が持ってきた賄賂――夏鰹のたたきがたいそう気に入ったようで、一応今晩の主役である一夏を差し置いてバクバクと食べている。
「このへんでは新鮮な海の魚っちゅうんはなかなか手に入らんからなぁ。ほんまにありがたいわ」
「もうお父さん、食べ過ぎ。一夏ちゃんと千君が食べらへんやないの」
「気にせんと食うたらええやないか。遠慮なんかしとったらあかんで。この世は弱肉強食や。なあ千くん」
「はい。ほんまその通りです」
「ほら千君もこう言とる。 なあ一夏!」
「えっ。あ、うん。……そうだね……」
時刻は午後六時半。夕食には少し早い時間だが、永瀬家――母の旧姓である――の居間で、一夏は何故か、柿之内と並んで座っていた。横に長い飴色の座卓の上には、夏鰹のたたきを筆頭に、家の女達がつくった料理が大皿小皿に盛り付けられ、所狭しと並べられている。
味も作った人の人柄通り気取っていない、素朴な『よそのうちの家庭料理』という感じでどれも満遍なく美味しい――とは思うが、実際のところ一夏は食事を味わうどころではなかった。
――なんで。なんで、ここに柿之内君がいるの? いやいるのはもういるんだから仕方ない、家の事情とかだろうから。そんなことよりもっと重要なのは、――何で、普通に喋ってるの? それもこんな愛想よく。それに何より、喋り方が……。
味のしない菜飯を口に運びながらちらちらと隣の柿之内の様子を探っていると、何度目かで目が合った。一夏はぎくりとしてその場に飛びあがりそうになったが、柿之内は唇に薄く笑みを浮かべて囁く。
「……皆原クン。ちょっとええか」
「えっ。な、何が?」
「ちょっと向こうで話そか。秋子さんごめん、ちょっと皆原クンに学校のことで相談あるから借りるわ」
「えー。ご飯終わってからじゃあかんの?」
「うん、ごめん。ちょっと急用やねん。……ほら行くで」
「うぇっ」
柿之内に首根っこを掴まれ、一夏はずるずると居間から引きずり出された。
「見すぎ」
永瀬家の玄関を出てすぐのところで、柿之内は開口一番そう言った。
「ご。……ごめん……」
一夏にも自覚があったので素直に謝る。すると柿之内は面倒くさそうに頭をかいた。
「いや。……別に見るんはいいけど、あんなチラチラビクビクしながら見んなよ。オレが普段お前いじめてるみたいやん」
「……」
そんな風に見えていただろうか。だったら悪いことをした。
そう思いつつも、気になるのは柿之内の態度だ。一夏は思い切って口を開く。
「あのさ、柿之内君。……俺も聞いていい?」
「……」
「その、……学校にいる時と全然違っ――」
「嫌や。話したくない」
被せるように柿之内が言った。
「驚かせたのはオレも悪かった。でも学校で喋らんのは喋りたくないからや。他に言うことはない」
きっぱりと言い切ると、柿之内は早々に家の中に入っていった。少し遅れて一夏も居間に戻ると、その時は柿之内は既に食事を終え、春太郎や深冬――秋子の子で、一夏とは従弟妹にあたる――の卓で二人をあやしながら食べさせていた。
一夏は一人元の席に座ると、表面が乾き始めたきんぴらに箸をつける。
柿之内を意識しないようにと意識しながらとる食事は、やはり味がしなかった。
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