ミコのお役目

水木 森山

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第一章

3

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シリルの質問に答えなきゃいけないのに
あの二人が、取り調べを受けている

その事に動揺が隠せない

だけど、魔の森への侵入も本当の事だ
関係者ではなかった彼らが
洞窟に入れる訳がない
聴取を受けるのも、当然の事

なのに

受け入れられない
受け入れたくない

僕達を助けてくれたのに、どうして!

そう、心が叫ぶ

「カミュ?
 大丈夫か?」

「ふたり、は、今…」

「空いている部屋に滞在しているが…
 二人がどうかしたのか?」

言えるはずもなく
黙って俯いた

対面に座っていたシリルが
隣に移動してきて、僕の顔を覗き込む

「カミュ、二人が近くにいて
 不都合な事があるのか?」

黙ったまま、ぎこちなく首を振る

彼らをかばいたいけど
必要なことだと諭されるだけだろう

己の無力さに、思わず唇を噛み締めた

「二人に、何かされたのか⁉︎」

急に肩を掴まれ、向き合わされる
苛立ったような表情のシリルに、体が強張る
何か言わなくてはいけないのに
うまく言葉が紡げない

その時、ロウがシリルの腕に手を置いた

「っ、すまない」

パッと、シリルが手を離す

シリルが悪い訳じゃないのに
僕が早く話さなきゃいけないのに

喉が詰まったように、声が出てこない

そんな僕の背中をロウは何度も撫でる

背中に伝わる温もりが
『大丈夫だよ』
と、言ってくれているようで
体の強張りが、少しずつ解けていく

詰めていた息を吐き出し
まとまらないままだけど
とにかく、口を開いた

「ぼく、が、洞窟の、奥、に
 着いた時には、一人いて…
 湖の近くに、立っていたから
 そこは危険だって、言ったんだ
 だけど、動いてくれなくて…
 あの洞窟で人に死んで欲しくなかったから
 その人の腕を掴んで
 引っ張って行こうと思ったんだ」

シリルが何も言わないから
そのまま話し続ける

「だけど、近づいていったら
 水の、中から人が出てきてっ
 僕、何が起きてるのかわからなくて!」

あの時のことを思い出してきて
段々と、気持ちが高ぶっていく

それを察したロウが、『落ち着いて』と
言うように背中をポン、ポンと叩いてくれる
促されるように、深呼吸を繰り返し
気持ちを落ち着かせてから
また、話し始めた

「だから、夢を見ているんじゃないかって
 思ったんだ
 水から出てきた人は、小さい子を抱えていて
 そのまま水の上を歩いて
 こっちに来くるから、ただ見ていたんだ
 そうしたら、急に腕を引かれて
 あちこちで岩が砕け散って
 だけど僕には当たらなくて
 それでかばってくれてるって気づいて…
 それなのに僕、サラが泣いてるような気がして
 その人の前に飛び出しちゃって…
 そこで意識が途切れたんだ」

一気に話し終え、シリルの反応を待つ

だけど、何も言わないから
そっと顔を上げ、シリルを伺った

そのシリルは額に手をあて、項垂れている

二人は何も悪くないと言いたくて
夢中で話したけど
なんか、怒られる予感がする…

ゴクリ、と唾を飲み
怒鳴られてもいいように
心の準備をする

「言いたいことは、山のようにあるが…」

いつもより低い声に、首をすくめてしまう

「心配した」

えっ?

思わず顔を上げた

「カミュが倒れている姿を見て、肝が冷えた
 ・・最悪の事態も、頭をよぎった」

いつも冷静に振る舞うシリルだけど
少しだけ、苦しそうに歪んだ表情を見て
本当に心配させてしまったのだと感じた

「ごめんなさい」

心が一気に沈んでいく

心配なんて、かけたくないのに
これ以上、負担もかけたくないのに
いつも僕は、うまくできない

ー ボクニハ ソンナカチナンテ ナイノニ ー

だけど、暗い顔をすれば
余計心配をかけてしまう

だからそんな事、思っちゃいけない

感情に蓋をして、表情を取り繕う

「僕が、その、倒れた後ってどうなったの?」

「・・急いで邸に戻った
 カミュ達を早く医師に診せたかったからな」

「そうなんだ
 ・・あの、二人は罪に問われるの?」

「恐らく、軽くても禁固刑は免れないだろう」

シリルの答えに、はっと息を呑む

「僕達を、助けてくれたのに?」

僕が、口を出すべきことじゃない
そう思いながらも、言わずにはいられなかった

「もちろん、その点は加味されるだろう
 素直に森に入った経緯を話せばな」

「黙秘してるの?」

「いや、答えたんだが…
 それが、山から来たと」

山?

魔の森は、山脈と山脈の間にできた谷にある
三方を高い山に囲まれているため
出入口は一ヶ所しかない

だから、そこから魔物が出てきてしまう
しかも、他の地域よりも多いから魔物の
発生源ではないかと言われている
なので、谷が狭くなっている場所に城塞が築かれ
魔物が野に出ないよう監視、討伐されている

当然危険なため、一般人は森の中に
入れないよう法が定められていて
通常入れるのは、城塞に詰める兵士だけだ

「じゃあ、マタル山脈を登って来たの?」

「いや… カウエル山脈の方と言っている」

カウエル山脈は東西に長く伸びている
その途中で二股に分かれたのがマタル山脈

北から、カウエル山脈、魔の森、マタル山脈と並び
マタル山脈の南には、城壁で守られた街がある

「・・あの山って、登る人いるの?」

魔の森から離れたカウエル山脈を
登る人はいるだろうけど…

僕の部屋からも見えるカウエル山脈の
中央峰オルド山は急峻で雪深く
未踏の山だと本で読んだ

しかも、そこに魔物が出る

「登るだけなら可能だ
 規制してないからな
 ただ、無事に帰ってこれる保証は無い」

「だよね…」

「それなのに、なぜ山に入ったのかも話さない
 山から来た、の一点張りだ」

シリルがまた、深いため息を吐いた

3日間、このやり取りが続いたのかなと思うと
シリルの苦労が偲ばれる…
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